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 米リヒ



 息が切れる。
 ピストン運動のたびに水の音が響き、車の中は性器から流す体液の匂いでいっぱいだった。
 男の体が震えて、離れる。
 何度も中出しした膣から引き抜いた男根は、濡れているうえに名残惜しそうに糸を引いていた。
 寒いとしおれかけたそれを、男――アメリカは、もう一度熱い肉壁のなかにつきこむ。
容量をこえ、中にたまっていた精液があふれ出す。
 少女は拘束をほどかれた自分の手首を、力なくみつめた。
何度もだされて、もう抵抗はない。



昼は、雨の降りそうな空模様だった。
 リヒテンシュタインが町を歩いていると、後ろから短いクラクションが鳴らされた。
黒い車が彼女の横に並び、運転席のガラスが下りる。
リンカーンMKSのハンドルを握っていたのは、眼鏡をかけた青い目の青年だった。
ぴんとひとすじ三日月形に髪が跳ねていて、窓から身を乗り出すさいにふよふよ揺れる。
「ここは『バーダウズ』でいいのかい?」
 リヒテンシュタインはうなずいて返した。
通りは地元民ではない姿がちらほら見える。
観光客が国民の40%も占めるから、少女は観光客のこの手の質問も、異国語訛りも慣れていた。
「スイスにはどう行ったらいいのかな」
 青年は少女の前で地図を開いた。真新しい世界地図だ。
リヒテンシュタインはちらっと紙面を見、青年の腕時計にも視線を止める。
青年は喋り続ける。
「カーナビがあれば大丈夫だと思ったんだけど、あんまり頭よくなくてね。
ハンドルを右に、ってところをインド人を右に、って言い出すから諦めたよ」
 相当頭にきたのだろうか。カーナビの画面は暗く、黒いパッケージのマルボロ置き場となっている。
「西に向かえばすぐにつきます。税関はありません。
もしわかりづらいようでしたら、鉄道を追うといいでしょう」
「そういうことじゃないんだよ、リヒテンシュタイン」
 彼はイタズラが成功した子供のように笑顔を浮かべていた。
 名乗りあっていないのになぜわかったのだろう、と驚くのを期待していたようだったが、
とうの少女が無反応なのを確認して肩をすくめる。
「君は忙しいのかい」
「いえ」
「じゃあ、隣に乗って教えてくれないかな。スイスといっても、
俺が行きたいのは彼の家なんだよ。君達一緒に住んでるんだろう?」
「アメリカさんがいらっしゃるとは聞きませんでした」

 今度は少女が名前を言い当てる。
アメリカは青い瞳以外笑ったまま、助手席のシートを叩いた。
「おいで。三度目はなくていいだろ?」
「それでは命令ですわ」
「善意だよ。両手足縛られて目隠しされるよりいいと思ったんだけどな」
リヒテンシュタインは大通りの不自然なスーツ姿の観光客の群を振り返ってから、
覚悟を決めたように車に乗り込む。
「少しドライブしよう。そういえば俺達、顔をあわせたのは初めてだね」
「そうですね。私の外交も、お兄様が代行していますし。
……正直に申せば、あなたが私のことを存じているとは思っておりませんでした」
「ヨーロッパの上に浮かんでる変な形の島のおかげで、多少ね。でもよく、すぐに俺だとわかったね?
