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 普洪



プロイセンは瞠目した。
 世界会議の行われる建物の二階の隅、古い議事録が山積みの資料室。知る人ぞ知るサボりスポット。
窓に目をやれば。
「パンチラ!?」
 濃茶のスーツのタイトスカートから生えるストッキングに包まれた足。窓を開けようとガラスを
蹴る度に足の付け根の青いデルタ地帯がチラチラと覗く。
 今日はラッキーデー! と脇で拳をぐっと握ると、ストッキングのせいで滑って開けにくそうだった
窓がようやく開き、涼やかな風と共に青パンの主が降り立った。
「よ、っと」
 金色の髪をふわりとなびかせて着地する。登場に似合わぬフォーマルスーツの彼女は顔を上げざま、
相好を引きつらせた。
「げ。なんでおまえがここに!?」
 思わず出てしまったのだろう。飛び出た昔の言葉にハンガリーははっと口を閉じる。
「それはこっちのセリフだ。どこから入ってきてんだよ青パン」
「ばっ――パンチラ見てるなら手伝いなさいよばかぁ!」
「ふご!」
 軽快にフライパンスマッシュをかまして
「それよりなんでこんなとこ居るのよ? 今日は地方の会議は無いみたいだけど」
 と、ポケットから大きくはみ出したパンプスを履く。
 床に撃沈するプロイセンはラフな格好で、とても会議に出るようには見えない。一応ソファーの脇に
ある紙袋からスーツの袖とネクタイの先がだらしなく出ているが、乱雑な扱いで皺ができてそうなのを
これから着るわけもあるまい。
「ヴェストに連れてこられたんだよ。終わるまでここでまってろってさ。あいつほんと兄離れできない
よな、ハハハ!」
「ふーん」
「まあ、オレ様くらいカッコ良くて頼りになる兄なら仕方ないよな!」
 ハンガリーは全く興味なさそうに、かかえたファイルをソファーの前の古びたテーブルに置いた。
 そして、その隣にある本を見つけ、生温かい半眼になる。
 適当な封筒をしおり代わりに挟んだそれは、現代人が書いたプロイセンの歴史書だった。
 ハンガリーはぽそり、と。
「気持ち悪」
「てめ……この本は元プロイセン軍人が書いているだけにオレ様の華麗な活躍が詳細に記されてる名作
だぞ」
「あんた……幸せよね。自分大好きで」
「当たり前だろかっこいいからな!」
「そのテンションむかつくふふふふふふふ!」
「ナチュラルに小馬鹿にした顔腹立つなハハハハハハハ!」
 本はさておき。
 さらにその隣にあるものを発見し彼女は顔を輝かせた。イタリアにもらったグラス入りのお手製
プリン六個。
「わーいプリン! いだきまーす!」
「こら。勝手に食うな! おぁ、コーヒーまで!!」
 悪びれる風もなく飲みかけの缶コーヒーも奪ってソファーで口に放り込む。
 あきらめてプロイセンも腰を下ろした。
 ちらと横を見る。
 フォーマルなスーツに身をつつみ、うっすらと化粧が施されていわゆる「大人の女」な武装。廊下で
すれ違ったなら声をかけにくかったかもしれない。だが、ぱかぱかとプリンを向きになってほおばる
様は昔のままでちょっと笑える。
 ん?
 向きになってる?…………
 プロイセンは少しひっかかるものを見つけ、気づかれぬようハンガリーの透明ファイルの資料を
盗み見た。そして、一人で納得した。
 まあ、それはそれとして。
「……うらッ」
 ぼす、と茶のスカートを枕に寝転がる。
「ちょ、何よ?」
「いいだろ減るモンじゃ無し。恵んでやった代価だ。枕代わりくらいにはなれ」
「……いいけどね」
 あっさり引き下がってプリンに意識を戻した。長い間男女で幼馴染やってる身である。過去に気の
迷いで何度か間違いも起きている。お互い大抵のことじゃあ驚かない仲だ。
 見上げると、ハンガリーはたいして美味そうな顔もせず、ただただ口に入れて噛み砕き嚥下、それを
繰り返している。
 ほんっと変わらんなぁ……
 幼馴染とは厄介なものだ。日本は「萌え!」とか「ベランダを飛び越えて朝起こしに来てくれる
んでしょう?」と胸ときめかしたことを言ってくるがそんなに良いものではない。
 カッコ悪い頃の自分を知ってがゆえカッコつけても鼻で笑われるだけだし、昔からのクセなんかも
熟知しているから、いらんことにも気づいてしまう。今がまさに、それだ。
 プロイセンは手を伸ばし、もくもく動く頬をむに、とつねった。
「何ヘコんでんだよ?」
「何って、何もないわよ!」
 プロイセンは面倒臭さにため息をついて、開いているほうの手でファイルを指さした。
「金ガラミの会議書。窓からの侵入=上司を撒いて逃走、と予測。ついでに食い方で分かんだよ。
……相当キてんだろ」
 プリンを掬うスプーンが止まる。ぐっと言葉を詰まらせてプロイセンを見据えている。
「別にオレの前でまで意地張んなくていいぞ。バレバレだし、国じゃないから弱みに付け込もうにも
付け込めん」
 何気ない言葉だった。ただ気づいてしまい、思ったから言ったこと。なのに。
 ぽた、と頬骨を水滴が打つ。2滴、3滴と続くそれはハンガリーの瞳からぞくぞくと生み出され、
プロイセンに降り注いぐ。
「なんで……いつも気づくのアンタなのよ馬鹿あッ!」


