スイリヒ+バレンタイン中止のお知らせ
リヒテンシュタインは勝負の日を決めていた。
幸せも毎日続けば慣れてしまう。口に出して確認しあっても、すぐに聞き飽きてしまう。
誕生日は失敗した。プレゼントを渡しただけで終ってしまったのだ。
だが今日は違う。バレンタインデーは違う。
今日言う好きは、家族的な好きとは違う。
だからリヒテンシュタインにとって、今日は一世一代の大勝負のつもりでのぞんだ。
テレビもラジオも切って夕食後から厨房にこもり、甘さ控えめのチョコケーキ作りに専心した。
そして、今。
夜這いのような形で、リヒテンシュタインはスイスの体の上にのっていた。
ケーキの試作品をつまんでいるうちに、なぜかスイスの顔が見たくなったのだ。
眠っているかも、という心配は思い浮かばなかった。
とにかく会いたくなって、深夜に兄の部屋に滑り込んだ。
静かに寝ているスイスの顔を、そっとのぞきこむ。
ドレスが邪魔に感じて、ベッドサイドに脱いで置いておく。
着ているのは薄いシルクのワンピース型の下着と、コットンのパンツだけ。恥ずかしいという理性
は働かず、もっと近づこうと彼女は布団を持ち上げて兄の隣に入った。
スイスが身じろぎするのも構わず、その体に抱きつく。パジャマ越しに感じる体温に嬉しくなって
いると、急に自分を下にして兄が起き上がった。手首はつかまれ、頭の上で固定されている。
「……リヒテン?」
襲撃者と妹の違いに気付いて、それから急に声から余裕がなくなった。
「な、なんて格好をしているのである!はしたない!」
スイスが慌ててリヒテンシュタインの手を放した。彼女はさらさらした感触のシーツの上で首をかし
げる。
「お兄様は私が今どんな格好をしているか、電気をつけないでも見えるのですか?」
「兵士の夜目がきくのは当然である!」
「そうですか。……この格好はいけないのですね」
リヒテンは下着をつまみ、起き上がって一枚脱いだ。ベッドの上、スイスが呆気にとられる。
「これはどうですか?」
「いや、な、……えっ?」
「これもまだいけないようですね」
リヒテンはさらにパンツに手をかけた。スイスがその両手をつかみあげ、押しとどめる。
微妙に間に合わなくてちょっと脱げていたのだが、スイスはけしてその方向を見ないようにして
理性を守る。
「い、いけないといったのはそういう意味ではないのである」
「ではどういう意味ですか?」
妙な方向に話が転がりつつあることを、スイスはようやく理解した。リヒテンシュタインの目は据
わっているくせに熱っぽく潤んでいて、全裸といってもいい姿だ。うつむかないようにしていても
顔に近いおっぱいはどうしても目に入ってしまうし、なまじ平らなため「ここから先はおっぱい」
という回避のわかりやすさがなくて、油断していると下まで見てしまう。
「どういうというか、夜に、娘が男の部屋に入って服を脱ぐというのは、夫婦間ですべきであって」
「ですがお兄様、私はその夫婦になりたいのです」
しどろもどろになる兄と正反対で、リヒテンシュタインはきっぱり言った。
「私はずっとそう考えていました。急ではありません。ずっとずっと前からです。言わなかったのは、
お兄様をびっくりさせて嫌われたくなかったから。でももう、私はこれ以上隠しておくのにたえられないのです」
カーテン越しの月光でも十分に妹の姿は見えた。その緑の目も肌も必要以上なほど綺麗に見えた 。
「お兄様。どうして恋人から家族になる方法はあるのに、家族から恋人になる方法をないといえるのですか」
最後の砦はそれで完璧に崩れ去ってしまった。
「我輩も同じことを考えて、ずっとその答えを探していたのである。
……『ある』と言えるようになればよかっただけだったのだな」
妹を引き寄せ、その体を強く抱きしめる。リヒテンシュタインの体からは甘い匂いがした。チョコレートだろう。
そういえば二月十四日が何の日だったか、彼はやっと思い出した。
だが今更別に構わない。長年自分だけの秘密と思っていたことが、やっと相手と共有できたのだ 。
それが世界規模のイベントでだって構わない。
顎を持ち上げて口付ける。リヒテンシュタインは目をつぶり、絡みつく舌にぎこちない動きをあわせる。
手を動かして胸をなぶり、腰を密着させる。直前まで平らと侮っていたが、それは見たときだけの話だとわかった。触ればはっきりと肉の柔らかさを知る。
「んっ……ふっ、はぁ……ぁあっ」
固くなりかけた乳首をつまむと、くちゅくちゅと唾液の交わるキスを交わしていた唇が離れ、リヒテンシュタインが短く喘ぐ。
もっとのけぞらせて見たくなって、スイスは股の間まで手を滑らせた。指はあっさり割れ目を見つけ、しっかり濡れていることも暴いてしまった。
「もうこんなに濡らしているのか」
「そ、それはだって、お兄様ですから……ふぁ、んん!」
指が入ってきて、中の敏感なところをこすっていく。リヒテンシュタインはスイスにしがみつきながら、耳や首をけなげに舐めてくる。
性急な前戯だったが、ゆっくり時間もかけられない。スイスは慌しく寝着を脱ぎながら自分の余裕の無さを自覚していたが、今はただもう早く体を繋げたい。
両片想いでずっとずっと一緒に暮らしてきていた。もうこれ以上おあずけはできない。
リヒテンシュタインを仰向けに寝かせ、華奢な足を広げてからスイスは最後にもう一度だけ聞いた。
彼女は待ちきれないとでもいうように、両手をスイスに伸ばした。
「お兄様がいいのです。お兄様が一番、大好きです」
「うむ……我輩も、お前が一番である」
まだ傭兵だったころに貴族に交わしたような挨拶――差し出された片手にキスをして、スイスは
リヒテンシュタインと体を重ねた。
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男のくせにチョコレートばくばく食いやがって、と喚くロマーノに一瞬気を取られた隙に、双子の弟が堂々と家の前を近道してドイツ国内にはいっていく。
その通り際、外に出ていたリヒテンシュタインにハグしようとしたのは狙撃で阻止したが、国境を越えてから
「今度一緒にジェラード食べようね!」
と誘っていくのを聞いて、迷わず頭を狙えばよかったとスイスは悔しがる。
しかもいつの間にかロマーノも姿を消している。見事なコンビプレイだった。
「11人以下のイタリアは最強、ということか……!」
「お兄様、眉間に皺がよっていますわ」
中に戻ってきたリヒテンシュタインがそう言ってなだめる。
彼女の手には買ってきたばかりのチョコレートがあって、ロマーノの言ったとおりスイスはその甘いお菓子が大好きだ。
だが。
「お兄様どうぞ」
リヒテンシュタインが口に咥えて、そっとスイスに差し出す。
スイスがチョコが好きな理由は、二人だけの秘密だ。
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