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 普×洪『バレンタイン中止のお知らせ』 


カップルイベントは滅びろッ! 恋愛イベントにおける独り者の憎悪を思い知れ!

 プロイセンは手中のボウル内のチョコレートを憎々しげにゴムべらで潰した。
 隣では鼻歌交じりにチョコレートをかじるハンガリーが手元を覗き込んでいる。時は深夜、3/14ホワイトデー
になったばかり。3/14は日本ではバレンタインに異性にもらったチョコレートのお返しをするカップルイベント
の日と聞く。そんな桃色空気の日に
「オレは、何が悲しゅうてオーストリアの為にケーキ焼かねばならんのだ……?」
 ハンガリー宅のキッチンでチョコをかき混ぜながらごちる。
 深夜にかかわらずどうしても来てほしいといわれ、駆けつけてみれば、ホワイトデーのケーキを焼くのを
手伝え、と来たもんだ。
「しょうがないじゃない。暇なのアンタだけだったのよ」
「だからってなぁ! これはもう虐待とか虐めの域だぞ。なぜかオレが一人で作り上げる流れになってるし!」
「手伝いだけでいいっていうのに、見てられないってボウルひったくったの誰よ?」
「あれ見せられたらお前が手を出すと危険物になるだろうが!」
 指さしたごみばこには黒色の謎の物体が溢れている。近づけば焼け尽くした臭い。ハンガリーが一人で
練成したケーキの成れの果てだった。
「う、うるさい。フォンダンショコラが繊細な工程必要だなんて知らなかったのよ!」
「繊細ってほどじゃないだろ。材料をきちんと量ってオーブンの温度合わせないからだ。大雑把にもほどが
ある」
「ううっ」
 むくれ顔で押し黙る。ハンガリーは料理が下手というわけではないが、分量を目方で入れる漢らしい性分だ。
細かい段取りが必要な菓子類に向かぬ自覚はあるのだろう。
「野郎へケーキ作るなんて気色悪い行為とっとと終わらせて帰る。帰って寝る。手ェ出すな。絶対触るなよ!」
 口をへの字に曲げて言い放つと、
「うん……ありがと」
 わりと素直な返事が返ってきた。が、その素直さはそのままオーストリアへの思いということに気づいて、
プロイセンは不快極まりなく顔を渋らせた。
「……不気味だ」
「てめぇ」
「しおらしく礼言うなんて調子狂――イテッ」
 すこん! とお玉がデコにヒット。滲む涙をこらえると、ハンガリーは急に柳眉をハの字にして俯いた。
「でも……本当に助かった。本当に困ってたのよ。I○Fへの返済で今うちお金ないから」
 豪華なものをあげたいけれど予算が割けなかったの、と力なく笑う。まあ、頼られて力になれるのは男として
悪い気はしない。が、独り楽しすぎる自分が作ったものをカップルのサカリイベントに使われるとなるとまた別。
「消えろ、滅びろ! 日本式バレンタインとホワイトデーッ!!」
 漲る憎悪を八橋に包まずかき混ぜる姿にハンガリーは苦く笑い、
「ほんとごめんってば。チョコでも食べて機嫌直してよ。はい」
 手の中のチョコレートを差し出す。今まさに齧っていた、食べかけのハート型チョコ。
 え、ちょ、それ……と寸の間ハンガリーの顔とチョコを見比べる。が、着手中の作業がこの女の彼への菓子
製作と思い出し、妙な冷静さでかぶりついた。
 甘くほろ苦い味が口に広がる。
「お、うまい。さすが日本の加工品」
「もとはベルギー産だって。日本はほんと食べ物にだけは異様な執着みせるわよね。別に貰ったチョコは半分
ピンクでかわいいし。……『アポロ』だって!」
「あー、確かに似てるな。あのロケットの、スキップ弾道の果てのやつに」
 2/14に貰った大量のチョコ。それを食べつつ作業は進んだ……。


 作業が進行するにつれてプロイセンは口数を減らし、いまや真剣な顔付きでゴムべらを動かしている。
 ハンガリーはその様を横目で盗み見た。
 気の向かぬことにはいい加減だが一旦決めたことには真摯、迅速に対応し、そこそこのクオリティで仕上げて
しまう。皆に話すと誰もが「嘘だ」と切り捨てて終わってしまう、知る人ぞ知る真面目な特性。
 久々にそういう面を見て、変わってないなと実感する。そして何故だか妙に安堵した。
 嫌い殴りたいと言いながらも幼馴染ということで、頼りにしてしまってるのかもしれないなぁ。
 そんなことを考えていると、攪拌の音かぴたりと止まった。
「おっしゃガナッシュクリーム完成。オレ天才!」
 真剣な眼差しが一変、ボウルを掲げて昔ながらの悪ガキの笑みが向く。瞬間、不意にどきりと心臓が弾んだ。
息が詰まらせて混乱気味に目を逸らす。
 髪を掻きあげる振りをして顔の紅潮を隠し、自問自答。
 ちょっと待て自分。このトキメキはおかしくない?
 しかし鼓動の高鳴りは収まらず、体がじわじわと熱を帯びていく……。