ちょっとはカナダと迷うんじゃないかって期待してたんだけどね!」
「地図と、腕時計が見えましたから」
 意外そうに青年が彼女を流し見る。
 リヒテンシュタインはためらったが、いまさらだとふんぎった。
「だいたいの場合、世界地図の中央は自国を配置するものですから、北米の方というのはわかりました。
時計には、お兄様が自分で作るときの銘がはいっておりましたので。
兄が決まって贈り物をする相手は私も知っております。ですがあなたは知らぬ方で、その上兄は
家の所在を教えていないようでしたので」
そこで彼女はいったん言葉をくぎる。
「注意して付き合いたい方なのかと」
 微妙な言い回しだった。
消去法の形を借りたとはいえ、当てずっぽうには違いない。
 リヒテンシュタインは慎重に反応をうかがうが、そんな必要が無いほど青年はあっけらかんと笑う。
「なるほどね。危険を踏まえて乗ったなら、見た目よりも度胸があるね」
「あの通りは、妙に米語の方ばかりおりました」
「急いで集めたから、ドイツ語を喋れる部下が居なくってね。ところで、君は車やタバコには興味ないのかな」
「あ、あまり」
「残念」
 さほど残念そうにも見せず、アメリカはハンドルを叩く。
「気付けばよし、気付かなくてもバラしたときの反応が面白そうだからよし。
リンカーンもマルボロも、俺の家の製品で、俺の家の出身人物だよ。でもそれは覚えても覚えなくてもいいんだ。
本題に入る前に、ちょっと君がどういう子なのか知りたかっただけだしね」
「……私を試しましたか?」
「あれ、怒ったかい?」
 リヒテンシュタインは青い目を避け、じょじょに町から離れていく景色を睨む。
「お兄様に逢いたかったのでは?」
「よく考えてみたら、わざわざ俺が行かなくても、君と一緒にいればあっちから会いに来る」
「何処に居るかも知りませんのに」
「探せるだろう、リヒテンシュタインはそれほど広くない」
「……下ろしてください。兄が心配します」
 車が停まった。
丘の中腹、羊やヤギの遊牧地に入っていた。
 アメリカが振り返る。
「兄、兄、兄か。君はどうして自分で全てを決めないんだい?」
 視線が重なる。さきに外したのはリヒテンシュタインのほうだった。
「それはすでに、お兄様と私の間で決めて――」
「独立したいと思わないのか? 俺だったら自分の命が誰かに握られてるなんて耐えられないな。
それに君のとこの上司は国外にも十分に土地を持っているし、巨額の資産も同様。
一人でもやっていけるんじゃないか?」
 少女は眉を寄せ、顔を上げる。
「そのように考えたことはありません。検討していないのではなく、独立という言葉の響きが、
連帯感以上の重みを持ち得ないと思っているのです」
「そうかな。ベタベタ馴れ合いだしたら離れたくなるだろう」
心の中で大事にしていたものが、眼鏡越しの青い目に軽視されているのにいい加減反発して、
リヒテンシュタインがきっぱり切り捨てる。
「私と貴方は違いますし、お兄様もイギリスさまとは違います」
 ぱた、とフロントガラスに水滴がつく。だんだんと増え、いつしかガラス全体を覆う。
 大きな雨音の中に閉じ込められて、二人は少しも逸らさずに相手の目を見続けている。
 ふいに、アメリカの手が、リヒテンシュタインに向かって伸びた。
顔の横を過ぎて、耳のそばのリボンを引っ張る。結び目はすっとほどけ男の手の中におさまった。
「君はスイスがへたり込んだところを見たことがあるかい?」
 唐突な飛躍だった。
 自分のものよりずっと大きい骨ばった手の中で、いいように弄ばれている紺色のリボンを少女は見た。
「ないだろう、俺も無いよ。だったらどうだって話だけどね。
君は男が強いままで居続ける条件ってなんだと思う?」
 リヒテンシュタインは顎に指を掛けられて、上向かせられた。
「俺は強い男や強い兵士であり続けるには、誰も愛さないほうがいいって思ってるんだ。
ずうっと昔傭兵していたスイスも案外賛成してくれるんじゃないかな。
彼自身あまり人と馴れ合わないし、強い。
ところがこないだ、変人長寿の日本からそれは違うといわれたんだ。愛する者が居たほうが強くなるってね。
さて真実はどっちだろう? 
