小ネタ
「愛は押すだけじゃ駄目なんだぜ」
そう言いながらフランスの野郎は私を壁際に追いやる。
この男は兄さんの味方をして今でも兄さんのハガキをラジオで読んで。
それでそれで、兄さんのことを説教してくる嫌なヤツだ。
「たまには引いて、それから振り返ってみ?」
「……数年前にそれはやった」
でも兄さんは、嬉しそうな顔をしてくれたけど。違う。私じゃないんだ。
兄さんがほしいのは傍に居てくれる人。傍に居るなら私じゃなくても、ラトビアでもいいんだ。
「とりあえずここどけフランス」
「……こんな寂しそうな顔してるのにか?」
「……」
自分の顔が見えない。自分がどんな表情をしているのか分からない。
ただ私は、さっき気づいた兄さんと私の愛のベクトルの差に空虚な気持ちを抱いているんだ。
「お兄さんが、慰めながらロシアに一矢報いる方法教えてあげよっか?」
フランスは嫌味ったらしくニヨニヨしながら私にそう問いかける。
言いたいことは分かる。それほど私はカマトトぶってない。
薄暗いの会議室。居るのは私とこの男。それから、息がかかりそうなほど近い距離。
それが縮まり、唇と唇が触れ合う。瞳を閉じると、フランスの舌が差し入れられる。
舌は口の中を這い回り、余す所なくなぞられる。随分手馴れた様子なのに腹が立つ。
この唇が離されて、目を開けたらきっと先ほどと変わらない表情をしたあの男が居るのだろう。
でも、もうそんなことはどうでも良くなってしまう。
今はただこのキスのに溺れることだけ、なんて思ってしまう。
鼻を擽る香りは、男もののコロンだと気づくのは大分先だった。
「……つまんなかったらちんこ切り落としてやる」
息を整えながら、私は悔し紛れにそう言ってやった。
「おお怖い。それじゃあお兄さん張り切っちゃおうかな」
澄んだ瞳がこちらに近づく。再び重なろうとする唇と唇。
今度は驚かせようと思い、腕をフランスの首にそっと回した。