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4_720-745

 巫山之夢 


「たまにはうちで飲みませんか」

 思えば、全ては日本によるこの一言から始まった。

 日本からこのような提案があることは珍しい。
 その申し出を受けたとき、中国は一も二もなく賛成した。
 いろいろあったが、それはもはや過去の話。中国にとって日本はいつまでも可愛い弟のままである。その日本
からの誘いを断ろうはずがない。
 今回は兄弟水入らずで酌み交わしたいというのが日本の希望であったから、メンバーも気の置けない面子が集
まった。
 主催の日本。長兄の中国。それから韓国に、香港、そして紅一点の台湾。
 月の大きな、良い夜だった。


 まずは日本ご自慢の露天風呂で汗を流し、それぞれに用意された浴衣を着て、宴会は開始された。
 持ち寄った食材をぶち込んだ鍋を囲み、日本の用意した清酒などをちびりちびりとやりながら腹を満たす。兄
弟の会話は互いの近況からバカ話まで尽きることはない。
 ところで。
 日本の家の食卓は、畳の上に直接座って行うスタイルをとる。
 それがどういうことかというと――極めて乱れやすい。
 ことに酒が入るとマッハである。
 場がカオスに突入し出したのは、韓国が鍋の中に大量のキムチを投げ込んだ辺りからだった。
「阿呆あるかお前はーッ! 鍋真っ赤ある! 地獄のようある!」
「辛い方が美味いんだぜ! もっと入れたっていいんだぜ!」
「ま、まあ確かに美味しいですよね、キムチ鍋……ってちょw それ以上はwww」
「なんというカラー……ベリーレッドだな」
「このバ韓国! もうっ、せっかく日本さんが作ってくれたのが台無しじゃない!」
 あ…ありのまま 今 起こったことを話すぜ!『おれは水炊きを食っていたと思ったらいつのまにかキムチ鍋に
なっていた』な…なにを言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった 頭がどうにか
なりそうだった… 超スピードとか催眠術だとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ もっと恐ろしいものの
片鱗を味わったぜ…

 ――というような事態に陥って、これはもう酔わねばやってられんと全員が覚悟を決め、めいめいに秘蔵の酒瓶
を出した時点で既に兄弟が旧交を温め合う場はただのドンチャン騒ぎへと転がっていった。
「マッコリ(度数6〜8%)なんだぜ! 冷やして飲むのが美味いんだぜ!」
「桂花陳酒(度数17〜18%)よ! いい香りでしょ?」
「加飯酒(度数18〜19%)。あ、シュガーはノーで」
「泡盛(度数30%)です。10年ものの古酒ですよ」
「茅台酒(度数65%)ある! 我の酒が飲めねーとは言わせねぇあるよ!」
 そこからはもう、後で何があったか思い出そうとしてもよく思い出せないくらいのカオスっぷりだった。
 中国がふと気付いたとき、日本宅の茶の間には数十本の空き瓶が転がっていた。室内には凄まじいアルコール臭
が立ち籠め、中国と日本以外の三人が畳の上に倒れ伏している。
 韓国が中国の持参した白乾児の空き瓶を抱きしめ、口の端から滝のように盛大によだれを垂れ流しつつ、既に夢
の中だった。
「ホルホルホル……兄貴の兄貴は俺なんだぜー……だからおっぱい揉ませるんだぜー……うりならまんちぇー……」
 実に幸せそうな面である。
 香港は縁側に頭をはみ出させた格好で、両手両足を棒のように綺麗に揃えて倒れていた。
 両目はガン開きだったが、近づいてみると、微かではあるが寝息が聞こえる。
 めちゃくちゃ怖い。
 今のうちにその太い眉毛を剃り落としてやろうかと考えたが、なんだか呪われそうなのでやめておいた。
 台湾はというと、ちゃっかり日本の膝を占領し、ネコのように丸くなって眠っている。ご満悦な寝顔だった。
 そして、その日本が一番カオスだ。
 何故か頭にネクタイを巻き、全開にした前身頃からは不細工な顔を落書きされた腹部が覗いている。そんな有様
でありながら、昭和の頑固親父風にどっかと胡座をかき、真顔で酒杯を傾けているのだから、ものすごく不気味だ
った。
 かく言う中国もいつの間にやらツインテールになっている。
 何だこれ。何がどうなってこんな惨状に?
 酒って怖い。
「酒は飲んでも飲まれるな……とはよく言ったものですね」
「おまえ、それそんな格好で言っても全然説得力ねえあるからな」
「中国さん。ツインテール、よくお似合いです」
「小指の甘皮ほども嬉しくねえある」
「ツンデレですか。さすが、基本を押さえていますね」
「デレてねーある。人の話聞けある」
「ツインテ×ツンデレ×チャイナっ子=萌え∞」
「いやそんな公式出されても」
「しかもその童顔。こんな可愛い子が女の子なわけないですよね。わかります。更に4000歳とかいうブッ飛ん
だ年齢設定で倍率ドン。はら○いらさんに3000点ですよ。やりますね。これはもうオタプロ(プロ級のオタク
の意)の私としても中国たんギザ萌エス! と言わざるを得ません」
「言うなある。萌えんなある。おまえもしかしてもの凄く酔っぱらってるあるね?」
「まさか。日本男児たるもの、ポリゴンに酔っても酒ごときに酔うなどあり得ませんよ」
「いーや、おまえは酔ってるある! しかもかなり質の悪ぃ酔い方ある! こらっ、その酒こっち寄越すよろし!」
「嫌ぁ〜でぇ〜す」
「あああその言い方ムカつくあるぅぅぅ!」
 中国はツインテを力任せに解きながら酒杯を取り上げようと掴みかかるが、ぐにゃぐにゃと軟体生物のように動
く日本を捕らえられない。
「フフフ……酔えば酔うほどに強くなる……」
「それ我んとこのある!」
「ああもうッ! うるッさあーい!」
 二人のアホな鬼ごっこを止めたのは、突如起き上がった台湾の雷鳴のごとき怒声だった。
「バカ兄!」
「な……なんあるか」
「あんたねぇ」
 中国をねめつける台湾の目は据わっている。
 というか、ヤバい感じで酒が回っている。
 要するに、こいつも酔っぱらっていた。
「さっきから聞いてれば! 日本さんの言うことにイチイチイチイチイチイチイチイチ……反論してんじゃねーわ
よバカ兄のくせに!」
 ものすごく暴言だった。