君はスイスの庇護を受けて、彼から十分愛されているわけだが、そんな君はスイスの弱音など
見たことがないと言う顔をしている。さっきの独立云々もそうだけど、
君にとって彼は信頼できて頼れる兄なんだろうね。
じゃあ君を愛せなくなったらスイスは弱くなるのかな」
「そんなこと――わかりません」
リヒテンシュタインは戸惑い、逃げようと後退する。
 ドアのロックを外そうとする手をつかまれた。
 狭い車の中で、彼女は冷たいガラスに背をくっつけ、距離を開けようとする。それでもすでに、体同士が近い。
「君でもわからないか。じゃあ、試してみて結果を見るのも面白そうだ」
 リヒテンシュタインは体格の差を利用して、アメリカが伸ばした腕の下を潜り抜けた。
そのまま後部座席にむかって体ごと飛び込む。手をつかむ力は弱かったため、簡単にもぎはなすことができた。
迷わずロックを外してドアを開ける。
 水しずくが彼女の頬を打った、確かに数滴。
大きな手が後ろから彼女の口を押さえ、そのまま車中に引き戻した。
荒っぽくドアは閉められ、ガタン、とロックが掛け直される音が響く。
リヒテンシュタインは口を押さえられたまま、座席に押し倒された。
彼女は目をつぶったり逸らしたりはせず、逆にじっと体に乗りかかってくるアメリカを見上げ続ける。
まっすぐ向けられる視線に、彼は初めて嫌がるそぶりを見せた。
「君の目の色、もとから緑なのかい?」
 口を覆っていては喋ることは出来ない。問いかけてからアメリカもそれに気付いて外した。
 拘束を止めた手は、かわりに少女のドレスに手をかける。ブラウスのボタンを外す手を見届け、
少女はやっと言ってやる。
「まわりの兄弟たちを引き裂いたところで、あなたの過去を保障することにはなりませんわ」
一瞬脱がす手は止まったが。
「君は、君のそういうところもあんまり俺のタイプじゃない」
「好きでもないのにするのですか?」
「かえってそのほうがこれからやることは楽しいさ」
 外した襟のリボンでリヒテンシュタインの両手首をまとめてしばり、頬に残ったままの雨の跡を舐めとる。
狭い車中は満足に体を伸ばせない。制限された自由が、余計に密着感を高める。
力でかなわず、逃げるのも難しいと悟ってからは、リヒテンシュタインはあまり暴れなかった。
そもそも力の差が歴然としている相手に、はっきり抵抗できる少女は多くない。
たとえば平常時だって、異様に背の高い男がいれば、男でも威圧感を感じる場合もある。
まして体格の違う男に腹の上に乗られ、恐怖を覚えないわけはない。
 大人しいのは受け入れているからではなく、過剰に痛めつけられないための防衛本能と知恵だ。
直接肌に触れられれば、震えも、する。
悲鳴を喉で殺し、縛られた手を強く握りこんで、実際の愛撫は見ないよう顔をそむけ続ける
リヒテンシュタインに向かって、アメリカは低い笑い声を立てた。
「体が平坦なのは魅力的じゃないんだぞ。ちゃんとご飯食べているのかい?」
「節約はすばらしいものですから、必要以上に食べる必要はありませんわ。
でもこういう事になるとわかっていたのなら、もっとご飯の量を少なくしましたのに」
「それじゃ脱がした時、がっかりするじゃないか」
「勿論、あなたを思い切りがっかりさせるために」
 ブラウスとキャミソールは、胴からずらしてそれ自体一つの拘束として少女の両腕に残っていた。
白くなだらかな胸を撫でていた男は肩をすくめた。
「胸を大きくする方法を知ってるかい」
 乳首に唇をつけて話すので、暖かい息が薄い皮膚の上を這う。微妙な感覚にリヒテンは戸惑う。
「揉んだり刺激したりするといいんだ。ついでだからやってあげるよ」
「それは……俗説です」
「試したことがあるような言い方だね! 自分で? それともお兄様?」
