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 クリスマス撃墜のお知らせ 英→セー←仏



気持ちいい。
 汗だくになりながらセーシェルはロビー(と言っていいのだろうか)のソファに身を沈めた。
 気持ちいい。――性的な意味ではなく。
 ご飯がおいしかった。特にお刺身と山菜がおいしかった。
 完全和風で行くのかと思えば最後にいい洋酒をふんだんに使ったケーキが数種類出てきて、
クリスマスケーキです、と食べ放題にふるまわれた。日本の形式に拘るわりに、リベラルな
部分も持ち合わせているらしい。
 外から調達したのではなく、旅館の厨房で、間違いなくその道のプロが焼成し整えたと
思われるケーキは口に入れる傍から舌の上でとろける。女性には大好評、甘いものなんか
いらないのに、とぼやく男性陣すら配られた分は残さず食べていた。
 夕餉がおひらきになったあとは、二次会として酒盛りを続ける国たちには洋の東西を問わず
集められた女将の亭主のコレクションが惜しげもなく提供され、下戸気味の国たちはめいめい
散って、温泉に行くもの、旅館の庭で雪合戦をしに行くもの、卓球を始めるものに分かれた。
 セーシェルはアフリカ大陸の女友達と行動をともにし、卓球をする派閥に入った。
ほとんどの国が卓球をするのは初めてであったが、皆揃って体を動かすことは得意だ。
ルールを把握し、やり方のコツを掴めば試合にはなる。
 突発的に『第一回恒例卓球大会・世界会議in日本』が開かれ、セーシェルは並み居る
(素人)猛者共を蹴散らし、ついに準優勝というところまでいった。
 だが、不幸なことに相手は男で、精神攻撃というかなんというか、「あっ、胸元がはだけそうだぞ!」
と叫ぶのについ合わせを確認してしまいその隙に最終ポイントをとられた。
 女子全員で審判に公平なジャッジを求めて抗議したが、首を横に振られる。心の隙に
つけいってはいけないというルールは確認しなかった、とのことだ。
 息が切れる。惜しかった、と思いつつ、体力も限界だったので、勝ち進んだとしても優勝は
できなかっただろう。
 人から発せられる熱気のためにエアコンは切られていた。盛り上がりの中心を離れると、
冬の空気がほてった頬を撫で、こめかみから顎にかけて流れた汗を冷やす。
 浴衣もびしょびしょだ。あとでお風呂に行く前に新しいのをもらおう。
 くたぁ、とソファに全身を任せるセーシェルはこの旅行にとても満足していた。
 おいしいものを食べて、みんなで遊んで。
 こんなに楽しい世界会議は初めてだったかもしれない。
 いつもこんなんだったらなぁ。と願いかけて、面倒くさいことを思いだした。
 袖口に手を突っ込む。浴衣というのはポケットがない代わりに袖にものが入るようになっている。
彼女がつまんで出したのは、小さな小さな紙切れ。
『2時→12時半』
 それだけ書いてある。
 見間違えるはずもなくイギリスの字だ。この『2』の上の湾曲具合がいかにもあの眉毛だ。
 時間しか書いていないが、意味は理解できる。
 到着直後に露天風呂に誘われた時間が2時。それを12時半に変更するから来い、と、
そういうことだ。
 いつの間にいれたのだか、イギリスにしては洒落たやり方である。
 フランスはもっと直球に、「色々終わったら、俺の部屋に」と宴会場を出る前に告げてきた。
どこから調達してきたのか、花を一輪セーシェルの髪に挿して。フランスらしい、洗練された
誘い方。

 が。
(めんどい……)
 セーシェルの本音だ。
 時計を見ると、23時になったところ。
(ばっくれようかな)
 逃げることも不可能ではない。友達と遊んでて疲れたからそのまま寝てしまいました。
この言い訳が通用しないはずはない。きっと。女将さんか日本に頼んでどこか見つからない
部屋にかくまってもらって、この楽しい気分を抱いたままふかふかの温かい布団で眠りたい。
 でもそれをすると、十中八九、明日二人の間の空気がものすんごくなると思う。
 しかし、どっちかを選んでその褥にすべりこんだとしても、同じことになることは知れきっている。
(だから本人同士で決めて欲しいのに)
 一縷の望みをかけて、宴会場に残った友人に頼んでおいた。
 二人とも潰しておいてくれ、と。
 穏便にすむ方法はこれしかない。両方であることがベストではあるが、片方でも潰れていて
くれればよしとする。
 モテる女は辛いですよ、と自虐的に思いながら紙切れを袖にしまう。
 わああぁ、と卓球テーブルを囲んだ人だかりが歓声をあげる。どうやらデュースらしい。
 セーシェルはフロントに立っている眠そうな女の子に頼んで輪ゴムをもらい、復讐に向かった。
 外野が輪ゴムで気を散らしてはいけないと、ルールの確認はしなかったはずだ。


