クリスマス撃墜のお知らせ イタリア×モブ(中居)
「ねぇねぇ君、今ヒマ?」
自分の戦歴を増やさんとするイタリアは、さっそくナンパに精を出していた。
イタリアが目をつけたのは、廊下を歩いていた中居だった。
忙しい時間は過ぎたのだろう、どこか手持ち無沙汰そうな感じで歩く彼女は、イタリアにとって格好の的である。
忙しいのを理由にかわされては意味がない。
ナンパは成功する事に意義があるのだ。
「夕食の配膳に来てたよね?その時から可愛いなって思ってたんだ!」
「え、そんな……ありがとうございます」
頬を赤らめ恥ずかしそうにしながら笑う彼女。
好感触だ、とイタリアは心の中でガッツポーズをする。
「黒髪も艶やかで綺麗だし、目も大きいし、それに…」
「あの、あんまり褒められると恥ずかしいです…」
「どうして?本当の事だもん、恥ずかしがる事なんてないよ。ね、俺…君の事もっとよく知りたいな…」
会話をしながら少しずつ距離を縮めていたイタリアは、そう言いながら彼女の肩を抱く。
びくりと肩が跳ねたが、拒絶されないところを見るとまんざらでもないようだ。
こんな山奥の旅館で働いているのだ、男に口説かれるなんて滅多にないのだろう。
イケるかもしれない、とイタリアはほくそ笑む。
ナンパでは百戦錬磨のイタリアだが、何故だか未だに童貞なのだ。
「良かったら俺の部屋に来てよ。いっぱいお話したいからさ」
少し顔を傾け、上目遣いに彼女を見詰める。
年齢より若く見られる自分の顔が、女性の母性本能をくすぐるのを計算しての事だ。
「あの…少しだけなら」
「ホント?!ありがとー!」
彼女の返事を聞いた瞬間、イタリアの脳内には「童貞卒業」の文字が舞った。
フランスやアメリカに長年からかわれてきたが、それも今日で終わりだ。
ついにこの日がやって来たのだ。
イタリア、大人になります!
嬉しさと興奮のあまり、イタリアは思わず彼女に抱きついてしまった、のだが…それがいけなかった。
「き、きゃあ〜!」
「…え?」
次の瞬間、イタリアは彼女の放った右ストレートをまともに顔面に喰らった。
「いきなり何するんですか!こ…こんな往来で抱きつくなんて!破廉恥です!」
「え、あの」
「私仕事に戻りますから、失礼します!」
「な…なんで〜?」
イタリアは、呆然としながら彼女の後ろ姿を見送った。
イタリアは忘れていたのだ。
慎ましやかである事こそが日本人の美徳である事を。
こうしてイタリアは、またも童貞卒業のチャンスを失ったのだった。