「日本さんの言うことは全〜部真実なの! 正義なの! あんたは黙ってうんうん頷いてりゃいいのよこのクソジ
ジイ!」
「クソ――!? だだ誰がジジイあるか小娘! このラブリー☆ベイビィフェイスが目に入んねぇあるかああ!」
「いや、さすがに4000歳はジジイでしょう」
「お前なにいきなり正気に戻ってるある日本んん!」
「いえ、あまりと言えばあまりな事実誤認が聞こえましたもので」
 衝撃のあまり、八つ橋を忘れる日本。
 そんな日本に中国が矛先を向けている隙を突いて、台湾が飛びかかった。
「あだだだだッ!」
 中国のおさげを鷲掴み、手加減なしで引っ張る。
「痛ぇ! 痛ぇあるマジでマジで! ハゲちまうあるーっ!」
「むしろハゲろ」
「非道ある!」
「だいたいアンタ、こんなズルズル髪伸ばしてるから連合の紅一点とか言われちゃうのよ! 切れ! むしろ抜け
ろ!」
「あいやぁーッ!」
 で、この変でさすがに日本の制止が入った。
「台湾さん、長髪は中国さんのトレードマークなんで、抜くのは勘弁してあげてください。それないとキャラが立
たないので」
「はーい☆ 日本さんが言うならやめまーす☆」
「なんあるかその対応の違いは……。っていうか日本も何気に酷いこと言ってる気がするある……」
「(無視して)――と、韓国さんも香港さんもとっくにダウンなさっているようなので、今夜はもうお開きにしま
すか」
「えー!? 嫌です嫌ですもっと飲みたいですぅー!」
「台湾さんの布団は奥の間に用意してますから。中国さん、お願いしますね」
「ゲ! わ、我がこいつ運ぶあるかぁ!?」
「あなたお兄ちゃんでしょうが。上手くなだめて寝かしつけてくださいよ。……さて、こっちのお二人は……あー
なんかもう運ぶの大変そうですし、ここでいいですか。いいですね。毛布をかけてあげれば平気でしょう」
 勝手に一人でそう纏めて、日本は毛布を取りに部屋を出る。


 残された中国は文句のやり場もなくし、溜息ひとつであきらめると、まだ騒いでいる台湾を引き摺って奥の間を
目指した。
 酒気で火照った頬に、夜風が心地よかった。


 ――奥の間。
 六畳ほどの広さの室内には、日本が台湾のために用意した布団が一組だけ敷かれている。
「はぁーなぁーせぇーあるー!」
「嫌! 嫌! 誰がアンタの言うことなんか聞いてやるもんかぁー!」
 黒髪の兄妹は、ここでもドタバタ騒ぎを繰り広げていた。
 四つんばいになりながらも部屋から這い出ようとする中国の腰に台湾がしがみつき、その退出を阻止している。
 そうやって転がりながら暴れているものだから、せっかく日本が整えてくれていた布団はぐちゃぐちゃに乱れて
いた。
「どうせ戻ったら日本さんと二人で飲み直すつもりでしょ! そーはさせないわよ!」
「飲まねぇある。あとはもう寝るだけあるよ……勘弁するよろし。我はなんかもう疲れたある……」
「寝る……日本さんと……同衾ですって!?」
「言ってねぇある!」
 酔っぱらい絶賛続行中の台湾は先ほどから終始この調子で全く会話が成立しない。
 中国は閉口して突っ伏した。
「こいつがこんな酒癖悪ぃなんて初めて知ったある……。いったい誰に似たあるか」
「あぁんですってぇぇ?」
「酒臭ぇある! あーもうおまえ、二度と酒なんか飲むんじゃねぇあるよ。まったく……いつまで経ってもガキあ
るな」
 最後の単語に、台湾はあからさまに反応した。
「ガキって言うな! バカ兄!」
 吠えて、中国の耳に噛みつく。
「いってぇぇぇ! 何するあるかっ! そういうところがガキだと言ってるある!」
「ガキじゃない! ガーキーじゃーなーいー!」
 台湾は駄々っ子のように喚きつつ、中国の体を強引にひっくり返した。
 そしてその上にのしかかる。
 マウントポジションである。
「私はもう子供じゃないッ!」
 乱暴に右腕を掴まれて、中国は反射的に目を瞑った。
 暗闇の中で、飛んでくるはずの妹の拳を予測した。
 ――が。
 ぺちょーん

 ……という柔ら温かい感触が右掌にあるだけで、一向に衝撃は襲ってこない。
 恐る恐る目を開けてみると、
「な、な、な、な――」
 そこには、掴み取った中国の右手に自らの胸を押しつけている台湾の姿があった。
「なにやってるあるかおまえはあああ!!」
「どーよこの膨らみ。これで私が立派なオトナだってわかったでしょ?」
「阿呆あるかおまえはッ! そういうことを軽々しくやるところがガキそのものある!」
「ま、またガキって言ったあ! なによ、触っただけじゃわかんないってんなら見せてやろーじゃねーのよホラ
ぁ!」

 ぽろーん

 ガバリと広げた浴衣からまろび出る、白い双球。
「〜〜ッ! っっとに阿呆の極みあるなおまえは! 大人の女だったら男の前でンな真似しねぇあるよ!」
「男じゃないもーん。バカ兄だもーん」
「兄だろうが弟だろうが男は男ある! ああもう仕舞え! 早く仕舞うよろし!」
「……ははーん」
 広げた前身頃から裸体の上半身を露出させたまま、台湾は意地悪げに笑った。
「あんた、興奮してんのね?」
「……はぁア!?」
 突然の台湾の台詞は、中国にとってまさに青天の霹靂だった。思わず間抜けな声が出てしまうほどに。
 そんな中国の様子をどう受け取ったものやら、台湾は一人で納得している。
「そっかぁ。妹の胸見て欲情しちゃったんだぁ。さっすがバカ兄、ド・変・態」
 によによ笑いながら、完全見下しモードの台湾。
 中国は、肺腑の中身を全て絞り出すように、長い長い溜息を吐いた。
「……あのな、台湾」
「なによ」
「兄は心底呆れているある」
「な……っ、なんでよ!?」
 中国は押さえつけられていた上体を腹筋の力で起こすと、台湾の目を真っ直ぐに見据えた。
「ウクライナを特盛、ハンガリーを大盛と定義するなら、おまえはまあ、身内のよしみで大負けに負けても茶碗
に軽く一杯ってなもんある。んな貧相な乳で欲情すんのは日本みてぇなマニアくらいのもんあるから、自惚れん
のは大概にするよろし」
 とっても冷ややかな声音だった。
 その声は巨大な氷柱となって台湾の胸に突き刺さる。乙女のプライドは粉々である。
「じゃ、我は行くある。おまえもとっとと寝て、酔いを醒ますよろしよ」
 そう言って、中国は力をなくした台湾の下から這い出ようとした。
 それを、
「――待ちなさいよ」
 台湾の剣呑な声が引き留める。
 細い肩とふたつの膨らみを丸出しにした、あられもないその姿。暴れすぎて乱れた黒髪が一筋頬に貼りつき、
白い太腿も悩ましげに露出している。
 そんな扇情的な格好の女を目の当たりにしてなお、動じていないどころか冷え冷えとした視線さえ向ける兄――
いや、男――に、台湾は呪詛のような言葉を吐いた。
「あんた、本当は童貞なんじゃないのぅ?」
 ピシリ。
 と、いう音がした。幻聴かもしれないが、中国は確かに聴いた。己の頭の中から。
「……なん……あるって?」
 思わず重低音が出る。
 なんか、いま、とんでもなく失礼なことを言われたような――
「童貞なんでしょ、って言ったのよ。ああら、なに、図星ぃ?」
 中国の目の奥で、火花が散った。
 台湾は気付かず呪詛を吐き続ける。
「私に欲情できないんじゃなくて、怖いんでしょ、この童貞野郎っ。あーあ、4000年も生きててドーテーって
マジキモイ。てゆーか未経験のまま枯れてるんじゃないのぅ? ヤダヤダ、童貞な上にインポとか、ほんと救いよ
うがないわねー」
 中国の影が、ゆらり、と台湾に迫る。
 それでも彼女の舌は止まらない。
「だいたいアンタってば女みたいな顔してるしぃ。もしかしてタマついてないんじゃないのー? 童貞、インポ、
タマなし。あっは、すっごい! 三冠王じゃ――」
 凄い力で剥き出しの肩を掴まれて、台湾は語句を呑んだ。
 物騒な色に染まった中国の顔が、目の前およそ数センチの位置まで迫っていた。
「……おまえ、この我を、中華を、女も知らぬ性的不能者と呼んだあるか?」
 口調こそ変わっていなかったが、語調は明らかに物々しくなっていた。
 台湾は、こんな中国を知らないわけではない。いや、むしろ昔はいつも「こう」だった。永く大陸を支配し、ア
ジアの文化を牽引し続けてきた、世界の中心の華やかなる王者の顔だ。
 蛇のように冷酷で、虎のように残忍な、獅子のごとき偉容。
「……なによ」
 けれども台湾は、その絶対的な威圧感に向かい、健気に牙を剥いて見せた。
「違うっていうなら、私を襲ってみなさいよ! できるものならね!」
「――言ったあるな」
 低い響きの直後、中国のしなやかな右手が台湾の乳房を無造作に鷲掴んだ。
「いいある。お望み通りにしてやるあるから、偉大な兄の手でヨガリ狂うよろし」


