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 無題



そりゃ友人宅に滞在して、夜中に歩き回った俺が悪いよ。水差しくらい、部屋に頼んでおくべきだったよ。
そう思いながら、しかしプロイセンはその場から動けなかった。
ごくり、と唾液を飲み込んだが、やけにひりつく喉には何の足しにもならない。
まさか、リビングでこんな光景が繰り広げられているとは思わないじゃないか。

昼間、優雅なティータイムを過ごしたソファに、ハンガリーが全裸で座っていた。
正確には、ソファに横たわったオーストリアの、顔に跨っていた。
上体を投げ出し、オーストリアのものを口に含んでいる。その頭の動きから、激しさが知れた。
喉の奥まで飲み込んでは、頬を絞って扱き上げる。怒張を舐め上げては、頬ずりをする。
大事そうに舌先で愛でたかと思うと、腹を空かせた子供のように再び激しく貪る。

「ハ…ンガリー…」
呻くように聞えた男の言葉は、プロイセンの劣情を代弁するようだった。
「んっ」
淫魔のように男を攻めていたハンガリーの腰がふいに、なまめかしく揺れた。
「あっ…オー…ストリアさん…そこ、だめぇ…ッ」
仰け反った白い喉から艶やかなあえぎが零れ落ち、重たげな乳房がふるんと揺れる。
いや、いや、と首を振りながら、しかしオーストリアの顔に跨るその腰は、更なる口淫をねだるように震えている。

プロイセンは腰の辺りに、ずん、と重みを感じた。

なんだ、あいつ、普段は、男勝りで。

***

昔、もはや男性としての体にはなれないのだと、自分は紛うことなき女性なのだと知ったとき、
彼女がどれほど絶望していたかをプロイセンは知っている。

女なんて嫌。自分を統制できなくなることがあるんだ。そんなときはただイライラして頭も痛くて。
腹もぎゅうぎゅう痛んで。あんなどす黒い血。戦場で流す赤い血じゃないんだ。俺、このまま腐っちまうのかな。

……かわいそうだと思った。
子を産む存在ではないのに、痛みだけは月ごとに訪れる。
考えてみれば自分だって、男の生理を持っている。子種に似たものさえ出る。
滑稽に感じることもあるが、それが外交手段の1つにも―もちろん個人の愉しみにも―使えることを彼は知っている。
だからこそ、戦士としての彼女にとってその性がどれほど不利か。プロイセンは彼女の絶望を思いやって同情した。
いや、同情など勇敢な戦士に失礼だ。だから、彼女の絶望を共有しようとした。
生ぬるい慰めの言葉など掛ける代わりに、それまでどおり過酷な戦場を駆け抜ける同志として扱っていた。
冷戦時代を経て再会した今も、そのつもりで接していたのに。

***

なのに、あんな、女みてぇに。

くちゅくちゅ、とそこから聞えてくる音が一層激しさを増すと、もはやハンガリーは男を攻めるのも忘れ、
自分の中の快楽のみを追い始めたようだ。ソファに突っ張る腕がぶるぶると震える。
あ、あ、あんっ、と零れ落ちる嬌声の間隔が狭くなったかと思うと、それはやがて細長い悲鳴になり、
ハンガリーは、その豊満な体を男の上に投げ出した。極まった余韻に痙攣する体が、この上なくプロイセンの劣情を誘う。
「…ハンガリー。どうぞ、こちらを向いて。顔を見せてください」
彼女が落ち着くのを待っていたらしいオーストリアは、不自由なソファの上で器用に体勢を変えながら言った。
その声は野卑とは程遠く、柔らかな笑みを含んでいる。
「…いじわる」
「心外ですね。私はあなたのために尽くしたつもりですが」
「でも私、まだこのままでは眠れません」
優美な動作で上体を引き上げられた後、ハンガリーは男の膝に跨るように向かい合って座った。
美しいウェストラインと張りのある臀部が、プロイセンに見える角度で晒される。
まるでチェロのようだ、と思った。男の愛撫を受け入れ、そして煽情的に啜り泣く。
「困った人ですね」
「困らせたいんです、私。もっと困って。いつも優しいオーストリアさんが……私にがっつくのを、もっと、見たいの」
もっと激しく、してください。
密やかな囁きはプロイセンの耳まで忍び込む。くらり、と眩暈を感じた。興奮で息が苦しい。
そうですか、とオーストリアは穏やかに答える。激しいのがお好きなら、では、このような趣向はいかがです?
「プロイセン、―――どうぞお入りなさい」

