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 日ベラ



「今日は随分と身軽ですね」
日本は、庭先にあらわれたベラルーシを見て、いつもの営業用の笑顔も消して言った。
彼女はいつもの古めかしい服のうえにコートを着ていたが、血の気のうせた白い顔を見れば
防寒具がなにも用を成さなかったことが分かる。
ただでさえ色素の薄い肌は、いまや冷えのために青ざめてもいた。
ガラス戸をあけはなち、古い火鉢に、これまた古いキセルをたたきつけて日本は灰を落とした。
大掃除のさいに出てきたもので、時間がたったおかげで表面の模様が渋く落ち着いて
味わい深いものになっている。
ベラルーシはそれに嫌な思い出でもあるかのように、顔をしかめて足元の雪を蹴った。
「都合がつかなくなった。納期を遅らせろ」
「急ですね。こちらにも都合がるんですが」
「うるさい。ただの牛の乳だろ」
日本はふっと笑う。
「無線機器を早く手に入れたがっていたのはあなただと思いましたが。
あなたが取引を守れないなら仕方がない、別の人に頼みましょう。今回はなかったことに」
「自動車なら、すぐに用意する。石油も多少なら回せるし」
「おそらく私どもの産業のほうがスペックが上でしょう。石油も、なにも無理してあなたから
割高で買うほど取引相手に困っていません」
ベラルーシは舌打ちした。今回の輸出入に関して、あきらかに不利だった。
外資がとにかくいる、軍需物資も必要だ。
それらの情報は隠していたが、どうやら日本ははっきり掴んでいるらしい。足元を見ている。
ガキみたいな顔をして厄介だ。
彼女は苛々したまま縁側の少年に歩み寄った。
「待ってもらうには何をしたらいい」
日本は黙って首を振った。はっきり口に出さないところが、余計に苛々させる。
「ちんこでも舐めろってか。足広げてまんこでも見せろってか。
変態め。お前がかわいいのは見た目とその包茎だけだからな」
少年は苦笑し、ご希望なら、と切り返す。
「前回のようにいじめてさしあげますよ。あなたが張り形を壊すから、ふふ、何を入れましたっけね」
細長いキセルを、日本は器用に指先で回した。ゆっくり、見せつけるように。
月光と雪の反射をうけ、キセルは濡れたようににぶく光った。
「…ちゃんと明日の朝には間に合わせる」
「このまま帰る気ですか。昔はもっと度胸があったと思いましたが、さて。老人の勘違いですかね」
「くそじじい」
ベラルーシは顔をしかめたまま、ブーツのチャックを開けて縁側から中にあがりこむ。
コートも服も一気にとりさり、まだ余裕ぶる少年を振り返って仁王立ちした。
ここまでしたのに、彼はたまに会う親戚みたいな感想を言う。
「綺麗になりましたね。昔あったときは少女だったのに」
「なんだそれ、リトアニアのほうがずっと口説き方を知ってる」
「はは」
「笑うところか。バカか」
「ロシアさんが知ったら水道管で殴り殺されそうですね、私」
「…兄さんには、言うな」
彼女は初めて不機嫌以外の――複雑な顔をした。

日本が手を広げて彼女を招く。ブラジャーの紐をずらし、肩に口付ける。
「やはりというか、白いですね。あなたのところから来る牛乳みたいですよ。
そういえばなんだか、体の匂いも甘い気もしますね」
「抱くときも食い物の話か。死ね。ピザでも食ってろ、ガリが。太れ」
「御存知と思いますが、食べ物関係は私すぐ頭にきますからね。
あなたが持ってくるはずの乳製品、楽しみにしてたのにああ残念無念、遺憾の意。
ロシアさんにも借りがたまってますし、今日は容赦できないかもしれませんね」
「お前なんか、兄さんの不凍港の一つなんだ」
「負け惜しみにしては体は素直ですが」
「う・・・っぐ…」
日本の右手が、背中から尻までさがり、一周するように割れ目を撫でる。
下着を脱がなかったのは失敗で、シルクごしにも蜜があふれてるのが分かる。
ベラルーシは、日本の着物を掴んだ。すがりつくのは寒いからだ、と自分に言い訳する。
輸出用コンテナが事故って、その代わりを探すのに雪の中を奔走し、
そのまま深夜の日本に来たから温まる暇がなかった。
抱きつくのは、下半身の快感に腰が砕けたからではなく、ただ人肌が思ったより
温かいから。ただそれだけ。
布をずらし、指が膣の中に入り込む。二本も一気に。
彼女は抗議したかったが、荒くなっていく息をおさえるのに精一杯でなじれなかった。
仮になじったとて、日本を調子にのらせるような溶けた声が出るのは分かりきっていた。