 深夜。英語で言うとミッドナイト。時間にして12時半ちょっと前。
 元植民地の悲しいサガというか、セーシェルは指示通り露天風呂に来た。
 どうせだからお風呂に入ってから着替えよう、と思っていたのが間違いで、卓球大会が終了
してから時間を待っていたらすっかり汗が冷えて寒くなってしまった。
 脱衣場の扉の向こうはすぐ外。誰かが閉め損ねた扉の隙間から風が入り込んでくる。
 さっさと温泉につかって温まろう、と手早く帯を外し、浴衣を肩から落とす。
 ふと顔をあげると、手に浴衣を掴んだ裸体が洗面台前の大きな鏡に映っている。
 寒さをこらえつつ、セーシェルは首をかしげた。
 なんで、なぁ。
 どうもおかしなことになっている。なんだって、自分が男二人に取り合われねばならないのか
納得がいかない。
 ていうか率直に言うと腹が立つ。
 なぜかというと、理由は明快だ。二人ともセーシェルを真剣に愛しているわけではないからだ。
 『どっちでもいい』と本気で思っている時点でおあいこだと言えばそうかもしれないが……
 つまるところ、彼らはセーシェルを愛していないくせに、彼女に対して『一人』という誠実さを
求めているのである。
 ふざけんな。
 回答としては素直にそう用意してある。
 そんな男の身勝手を許すほど、都合のいい女になる気はない。
 だからずっとはぐらかしている。
 くしゃみがでた。
 籠に誰の服も入っていないが冷える体をタオルで隠して、扉を開けた。

「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い」
 寒いのは苦手だ。だって、南国生まれの南国育ちだから。
 洗い場に走っていって、シャワーのバルブを捻って熱いお湯を浴びた。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い」
 お湯が熱すぎた。誰だ。45度に設定したままにしたのは。
 事前にプリントを配られて説明されていたとおり、夕食前に浴室の床から天井、桶、湯船に
至るまで全て槙で作られた内風呂でもきちんとそうしたように、体を洗う。
 全身洗ったところで、温泉につかろうと湯船に急いだ。その間にも吹き抜ける風は体を裂く。
 こんなに寒いのに、裸で外に出るとか、狂気の沙汰だ。露天風呂とか、日本人って
バカなんじゃないだろうか。
 しかし、身を縮め、温泉にじっと浸かって5分、前言を撤回する。
 悪くない。
 凍える気温のところに顔だけ出して、体は熱いお湯に包まれている、というのは非常に
新鮮な体験である。
 しばらくあたたまると、少し体をお湯の表面から出しても寒くない。
 これは気持ちいい。
 口笛を吹きたくなったが、夜中なのでやめておいた。
 高い茂みが視界を遮る奥に、人の気配があった。ばしゃばしゃと湯が跳ねる音がする。
 イギリスがいるのかなー、潰せなかったかなー、と多少ガッカリした気分で混浴の方へ歩いていく。
 セーシェルが来たのは「一応約束(?)を守るため」で、指示に一応従っておけばあとで何を
言われても言い返せるという思惑があったからだ。本人はいないことが彼女にとって望ましかった。
 幽霊を二人きりになるための口実に、抱かれることは予想している。混浴、両方素っ裸で他に
誰もいなかったら、それをしない理由がどこにある?
 そのままお持ち帰りされるか、そこで気が済んでくれれば、それはそれでまあいいのだが。
部屋になだれこんだら腰が立たなくなるまで許されないだろうから思い煩いも終了するし、
解放されたらされたでフランスの部屋に行けば丸く収まる。
 でもまあ、結局はそんなことになるような気はしていた。
 混浴エリアに入ってすぐ、セーシェルは白けた気分で笑う。
 イギリスがいて、フランスがいて、二人は桶で工夫しながらおもいっくそお湯の掛け合いをしていた。

