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 Good Night、 My Fellow



「泣いてんのか」
え、と振り向くと、眠っているとばかり思っていた男がそのルビー色の瞳をこちらに向けている。
「な、泣いてねーよ!」
とっさに出たのは、昔の口調。それが恥ずかしくて、とっさにおどけてみた。
「これは、心の汗!」
とたん、ぶはぁッとプロイセンが吹きだした。
「なんだそれー。ヴェストみたいなこと言いやがる」
「え…?ドイツ…?」
「ヴェストは日本に聞いたんだってさ。なんか甚く感動してたな、あの真面目バカ」
よいしょ、と上半身を起こすと、プロイセンはそっと私の頬に手を伸ばす。
一瞬身を固くしたのに気づいたのか、気づかなかったのか、彼は頬に乱れかかっていた髪を掬い上げると、
それをそっと耳にかけた。きっとバラトン湖の位置も乱れているだろうに、そこには手を触れない。

粗暴な男なのにヘンに優しいときがあって、とても困る。
いつも優しいオーストリアさんにされるより、もっと効く。
私をじっと見つめるプロイセンの瞳に、戸惑っている自分の顔が映って、余計に身の置き所がなくなった。
へにゃ、とプロイセンの眉も下がる。奇妙な沈黙。どうしよう。

うわぁぁぁん無し無し全部無し!!と叫び出したくなる衝動が噴出する寸前、表面張力ギリギリの時に、
プロイセンの親指が、ぐい、と私の涙を拭った。
その指をそのまま唇の前にかざし、あさっての方向にそっと吹く。さようなら涙くん!
今度ぶはぁッと吹きだしてしまったのは私。

「なにそれ!キザ!」
「イタリアちゃんの真似しただけだって」
彼は憮然とした顔を作って見せ、唇を尖らせる。チェッチェのチェー。
「似合わない!ゲルマンにラテンは似合わない!!」
「るせぇ!知ってる!」

彼の表情はくるくる変わる。だけど、それは本当に彼の本心を写しているのかしら?
たぶん、彼の表情は陽動作戦。何かをその下に隠している。

試しに、その肩を引き寄せて唇を奪ってみた。ついでに、舌を差し込んで歯茎の裏をなぞってみる。
突然のことに、彼はその口腔内で逃げを打つ。
それを追いかけて、じゅぅ、と吸い上げると、彼は力を抜いた。
イタズラ終了。
その印に少しだけ唇を唇でふにふにしてから、解放してやった。

「……ちくしょ、お前の方が王子様っぽいのはなんでだ」
「乙女はハードボイルドなのよ」
「あのなあ、ハードボイルドってのはなぁ…ちょっとちがうぞ」
どんなのよ、と聞いたら、うーと唸った挙句、スイスんところに口座持ってて、
報酬をそこに振り込んでもらうとかさーとか何とか言いやがった。
あんたなんか眉毛の呪いにかかればいい。
そう言うと、彼は「勘弁してくれよ」と、でっかい枕に懐いて顔を伏せた。
一瞬見せた、笑いを滲ませた目元に(黙ってりゃかっこいいのに)なんて思った。不覚だ。

飛ぶ鳥を落とす勢いの軍事国家だった頃は、彼は本当に痛々しいほどカッコつけだった。
日本さんなんかは尊敬の眼差しで見てたけど、ちんちくりんだった昔を知る私にとっては、
ちゃんちゃらおかしかったってわけ。いつもやたらオーストリアさんにつっかかっててさ。
なんのつもりなのよ。

でも、今の彼は。なんだかあの頃の自分を自分でモノマネしてるみたい。
二枚目を演じつつ、まるで笑われることを狙っているような。

くしゃ、と彼の短髪に指を入れてみる。ん、と漏れた声は眠たげだ。

彼に対する思いは、恋じゃない。
オーストリアさんを思い浮かべるときのときめきと較べたら、違いは顕著だ。
だけど、こんな声を聞くと何か甘くて暖かいものが、きゅん、と私の柔らかい部分を食むのも確かなこと。
例えば、眠りに入るときの声だったり、唇を貪っているときの密やかな吐息だったり、
私の上で漏らすみっともない喘ぎだったり。

昔の彼だったら、きっとこんな風に女を抱かなかっただろう。
もっと全てを奪いつくすような、酷い抱き方だったに違いない。

だからこんなふうに、自らを茶化してみせるのは。
こんな、甘えるように私の肌を貪るのは。
こんな、ふざけたピロートークが後戯がわりに交わされるのは。
こんな、……使い果たしたようにくたりと眠り込むのは。

私の掌を押し返す力が徐々に弱まっているような、そんな彼の背中の感触を思い出して、
また泣きたくなった。

祖国のために傷つき、徐々に力を失っていく負傷兵を抱きしめる。
そんな聖母の役割は、もう現代ではしたくないのに。

Good Night, My Fellow / Gute Nacht,Mein Kerl




カテゴリー
[ハンガリー][プロイセン]

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