 明らかな男の揶揄に少女は頬を赤く染める。
裸を見られたことよりも恥ずかしがっている様子に、アメリカは意外そうに目を丸くしつつも、
体勢を変えてまだ手付かずの彼女の下半身にも手を伸ばす。
「なんだい、下品だったかな? 今からもっと露骨で下品なことをするんだと思えば、
そうでもなかっただろう?」
 スカートの中、タイツの縫い目を指がなぞる。
両ふとももの付け根の温かいところでちょっと休んでから、再び腹側に戻ってきてタイツを下着ごと脱がせた。
緩やかな胸と乳首をなぶっていた舌が離れる。
 キスをされてもぎゅっと唇を閉じていたリヒテンシュタインに、アメリカが笑いかける。
 ロシアならこれからすることが怖いと思っていないから対象に笑いかけれる。
 アメリカは対象に怖くないと思わせるために笑いかける。
 後者のほうがきちんと分かっている分、説得がきかない。
「じゃあ、ちゃんと科学的根拠のある豊胸方法をやってあげるよ。効果は、ハハ、三ヵ月後くらいかな?」
「え……あっ」
 アメリカは少女の足をもちあげて、体を二つに折る。
 タイツが完全に脱がされてむき出しになった足の指が、冷たい窓ガラスに当たる。
場所に余裕が無いためぎりぎりまで体を曲げさせられた。
 息しづらいため、リヒテンシュタインは顔にかかった自分のスカートを口に咥えてどかそうとした。
 が、内股の感触に驚いてとまる。
 熱く柔らかいものが、ふとももから性器までをなぞる。
 リヒテンシュタインは布が邪魔で何をされているか見えない。
 胸をなめられたときと似た感触だ。唯一の違いは感じる快感の量。
足を閉じようとすると、膝の裏を押さえられて固定された。
 布の向こうでは、恥ずかしいところは全部見られているのだろう。
 男側の視線を強烈に刺すように感じて、下腹部にきゅっと力が入る。
 アメリカは口淫を中断して、薄い色の粘膜を今度は指でいじった。
「聞こえる? 雨じゃない音」
くちゅくちゅと粘性の音が近くで聞こえる。
 小刻みに震えていた足は、もう押さえられていないのに閉じられない。
 反応が無いのをいぶかしんで、アメリカがスカートをどかして発掘、リヒテンシュタインは顔中真っ赤にして泣きそうになっていた。
「やはり、こんなこと、好きな方としか、やっていはいけませんわ」
息を荒くしてたどたどしく言ったところで、いさめるもなにもない。
「好きすぎて汚せなくなって勃たなくなる男も居るわけでね。……どこのスイスとは言わないけれど、
遠慮なく体の気持ちよさだけ追えるのは、本命じゃなかったりもするよ」
再開された舌技に、今度は口を閉ざすに丁度いい布も無く少女は嬌声をあげた。
 さきほどと違って周りだけじゃなく、膣にまで舌が入る。奥より神経の集まった入り口は、刺激に弱かった。
 柔らかくうごめかれて、体中にぞくぞく悪寒が走る。
「あっ、ああ…ぅっ、や、だめ……っ。」
指もはいりこまれ、語尾のとけた声を出しながらリヒテンシュタインは身をよじった。
 ゆったりした車とはいえ、セックスには狭すぎてうまく逃げれない。
 男の指は入り口を割り広げ、さらに奥まで舌を導いた。
「ほ、ほんとにだめ……っ、うっ…く、ひゃ、だ、だめ、なんっ…です…あ、ゃああっ」
垂れてきたのか、舌を引っ込めて水分を吸う。リヒテンシュタインの小柄な体が跳ねた。
はあはあと荒く息をつく彼女にキスをすると、今度は拒絶もなく舌はすんなり口の中に入る。
 する元気も無かったかもしれない。
 おっと、とわざとらしくアメリカが顔をゆがめた。
「直後のキスは嫌いだったかな。でもお嬢様が好きそうな上品なエッチなんて知らないから許してほしいね。
ほら、いい子だ。そう、口は開けたままで」