「あ。セーシェぶっ」
 フランスが手を挙げかけ、微笑んだ顔に水流が直撃した。むせるフランスの首根っこをつかんで、
イギリスが彼をお湯に沈める。
 乳白色のお湯からごぼごぼ泡が吹き出る。
「何やってるんですか……」
 立ちつくす。前を隠すのは忘れない。
「あァ!?」
 セーシェルの方を向くその刹那、イギリスが倒れて浴槽に水柱があがった。
 形勢逆転。咳きこみながら今度はフランスがイギリスを湯に沈める。
「よう、セーシェル」
 キラッと効果音が出ていそうな笑顔は、湯から突き出た手が必死に彼の髪を掴もうとしているのを
あわせてみるとシュールな絵面だった。
「何してるんですか?」
 改めて聞き直す。
「ん? 見てのとおり。悪党征伐」
 フランスは笑顔を絶やさない。が、ついに手が彼の体毛――というか胸毛を掴んで引きちぎると
当たり前だがその笑顔は歪んだ。
 沈めあいはやがて殴りあいに変わる。
 ブランブランさせながら格闘している様子に目を背けながら、セーシェルは鼻歌をうたい、
ギリギリ混浴エリアの隅で、月と、月に照らされた山々と、冷えた空気と、熱いお湯を満喫した。
 十数分後、やっとイギリスからのツッコミが入った。
「何やってんだよお前!」
「こっちのセリフです。私そろそろのぼせそうなんであがりますね。それじゃ」
「待て待て待て」
 二人仲良く声を揃えてばさばさ湯をかきわけてくる。
 温泉にタオルはつけてはいけない、とプリントに書いてあったのに従ってるのかなんなのか
しらないが、股の間のものを隠さない男が、一人でも大分困りものなのに二人寄ってきて
逃げない女がいたら見てみたいものだ。
「ちょーっ、ちょーっ、そこからこっちは女湯ですっ」
「知るかバカ」
「知っといてください!」
「さっ、セーシェル。せっかく混浴なんだからゆっくりつかろう」
「もう充分つかりましたよぅー!」
 悲鳴をあげるという手段がないではなかったので、それを使わなかったのはセーシェルの
落ち度である。
 あっさり捕まって混浴エリアに戻された。
 でも、二人揃ってたら、あやしいことも起こりようがないだろう、と。
 安心したのは、束の間。
 くるっと体を回されてバランス感覚を崩した瞬間、セーシェルの体はすっぽりイギリスに
抱きしめられていた。
 乳房が揉まれ、首筋を舌がなぞる。
「ふっ……やだっ」
「やだじゃないだろ。わかって来たんだろ」
「だって……」