 中国の性技は恐ろしいほどに巧みだった。
 女体の扱い方はひどくぞんざいだし、心持ち面倒くさそうにも思えるのに、その掌の動きも指の使い方も全てが
的確に快感を高めてくる。
「……ン……あ、は……やぁ……」
 台湾は、既に声を抑えきれなくなっていた。
 中国の膝の間に座らされ、後ろから抱え込むようにして両の乳房を弄ばれていた。
 浴衣はもはや用を果たしておらず、ほっそりとした腹も、滑らかな脚も、純白の下着まであらゆるところが晒さ
れていたが、それを隠す余力も台湾にはなかった。
 控えめながら張りのある柔らかさを持った乳房を揉まれ、こねられ、愛らしく色付いた乳首をくりくりと弄られ
て、台湾は思わず可愛らしい悲鳴を上げた。
「ちょ……っ、ぅあっ、あっ、も……いた、痛いって……!」
「こんなに乳首ビンビンに尖らせといてなに言ってるある。おまえがちょっと痛いくらいのが感じるマゾ娘だっつー
ことくらい、こっちにゃとっくにバレてるんあるよ。――ほら、こんくらいがイイあるな?」
「あぁンッ!」
「好! いい声が出たあるな。よしよし」
「あっ……も……っ、擦っちゃ……だめぇ……っ」

 意地悪く強めに抓られるのも、優しい声音と共にすりすりと擦られるのも、どっちも気持ちよくて仕方がない。
 中国は、その少女めいた外見からは想像もできないほど女の性を刺激する術に長けていた。本人すら知らなかっ
た性感帯を次々に暴かれ、台湾は快楽の海で溺れるように困惑する。
 自身がとてつもない淫乱女になってしまったかのような錯覚。
 未だ幼げな乳房は中国が掌を動かすたびにくにゃくにゃと形を変え、穢れを知らぬピンク色だった乳首も赤く充
血して、信じられないくらい固く尖ってしまっている。
 そして何よりも。そうやって胸を弄られているだけでどうしようもなく疼いてしまう下腹部の変化に、台湾は涙
を滲ませた。
「――ここが」
 不意に、中国が台湾の腹に手を添えた。
「疼いているあるな?」
 耳の穴に吐息が吹きかけられる。
 腹に置かれた掌が奇妙なほど熱く感じられて、台湾の背にぞくぞくと何かが走った。
「ち、ちが……っ、そ……んなこと……ッ、ないッ」
「そうあるかぁ? 我には、おまえのここが疼いて疼いて仕方ねえように見えるあるよ?」
「バッ……カじゃ、ない、の……っ! そんな……こと、あるわけ……あッ、はぁ……うんっ……」
 中国は、ただ腹に手を乗せているだけだった。
 撫でてはいない。動かしてもいない。ただ乗せているだけ。
 それだけなのに、台湾のそこは耐え難いほどの快感を示している。
「……や……っ、ちが、違う……ッ」
「何が違うあるか。おかしな娘あるね」
「あ、んた……なんか……へ、変な術とか……ぁっ、かけた、でしょ……っ」
「失礼あるな。おまえみたいな小娘にそんな小細工する必要ねぇあるよ」
「嘘……っ、うそ、嘘よ……っ。じゃ、なんで……こんな……は、あ……っ、嘘ぉ……っ、違うっ、ちが……気持
ち良くなんか……ぁッ、は、あ……っ」
 気が付けば、台湾はむずがるように肢体をくねらせ、腹に置かれた中国の掌に自らをぐりぐりと押しつけていた。
 そんな自分の姿は、中国の目にどれだけ浅ましく映るだろう。
 やめなければと思うのだが、やめられない。体が独りでに動く。腹の奥がぞくぞくと疼く。
「よしよし、大丈夫あるよ」
「やっ! は……あッ! いきな……撫でないでよォ……っ!」
 中国が、ただ添えているだけだった掌を、円を描くように動かし始めた。
「変な声出してんじゃねぇある。我はただ腹を撫でてやってるだけあるよ」
「やあ……っ、だって、だってぇ……!」
「昔はよく腹痛起こしたおまえをこうやってあやしたもんある。覚えてるあるか?」
「そ、んなの……っ、覚えて、な……ッ」
「はーあ……兄の心妹知らず……あるな。我もどうせならスイスんとこみてぇな可愛い妹が欲しかったあるよ」
 わざとらしく肩を落とす、中国。
 その言葉が、台湾の胸にチクリと小さな痛みをもたらした。
「ど、どうせ私は……可愛くないわよ……ッ」
「――おまえ、もしかして拗ねてるあるか?」
 撫で回していた手をピタリと止めて、中国は台湾の顔を覗き込んだ。
 急いで目を逸らそうとするが、一瞬遅れる。紅潮しきった頬や潤んだ瞳は隠しようもなかった。
「真可愛!!」
「きゃ……っ!?」
 急に抱き締められ、頬ずりまでされて、台湾は短い悲鳴を上げた。
「前言撤回ある! やっぱりうちの子が一等可愛いあるよ〜!」
「な……っ、ちょ……! あ、あんたもしかして酔ってんの!?」
「んー? あはは、そうあるなぁ。久しぶりに酔ってんのかもしんねぇあるなぁ。そうでなきゃ――」
「ぁひッ!? ひぁあン!!」
 中国はいきなり台湾のショーツに手をかけると、それを勢いよく引き上げた。
 急激に引っ張られたシルクが陰裂に食い込み、その鋭い快感に台湾は高い声で鳴く。
「――そうでなきゃ、妹相手にこーんなことはできねぇある。……っておまえ、ビショビショじゃねぇあるか」
「ぁ……っ、……ん……、っひ……ぁ」
 じっとりと濡れた下着を指摘されるが、先程の余韻に震える台湾には答えることができない。
 下肢は次々と溢れ出る淫水に濡れ、白い下着からは紅く色付いて雄を誘う石榴のような割れ目が透けて見えてし
まっていた。
「イきてぇあるか?」
 不意に、静かな声音がうち震える少女に問いかけた。
 見上げると、少女の兄は穏やかな美しい微笑を湛えていた。
「イかせてほしいなら、我がその気になれるよう、ちゃんと頼むよろし。そしたら見たこともねぇ高みに連れて行
ってやるあるよ」