……唐突に呼ばれ、ぎくり、と肩が揺れた。
「そんなところで覗き見など、おはしたない」
おはしたない?ふざけんな。今この瞬間、一番キヨラカなのが俺様じゃねーか!!
思わず口をついて出そうになった言葉は、しかし、振り向いたハンガリーの表情に出口を失った。
乱れ髪を振り払うようにゆっくりと振り向いた。
かすかに眉を顰めたその顔には、快楽の翳りがいまだ燻っている。
「……プロイセン?」
かすれた声が艶かしかった。
ごくり、と唾を飲み込もうとしたが、あいかわらず喉はひりついたままだ。ようやく台詞をひねり出す。
「なんだ、お前。見られてんの分かってやってたのかよ。とんだ変態だな」
「ええ、そうです」
しかしオーストリアは動じず、にっこりと微笑んだ。え、とこぼれ出た声は自分のものか、それともハンガリーか。
「今日の夕食は、少々味が濃くはありませんでしたか?」
背筋に冷たいものが走った。
「な……なんで……お前……」
見ればハンガリーも呆然と、目の前の男を見つめている。
「ハンガリー、私の可愛い妻。私はあなたを心底愛しているのですよ」
くちゅり。自らの繊細な指先を口に含んだオーストリアは、次の瞬間、それをハンガリーの後孔に押し込んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ………!」
逃れようと揺れる臀部の、なんと蠱惑的なことか。しかしオーストリアはその揺れを利用して、さらに広く深く犯していく。
「あっ…ぁあ…オーストリア…さぁん…」
腰の動きは、徐々に逃げるためのものではなくなってきている。
「だからこそ、男たちを率いて戦場を駆け巡るあなたを見るのは、本当にしのびなかった」
「……言わ、ないで…ッ」
「責めているのではありませんよ」
さあ、ハンガリー。ここに私を差し上げましょう。向こうを向いて。
諾々としてハンガリーは体勢を変える。
プロイセンはその前に立ちすくむが、とろりと蕩けた目にはその姿は映らない。
大股開きの奥の秘所が、プロイセンの目前に晒された。
と、オーストリアは彼女の後孔に自らを突き立てる。
「………ッ!!!」
声にならない引き攣った叫びが、ハンガリーの喉から搾り出された。
豊かな乳房の頂が、きゅんとしこって立ち上がっている。

触れたい。
プロイセンは激しく欲情した。あの胸を容赦なく掴み上げ、乳首に歯を立てて悲鳴を上げさせたい。
そう思ってプロイセンは、しかし、自らの下唇を噛むことで自分を押しとどめる。

「だからこそ、私はあなたをひとりの女性に戻したかったのです。
婚姻によって、あなたが女性としての喜びを感じられるように」
ゆっくりと抽送を繰り返しながら花芯をまさぐると、そのオーストリアの指が愛液で濡れる。
共に戦場を走り回った敬愛なる友は、今、あられもない姿で股間を濡らしている。

立ち去れ、プロイセンよ。自らをそう叱咤しても、足が動かない。
それどころか、きつくズボンを押し上げるものが痛いくらいだ。

「私は、あなたの初めての男であったことにこの上ない歓びを感じました。
そして、身を尽くしてあなたにも歓びを与えてきたつもりです。なのに」

ぐ、とオーストリアはハンガリーの胸を鷲掴みにした。
「んんン………ッッッ!!!」
「なぜ、私がこのように激しく、あなたの求めるままに乱暴にすると、この男の名を呼ぶのですか?」

プロイセンは、ひゅ、と息を呑んだ。
「あなたは言った。プロイセンは嫌いだ。男として見たことなどない、と。女としても見られていないと」
「あっ…あぁッ……ッ!!」
「なのにあなたは忘我の中で、プロイセンを呼ぶ。胸を掴んで乱暴にしたときは、いつもいつもいつも」

突然よみがえる記憶。膨大な日記の中の1ページ。胸が苦しいと悩む友に、自分は何をした?
それは、プロイセンが重過ぎる秘密につぶされそうになる発端。

「……違います……」
途切れ途切れの息の下から、ハンガリーが抗議する。
「そんなの、嘘……なんで、私が」
言いながら、弱弱しいその声は艶やかな喘ぎに溶けていく。
「プロイセンなんかに触れられたって、ちっとも、何にも、全然……!!!」
「何ともないですか?でも彼はそうではないようですよ」
「お、俺だって何ともねーよ!」
「聞きたくありません」
ぴしゃり、とオーストリアはそれを遮った。
「純情な少年少女の恋物語など、聞きたいわけではないのです」
オーストリアは、ぐん、と腰を突き上げては、ハンガリーのその白い太腿を戦慄かせる。
「ねぇ、ハンガリー。私はあなたの初恋の男に嫉妬しているのですよ?」
柔らかく。あくまでも柔らかく耳元に囁かれて、ハンガリーはかぶりを振る。
「好きになったことなんて、ありません!こいつが私に対して、どういう態度を取っていたか」
「尊敬すべき勇者として扱った?…女性として、見られたかった?あなたの中の女性を目覚めさせた、この乱暴者に」
違います、違います。ハンガリーは否定し続ける。私が好きなのは、いつも焦がれているのは、オーストリアさん。あなただけ。
「こんな奴……!!!」
屹として、プロイセンを睨みつけた。プロイセンはその鋭い視線にたじろぐ。
「あんたなんかに触られたからって、何ともなかったんだから!あんたが私の体調を慮ったからって、何とも!」
何だったら、ここで証明してもいい。今、ここで私を犯せばいい。
そう言い放った彼女の目は、しかし、潤んで美しかった。なんという激情。
激しいのは中世の頃だけではなかった。ここ数十年でも変わっていない。
愛しい男とを隔てる鉄のカーテンを取り払って見せ、東欧全体に大きなうねりをもたらした、その激情そのままに。