 視線をフランスに向ける。
 フランスの視線を捕らえる前に、イギリスの顔がフランスの足の裏に踏まれた。
「ほーら、セーシェルは嫌だってよ」
 セーシェルはイギリスからフランスの腕へと移り、顎を彼の手に囚われ、唇を吸われた。
やわなほっぺたの肌にヒゲがあたって少し痛い。
 唇はすぐには離されなかった。
 角度を変えられ、ちゅっちゅっと音を立てながら舌が絡め取られ、次第に感覚が鋭敏になって、
体の芯が――
 ざばー。
 頭から、熱い湯が、かけられた。
 髪が顔面に貼りついて、前が見えない。
 指で髪をのけながら、セーシェルは笑った。楽しくて笑ったのではない。
「眉毛。ヒゲ。ちょっとそこに並んでもらえますか。何かいいこと思いつきそうなんで」
「邪魔するんじゃないよー。確かに、セーシェルはお前にやだって言った。おにーさんには
言ってない。現実を見つめろ?」
「この×××野郎! 言うも言わないもねぇだろうが!」
 彼女を無視して罵り合う二人。
 そうですか、ああそうですか。肝が据わった。
 向かい合う二人の股ぐらに手を伸ばして両手に竿を握る。
『!?』
 二人はたちまち全身硬直させたが、知らん。
「私の握力って、30キロ弱あるんですけど……潰れないといいですよね」
「せ、せ、せ、せ、セーシェルさん? そこはちょっとやめてほし……」
「たっ、たっ、お前そこはお前シャレにならな、シャレにならないからやめ、」
 握る力を強めると、二人は押し黙った。
 いつもはセーシェルの手で一擦り二擦りするだけで臨戦態勢に入り始めるそこも、
同じ手でも本気で握られると戦うどころじゃなくなるらしい。
 ほんっとにむかつく器官である。
「何か言うことは?」
「すみませんでした」
「ごめんなさい。離して下さい」
 本人達はおそらく何を謝るべきなのかちっともわかっていなかったが、謝るべきな空気は
正しく察した。
 かぽかぽかぽかぽ、湯口から新しいお湯が湯船に注がれる音が聞こえる。
 二人が暴れ回ったせいで、お湯はすっかり水位が下がっている。これがいっぱいになるまで、
また時間がかかるのだろう。
 手を引っ込めて湯に胸までつかる。二人はそれぞれ自分のブツを確認して気まずそうに
目配せながら、同じように腰を下ろした。
 月は明るく、山につもった銀化粧が照り返してまた明るい。露天風呂を照らす人工的な灯りは、
燃料はガスだろうが、本当に火を灯している。
 低く鳥の鳴く声と、こんな時間までまだ飲んでいるのか、節回しの独特な歌が弦の音とともに
流れてくる。
 旅館自慢の露天風呂の混浴では、誰かが入ってきたら、絶対に一目見て引き返す魔の
トライアングルが完成していた。
 沈鬱な顔で顔を水面に伏せているセーシェル。
 男二人が、ジェスチャーでの会話でお互いに責任をなすりつけあう。
 数分。
 のぼせ上がって顔を真っ赤にしたセーシェルがそれでも動かないのをみてヤバげな雰囲気を
感じ取った二人は意を決して均衡を崩した。
「あ、熱いな!?」
「そうだなぁ! よし、冷酒でも飲むか!」
「いいなあそれ! 取ってきてくれるかイギリス!」
「わかった!」
 脱衣場にある冷蔵庫にはフリーで飲める熱気冷ましの牛乳と、風呂で飲めるように冷酒が
入っている。そこから熱燗にするのも各自ご随意に、だ。
 イギリスは冷蔵庫に収められた冷酒のビンを両手に二本ずつ掴んで戻り、フランスは虫の息に
なっているセーシェルを風呂の縁に座らせた。
「ほら、飲め。よく冷えてるぞ」
 キャップを外し口元に近づけると、セーシェルは自分で受け取ってぐいっと一気に煽った。
 それに倣って、おちょこにつけるという麗しい文化は無視して喇叭飲み大会が始まる。

 注) お風呂に入りながらお酒を飲むと、とても危ないです。慣れない人は気をつけましょう。

 男共が暴れ回っていたのは元からガンガンに飲んでイイカンジをかなり過ぎて酔っぱらって
いたせいだ。一時セーシェルの攻撃でいくつかの意味でいくつかの場所が冷えたものの、
温泉で一瓶飲み干したら……
 それは元の木阿弥という奴である。
 急激に回ったアルコールに、三人の正気は風の前の塵のように吹き飛ばされた。
「なんなんなんですかァ! 私に何か恨みでもありますか!? なんですか!?」
「それはこっちのせりふだろうが、いつまでもフラフラフラフラフラしやがって」
「そうだよ、いくらセーシェルでもこういうのは良くない。ちゃんとはっきりさせてくれ、
はっきり。これじゃ生殺しだよ」
「はっきり……」
「そう、はっきり」
「はっきり、しません!」
 やおら立ち上がってセーシェルは宣言した。
 次いで、呆気にとられた男共に宣告する。
「はっきりしません! だって二人ともだって、あれですよね、どれっていうか、なんかこれ、
どうせ二人であれだ、わたしのことダシにして単に優劣競ってるだけというか……
 私が私か、なんか、どうでもいいんじゃないですかァ。他のお姉さんたちとも仲良くしてるの、
知ってますしー。
 私二人とも好きですよ。だからどっちでもいいんです。どっちがどっちかっていうのは二人で
決めて下さい。私は自分で決めませーん」
 それは長いこと胸にしまってきたことの、正直な吐露だ。
 が。
 酔っ払いというのは得てして人の話なんか真面目に聞いていないものだ。