 ジーンズを脱いで目の前に出されたものに、リヒテンシュタインは赤い顔のまま眉を寄せた。頭の両脇に、アメリカが膝をつく。
言いつけをきかず口を閉じた少女の頬を、アメリカは十分怒張した性器で叩いた。
小さめの唇に先走りに濡れた先端を擦り付けてもあけないので、仕方ないと息を吐いて鼻をつまんだ。
苦しげに口が開いたところに、中ほどまで突っ込む。
慣れていないのか顎が小さくていっぱいなのか、鼻を反した跡も彼女は苦しそうに目をほそめ、涙で潤ませる。
上あごにすりつけたり粘膜の感触を楽しむうちに、アメリカはふと、
このまま体重をかけて根元までくわえさせたらどうなるか、と嗜虐的な考えがよぎる。
頬の内側の質量のあるもののために、頬を膨らませているだけでも十分苦しそうなのだが、
これ以上の苦痛に耐える顔もそれはそれで可愛い気がする。
 侵入されるなんて一度も考えなかっただろう喉の奥まで、片手でつかめそうな細い首が性器分膨らむまで。
まあ、そんなの可哀相だからしないけどね一応、と内心で答える。
とはいえ、悪魔的な考えは、想像のなかを転がすだけでも十分興奮を与えてくれた。
「ぷはつ、はあ、はっ……あ、んんっ」
自慰に近いフェラはやめて、アメリカはまだ湿っている膣に挿入した。
口も悪くないが、やはりここが一番気持ちいい。
細かいひだと熱くて狭い内壁に締め上げられて、単語にならない声を洩らす。
間をおかずすぐに動き出した彼に、リヒテンシュタインがうわごとのように喘いだ。
「や、め…っ、…ら…だ、め、ダメ……」
「だめ。何のダメ? 止めちゃダメってこと?」
少女はふるふる首を振る。金の髪が理性のはがれかけた少女の顔にかかる。
 ダメの主語は腰を打ち付けていたときにわかった。
 いいところをこすったり当たったかして、引き止めるようにぎゅっと締まる。
 それで高い声を上げたあとに、彼女はだめと言う。
「もしかして気持ちよくさせるなって言ってる? ははっ。気持ちいいのかい君。
ねえ、あれだけ言っておいて、まさか感じまくってるとか? 
すきでもない男にやられてクールな振りして、本当の君は淫乱なわけだ! 
まだ子供みたいな体のくせにこんなにスケベで、変態だね」
「やぁ…あっ、……っく、違う、違います……」
 アメリカは真っ赤な顔の彼女のために、少し体勢を変える。
体をより曲げさせて、彼女が結合部をまっすぐ見れるようにした。
 目を逸らそうとするから、顎をつかんで固定する。
不自由な車中、思うように動けず大変なはずなのにしんどいとも止めようとも思わないのは、
リヒテンシュタインの反応を最後まで見たいからだ。
 明らかに快感を理解しているくせに、口では認めようとしない。出会い方や話の流れから、もうアメリカに親愛を見せるのは難しいのだろう。
俺、だんだんこういう子達と付き合いにくくなってるなと、腰を動かしながら頭の片隅で思う。
 こういうというのは、まあ礼儀にうるさそうだとか処世術がうまいとか、兄弟を盲目的なまでに信頼していたりとか、
そういう性質的なことなわけだが。
じゃあ、関係はまた壊すかと思い、涙を零しながら終るのを待っている少女に向けて声をかける。
「胸がおっきくなる科学的実証済みの方法のことなんだけどね」
 呼吸も声もが乱れる。
 慣れた射精の感覚体の奥から湧き上がってくる。
「妊娠するといいんだよ」
 緑の目が見開かれ、アメリカを見上げた。いったん膣から引き抜かれた性器を緒って、白い水があふれた。

 国歌。
運転席に戻ったアメリカがジャンパーのポケットを探り、携帯を出した。
 特に着信もしていないのを見て首をかしげると、後部のリヒテンシュタインが携帯を出したのをミラーで見えた。
 星条旗のわけはないだろうから、
「なんで君が女王陛下に加護を求めるんだい?」
「……今の、私のとこの国歌なんです」
