幸せの共有者
ポケットに入れたあの子との小さな約束と届いた手紙、両方をそっとポケットに忍ばせて僕は暖炉に薪をくべた。
すっかり寂しくなってしまった広い家は正直持て余し気味だ。僕の姉妹は時折心配して様子を見に来るし、リトアニアも何だかんだ言ってちょくちょく僕の前に現われる。
それでも、あの時とは明らかに違うんだ。小さな隙間は確かにあったけど、それでも僕たちは家族だったはずだ……思っていたのは僕だけ?
あの子からとどいた手紙には白い便箋にたった一言。
゛手紙が届く頃に伺わせていただきます”
そっけない言葉すら愛らしいと思うのだからどうしようもない。分厚い窓の外から外の様子を伺った。相変わらず嫌になるほどの吹雪だ。
大切な人が来るからといくら”彼”をなだめても雪は降り積もっていく。相変わらず嫌な奴だ。
溜息を漏らせば窓ガラスが白く丸く濁った。
雪は音を奪うから嫌い。何もかも隠してしまうから嫌い。こんな広い家に一人閉じ込められてしまうから嫌い。
ロッキングチェアーを暖炉の前まで引き摺り腰を下ろす。年代もののそれを揺らしながらボーっとしている内に眠ってしまっていた。
「…ロシアさん、ロシアさん」
小さな声が僕を呼んでいるような気がした。覚醒しきっていない思考はそれを夢だと認識したようだ。だったらその声に答える必要もないだろう。
何かとても冷たくて柔らかなものが僕に触れた。閉じた目の上を、ゆっくり形を確かめるように。くすぐったくて僕はそれを止めさせようと手を伸ばした。
「きゃ!!」
耳慣れない叫び声にうっすらと目を開く。そこには腰を僕に掴まれ、ぷるぷると震えているあの子。
僕が座っているから自然と目線がかち合う。
「びっくりした…。」
小さく呟けば直ぐ返ってくるかと思った返答がなかなか返って来ない。おかしいと思って顔を覗き込めばやっぱり顔を真っ赤にして震えている。
厚着をしても判る腰の細さを楽しみながらゆっくり相手が口を開くのを待った。
「…ロシアさん…」
か細い声で彼女が囁いた。困り果てたような恥、ずかしそうなそんな声。
「何?」
「は、離して下さいまし…」
耐え切れないとばかりに、ゆっくり首を数回振って彼女が言った。
可愛いなぁ。なんて言うのかなあ…こういうの。よく解らないけど、離してしまうのは勿体無いよね。
「よいしょ」
腰に力を入れて彼女を僕の上に引き上げる。思ったよりも冷たい、”彼”の仕業か、畜生。
「寒かった?」
「はい、でも…楽しかったです。」
膝の上に乗せてしまえば大人しくなった。茶色のシックな厚手のコートの上に付いた雪を払ってやる。
「せっかく寝ておられたのに…起こしてしまって…」
「…ごめんね、迎えてあげられなくて」
「いえ、約束は守って頂けましたから…」
そう言って彼女が小さくはにかんだ。暖かな室内は穏やかな空気に包まれていた。
「そう言えば…ねえ、どうやって家に入ったの?」
「叔父様が開けて下さいました。…ロシアさんを小さな頃から知っているとか何とか…」
思い当たるのは一人しか居なかった。散々凍えさせといて…まあ、何にせよあのまま凍死させなくて良かった…のかな?