「よし、じゃあ床勝負しようか!」
「……え?」
「俺たちのうちセーシェルが気持ちよかった方が勝ち、ということで。それで決めよう」
 名案発表のように告げるフランス。
「いいじゃねぇか。やってやるよ」
「ふーん、挿れて掻き回すしか能のないお前が俺に勝てると思ってるのか?」
「あの待って下さいますか? なんで、え?」
 どちらからかともなくジャンケンをする。二度あいこが続いて、フランスが勝った。
 イギリスはグーの手を忌々しげに見つめた後、風呂の縁に座って片膝を立てた。
「じゃ、そういうことで」
「ん」
「いや、ん、じゃないですよ」
「セーぇシェル。しようか?」
「え、えー。ふゅ、」
 さっきのキスの続き、とばかりに再び唇が奪われる。後頭部を支える方と逆の手が、
体の性感帯をゆっくり撫でる。
「こ、ここで、するんですかぁ……? せめて部屋に戻、」
「いいじゃん、どうせ裸なんだし」
「ま、そうですけど……」
 胸から腹へ、足元を湯に浸しながらフランスの舌がセーシェルの体を舐めていく。
 立ったままするの、だろうか。どうやってすればいいんだ。
 イギリスに助けを求めるような気持ちで目をやると、彼はプイッと横を向いた。
 セーシェルは救いが絶望的であることだけは理解した。隠そうとしているが、イギリスの
ブツが半勃ちになっているのが、見えたから。
「立ったまま、するの、わかんな、」
「だいじょーぶ。俺が優ーしくリードしてあげるよ」
 そういってフランスは、その芸術的な指で体中のイイトコロを丁寧に、全部触ってくれる。
キスをして髪を撫でてくれる。
 どこも的確にセーシェルの性感を心地よく刺激する。触られたところが、すべて感じる場所に
なっていくかのように。
「はぁ、はっ、」
 何度もフランスは体を触る。胸も、尻も、お腹も、背中も、足も、全部。
 時間をかけて、平等に。
 大切に、子供が宝物を愛でる時のように。
 そうして、体のほてりの半分以上が、温泉の熱よりもフランスから与えられる刺激からに
よるものが占めるようになっても、まだ触ってくれないところが、一つあった。
 全身、触ってくれるのに。
 どこよりも触って欲しいのに。
 どこよりも、きもちいいところ。
 体中に落とされる口づけはセーシェルをとろけさせる。
 でも、いつまでたっても、それだけ。

「……らん、す、さ……」
「んー? どうしたー?」
 そしらぬフリで聞き返してくるフランスが憎い。
「……って……」
「なに? もっとおっきい声で。お兄さん耳悪くて」
「触ってください……」
「ここ?」
 いいながら、フランスはセーシェルのへそを舐める。
「っ……あ、そこ、じゃな……」
「どーこ?」
「わたしの……ぅ、だいじなとこ……」
「どんな風に?」
「は、ん……あ……いつも、みたいにぃ……」
「いいよー」
 フランスが鼻で笑いながらイギリスをみるような気配があったが。
「フラ、ンス、さん、フランスさん、はやく……」
 片足を持ち上げられ、指が入ってくる。長い指が、セーシェルを触る。
 水じゃない、もっとぬるぬるしたものがそこからあふれ出てフランスの指にまとわりついた。
「俺に触られるの、気持ちよかった?」
「ふぁっ、よかっ、たぁっ」
「ん〜、セーシェルはかわいいなぁ〜」
 顔じゅうにキスをされる。
 そして、片足を持ち上げられたまま、後ろから抱きかかえられた。
「はい、素直に言えたごほうび」
 フランスの男根が、セーシェルに埋まっていく。
「あ、あ、あ、あ、あ」
 結合が深くなっていくごとにセーシェルは歓喜の声をあげる。
「セーシェルのここ、すっごく熱いな。……全部入った。さ、どうして欲しい、セーシェル?」
「動いてっ、動いて下さい、奥まで突いて……!」
「どうした、セーシェル。今日はずいぶん大胆だなぁ」
 笑い混じりに、フランス。
 どうと言われてもいい。温泉のためか、灼けるように熱いそれを、もっと感じたい。
 フランスが囁く。
「イギリスが見てるぞ」
 みあげると、湯煙にぼやけたイギリスが、こっちを向いている。
「やっ……見ないで……」
「俺たちの仲の良いところ、見せつけてやろうな」
「やら、あ、」
「んっ……!」
 ほとんど抜けているところまで引き、また最奥までぶつけられる。
 何度も、何度も。
 セーシェルの感じるところをあますことなく擦って、足りないところなんかどこもないくらい、
なかをいっぱいにして……
 空を掴んだ。支えが足りない。掴むものがほしい。もっと、この体を受けとめるための
支えが欲しい――。