ぎり、とプロイセンは唇を噛んだ。この激情も、甘い喘ぎも、全てはこのかつての夫にのみ捧げられるものなのか。
……そして俺。こんな全力で否定されて、なんてカワイソウ。

だけど、もし。
プロイセンは一歩、ソファに近づく。
もし、ひとつ選択を違えていたら。オーストリアが言うように、もし、あの時俺が。

「……上等じゃねぇか」
チンピラじみた台詞に唇を歪ませ、プロイセンはジッパーに手をかけた。
「お誂え向きに、お前の夫は俺のための場所を残しておいてくれてる」
そう言ってしまった後に、この元貴族の思惑に嵌ったことに気づいた。……いいじゃねぇか、嵌ってやる。

ハンガリーのすべらかな膝頭に手をかけ、ぐい、と両脚を押し開く。
太い雄を飲み込んでいる後孔にぐるりと触れると、ハンガリーは、く、と眉間にしわを寄せて俯いた。
そのまま指を滑らせ、濡れた裂け目をぐちゅぐちゅと確かめる。ハンガリーはその長い睫毛を伏せたままだ。
数度、亀頭で入り口を撫で上げた後、ゆっくりと挿入していく。ぬぷり。暖かい粘液に包まれる感覚。
しかし、半ば程も入らないうちにそれ以上進めなくなった。
「力、抜けよ」
ぎり、とハンガリーが睨みつける。
「さっきかっこよく啖呵切って見せたのに、なんだそれ」
「うるさい」
…と、オーストリアの手が伸びて花芯をつまむ。
「……ぅんッ……」
「怖くありませんよ。さぁ、ハンガリー……」
優しく耳朶を噛みながら、頑なな乙女を誘導する。彼女がゆっくり息を吐き切った瞬間を見計らって、プロイセンは奥まで押し入った。
「ぁぁぁぁあああああああああッッッ!!!!」
前後を男に貫かれ、ハンガリーは仰け反った。突き出された胸を、プロイセンが鷲づかみにする。
骨ばった指の隙間から押し出された乳首を、じゅう、と吸い上げると、ハンガリーは一層高い声を上げた。
胎内に押し入ったものを、ぎゅう、と締め付けられて、もう、自制が効かない。
「……たまんねぇな、お前、すげぇ……」
オーストリアが抽送を再開したのに呼応して、プロイセンも腰を使い始める。
ハンガリーの口から、ひッ、という悲鳴が漏れ、透明な唾液が糸を引いて零れ落ちる。
獣じみた激しい息遣いは、果たしてプロイセンのものか、ハンガリーのものなのか。
薄い肉ごしに、オーストリアのものと擦れあう。
取り澄ました顔はかすかに上気しているものの、眼鏡さえずれない。酷薄そうな笑みさえ浮かべたその瞳が、プロイセンをちらりと見上げる。
カッとプロイセンの頭に血が上った。畜生、こいついつもこんないい目に遭ってやがんのな。
体の奥深くから湧き上がってきたどうしようもなく凶暴な衝動に身を任せ、女の奥底まで自分をねじ込んでは引き抜き、また叩きつけた。
存外になよらかな女体が、それでも激しさに耐えかねて傾ぐ。それをオーストリアが抱きとめた。
背中から回された両手で乳房を挟み込むようにされ、ハンガリーは、あぁ、と声を上げて身を捩った。
逃がさねぇ。プロイセンが左手で乳輪ごと抓り上げたとき、荒い息の下から細い悲鳴が聞こえた。

「…イセン……あ、あぁぁ…ッ」

―――ぞわり。皮膚の下で生まれた何かが尾てい骨のあたりで弾けたその瞬間、プロイセンはハンガリーの胎内で達していた。


***


「いつも、そうなのか」
気を遣って意識を飛ばした……あるいは、そのまま寝入ってしまったハンガリーを抱き上げ、
立ち去ろうとするオーストリアの背中にプロイセンは尋ねた。
「さぁ、どうでしょうか」
「でも、確かに俺のこと呼んだよなァ?」
眠っていると思ったハンガリーの手が、ぎゅ、とオーストリアの二の腕のあたりを握り締めたと見えたのは錯覚か。
振り向いてプロイセンを一瞥したオーストリアは、もう一度「どうでしょうね」と繰り返した。
「いずれにせよ、あなたのおかげでいつもと違った趣向を楽しめましたよ。……二度とはないと思いますが」
そうそう、冷蔵庫にミネラルウォーターがあります。ご勝手にどうぞ。
そう言い置いて立ち去る背中を見送って、プロイセンはどさりとソファに座り込んだ。





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