 それは、かつて彼が偉大な兄で、彼女がいとけない妹であった頃、巫山の頂から臨む長江の流れを見せてくれた
ときのような、そんな優しい提案だった。
 同時にひどく淫らな悪魔の誘惑であることを理解しながら、台湾は即座に、まるで無邪気に頷いてしまいそうに
なる。
 そしてそれ以上に、体がその高みを欲していた。
 子宮が疼く。
 膣壁がわななく。
 想像するだけでまた新たな愛液が零れる。
 台湾は哀願するように潤みきった目を向け、カラカラに乾いている口を小さく開いた。
「……っ、誰が……っ」
 薄く水の張った赤い目を、いま精一杯の虚勢で鋭くする。
「誰がアンタなんかにイかされるもんか……っ! バッカじゃないの! やれるもんならやってみなさいよ!!」
「――は、哈哈哈哈哈ッ!!」
 その答えは、一言一句違わず予測されていたのだろう。中国は実に愉快だと言わんばかりに大口を開けて笑う。
「好! それでこそ台湾ある! そんじゃ、そのバカの手でイかされねぇよう、せいぜいしっかりと耐えるよろし
よ!」
 言って、中国は情緒もへったくれもなく乱暴にショーツをはぎ取った。
「……っ」
 ぐしょぐしょに濡れた下着が脚から引き抜かれる感触に、台湾は目を固く瞑ることで耐えた。
 正直なところを言うと、台湾は既にいろいろと限界だった。
 上半身への愛撫だけですっかり出来上がってしまった秘部が外気に触れる。
 女にとって一番大切なところ。
 本来であれば、特別な相手にしか許されないところ。
 ぐずぐずに溶けてはっきりと発情してしまっているそこを、今まで反発し続けてきた兄に見られている――それ
を考えるだけでまた新たな快感を覚えてしまう自分を、台湾はただただ恥じた。
 中国の方はというと、別段なんの感慨も抱かぬような目で、餃子の蒸し具合でも確かめるときのように不躾に覗
き込んでいた。
 無遠慮な指をそこに宛がい、なんの躊躇もムードもなく、くぱっ、と開く。
「やっ! ちょ、あにすんのよ!」
「うーん……あんまり使い込んでねぇあるなぁ。新鮮なのが喜ばれるのは初回だけある。もっともっと使い込んで
技を磨くよろし。そうすりゃ飽きられずに済むあるよ」

「よ、余計なお世話……ッ、んんッ、あぃ……や……っ!」
「哈哈。感度だけは、ま、合格点あるな」
 四本の指の腹で包み込むように恥丘を揉まれ、台湾は憎まれ口を閉ざされた。
 中国は敏感な内襞にも陰核にもほとんど触れず、マッサージをするように股間全体を覆う手をやわやわと動かし
た。
 その緩やかな刺激が固くなっていた台湾には心地良い快感となり、熱い吐息を漏らさせる。
「……っ、は……、な、んで……ぁっ、あっ」
「おまえら若造とは生きた年数も違えば抱いた女の数だって違ぇあるよ。おまえみてぇな気の強い女だって初めて
じゃねぇある。――ああ、気が強いと言えば」
 中国は懐かしげに笑った。
「思い出すあるな。……1300年くらい前に、女の上司がいたあるよ。残酷で嫉妬深く、なによりかなりの好き
者だった。我を啼かせたのはあの女が最初で最後だったあるなぁ。ま、おまえにあれほどまでになられたら困るあ
るが」
「……っ、ほ……か、の……っ」
「ん?」
「他の……ッ、んっ、女の話……するなん、て……ぁっ、マナー違反、よ……!」
「あいやー。おまえ、いっちょまえに妬いてるあるか?」
「な……誰が……ッ!」
「対不起。そうあるな。今はおまえに集中してやるある」
「は、あッ! んんッ! ひああっ!」
 左の乳首を再び責められ、台湾は大きく仰け反った。
 弓なりになった白い首筋にそっと唇を落とされ、それが思いの外柔らかかったので、また新しい嬌声を上げる羽
目になる。
 耳の裏側から、背骨にかけて。なぞるように下っていく唇の感触は決して吸い付くなどの強い刺激は与えてこな
い。そのもどかしさが切なくて、台湾は吐息を零した。乱暴に吸って、痕をつけて欲しいとさえ思った。
「あ……う、ぁ、んふッ、く……ぅう……っ」
 ちゅぶ……。
 中国の細い中指が、ゆっくりと膣口へ潜り込む。
 けれど、中に挿入だけはしなかった。
 入り口付近でにゅくにゅくと浅く抽送するだけだ。とろとろの愛液をまぶすように、くちゅくちゅ、つぷつぷ、
浅い部分で指が踊る。

 それだけで、台湾は頭が狂うかと思うほど気持ち良かった。これ以上深く挿れられたらどうなるだろうと、浅ま
しい期待に浮き立つ腰を抑えることで必死だった。
「んふぅ……っ、ぅあっ、や、あ……っ、んッ、んんッ!」
 本格的な抽送を求めて、膣内が勝手にひくつく。僅かだけ潜った中国の中指をどうにか捕まえようと、襞のひと
つひとつがまるで吸盤のように蠢く。
 それでも中国は、それ以上の挿入を拒んだ。
 翻弄されるだけの自分が悔しかった。
 認めたくはないが、中国は相当上手い。かなり手慣れている。場数が違うと嘯く彼の言葉も、決して冗談などで
はないだろう。
 昔、中国が胡弓を弾く様をよく見ていた。
 いま、その胡弓は自分だ。台湾は思う。
 乳首を弾かれては啼き、膣口を擦られては高い声を上げる。
 彼は極上の奏者で、彼女は楽器。
 そして、曲はクライマックスを迎えつつあった。

「――もうそろそろ、あるか?」
「ぁ……あッ、んッ、まだ……っ、まだよ……ッ!」
「んなこと言ってもおまえ、もう限界っぽいあるよ?」
「そ、なことッ……な……っ! あ、あン! ぁはあッ!」
 中国の手は、台湾の愛液で余すところなくねっとりと汚れていた。
 紅く色付いて花びらのように開いた台湾の性器はぬらぬらと妖しく艶めきながら、爪先だけ挿れられた中国の中
指にきゅうきゅうと吸い付いている。
 吐く息は悩ましく、熱い。
 どこからどう見ても限界だった。
「おまえは本っっっ当〜に意地っ張りあるなあ」
 中国は苦笑した。
 口調こそ呆れたと言わんばかりのものだったが、目は悪戯を仕掛ける子供のように笑っていた。
 彼にはまだまだ披露していない性技が山ほどあって、台湾をここまで導いたものなどほんの序の口でしかない。
中国にとってすれば経験の少ない小娘一人をイかせることなど5秒もあれば事足りた。それをここまで時間をかけ
てやったのは、必死になって快楽に抗う台湾の健気さが微笑ましかったからに他ならない。
 でも、意地悪はそろそろ終わりにして、最後の場所までちゃんと送り届けてやろう。