「ひゃ、ぅ、あ、あ、ら、あ」
 抑えるもののない喘ぎ声が、煙りにつつまれた露天風呂に響き渡る。
 その愛らしい唇が、つと塞がれた。
「……っ? あっ……」
「他の男に抱かれて、そういういやらしい顔すんな」
「ギっ……!」
 たまらず、イギリスの体に抱きついた。
 唇をむさぼられ、舌をからめあう。
 フランス貫かれながら、イギリスとキスをし、彼を抱きしめている。
 倒錯が官能を高める。
「ふ、ぃ、あ、も、イっちゃ、イっ……!」
 そんなことは聞きたくない、とさらに唇が深く繋がれる。
 喘ぐことも許されない。
 涙がこぼれた。あとからあとから、こぼれた。
「う……そろそろ、限界、かな」
 フランスが息を漏らし、イギリスが嗤った。
「いくぞ……セーシェル」
 フランスが、セーシェル、と呼ぶ、優しい声が、セーシェルはとても好きだった。
「……っっ!」
 最後に突かれる数回のうち、どれかがセーシェルを子宮から全身を貫くような快感で満たす。
 フランスが、なかでぶるっと震える。
 永遠のような十秒――。
「いつまで挿れてるんだよ」
「ん〜、セーシェルが、抜いてって、いうまで、かな」
 ヒゲ、と罵りながら、セーシェルの体をイギリスが奪う。ずる、と音を立てて、結合が解かれた。
 フランスは近くの岩に寄りかかって息を整える。
 力の抜けたセーシェルを石の上に座らせ、足を開かせて、イギリスは、フランスがたった
今まで挿れていたそこを、湯で洗った。指を挿れて、中のものを掻き出す。
 その乱暴な手つきに、セーシェルは痛がった。
「イギリスさん……」
 非難を込めて見つめると、イギリスはぶたれた子犬みたいな顔をして、何も言わない。
 そういえば、初めてホテルに連れ込まれたときもこんな顔をしていたなぁ。セーシェルは思いだす。
 かなり、強引に連れ込んで、有無を言わさず裸にして、挿れる直前になってから
「いいか?」
 ……そこまでしておいて、否も応もないものだ。
 悪態をつこうとしたのだが。
 その時、ちょうどこんな顔をされて、それで、いいかなあって、気になってしまったのだった。

「挿れるぞ」
 フランスに触られて緩んでしまっている体に前戯など必要ない。
「はい」
 こんどは、正面からイギリスが入ってくる。
 二人のセックスの違いというのは、こう、フランスは余裕のある大人のセックスで、
身を任せきって大丈夫で、セックスそのものに浸ってしまえて安心できるのだが、
イギリスはどっちかというといつも必死なのが否めない。
 そのぶん、求められている気がして、交わっている、という感が強いのではあるが。
 セックスの質が違う以上、正直、どっちが気持ちいいとか、そんなのは比べようがない。
 心を込めてしてもらえればどっちだって気持ちいい。たぶん、どっちもエッチは上手だ。
 セーシェルは今からそれをどう伝えようかなぁと悩んだ。
 石が背中に当たって痛い、というと、イギリスはそのままセーシェルを抱き上げる。
 足が地につかないので、イギリスの体にしがみつくしかない。
「あのっ、あぅ、思ったんですけどォ!」
「何ー?」
 イギリスの肩の向こうで、フランスが答える。
「あっ、これって、輪姦って言いませんか……?」
 イギリスが動きをとめ、フランスが目を逸らした。
 どっちも答えない。
 あ。言うんだ。
 セーシェルは、膨れた。

 その後、どっちが良かったとか良くなかったとか、愛の気持ちがどうとかいう議論が全員
裸のまま巻き起こりそうになった。
 が、三人のはずのその議論になぜか四人目の声が加わっており、その言ってることが
支離滅裂だったので、三人のうちの誰かがキレた。
 キレ返された。
 彼は、透けていた。


 そんなこんなで三人の関係はうやむやのまま続くことになったのだった。
 そして、おそらく、しばらくは解決しない。




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