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  恋する騎士団はせつなくて大変なものを盗んd(ry



あの女が、貴族野郎のものになる、と最初に聞いた時、俺は悪い冗談かと思った。

 ハンガリーは手綱のない裸馬のような少女だ。どこまでも続く草原や高く明るい色の空や、そういうものが似合う女だ。
 婚姻政策の繰り返しで成長したような不埒な優男にたぶらかされるなど。その時俺は、神聖ななにかへの冒涜のように感じたのだ。

 夜明け前だった。気付いた時には俺はあの女の元へ馬を走らせていた。
「…!?プロイセン?なにしに…」
 支度を整え今まさに出発しようとしていたハンガリーの前に立ちふさがり、彼女が大事に抱えた荷物を奪い取る。
「あ!てめ、コラなにしやがる返せ!」
 粗野な口調は昔のまま、けれどあちら風の旅衣を身に付け、伸ばした髪を背にたらしたハンガリーの姿は人形のように愛らしかった。まるで知らない女のようで、それがやけに気に障った。
「うるせー腑抜け野郎!貴族にたぶらかされた負け犬の情けねえツラ拝みに来てやったんだよ!」
 自分でも理解しがたい苛立ちにまかせて、奪った荷物をを地面にたたきつける。
 衝撃で中身がばらばらと散らばった。
「…あ!!」
「――ひっ!??」
 地べたにぶちまけられたのは――
 手足への拘束具。妙にてろっと
 地べたにぶちまけられたのは――
 手足への拘束具。妙にてろっとした液体の瓶。そしてかなりリアルな形状の、黒光りする大小各種の張り型。等々。ありとあらゆる性的責め具。
 凍りついた俺を見て、普段毅然とした少女は涙目になり、頬を真っ赤に染めてはわはわと弁解する。
「や、これはあの、マジャールが餞別にって。いや別にこれでオーストリアさんを、どうこうってわけじゃなくて!ただ、まあ、あの、一緒に住むわけだしいざというときの為に、ほら、な」
「い、いいいいざ…?」
 目眩がした。いざという時にこんなもの出してくる女、怖すぎるだろう。しかもオーストリア《を》。《を》って。マジでか。そっちか。
 ああ。確かにハンガリーは貴族野郎にたぶらかされている。ただし、なんか通常とはだいぶ違う意味で。
 見ているだけで尻の辺りに寒気をもよおす迫力の器具の数々を目の当たりにして…俺は、貴族に、一瞬、同情した。

「オレさ、《女》なんだって…だから一生、生えてこねえんだって」
 そんなこと数百年前から知っていたが、当の本人が事実を知ったのはどうやらごく最近のようだった。
「なあ…プロイセン」
 壮絶な存在感をかもす道具類を両腕に抱え、天使のような美少女は、真剣な目で俺を見つめる。
「どうしたら怖がらせないでヤれると思う?」
「いや無理だから!!!どうやったって怖えから!諦めろ阿呆!」
「だって好きだもん。絶対オレ我慢できねえよ。判るだろ?お前も男なんだから!」
「………」
 なんだこれ。
 さっきから、この女の理論はなにかが決定的にずれている。
 ひょっとしてこいつは…自分を男と思い込んで育ったこの女は、基本的な男女の営みについて、実はよくわかっていないのではないか。
 ざわ、と黒い企みが胸に兆した。

「じゃあ一度ここで試してみたらどうだよ」
「え?お前で?無理。趣味じゃねえし」
 俺だってそんな趣味はない。ついでに言うとオーストリアにもないとは思う。
「そうじゃねえ馬鹿、自分の身体でだ」
「…えぇえ!?なんでそうなるんだよ」
「だってお前、今のまま加減も知らずに襲ってみろ。まず確実に嫌われるぜ」
「それは…困る」
 ハンガリーが青ざめてうつむく。
 じわじわと黒い染みが胸に広がり始める。
 そう、恋する者というものは、時に笑えるくらいに他愛ないのだ。俺は経験上、もう、嫌というほど、それを知っている。
「別に俺はお前なんか助けてやる義理ねえけどよ。まあ、腐れ縁も長かったことだし、最後に――」
 最後に。口にした途端、胸の中の染みが黒く深い穴に変わった。最後。最後だ。今日この日を逃せばハンガリーは行ってしまう。
「…最後に。手伝ってやってもいいぜ」
 真っ暗な穴を抱えたまま、俺は極上の笑顔を作る。
 翠の瞳が戸惑うように揺れて。
 そうして獲物は俺の手に落ちた。