 得意になりながらプロイセンは次の工程を読んた。
「えーっと、『完成したガナッシュクリームを一晩冷凍庫に入れて凍らせます』」
「………………」
 今日は既に十四日当日。なんともいえぬ静寂か室内を支配した。
「……無理じゃね?」
「そ、そうね。普通のチョコケーキに変更ね」
 動揺した声。らしくない態度に眉をひそめる。
 気にはなったものの、今は作業を終えて帰りたい気持ちの方が十億倍強かった。
 プロイセンは不要なクリームのボウルを隅に押しのけて、ケーキ生地作りに着手する。
 目も合わせず無作為に材料をぶち込もうとするハンガリーを制止しつつ、レシピ通りに作業は進んでいった。
 熱中しすぎたせいか額に汗が滲んだ。腕をまくり重ね着のシャツを一枚脱いでも適温に戻らない。
「なんか暑くねーか?」
「うん。……暖房効きすぎかな」
 ハンガリーも額の汗をぬぐいつつ暖房のリモコンを操作している。
「今日は変な気候だな。来るまでは寒かったのに」
 しかし、一向に適温にはならず。  
 原因は部屋の温度というより、体の内から発される妙な熱の沸きあがりだろう。本能を浮かされるような
暑さ。
 なんだろうこれは。懐疑しながら攪拌していると、
「もうメレンゲ入れて良いよね?」

 突如ふわり、と清涼な香が鼻腔をくすぐった。
 気が付けば目の前にハンガリーの髪とうなじがある。柑橘系のそれは甘ったるいチョコレートの香りの中で
際立ち、ひときわ魅力的だった。
 ごくり、と生唾をのみこむ。体内の血が沸騰した。抱きよせて首筋に口付けたい衝動。伸ばしかけた手を、
馬鹿か俺はと突っ込み入れて引っ込める。
 昔なじみで男女、過去に気の迷い的な間違いが無かったわけではないが、今はオーストリアへの貢物を
作っている最中。坊ちゃんに豪華なものをあげたい、と静やかな笑みを見せられたばかりだ。
 萎えて当たり前の状態で何を興奮しているんだか。
 ちらと横を見る。俯いて作業するハンガリーは、暑さのせいか頬がほんのり上気させ、かすかに汗ばんで……
 湧き出る妄想を振り切るため頭を振った。


 さっきから体が熱くて、自分の鼓動がうるさい。
 目の前の幼馴染の腕に包まれたい、などという思考とともに下腹の奥がもどかしく疼いた。
 ハンガリーも人の形をしているから性欲はある。だが女なので衝動性は強くない。相手が誰でもいい……と
いうことはない。絶対無い。今だって目の前にいるのが知らない男だったり嫌いな男だったらバスルームに
駆け込んで鍵閉めて、ひたすら冷水被り続けて難局を乗り切るはずだ。
 殴りたい男なのに、どうして何度も触れられたいと思ってしまうのだろう。
 この男を嫌うのは歴史の因縁だけではない。一緒にいるとペースに飲まれて品のある言葉遣いや立ち居
振る舞いがふっ飛んでしまうことだ。
 だが、二人きりとなると齟齬が起きる。上塗りを剥がされた素の自分でいられることが楽しくなる。お前の
本質はそれだろう、と示されているようで嫌になるのだけれど、それを上回る気楽さで肩の力が抜けるという
か、心地よい。
 本質的には嫌いじゃないのかもしれない。
 そこまで考えがたどり着いたとき、
「ぁっ!」
 下着の中、とろりと愛液が伝った。こそばゆさにぞく、と磁気のようなものが背筋を走って力が抜ける。
 ハンガリーはぐらりと身を揺らして隣の男に寄りかかった。
「ふぁっ!」
 体に腕が回る。感じた体温が気持ちよくて、もっと強く抱きしめて欲しいという不埒な欲が沸いた。
 泣きたい気分だった。