「そっか、まあいいや。えっと…今更だけど、いらっしゃい」
「はい…その、今更ですが重くは有りませんか?」
そんなこと気にしてたんだろうか。重いわけがない…と、いうか軽くて逆に心配になりそうなのに。
「大丈夫…歓迎するよ、リヒテンシュタイン」
証にひとつ、その愛らしい額に口付けを落とした。
長い睫毛を上下させて小さく彼女は首を傾げた。何をされたか理解してないような、そんな感じ。
「…光栄です」
上半身を軽く反らして僕がしたのと同じように額をかき上げ口付ける。挨拶とでも受け取ってくれたんだろう。
調子に乗って目じりにそっと口付けを落とす。彼女がそれを真似する。
「ねえ、寒くない?」
「ロシアさんが暖かいですから…」
頬に軽いリップ音を響かせ口付ける。たどたどしく彼女が同じように真似をする。
嬉しくてそっと頬を撫でたらやさしく手を掴まれた。手袋の深い色が彼女の白い肌を際立たせる。するりとそのまま手袋を脱がされた。
直接体温を味わうようにもう一度頬に手のひらが添えられる。かすかに頬擦りをするような仕草だった。ゆっくり顔を傾けそのまま手のひらに口付けられる。視線だけは真っ直ぐ僕を射抜いていた。
「触るなら直接触って下さいまし…」
幼子がスキンシップをねだるような口調にも関わらず、僕は彼女の丸い瞳から目が離せなかった。
彼女が微笑む、別れ際に見せたあの笑顔だ。秘密を共有するときに見せた、あの…
「君は不思議な子だね…」
誘われるままそっと彼女の唇に僕のものを押し当てる。ふっくらした唇は見た目どおり柔らかかった。
もう一度、そう思えば彼女が先に僕に口付けた。
人差し指を伸ばしそっと彼女の唇に押し当てる。
”内緒だよ”
彼女が僕の口に手を伸ばす。後は言葉なんて要らなかった。秘密の共有、有るのはそれだけだ。
伸びた白い指をねとりと舐め上げた。指の先を舌先でくすぐり、腹をやさしくはみ、軽く吸い上げ、桜色の爪を愛でる。
「……んっ」
ひくりと肩を震わせ、熱い吐息が彼女から漏れた。目を細め大胆に僕の指をくわえ込む。舐めるというよりはしゃぶるといった表現のほうが近いだろう。
なんていうか下半身にくるね、これ。
ひとしきり彼女の指を楽しむと口から手を離した。彼女もそれに習って僕の指を解放する。
銀糸がゆっくりと僕の指と彼女の唇から伝って静かに途切れた。つやつやとした唇とぼんやりと向けられた視線が欲を煽る。
隙間なんてなくなってしまえばいい。そんな思いにかられて彼女の体をぐっと引き寄せた。薄い胸はコート越しでは判らなくてつまらない気もしたけど、おずおずと僕の背中に回された手にすぐに気分が良くなった。
彼女を抱きしめていた右手をこっそり離して彼女の後ろから下半身に静かに滑り込ませる。細い足を撫でれば案外弾力の有る肌が気持ちいい。
膝裏を擽るように撫で回せば肩口に顔をうずめられてしまった。僅かにかかる切なげな吐息がくすっぐったい。
つうっと、なぞり上げるように付け根まで指を這わす。
「…ァッ…」
下着と付け根の溝を軽く引っかけば愛らしい声を上げる。沈黙に耐え切れなくなったのは彼女が先だった。
「…焦らさないで、下さい…」
「じゃあ、君がどうして欲しいか言ってみなよ」
大きく息を吐いて彼女が顔を上げる。瞳にはうっすら涙が溜まっていて加虐心を煽る。
先ほどと同じように僕の手に彼女のものが添えられた。
「どうか…お嫌いにならないで下さいね…」
彼女に促されるまま下着に触れた。しっとりと濡れたそこに触れると上半身がびくりと跳ねる。
驚いて思わず相手の顔をまじまじと覗き込めばはらはらと涙をこぼした。今のは虐めるつもりじゃなかったんだけど…。
目のふちに口付ければ涙の味がした。
「厭らしいね…そんなに泣いてるのに…」
そのまま彼女の耳元で、精一杯の冷たく無機質な声で告げてやる。
「腰…揺れてるよ?」
同時に彼女の手を振り解いて下着の上から強くこすり上げればぐちゅりとそこが音を立てた。
「やっ…あ、あっ!」
着の隙間から指を滑り込ます。だらだらと蜜を流しながらそこがひく付いてるけどそこを無視して小さな突起に触れた。
どうせ初めてだろうし最初から痛いのもかわいそうだと思うんだよね。
それに、あの子がかわいく喘ぐところ見たいし。
「気持ちいい?」
「あっ、あ……アァッ、ん、…んぅ、はっ」
緩急をつけて小さなそこを小刻みに動かすとそのたびに愛らしい声が漏れる。
「やっ…」
ぐりるりと突起を押しつぶしながら尋ねた。
「嫌なの…?」
「ちがっ・・もっと…ロシアさん、もっと…私に触れて」
「いい子だね…」
絶頂を招き寄せるように指に蜜を絡めると動きを一際早くする。
「…ぁあ、んっ!」
大きく体が跳ねてくたりと彼女の力が抜けた。必死に息を整えようとしている彼女の耳に口付けを落とす。
耳まで真っ赤にしてまた泣きそうになってる彼女はやっぱり可愛い。
大丈夫、ちゃんと内緒にしておいてあげる。だって…
「なんだか、君と居ると幸せなんだ。」
あ、もちろんこれも内緒だからね。
幸せの共有者
サイドストーリー:717: 君の祈りと通り雨