 中国は、男としての欲望からではなく、兄としての慈愛でそう思った。
 濡れそぼった台湾の襞の上部に、一度も触れられていないはずの肉芽が、押されることを待つスイッチのように
固く勃ち上がっていた。
「台湾」
 赤く染まって熱を持った耳朶に唇を寄せる。
 それだけの刺激でさえ、限界の近い今の台湾には耐え難いほどの快感を伴う。
「おまえはきっと、いい女になる。この兄が保証してやるあるよ」
 その言葉に、台湾は伏せていた瞳を上げた。
 雌の欲望に支配されていたはずの瞳は、その一瞬だけ、兄に褒められて無邪気に喜ぶ幼い妹のように輝いた。
 きゅ。
 軽く、中国の親指が肉芽を押し込む。
 台湾は、跳ねた。
「ッああ! あああああーーーーッ!!」
 高く高く嘶くように啼いて、台湾は果てを視た。
 ぷちゅっ、と淫液を噴き、ビク、ビク、と規則的に痙攣する。
 第一関節までしか挿入っていなかった中国の指を搾るように食い締め、絶頂の余韻に声にならない声を漏らしな
がら、台湾の体はやがてぐったりと弛緩した。
「……っは、……あー……あー……っ」
 桜桃の唇から、途切れ途切れに荒い息が吐き出される。
 その眦に浮かぶ涙の玉を見つめながら、中国は――

 ――モーレツに後悔していた。

(わ、我は……っ、酔っていたとはいえ我はなんてことをしちまったあるかぁーッ!!)
 頭を掻きむしりながら転がり回りたい気分だった。
 が、くたりと力をなくして身を預けてくる台湾が腕の中にいる限り、それも叶わない。


 長い永い時の流れを渡ってきた中国だから、酔った勢いで女と関係を持ったことも一度や二度ではなかった。そ
れでも、その相手が妹となれば話は別だ。全然別だ。
 音速で押し寄せる後悔の波に頭の中身を浚われそうになりながら、中国はやがてひとつの結論に至る。
(――そう。これは兄妹のコミュニケーションある!)
 かなりの無茶ぶりであった。
(欧米では家族で挨拶代わりにキスしたりするある! ちょーっと触ってイかせてやるくらい、全然スキンシップ
の範疇あるよ! ギリギリでOKのはずあるよー!)
 OKのわけがない。
(無問題……無問題……っ)
 念仏のようにつぶやいて無理やり自分を納得させると、中国はそっと台湾から体を離した。
 薄紅色に上気して玉の汗を浮かべる台湾の肌が、白い敷き布団の上に横たえられる。
 浴衣は腰の部分にギリギリ帯で引っかかっているだけという有様で、まろび出た形の良い乳房では紅い乳頭が完
全に勃起していたし、だらしなく開いた足の間は小便でも粗相したかのようにぐしょ濡れだった。
 眉根をキュッと寄せ、収まらない余韻にふるふると震える睫毛がいじらしくも悩ましい。
 こんな姿を目の前にすれば、どんな男だって獣欲を駆り立てられるに違いなかった。
 けれど、中国は、「男」である前に「兄」だった。
 無防備に艶姿を晒す台湾をどれだけ愛しいと思っても、それは女としてではない。妹としてだ。
 だから彼は、乱れた浴衣を着せ直してやっても、その魅力的な肢体を布団の中に隠してしまっても、全く惜しい
とは思わなかった。
 むしろ、この娘をそんな目で見る奴は残らず滅びてしまえばいいとすら思った。――自分がやったことはとりあ
えず棚上げにして。
 台湾は薄目を開けた。ぼんやりとした視界の中に、バツ悪げに頬を掻く中国の姿を捉える。
「あー……あのな」
 少し考えて、中国は口を開いた。
「もう、おまえ、酒飲むのやめるよろし」
「……」
 台湾は答えない。虚ろな目で中国を見上げている。
 中国は構わず続けた。
「他の男の前であんな挑発したら、こんなもんじゃ済まねぇあるよ。今回のことは……あれだ、教訓とでも思って、
肝に銘じとくよろし。わかったあるな? わかったなら、我はもう行くあるよ」
 一方的に捲し立てるように言い終えると、中国は腰を上げた。

 唐突に日本のことが思い出された。
 そう、ここは日本の家なのだ。寝かしつけるだけにしては遅すぎると奇妙に思われて様子見に来られでもしたら
どうする。こんな場面を見られたら。
 ――最悪だ。言い逃れもできない。近親相姦野郎のレッテルを貼られたって言い訳不可能だ。
 中国は、すっかり酒気の抜けた頭でおおいに焦った。
 とにかく一秒でも早くこの部屋を出なければならない。
 立ち上がる。
 障子戸に向かう。

 その脚に、台湾が思いっきり全体重をかけて飛びついた。

 ズベシャアッ!!
 ――というオノマトペが室内に響いた。中国が顔面から畳にコンニチワした音だった。
 いきなり両足を封じられたら、誰だってこうなる。
 この場に日本がいたなら、彼は厳粛な面持ちで片手を挙げ、こう宣言しただろう。
 諸手刈り、一本。
「……お……っ、おまっ……おまえは〜……」
 鼻っ柱で畳とキスしたまま、中国は小刻みに震えた。
「おまえは何さらすあるかッ! このアンポン娘!!」
「……ずるい。アンタだけ、ずるい」
「な、なにがあるか……。いいから放すよろし。動けねぇある」
「駄目。放したらアンタ逃げるもん」
「う……それは、まあ……ていうか何がずるいあるか。ハッキリ言うよろし」
 そしてとにかく放せ――と続けようとした中国だが、その言葉は封じられることになる。
 台湾の手が、むんずと遠慮なく中国の股間を掴んだ。
「!?☆@■△¥&$Σ( ゚ Д゚)ああああいやぁーーーッ!!?」
 中国は叫んだ。
 臆面もなく叫んだ。
 しかし台湾は動じた様子もなく、むしろ大声を出されたことこそが不愉快だとでも言いたげに少しだけ眉根を
寄せ、兄の股間をさわさわとまさぐり続けている。