 腕の中のハンガリーは力を失くし、そのまま胸に寄りそった。ぴったりと密着し、柔らかいものが腕に
当たっている。
「だ、大丈夫、か?」
 声が裏返っていた。腕にあたる感触を意識しないようにゆっくり引き離そうとすると、彼女の手が重なり、
引き止めた。
 大気圏をも越えた超展開に身動き出来なくなる。
「あ、の……」
 ハンガリーはしばしの逡巡を経て、言いにくそうに口を開けた。
「あの……ごめん、今、私おかしいみたい。体が熱くて、疼いて、その……」

密接する太ももをもじもじと擦り合わせている。無意識なのだろうが今のプロイセンには猛毒である。
一挙に下半身に血が巡った。
「ばっ、……んなこと言うと襲うぞ」 
「いいよ」
 服越しに熱い息。
おそらく照れ隠しであろう、胸に埋められた顔から、
「あんたじゃなかったら、こんなこと……」
 易く理性を決壊させる声が。
 気づけば強く抱きしめ、金色の髪に顔を埋めていた。
 ああまた間違いが起こる、しばらく顔あわせづらいかもしれない、などという考えはもはや遥か彼方のこと。
「いい匂い」
 柑橘の香をいっぱいに吸い込み、紅色に染まった耳を甘噛む。
「んっ」
 ゆっくりと床に引きおろし、組み伏せた。
 間近に迫ったことで、恥ずかしそうに逸らそうとする顎を押さえ、口内を蹂躙。はじめは一方的なもので
あったが、次第にハンガリーも調子を合わせて出す。最中、服の上から体への愛撫も忘れない。
「はっ……あっ……ぅんっ……」
 室内の静寂、舌を絡む淫猥な水音が流れる。
 顔が離れるとすぐさまハンガリーの服を威勢良く押し上げた。
 晒されたのは下着に包まれた柔らかな胸。すかさずフロントホックを外せば、ぷるりと揺れて桃の先端が顕わに
なる。大きめだけどでかすぎないそれはプロイセンの理想のサイズだ。
「やっぱいい乳してんな」
「やっ、あぁっ!」
 指が沈みこみ、力加減で形を変える様を楽しみつつ双丘に顔を埋める。乳好きの至福の一時。
「んー。おっぱいさいこー!」
「……おっぱい星人」
「お前の乳が良すぎるんだって」
 マシュマロのような感触を堪能しつつ、芯を持ち始めた胸先を舌と指で軽く捏ねる。
「や…………あっ……ああっ」
 ハンガリーは小さく鳴き声を上げた。首筋、胸、腹、腰、太もも……服を剥ぎながら弱いところを嬲り、
唇を落としてまわる。ハンガリーは時折びくりと身を強張らし、息を詰め、愛らしく鳴いた。自身も服を
脱ぎ捨ててつつ、互いに下着一枚残したところで、プロイセンは一度顔を上げた。
 ハンガリーを俯瞰すれば、体のいたるところに桜花を撒いたが如く自分の印が散っている。
「壮観っ。どこもかしこもオレのものーッ!」
 当分人前で服は脱げまい。独占欲を充たされてニラニラと見回す。
「……えっち」
 ハンガリーは髪と呼吸を乱し、蕩けた声で呟く。くったりとし頬を上気させ、愛らしくもあり淫靡であった。
 プロイセンはこみ上げる衝動をどうにか押さえ、ハンガリーの最後の布地を引き下ろす。透明な糸を引いたそれを
投げ捨てて茂みの奥に指を這わした。
「んっ」
「すげーぐちょぐちょ。準備万端だな」
「ば、かぁっ」

何度か体を重ねたことがあるので彼女の弱点は大まか分かる。
 狙いを定めて恥骨の裏側、ぶつぶつの多い場所を撫でるとひときわ高い嬌声が上がった。
 満足気に口の端を上げて、赤く腫れ上がった肉芽をいじったり指を増やしつつその場所を攻め立てた。
「はあっ! ああっ、あんっ!」
 くちゃり……じゅぷっ……
 あわ立つ愛液を吐きだしながら内壁はひくひくと動き、咥えた指先を締め付けて飲み込もうと蠕動する。
性器全体が溢れた蜜に濡れて艶かしく光っていた。
 その光景にプロイセンは興奮し、みしみしと股間を痛くさせた。
「あぅ…んっ。やぁっ、そんな、指ぃ……!」
 ハンガリーの腰が物欲しそうにうねる。
 床を引っかいていた指がプロイセンを求めて宙を迷う。素直に抱きしめられてやると泣きながら、がむしゃら
にすがりついた。
「プロイ、セ……プロイセン!」
「ハハ、今日はやたらと感度いいな」
 幼子をあやす様に髪を撫でると、指の動きを激しくして耳元で囁く。
「一回、先にイっとけ!」
「やああああぁッ!」
 ばりばり、と背中が爪立てられ、弓なりに強張った体がくたりと床に落ちた。
 堕ちたハンガリーの姿を満足気に眺めつつも、プロイセンは苦しげに荒い呼吸を繰り返す。しばらく挿れる
のは無理だろう。が、自分のものがずきずきと痛い。妙な熱のせいか、限界が近かった。
 一回、手か何かで抜いてもらったほうがいいか、と考えていると、ことり、と頭上からゴムべらが落ちてきた。
見上げるテーブルの上、そこには使い道のないガナッシュクリームのボウルが……