 ぎょ、とプロイセンは目を丸くする。顔を何度もぬぐって、子供のようにハンガリーは泣き出した。
「な、なんだよ。オレが泣かしたみたいじゃねーか!」
「その通りじゃない。一人でなやみたかったのに。せっかく我慢してたのに!」
「え、マジ? すまん、プリンも一個やるから泣き止め」
「できるか! ……プリンはもらうけど」
 ああああああどうしたらいいんだ。
 プロイセンは頭を抱えて飛び起きる。フランスやイタリアちゃんじゃあるまいし、泣く女の上手い
扱いなど知る由も無い。
 男泣きや泣く子供への対応なら多少はわかるのだが。
 子供? 子供か……
「ああ、もうッ!」
「!」
 一か八かで震える肩を引き寄せた。ドイツが子供の頃、泣き喚いたときに使っていた対処法。
抱きしめて頭をくしゃくしゃと髪をかき混ぜる。乱暴な手つきにハンガリーは一瞬片目を閉じて顔を
しかめたが、後は素直に受け入れた。
「あんたにしては、気の利いたことするじゃない……」
 そこではっとする。
「あ、やべ! 夕べ風呂入ってなかった」

 引き剥がそうとする手を引きとめて、ハンガリーはぽふ、と額を胸にくっつけた。
「懐かしい。戦場の兵士陣営の匂い」
「そこまでにおってねぇだろ!」
 不満気に声をあげれば小さなくすくす笑いが聞こえた。ぎゅ、とシャツを握って大きく息を
吸い込んでいる。
 うあ。
 その行動にドキリと心臓が跳ね、血液の温度が上昇する。
「……ちょっと、離れろ」
 体が変化する前に、と引き離そうとすればしがみついて
「あんたが泣かしたんだから責任取りなさいよ。こうしてると安心する」
 胸に顔を埋め続ける。耐えるしか道は無いようだ。
 いいにおいがする。
 金色の髪や僅かにのぞく首筋から上るあまい香り。柔らかな肌の感触は服を通しても伝わってくる。
こう密接されて甘えられては妙な方向にテンション上がってしまうわけだが、くっつく本人は郷愁を
駆り立てられてるだけのようだ。
「実は、金策がらみの仕事が続いて、消耗してた」
 ぽつり、とハンガリーは言う。
「周りには弱ってるとこみせられないし、普通に振舞うのにちょっと疲れて」
 弱みを見せれば付け入られる、それが国同士の付き合いというもの。かつて国だったプロイセンは
その苦労は嫌と言うほど知っている。
「まあ、なんだ。苦労も後になりゃいい思い出ってことで気にすんな。っ痛」
 不埒な欲を掻き消そうと適当に言うと、ぺち、とデコを打たれた。
 続いて、ハンガリーの情けない鼻声。
「本当に腹立つ。あんただってヘコんでるくせに」
 息を飲む。
 一秒も無い間をもって調子を取り戻したプロイセンはいつもの調子で切り返した。
「へこむって、誰が?」