「あいやーッ! あいやぁあ〜っ!!」
「もう、うるさいな。なんなのよ」
「なんなのよって、おまえがなんなのよある! 何してるあるかぁーッ!」
「見りゃわかるでしょ。チ○コ触ってんのよ」
「ああいやぁあーッ! 嫁入り前の娘がンな言葉使っちゃ駄目ある!」
「うるさいなぁ……だいたい、アンタはずるいのよ。ヒトのイクとこ見たんだから、アンタがイクのも見せなさい
よ」
「なに無駄に対抗心燃やしてるある!? 正気に戻るよろし!」
 中国の叫びはもはや悲鳴に近かったが、台湾はまるでお構いなしだった。暴れる中国の下半身を腰からガッチリ
と押さえ込み、浴衣を剥ぎにかかる。
 普段の服装であったなら、中国の抵抗も意味を持っただろう。しかしいま着用しているものは日本の民族衣装、
浴衣だった。前開きの布を帯で留めているだけのものなので、簡単にひん剥かれてしまう。むしろ暴れれば暴れる
ほどに乱れる。
「なにコレ。パンダ柄のトランクス? ダッサ」
「わ、我のパンダちゃんを悪く言うことは許さな――ってほぎゃああああああ!! それ脱がしちゃ駄目あるそれ
は最後の防衛戦ある堪忍して救命呀ああああああ!!」
「だが断る」
「あいやあああああああッ!!」
 パンダ戦線、突破。
 局部が冷たい空気に晒される感覚に、中国は悲鳴を呑んだ。
 兄として、男として、大事なナニカを破壊された気がする。なんかもういろいろと。
 真っ白な灰と化している兄を無視して裸の股間を覗き込んだ台湾は、柳眉を吊り上げた。
「あ”ーん?」
 ヤのつく自由業の人みたいな声だった。
「なんで勃ってねーのよ!?」
「なんでと言われても……」
「ヒトのこと散々弄くっといて、挙句イクとこまでバッチリ目撃しといて、チ○コのひとつもおっ勃てないたぁど
ーゆーこと!?」
 そりゃあもう、女としては面白くなかろう。
「あんたもしかして、本当にインポ……」
「違うある! 断じて、中華の名にかけて、それだけは違うある!」

「じゃあどうしてよ! 普通こんなときはビンビンに勃起させとくのが男の礼儀ってもんでしょーが!」
「なんあるかそれは……」
 中国は、仙人である。
 当然、房中術は習得済みだった。いや、むしろ房術こそが神仙の神髄とさえ言ってもいい。
 房術は性交によって体内に流れる気を操作する技術である。
 中国ほどの達人ともなると、勃起ひとつも自在にコントロールすることが可能だった。
 というかぶっちゃけた話、そんな無節操におっ勃てていられるほど彼はいいかげん若くない。
 だから、挿入時以外は勃起しないのが中国の常であった。
 けれどこれを言ってしまえばまた台湾が妙な対抗心を燃やしてしまうのではないか……そう危惧した中国は、
こう言い訳することにした。
「我は妹を相手に欲情できるような変態じゃねぇある」
 至極もっともである。
 もっともではあるが、今の台湾は当然を当然と納得できるほどに冷静ではなかった。
「てめー、じゃあ何か! 兄貴相手に濡らした私はとんだ変態淫乱女だって言いてぇわけかーッ!!」
「言ってねぇあるぅぅぅ!!」
 ガッシ!
 台湾の柔らかく細い右手が男根を掴む。
 そりゃあもう全然遠慮なく。
「あいやぁ! そこはデリケートなとこあるよー! もっと丁寧に扱うよろし! いやむしろ扱うな! 放すよろ
しよーッ!」
「昔の人は言いました。“勃たぬなら 勃たせてみしょう ホトトギス”」
「言ってねぇしホトトギス関係ねぇしああもうどっからツッコめばいいあるか!?」
「ツッコまなくていいから素直にエヤクラチオンすりゃあいいのよ。んっ、しょ……、えいっ、このっ」
 台湾は掴んだ右手を上下に動かし始める。
 その刺激で一応は勃起するものの、ただの条件反射なので、快楽を感じたわけではない。
 なにより台湾はただヤケクソのように上下に擦っているだけで、そこに技術と呼べるものは少しもなかった。
「……おめー、へったくそあるなぁ」
 思わず素に戻って本音をポロリしてしまう中国。
「あんだとテメー! ヒトが一生懸命やってんのに!」
「下手クソだから下手クソだと言ったあるよ。なんあるかソレ。手コキのつもりあるか。新入りの宮女だってもう
ちっとはマシある」
「う、うるさいわねー! えいっ、えいっ、このぉ……っ、早くっ、イキなさいよっ」
 技術も何もない稚拙きわまる手淫が再開され、中国は思わず天井に向かって溜息を吐いた。この調子ではいつま
で経っても解放されそうにないな……とちょっと遠い目になる。
「くそっ、このっ、なんでよぉ! 日本さんちのエッチな漫画ではすぐに射精してたのに!」
「なんつーもんを輸入してるあるか……ああもう、いいかげん諦めるよろし。おまえじゃどんだけやっても我を満
足させることはできねぇあるよ」
「くっ……! む、ムカつくぅ……!」
 ズバリ言われた一言に歯を剥いた台湾は、中国の陰茎を握ったまま、自分の腰を浮かせた。
 何をするつもりかと見ていると、そのまま腰を前に突き出し、握ったモノを己の脚の間へと――
「ぎ、ぎ、ぎゃああああああッ!! 何するある何してるあるソレはソレだけはやめるよろしーーーッ!!」
「うるさい! 暴れんな! ――んっ、ぐ……ッ、く……う!」
 一番敏感な部分に、熱が触れた。
 かと思った次の瞬間には、熱は先端部を呑み込んでいた。
 先程までの愛撫によってすっかり出来上がっていた台湾の女陰は、むしろ嬉しそうに与えられたモノを包んでいく。
 ――それでも、狭かった。
 異常を感じるくらい狭かった。
 蕩けきって涎を垂らしているくせに侵入者を拒む狭さを持ったそこは、それでも台湾自身の体重で肉の棒を咥え
込み、少しずつではあるが結合を深めていく。
 中程まで行って、中国はふと違和感を覚えた。
「……ち、ちょっと待つよろし。おまえ、まさか――」
「うる……さい……っ、黙ってろぉ……ッ!」
 中国の抵抗を封じるように、台湾は更に体重をかけた。
 ブチッ。ブチブチッ。
 実際にそういう音が出たわけではないが、擬音にすればそうとしか表現できない感触が、陰茎を通して中国に伝
わった。
 中国の顔面から血の気が一斉に引いた。
 ドン引きだった。
「……ッ、ぃ……たぁ……っ、うう……っ」
 根本まで全てを収めることに成功した台湾は、唇を噛んで小さな肩を震わせている。
 そりゃあ痛いだろう。痛いに決まっている。
 何故なら、彼女は――