「っん…」
指が抜け、その感触に息が漏れる。
やらしい反応だ、とベラルーシは苛々しながら自分を責める。
顔をそむけ、自分から後ろに仰向けになって足を広げる。
絶対に目を合わせないようにと、自分の髪が床に作る模様を睨む。
秘部を指で広げて、
「さっさとしろ」
と、あくまで弱く見えないように命令した。
「うーん」
「はやくいれろってば」
「これは――あれですね。さっさと出させて終わりという。作戦。平たく言えば手抜き。
考えましたね」
「なっ」
心外だった。
少女は自分の足の間から顔を出して、縁側で火鉢に手をかざしだした日本を睨んだ。
まるで彼女など眼中にないような、くつろぎモード。我が道上等。マイペース免許皆伝。
ベラルーシは悔しくて軽く涙ぐんだ。
自分はこうして足を開いて、恥ずかしい粘膜まで見せているのに。
本当は兄さんにしか見せたくないのに。
「ううっ……!」
「おや、なにを悲しんでいるのですか。なにが哀しいのですか」
「リトアニアなら……喜んでしっぽ振るのに……!」
「長年生きてますと、即位式真っ最中にまぐわう上司にめぐまれたりもしましてね。
 そう股見せられても、しまえとしか思えないのですよ。
 本当にその気にさせたいなら、もっと手練も手管も選んでもらわないと」
「さ、最初に手を出してきたのはお前じゃ……!」
「私は誠意を見せていただきたいといったのですよ。
 貴方の最愛の人にわびる時ぐらいの誠意。最初も、その次も、ずうっと次も」
そう。最初にそういったのは日本がバブルのときだったか。
 札束でぱさぱさ頬を叩かれてそういわれれば、十八歳以上ならセックスだろうと
思うのではないのか。
そしてお互い、国の歴史的に十八歳以上だ。
「お前の言葉は曖昧すぎる!それに今回は言ってない!」
「では今言いました」
「遅すぎる!」
「じゃあ、確認をしましょう」
日本は立ち、歩いてきてベラルーシに覆いかぶさる。
吐息のかかる距離まで顔を近づけ、彼は頬をゆっくりなでる。
「あなたはロシアさんばかりに常に気をとられ、他国の交渉や準備は
 後回しになるのですよ。だから土壇場で用意する、それでミスをする。
 ミス自体は小さいですし見逃せないほどではありませんから、
 あなたはまったくこりない。何度抱かれましたっけ?
 それとも抱かれたくて取引してるんですか?」
「違う……」
「私を満足させるなら、今回も見逃します。ただし、ひどくさせてもらいますよ。
 あなたが反省するようにね。
 恋煩いに付き合わされるのも、そろそろ老体にはこたえますから」
ベラルーシは口をつぐんで、悔しそうにうなずいた。
とぼけたふりは見せかけで、本気で怒っているのがわかった。
 怒らせてはならない、と兄や眉毛とメガネが噂している国が、いよいよ怒った。
こうも急に怒るなら、前もって通告してくれたらいいのに…と思わなくもない。
立ち上がってタンスを開けている日本の背中に向かい、
ベラルーシは憎しみ込めてイ゛ーをする。
内心の罵倒すら止んだのは、戻ってきた日本に麻縄で縛られ諦めがついたからだ。
乳房を上下に縄がはさみ、両腕は後ろに回されて縛られた。
腕からは、きつすぎない長さで首に縄が伸びている。
電灯がつき、障子は締め切られ、暖房もついた。
「それじゃあ、はり切って搾乳していきましょうか」
そういって、日本はいい笑顔で透明なカップをとりだした。
「へ――変態!ちんこ!資本主義の黒髪ブタ野郎!」
「ブタよりは牛のイメージです。今年の干支にちなんで」
「帰る!兄さん兄さん兄さん兄さん」
「暴れないように」
腕と首をつなぐ部分を軽く引っ張られ、ベラルーシは一度大人しくなる。
カップをぺたりと白い肌につけて、日本は圧力を調整するポンプを動かす。
「あっ!やあ、ちょっ……うううう」
ほどほどだった彼女の胸が圧の変化で引っ張られ、膨らんだようになる。