 体に、じいんとした痺れが残っている。
 うっすらとものが考えられる頃になると、プロイセンはガナッシュクリームのボウルを抱え、腹に一物ある顔で
見下ろしていた。
「もったいないから使おうぜ」
 指で掬ってハンガリーの唇に差し入れる。甘い。余韻でとろけたままのハンガリーは熱に浮かされたように
呟いた。
「おいしい……」
「当たり前だ。オレ様が作ったんだからな」
 ハンガリーに胸を押し寄せさせるよう指示した。脇に流れる分も押し上げられ、くっきりと浮き上がった
谷間に生暖かいクリームを注がれる。
「今度はオレを良くしてくれよ」
 プロイセンは下着を脱ぎ捨てハンガリーの体の上に跨ると、そそり立つものを谷間に挿しいれた。血管を
浮き立たすほどに硬いそれが、柔肉をぐにゃりと押し抜けてハンガリーの目の前に届く。潤滑剤代わりのチョコ
にまみれた先端を口に含むと、甘さの中に僅かな苦味が混じっていた。
 うあ。プロイセンも気持ちよくなってるんだ。
 ぞくり、と言いようの無い昂ぶりが湧き上がる。
「もっと……欲しい」
「よっしゃ!」

 ゆっくりと動き出し、次第に加速していく。荒い呼吸のリズムに合わせて胸の間を何往復もしてハンガリーの
口にクリームを届ける。ハンガリーも手を動かして挟む圧力を変化させた。もっと動いてたくさん苦くなればいい。
 乳好きに刺激が強かったのか元々限界が近かったのか。さして時間もかからずプロイセンの眉間の皺が深く
なっていく。
 余韻の抜けたハンガリーは限界が近いのを見てとると、にぃ、と笑って
「一回イっちゃいなさい!」
 口に入った途端強く吸った。
「ッく」
 低い呻きと共に引きぬかれ、小さく震えて白濁液が二度、三度と腹上を打つ。肌を流れて落ちそうになるのを
掬い取り、クリームと混ぜる。恍惚の残る気だるそうなプロイセンに向かい
「これがほんとのミルクチョコレート」
「ふぁ!?」
 白茶マーブルのそれを口に入れて見せた。
「ばっ、それ……!」
 プロイセンは目を真ん丸くして言いかけたが、すぐにいつもの人を食った笑みに戻り、チョコクリーム
まみれの手を伸ばした。ハンガリーの乳輪をくるりと撫で、茶色の中に桃の先端だけ浮き出たそれを
もてあそびながら、一言。
「アポロチョコ」
「あはっ」
 ばかばかしすぎて吹いた。他の人とは絶対にできないやり取りだ。
 まだまだ元気な様子のプロイセンは、にひひ、と子供みたいに笑うと
「いただきます!」
「ぁんっ」
 アポロチョコを頬張って再び攻撃を開始した。


 二人は一晩、沸き起こる熱に身を任せて何度も抱き合った。時に軽口とアホなことが混じるのは気心
知れた仲だからだろう。
 ベットに場所を移し夜明けまで何度も愛し合い、力尽きて眠りこけ、気がつけば昼だったわけで。
「いやー! オーストリアさんへのケーキできてない!」
「……あきらめろよ」
「バレンタインにいろいろもらっちゃってるし、何か返さないと!」
「チョコレート溶かしてテキトーに型取りゃいいんじゃね? それなら本日付けで送れる」
「もうそれしか方法ないわよね……」
 といいつつ直火鍋にチョコをぶっこみはじめたのを見かね、やれやれと鍋をひったくる。
 相変わらずカップルイベントは滅びよ! というスタンスは変わらない。だが与えられた僥倖、今年
くらいは悪意無しに参加してやろうとハンガリーを背中から抱きしめ、乳を揉みながら思うのだった。

END


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