「……おまえ……処女だったあるか……?」
 中国のモノを咥え込んだ台湾のそこからは、鮮血が一筋の朱となって伝っていた。
「バッ……! おま……っ、何を考えてるあるかあああああ!!」
「いぅう……ッ! 大声、出さないでぇ……響いて痛いのぉ……っ」
「う……と、対不起。……じゃなくて! おまえマジで処女だったあるか!? う、嘘だと言うよろし!!」
「ほんとに、痛いのぉ……ッ! 大きな声出さないでぇ!」
 涙を滲ませたようなその声に、中国は二の句を失った。
 事実、台湾は泣いていた。
 大きな黒目がちの瞳からほろほろと真珠の涙を零し、破瓜の痛みに耐えていた。
 中国だって、泣きたい気分だった。
「……痛ぇならもう抜くよろし」
「い……やぁっ。最後まで……っ、するぅ……!」
「最後までって、おま――だってメチャクチャ痛そうあるよ? 無理ある。早く抜くよろし」
「嫌ぁっ。最後まで、できるもん……っ。痛くないもんっ。私……っ、子供じゃないもん……!」
「なに意地になってるあるか……嗚呼もう」
 中国は虚空を仰いだ。これが夢なら早く醒めればいい。
 けれど陰茎をきゅうきゅうと切なげに締めるこの柔肉の感触はどう足掻いてもリアルだ。現実だ。絶望した。
 ――大切だった。
 大事にしてきたつもりだった。
 日々美しく成長していく彼女を守っていくのが己の義務だと思っていた。
 その妹の純潔を散らしてしまったのが兄である自分なんて、そんな絶望、ない。
 台湾だって、正気に戻ればきっと軽率なことをしたと後悔するに決まっていた。いやもしかしたら現在進行形で
している真っ最中かもしれない。だって、彼女には想う男が他にいる。
 そこで中国は、日本のことを考えた。
 そうある、日本ある。あいつめ、統治時代にとっくに喰ってるものと思い込んでいたのに、まだだったあるか。
普段は「妹属性テラ萌エス!」とか言ってるくせに使えない奴ある。据え膳喰わぬは武士の恥じゃなかったあるか。
なんのためにオタクやってるある。あいつめ、あいつめ、あいつめ――
 日本への罵詈雑言を並べることで現実逃避していた中国の意識を、台湾の腰の動きが引き戻した。
「ぐ……っ、うあッ! ぎ……ぃっ」
 台湾は歯を食いしばりながら、痛みを押し殺して前後運動らしきものをおっ始めようとしていた。

「あ、あいやややっ、何してるあるかっ」
「だ……って、こうやって……、動く……ぐぅっ……んでしょ……っ」
「痛ぇなら無理するもんじゃねぇあるよ!」
「動か、なきゃ……っ、せっくす、に、ならないじゃない……っ」
 セックス。中国は頭を槌で殴られた思いだった。ああ、セックスだ。妹と性交している。
 打ちのめされて、正直死にたいくらいだったが、中国はなんとか思い留まった。
 とにかく今は、泣いているくせに強がって、必死で苦痛を抑え込もうとしているこの娘をなんとかしてやりたい。
純粋にそう思う。
 震える台湾の白い腰にそっと手を添えると、細い体が僅かに反応を返した。
「――じゃあ、少しずつ動くある。いきなりじゃ痛ぇのは当たり前あるから、少しずつ、円を描くように動くある
よ。それなら我慢できるあるか?」
 できるだけの優しい声音でそう問うと、台湾はコクコクと一生懸命に頷いた。
 ――その仕草に、中国はスイッチを切り替える。
 いま抱いているこの娘を妹だと思うのはやめた。
 妹ではない、ひとりの女。
 そう思い込むことにして、行為を開始する。
「……ぁ……っ、……ん……」
 ゆっくりと、優しく。“の”の字を描くように腰を動かす。
 それは「動く」というより「揺らす」と表現した方が正確なくらいの緩やかな動作に過ぎなかったが、たった
いま処女を失ったばかりの台湾にはそちらの方が良いようだった。食いしばっていた唇から、微かな声が漏れる。
 中国は処女を抱くのはこれが初めてではなかったが、さすがに処女といきなり騎乗位で交わるのはこれが初体験
だった。苦痛を薄めるため、丹田に集中させた気を送ってやる。それが効いたのか、少しずつ動きを大きくしてみ
ても痛みはなさそうだったので、ちょっとだけホッとする。
 汗ばんだ頬にくっついていた黒い髪を払ってやるついでに顔を引き寄せ、唇を掠め取った。
 嫌がられるかと思ったが、台湾はむしろ強請るように口づけを深めてきた。
「んっ、ん……ちゅ……っ、んぷ……ちゅぶ、ちゅう……っ」
 唇で探り合うだけだったものは、段々と深く、貪るようなものへと変わる。
 台湾は、キスの方も下手クソだった。
 めちゃくちゃに突っ込まれるだけの舌を中国は自らのそれで絡め取り、感じる動かし方を教えてやる。
 試しに唾液を吸わせてやると、台湾は従順にそれを嚥下した。
「こく……こくん……ちゅ、……ん、ぷ……んん……ふぁッ!?」
 キスに夢中になっているようだったので、円を描いているだけだった動きを少しだけ突くようなものに変えて
やると、台湾は甘く蕩けるような悲鳴を上げた。
 真っ白な尻たぶを掴み、連続して上下に揺すってみても、愛らしい声で鳴くだけで苦痛の色はもう見えない。
「あっ、あっ、んっ、あっ」
「痛くねぇあるか? もう少し動いても平気あるか?」
「んっ……うんっ、だい、じょうぶ……っ。動いて……っ、あっ、あっ、いいっ、よぉ……っ、ぅああアンッ!!」
 返事代わりに大きく突き上げると、台湾は大きく嘶きながら中国の首にしがみついた。
「あっ! あっ! あんッ! すっ……ごぉッ! あ、たまッ、トンじゃうぅ……っ!」
 台湾の膣内が更に締まる。
 膝で中国の腰を強く挟み込み、胸と胸と密着させ、嬌声を上げながら尻を揺する彼女の姿はとてつもなく淫ら
だった。
 ぽろぽろと生理的な涙を零す大きな瞳は艶めかしく濡れて焦点を失い、言語にならない喘ぎを漏らし続ける口は
半開きで涎を垂らしている。
「ああッ! あっ、おくぅッ! 奥までぇ……っ! あひっ、ぃひやぁッ! ああンッ! ふぁああっ!」
「ん……ここあるな?」
 ぐずぐずに溶けきった淫穴を突きながら弱点を探していた中国は、さほど時間もかけずその場所を探り当ててみ
せた。
「ここ……ちょっと右寄りの、つぶつぶんとこ……ここが弱ぇあるな? 丸わかりある。ほれっ」
「あひッ!? ひぁああッ! やっ、そこッ! だめっ、だめぇッ……、おしっこ出ちゃう! 出ちゃうからぁ
……ッ!!」
「馬鹿。おしっこじゃねぇあるよ。いいから感じとくよろし」
「やぁ! やぁあっ! そこだめッ! ダメぇ……ッ! おかひく、なるぅ……っ!!」
 駄目と口では言いながら、台湾の女陰は淫水を噴きながら悦んでいる。
 その部分を亀頭で抉るように突いてやると、中国も気持ちが良かった。
 体の相性がすこぶる良いのだ。