つられて乳首も立ちあがった。
「声を我慢しなくていいんですよ。お隣さんは海外旅行中です」
「ううううっ、せ、ぜった…ぁい、……狙っ…てた、」
「ただ用意周到なだけですよ。至って普通に、正常に終る可能性もありましたし」
日本は笑った。アメリカに高い物を買わせるときの笑顔だった。
肉が引っ張られて痛みもあるが、それより視覚的な屈辱が勝る。
日本がカップを外したときは、限界以上に色々耐えていたせいか彼女は肩で息をしていた。
終った安心感に包まれていると、片胸についた赤い跡を指でなぞりつぶやく。
「一個だけはかわいそうですね。反対側もおそろいにしましょう」
「!?」
畳に寝転がり逃げようとしたが、すぐに日本にマウントポジションをとられてしまい、
時間稼ぎにもならなかった。
細く伸びた少女の足が、畳を何度も蹴る。
「や、やだ、兄さん……ぅああっ!」
のけぞる彼女の首に舌が這う。
ポンプはいつの間にか手放されて、日本の指は少女の再び性器をなぶった。
不本意とはいえ何度も体を重ねているせいか、日本はベラルーシの弱いところを
知っていた。
クリトリスより膣がいいとか、それも激しく抜き差しするより、
広げるように押されるほうがいいとかだ。
じんじんと痺れる痛みが胸から、寒気に似た快感が股から同時に彼女に襲ってくる。
こういう風に、体の女の部分を両方攻められるのは初めてだ。
羞恥や悔しさでさえも、今は興奮をかきたてる。
乳をたっぷりなぶったあと、力なく自分の体を見下ろすベラルーシと視線を合わせながら、
日本はカップに口をよせる。
「出ませんねえ、お乳」
「で、出るわけないだろ…うっく…常識的に……考えて……」
カップは外れたが、あとはのこった。
縄目とあわせて、数日は人に体を見せられないだろう。
急に、ぱちんと臀部を叩かれて、ベラルーシは横になったまま背を伸ばす。
「ひう!」
「足を広げてください。広げるの好きでしょう?」
「こ、この……お前なんか」
「兄さんの不凍港の一つ?
 分かった上とはいえ、何度も他の男を呼ばれると手加減を忘れますね」
最初から忘れてるだろうとはいえなかった。
割れ目をなぞっていた指が、ベラルーシが何か言う前にお尻の穴にもぐりこんだからだ。
「ふぁっ!?」
「ああ、けっこうすんなり入りましたね。
 お尻まで蜜が垂れていたので、ちょっとはふやけてるだろうと思いましたが。
 それとも、欧米人の筋肉は柔らかいから、でしょうかね」
「ぬ、抜いて…!」
「おや、聞きなれない声が。変ですねえ。
 私の知っているベラルーシさんなら、抜けこのクソ野郎とは言っても、
 抜いてくださいとは言いませんから、空耳でしょうかね」
「ぬ、抜け、このクソ野……やぁっ、動かすなぁ…っ」
むにむにと肉を掻き分け、日本指が深くまで進む。
足をばたつかせる抵抗はもはや意味はない。
目じりに涙をためて未知の感覚に震える。
日本は別の手で最初に用意してほったらかしのコンドームの袋をつかむ。
歯で切って中身を出した。
後膣から指が抜かれる。
ジェルがたてる水の音がしたかと思うと、今度は指より大きいものが入り口にあてられた。
喘いだり抗議したりして枯れた喉は、吐息しかもらせない。
息をつめた白い体は、最初の侵入に小さく跳ねた。
そのまま奥まで押し入る熱の塊に、抵抗は何もできなかった。
体は繋がった箇所を中心に、上下に揺さぶられた。
まだ濡れたままの性器が少年の腹筋にあたり、ぺちゃぺちゃ音を立てる。
「すごい…締まりますよ、ベラルーシさん」
「ひ、言…う、……っうう…はっ…」
「言う?実況してほしいですか?」
少女は思い切り首を振った。
日本は残念と呟いて、ベラルーシの首に、頬に、唇に何度もキスをした。
じき、日本が切羽詰ったこえをあげた。
「もう……イき、ます…よ」
ベラルーシは口を動かした。