ベッドの上に並んで腰掛け、唇を触れあわせる。
 お前とキスとか変だってば、と笑って逃げようとするのを、雰囲気作りだと言いくるめた。
 服の上から身体をなぞりながら夢中で舌を絡める。
 呼吸を奪われたハンガリーが頬を上気させ荒い息をついた。眉をひそめた顔がひどく色っぽい。
 手をとって堅く屹立した怒張に触れさせると、ひゃ、と変な感嘆の後で、いいなあお前、生えてて、と場違いな感想を洩らす。
 いつも腹立たしかったその無知が、今は哀れに思えて、苦しいくらいに欲情した。
「ちゃんと触れよ。これが入るんだから」
「え、道具は?」
「要らねえだろ。俺はお前と違って生えてる」
「えええマジかよ!だっ、て…なんか」
「…なんだ怖いのか」
「怖くねえよ!!…や、その、なんていうか…お前は、…嫌じゃねえのか?」
「…気にすんな。昔馴染みの誼だ」
 欲望に上擦る声をごまかして、わざとらしく恩を着せる。
 でもなあ、と、まだ少し抵抗のありそうなハンガリーの身体を引き倒してベッドに押し付けた。

 ふわん、と金の髪が舞って甘いような香りに包まれる。小さな肩。細い腰。組み敷いたハンガリーは感動するくらい華奢だった。胸に引き寄せれば片腕でだって抱けてしまう。
 ああいつの間にか、こんなにも俺たちは男と女の身体になってしまったというのに。
 馬鹿な女だ。何度も言ったろう。お前は簡単に人を信用しすぎる。こんなみえすいた策略に何故気付かない。お前ときたら素直で愚かで純粋で。
 ――たまに、酷く滅茶苦茶にしてやりたくなる。

 もどかしくシャツのボタンを外すと形の良い乳房がふるん、と零れ出る。
 乏しい月灯りの下輝くほど真っ白で夜目に眩しかった。
「お前、胸…でかく、なったよな」
 思わず洩れた声には感嘆が滲んだかもしれない。
「ああ。戦のときは布でおさえてたけどな」
 邪魔でしょうがねえよ、と無邪気に口を尖らせるハンガリー。
 嘲笑いたくなった。愚かな女。自分の持つ力をしらないのだ。
 すべらかに匂いたつ肌、丸みを帯びた美しいライン、男を狂わせる極上の質感。
 剣より火より恐るべき力を、お前は持っているというのに。
 無知とは罪だ。ハンガリー。無自覚のままどんどん美しくなるお前への、これは罰だ。

 まるい膨らみを両手で包みこみ、ゆっくりと揉む。
 昔触ったあの時よりさらにさらに柔らかくてため息が出た。
 薄紅の頂きに唇を寄せる。見せつけるように舌を伸ばして舐める。くちゅう、と卑猥な音をたてて吸う。
 その度にハンガリーの身体はぴくんと震えた。まるでいたいけな小動物だ。幼い頬を真っ赤に染め困ったように眉をひそめて必死に耐えている。無垢な肌をはい回る自分の舌がひどくけがわらしい蛇に思えた。
「な、なあ…やっぱなんか、変、…だよな?こんなの」
「なにが」
 わかんないけど、変だ。泣きそうな目で唇を震わせるのを、口づけで黙らせた。待ってろすぐに挿れてやるよ、と囁いて、下半身に手を伸ばす。
「…っ」
 薄い毛をかきわけ指を挿し入れるとすでに微かに濡れている。
 身体までもが素直なんだな、と昏い喜びがこみあげ唇が緩んだ。


