隣の部屋
にょたりあ注意
「うーん、やっぱり気分が乗らないなぁ」
開けようとしたドアノブから手を離し、腕を組み首をかしげ、アメリカがうなった。
「今さらどしたある? 早く開けるある」
急に立ち止まったアメリカの広い背中にぶつかり、中国が怪訝そうに尋ね、不機嫌
に急かす。
「俺はチアガールをやってるような溌剌として元気なコが好きなんだ。日本みたい
に無口で大人しいコは好みじゃないよ。ああ、故郷へ帰ってジェニーやアンジー
に会いたいよ」
と、アメリカはぼやいた。
「じゃ、なんでこっちに来たある。今からでもドイツの方へ行けある。そうすれば、
我が日本ちゃんを独占できるある」
「イギリスと一緒だとガキ扱いされるからヤダ!」
「そんな理由あるか!?」
今さらながら中国はアメリカをまじまじと見つめた。
(なんなんある、こいつ……?)
意に染まぬ相手に蹂躙される女の子。背徳感からくる興奮。そういった後ろ暗い情
念にアメリカはまったく無縁に見えた。すでに日本を嬲る期待感でいっぱいになっ
ていた中国は、別の生き物を見るような目でアメリカを見た。
ガチャリとドアを開けると、光る物を構えた小さな影が飛び出し、鋭い刃がアメリカ
の胸をかすめた。鋭く反応しわずかに後ろに仰け反る最小限の動きでかわしたアメリ
カは、その襲撃者の手首を捻り上げた。
おかっぱ頭の少女の手から、銀色の短刀が音を立てて床に落ちる。
「懐剣なんて、どこに持ってたある!?」
落ちた懐剣を中国が拾い上げる。
アメリカには、日本のこの行動が意外であり、驚きまじりに訊ねた。
「君んとこの国じゃ、『イキテリョシュウノハズカシメヲウケルトハラキリ』とかな
んとかじゃなかったかい?」
(ちょっとちがうある…)
それに女の場合は喉を突くはずだ、と中国は思った。
「そうですけど、私が死んだら私という国がなくなっちゃうんです。私だけで決めら
れる問題じゃないんです。たとえ…、死にたくなるほどの辱めをされても…。だか
ら、せめて一矢報いたかった…」
それは無駄に終わったけれど。日本の声はか細くなって消えた。
「生きなくちゃならないってわけかい?」
日本はこくんとうなずいた。興味が湧いた。
「じゃ、脱いで」
アメリカは捻り上げた日本の手を離して言った。
日本の文化的・精神論的な背景は、輪姦される状況において彼女に自決を求めていた。
だが、彼女は『国』であるから死ぬわけにはいかない。一方で、最も日本人らしい日本
人像を体現しているのが『国』である彼女である。身を処することを望む気持ちが強い
彼女には、死ぬことが許されない状況は、二律背反のように苦しくその心を苛んでいる
のだろう。結果、内に閉じこもるならアメリカの気を引かなかった。だが、日本は今自
分に斬りつけてきた。大人しいだけではない。
古いが丁寧に洗っているのがわかる清潔なセーラーから伸びた腕は、痩せて細い。覚悟
を決めた日本は、ためらいがちに服を脱ぎ始めた。まず、スカーフを引き抜く。そして、
律儀に畳み始めた。
「おっそいなー。俺ん家の女の子たちはみんな景気よく脱いでくれるよ?」
唇を尖らせながらそう言うと、アメリカはずかずかと近寄り、日本のセーラー服をすぽ
んと頭から引き抜き、もんぺを下着ごと引き下ろし、あっという間に裸にしてしまった。
「ああああっ! 何するあるー!」
中国が叫んだ。羞恥心に耐えながらひとつひとつ自ら脱いでいく恥じらいの情緒を堪能
する楽しみを奪われたからだ。
ところが、アメリカは日本を押し倒し足を開かせると、ズボンの前だけを開いてペニス
を取り出し、日本の秘裂に押し当てた。あまりの早業に日本は驚いたが、すぐに来るべ
き痛みを受け入れる覚悟を決めた。だが、アメリカはとりあえずサイズを確かめるため
にそうしたにすぎなかった。アメリカにとって、日本はあまりにも小柄に思えた。
「こんな小さなところに入るかな? 念入りに解さないと…」
敗戦国への陵辱は、戦勝国の特権である。アメリカとてそれを忘れているわけではない
が、「セックスはお互い楽しむもの」という先入観のほうが強かった。陵辱でありなが
ら、一方的に相手をいたぶるという発想が出てこないのだ。
強引に事を進めないアメリカを、潤んだ黒色の瞳の日本が意外そうに見つめた。足の間
に不思議なくすぐったさと自分の内の熱だけが残った。