うかつにも墓穴を、というか自分の嫌な過剰反応を自覚させられて本気で凹む。
 ミラーの中、ちょっと黒く笑う少女に釘を刺す。そんな顔できるのかと恐れつつ。
「勘違いしないでほしいが、たまあに思い出す奴が、そういえば奇遇にも同じ曲だったとか
魔が差して思い出したから言っただけだよ」
「そうですか」
 少女は軽くながしてから携帯をいじった。曲がとまる。
 雨はあがり始め、車は最初に出会った場所に戻り始める。
 何回かの行為の後、夜になっていたことに気付いて家まで送ろうとつい申し出たが、平手で頬を張られたのだ。
 自分の服を着るのがやっとの、弱い手で。勿論痛みはまったくない。
彼女は車に揺られているあいだ、スカートのしわをずっと手で伸ばしていた。
 なにかアメリカにやり返す言葉を考えていたのかもしれない。
 そうでもないと均衡が崩れることもあるだろう。今はまだ、取り乱していないとはいえ。
「一つタバコについて知っていたのを思い出しました。マルボロの頭文字をとった、文章ので、名前の由来とか言う」
「ああ、【人は本当の愛を見つけるために恋をする】だね。マルボロフェチと言うかそういう人たちはみな言うね。
本当にキザで、俗説だ。由来なんかじゃないから頭の中で訂正しておいてくれ」
 丁度目的地に着いたので、車を止めてから体ごと少女を振り返るが、彼女はさっさと降りていた。
 慌てて、運転席の窓ガラスをあけると、思い出したようにリヒテンシュタインは運転席を見下ろした。
「ここはバーダウズではなくファドゥーツですわ」
「……挨拶は?」
「もともと、はじめましてもこんにちわもありませんでしたが」
「じゃあ、またねぐらいは言っておくよ」
 彼女は口をつぐむ。あまり人に残酷になれない彼女の性格をあらわしているようだったが、ただ単に、
ヤンキーにかけるような言葉をお嬢様は習っていないのだろう。
アメリカはひらひら手を振ったが、それでは、と短い区切りだけを残してリヒテンシュタインは歩いていった。
 ぎこちない足取り。そういえばアメリカも腰が痛い。
彼女はスイスにどう説明するのだろう? でも別に彼女、スイスに会いたいかとは言ったが、
だからといって『家に居る』といったわけでもないんだよな、とハンドルを持ち直しながら声に出さず思う。
 銀行の黒い取引で、また誰かとこっそり会っているのかな、そういうところが気に食わないから、
潰そうとしてこうしてたまに来るわけだが。
 でも今回だけは、そうであっても見逃す。彼女も遅い帰宅を見咎められることはない。
黒いパッケージのマルボロを用済みと握りつぶしてから、限定なので二度と手に入らない種類だったこと思い出した。
せっかくだから、次は違うタバコを用意してくるかと自分で自分を慰める。koolなんてどうだろう。
いや。
 これも確か、なにかあったからダメだ。
『Man always remember love because of romance only』に『keep only one love』。
 タバコ好きがパイプ時代からキザな気がするのは、嫌煙家の勘違いだろうか。
肩をすくめて、アメリカは帰るための道順を知るために、ナビの電源を入れる。
 空港までを聞いたはずなのだが、
『次の辻を、インド人を右に』

 仕方ないなあと困った顔をして、それでもちょっと嬉しそうに、アメリカはリヒテンシュタインを
もう一度捕まえるためにアクセルを踏んだ。




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[リヒテンシュタイン][アメリカ]

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