 ゆっくりと指を出し入れすると絡みつくような感触と共にキツイ穴がじわじわほどけていく。
「…痛いか?」
「ううん…痛く、は……ぁあっ!?」
「…すげ。今、中ぎゅってなった…」
 粘質の水音が次第に高くなりはじめた。浅ましい期待で頭に血がのぼり、我知らず呼吸が荒くなる。
 昔。まだ俺が、国とも呼べない集団だった頃。
 すでに大国だったこの女に俺は何度も叫んだ。今にお前を凌ぐ国になってやると。お前は笑った。おう!楽しみにしてるよ。確かにお前ならやるかもな。でも負けねえぜ。
 きらきらと戦意にきらめく瞳であの日お前は高らかに笑った。陽に透ける髪が綺麗で胸が熱くなった。
 そんなお前が、誇り高い美しいお前が、今、俺に舐めまわされ、指を突っ込まれ好き放題いじくられて、身体を震わせている。
 なんという冒涜。こめかみのあたりが熱く燃えて、息が苦しい。苦しくて、さらなる罪を注ぎこむように、舌を絡める深い口づけを繰り返した。そうしながら慌ただしく下帯を解く。
「…いくぞ」
 くちゅんと濡れた性器同士が触れる。道具より禍々しく猛り狂うものに照準を定められ、ハンガリーの瞳に怯えがよぎる。
「…ちょっと、待って…や、やだ、やっぱ変だ。お前、なんか怖」
 逃げだそうとする腰を押さえつける。俺は微かに笑っていたかもしれない。
 可哀想に哀れなハンガリー。
 お前の花は散らされる。好きでもない男の――こんな、俺なんかの手で。こんな卑劣な、騙りのようなやり方で。
 爆発的な黒い歓喜に包まれながら、固い蕾を一気に押し開いた。
「痛――…ぅう、あああっ」
 めきめきと音をたて、引き裂かれた朱鷺色のそこから鮮血があふれた。流れ落ちてシーツを染める。
「や、だ…っやだ…!!!抜い…てっ」
「…我慢、しろ」
 逃げる身体をきつく抱き潰しゆっくりと腰を動かす。
 抜き挿しする俺の欲望にハンガリーの血と粘膜が絡み付いているのがよく見えた。
 ゾクゾクと嗜虐的な快感が背筋を駆け巡る。
 お前が悪いんだ。呆れるほど長い時間を共にしてきたのに。俺の卑劣さなど百も承知のくせに。こんな俺の言葉をあっさりと信用する底抜けの馬鹿め。己の愚かさを甘さを怨め。
繋がった部分から溶けてしまいそうな愉楽の中、ただ夢中で腰を動かす。
 ひと突きごとに総毛立つほどの快美感が生じ、ひと突きごとにハンガリーは泣き声に似たかすかな悲鳴をもらす。
「痛…痛…ぇ、よプ、ロイセン…っ」
 快楽に爛れた思考の隅で、涙で潤んだその目を美しいと思った。
 ハンガリーの白い細い両腕が、すがるように俺の首にまわされる。
 馬鹿な女め!騙されているというのに。何故だろう。苦しくて悲しくて酷く切なく胸が疼いた。けれど俺は腰を揺らし続ける。
 俺の中にたぎる醜いどす黒い欲望を、この女の中に注ぎこみ決定的に汚すまで。

 いつかハンガリーは、この夜の行為の意味を知るだろう。
 奪われたものの大きさを知り、怒り嘆き、けして俺を許しはすまい。

 けれどこんな唾棄すべき行為に俺を駆り立てた動機になどは、生涯気付きはしないだろう。
 青い空が果てしない平野が草の香りが陽の光が似合う眩い女。
 こんなやり方しかできない俺の卑劣など、きっと理解しない、できるはずがない。
 永遠に届かない、遠い遠い俺の憧れ。俺はお前が。

 ぼたぼた、と。
いつの間にか俺の両目から溢れた生ぬるい涙が、ハンガリーの白い腹にこぼれ落ちた。

 俺は、お前が大嫌いだ。




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