だめ。

彼女のそれは言葉にならず、日本は密着したまま吐精した。


  *

兄が好きだった。自分が生まれる前から生きていた、兄が好きだった。
小さい頃は兄妹仲もよかった。愛して、同じように愛された純粋な時間が確かにあった。
でも、埋まらなかった。
同じ長さを生きていたら、愛も対等につりあったのだろうけど、
生まれた順番が違うから、いつだって少し、愛情の量は兄のほうが多かった。
量が叶わないなら質だ、と思ったのがいつ頃かは忘れた。
好きだ愛してる結婚して。いい続けてどれくらいたった頃だろうか。
兄の気持ちに気付いたのは。
兄妹っていうのは似るもんだ、そう言ったのはワイン好きなヒゲ野郎。
ウクライナは多分、二つの一方通行を気付いていない。
愛情の量は、いつだって先に生まれた人のほうが多い。
あとから続くものが、愛される喜びを同じくらい返したいなら、
ひたすら追いかけ続けるだけだ。

  *

なんで抱かれるのを本気で止められないかが、分かった。
「……なんにもないから、楽」
ぐっすり眠って体を洗って服を着て、日本を前にしたベラルーシは、
帰り際についそんなことを言った。
小声だったはずなのにばっちり聞こえたらしい。
「ときどき変に泣きそうな顔をして来るのは、そういうことですか」
「なき…!?」
「欧州は、まあ様々あるのでしょうね」
「勝手に納得するな、まだ何も言ってない!
 昨日は寒かったから、寒くてそんな顔になってただけ」
「そうですか」
苛々してベラルーシは彼に背を向けた。
これからコンテナの様子を確認しにいかなければいけない。
シンプルな挨拶だけで帰ろうとした彼女は、日本に呼び止められて立ち止まる。
「持って行きなさい」
「……ミカン?ギャグ?」
「私はずっと待ってばかりなので、たまには主張しようかと」
「わけわからん」
「……美味しかったら、食べに、また来たらいいですよ」
ベラルーシは眉をあげ「別れ際も食い物か。脂肪に埋もれろ」といいつつも受け取った。
「勘違いするなよチンコ野郎、貧乏だから受け取っただけだ」
「ツンデレですね、わかります」
「もらったって返すもの何もないからな」
「ええ、いいですよ。そういうものですから」
ベラルーシは無意味にミカンの袋を抱えなおしたりした。
「――お前、出すときの、あれ。イくとかいうの、やめろ。好きじゃない」
なんでこんな要求をするのだろう。
彼女は感傷を相手に読み取られたくなくて、目を逸らした。
日本は首をかしげて少女を見る。
「置いてかれる気がする。そのまま追いつけない気がするから、嫌い」
「……まあ、考えておきますよ。あんまり長く生きると、直しにくい口癖もありまして」
「今度来るときは、直ってるかチェックするからな」

帰る道すがら、さっそく味見したミカンは甘酸っぱくて、まあまあ、悪くなかった。




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