 台湾の膣は中国のモノを収めるのにピッタリのサイズで、腰を押し込むと子宮口にゴリゴリとぶつかった。熱さ
も締まりも申し分ない。本当言うと胸のサイズだってかなり好みだ。大きすぎる胸は好きではないから。
 台湾の肌は肌理が細やかでしっとりと柔らかく、程良い弾力は触れているだけで心地いい。
 まるで、中国のためにあつらえられたかのような肉体だった。
「ああッ! いいよっ! イイのぉ……――哥哥……ッ!!」
 不覚にも、その一言に反応した。
「ぁあんっ、哥哥ぉ……っ! 哥哥っ! 哥哥……ッ!」
 ――妹だと考えるのはやめにしたはずだったのに、その言葉に頭を殴られる。
 グラグラした。
 クラクラした。
 もはやヤケクソになって、叩きつけるように子宮を突きまくった。
「哥哥っ! 哥哥ぉっ! やっ、激し……っ! あっ! 飛んじゃう! 飛んじゃうっ、私ぃっ!」
「ああ……っ、早くっ、イっちまうよろし!」
「ゃあっ! こわ……怖いよぉ……っ! 哥哥ぉ! 私おかしくなるっ! 怖いのぉ……ッ!」
「怖くっ、ねぇあるよ……っ、哥哥がこうやって……っ抱いててやるあるっ」
「うんっ! うんっ! いっしょお……っ! 哥哥も一緒にぃ……!」
 あられもなく大声で啼く台湾に、理性が灼かれた。
 もう何が何だかわからないし、何がどうでもいいじゃないかと思い始める。
 後悔は終わったあとにすればいい。
 たぶん物凄く後悔することになるだろうけど、でも、終わったあとに考えればいい。
 中国は、子宮を突き上げることに集中することにした。
「台湾……っ! 気持ちイイあるかっ」
「ぃひあッ、あッ、ああン! イイっ! イイよぉッ! 哥哥のがぁ……っ、奥っ、私の一番奥ぅ……っ、コン
コンってぇ……っ! ぅああッ! 気持ちイイ……! 一番奥まで……っ、哥哥でいっぱい……! 気持ちイイ
のぉ! おなかきゅんきゅんするのぉ! 哥哥っ……哥哥ぉ……っ!」
 次々と溢れる愛液のせいで、跳ねるたびに結合部からはグチュグチュといやらしい水音が止まらない。
 その水音と台湾の嬌声に耳朶を犯され、立ち籠める淫臭に鼻腔を犯され、肉棒に絡みつく襞の群れに感覚を犯さ
れて、中国は自らの立場を忘れた。
 今はただ一匹の雄となって、この淫らな肉の穴を味わっていたかった。
「あっ! 哥哥ぉ! わたし……っ、わたしぃ……ッ!!」
 台湾が齧りつくようにしがみついてくる。

 不規則にキュンキュンと締めつけてくる膣内の動きから、彼女の果てが近いことが知れた。
「わたしっ、イクぅ! イっちゃうよぉ……っ! 哥哥っ、ギュッってしてぇ! もっと強く……っ、抱き締め
てぇ……! 哥哥ぉっ! 哥哥ぉ……ッ!!」
 未知の感覚に対する彼女の不安を拭うように、強く強く抱いてやる。
 その一瞬、台湾は、ほんの一瞬だけ嬉しそうに笑った。
 子供のような顔だった。

(……ぁ……またこの顔ある)

 先ほど手でイかせてやったときも、最後の一瞬、彼女はこんな風に無邪気な笑顔を見せていた。
 抱きつき、腿を張り、腹を張り、尻を動かし、足を絡みつけ、股を窄め、腰を左右に振り、体を浮かし、体を伸
ばし、盛大に濡らし――房術でいう「十動」の全てを表しながら、本当に無邪気な笑顔。
「台……湾っっ!!」
 穿つように、最奥を突いた。

「ぁいッ……やあああああああああああッ!!!」

 壊れたバネ仕掛けの人形のように、中国の腹の上で台湾は跳ねる。
 絶頂を知らせる膣内の収縮に合わせて、中国もまた台湾の胎内へと精を解き放った。
「ぅああ……っ、ああ……っ、ぁ……」
 熱い精液が子宮の壁を叩く衝撃に、ビクビクと痙攣しながら台湾は呻く。
 大きく仰け反って弓なりになった台湾の膣襞は、最後の一滴まで余さず搾り取らんと中国のモノを喰い締めていた。
 その部分に、不意に別の熱いものを感じる。
 愛液でも精液でもないそれは、台湾が初めて体験した性交によるオーガズムに耐えきれず漏らしてしまった小水
だった。
「あー……あーあ……おまえ、もらしちまったあるか。……って、ちょ、台湾!?」
 ぐらり。
 台湾の上体が大きく傾く。
 次の瞬間、台湾は中国の体に覆い被さるように倒れていた。
「お、重ぇあるぅ……!」
 気を失ってしまった台湾の体の下からなんとか這い出る。

 まだ名残惜しくきゅうきゅうと締めてくる膣内から萎えた一物を引き抜くと、精液と愛液と破瓜血の混合物が
ゴポリと音を立てて零れた。
 すごいことになっていた。
 日本が綺麗に敷いていてくれた布団はとっくにグチャグチャだし、浴衣はもはや着ていないも同然だ。二人とも
体はいろんな汁でべとべとに汚れており、なにより部屋中に充満する生々しい匂いが凄い。
 中国は半ば呆れたようにその光景を見渡し、そして予定通り、怒濤のモーレツ後悔タイムに突入した。


 ひとしきり転がり回って悔恨と懺悔を繰り返したあと、中国は後処理に追われた。
 失神したまま眠った台湾の膣から、思わず中出ししてしまった精液を掻き出す。全身を拭き清めてやってから、
浴衣をきちんと着せ直した。
 少し寒いが障子戸を開け、籠もった匂いを追い出す。
 しかし、精液とか愛液とか血とか小便とかが盛大にブチまけられた布団だけは、どうしようもなかった。
 とりあえず新しい布団を押し入れから引っ張り出して、台湾を寝かせてやる。
 汚れた布団を抱えて部屋から出たところに、日本が立っていた。
 血の気が引いた。
 月明かりだけが仄暗く照らす寒々しい片廊下に、闇に紛れるようにして彼はいた。表情はよくわからない。
「随分とお楽しみでしたね」
 含み笑いのような、揶揄を忍ばせた語調だった。
「あいや……も、もしかして……聞こえてたあるか……?」
「それはもう」
 にっこり。
 その笑顔がべらぼう怖い。
「あれだけ派手に騒がれたら、嫌でも聞こえてしまいますよ。ああ、でもご心配なく。韓国さんと香港さんは本気でダウンなさってますから気付いてません。たぶん」
 最後に不穏な不確定要素を付け足しつつ、によによ笑いの日本。
 中国はガックリと項垂れる。
「……どうかこの件は内密に頼む……ある」
「貸し、ということにしておきましょう。ところでそれ、洗うんですよね? お手伝いしましょうか」
「いや、自分でするある。風呂場だけ貸してもらうあるよ」
 生臭くなってしまった布団を抱え直し、日本の横を通り過ぎる。
 途中で振り返った。


「……日本。このことは、台湾にも言うな」
「それは――『なかったことにしろ』と……そうおっしゃってるんですか」
 日本は空気を読む術に長けている。このときも、中国の言外の意図を正確に汲み取った。
 中国は気まずさからか、目線を逸らす。けれど、ハッキリと言った。
「そうある」
「そんな、それでは台湾さんが――」
「あの子は酒に酔っていて、今は気を失って眠っているあるよ。我は朝までに何も残らないよう始末しておく
ある。だから、あの子が目覚めたとき――あれはおかしな夢だったのだと――そう思わせるように仕向けるよろし。
……わかるあるな?」
 日本は何かを言いかけ、そしてその口を噤んだ。言いたいことは山ほどあったが、何ひとつ言葉にはならなかった。
 ただひとつ。一言だけ、全ての思いを集約させて、放つ。
「あなたはひどい人ですね」
 中国は薄く笑った。
 どこか現実感のない、霞の中の仙人のような笑みだった。


 了



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