「あのね、あんたが私の癖を知ってるのと同じで、私もあんたの癖わかってんの。妙な方向で
テンションが高くなるのとか、やたら『カッコいい』自分の書物読んだり、やたら人に甘えたり。
そういうのはアンタがなにかあったときの行動」
「………………」
 チッ、と内心舌打ち。
「話、きいてやらないでもないわよ」
「……あー。別に何も」
 目を逸らして後頭部を掻くと、ごき、と額に鉄拳がめり込んだ。あまりの痛みに頭を抱えると
ハンガリーが泣きはらした瞳をきつく向けた。
「心配してるっつってんのよばか! あんたが落ち込む時ってでかいことがある時じゃない。
フランスに攻められたあととか国解体とか」
「って〜。こんな心配あるか! そういうのはもっとかわいくやれよ」
「人の不安は平気で暴くくせに、自分はなにも言わないなんてズルイ!」
 いくらかいつもの言葉の応酬が続き、ついにハンガリーは眉をしかめたまま口を閉ざす。やっと
折れたかと安心して
「つか、そもそもへこんでないと――」
 締めの言葉を口にすると、小さな音をたてて唇に柔らかなものが触れた。間近にハンガリーの濡れた
睫が震えて一瞬の邂逅を経て離れる。
 目の前で真っ赤な顔で目をそむけるハンガリー。
 ぽかーんと見つめるプロイセン。
「……かわいくやれっていったじゃない」
 行動をようやく理解したプロイセンの頬に、じわりと血潮が上ってくる。
「……おまっ、なんてこと」


「思いつく可愛さの限界をやったのよ! やっぱ、寂しいじゃない。人のことこんだけ暴いておいて
自分は落ち込んでも何も言わないなんて」
 しばしの、しかし恐ろしく長く感じたなんとも言いがたい間をくぐり、
「……やっぱりお前には関係な――ふぁ!」
 ちゅ
 再度攻撃。今度はプロイセンが居心地わるくなって目を逸らし、
「別に心配いら」
 ちゅ
「小鳥のようにカッコイイオレ様が」
 ちゅ
「……」
 緑の瞳はまっすぐにプロイセンを貫いている。
 なんと強烈な攻撃だろう。
 攻め方としては正しかった。問い詰められてもケンカに発展するだけ、その点この方法は意地を張る
のもばかばかしくなる。ほだされてしまいそうな、ちょっとうれしい戦法だ。しかし、大きな誤算が
一点。
「……いつも、私ばっかり聴いてもらう立場は――って、ちょ、何ニヤけて」
「うらっ」


 刹那、間合いをゼロに詰めて反撃の口付け。逃れようとする頭を支えて舌をねじ込むと、プリンの
甘い味がした。
「んんっ、んう!」
 想定外だったらしい。しばらくもがいていたが、やがて力を抜いて調子をあわせてきた。ぴちょ、
くちゃ、と舌の絡む音がかび臭い部屋に響く。
 思う存分蹂躙し唾液を送り込む。ハンガリーの喉がこくん、と音をたてたのを見て、ようやく唇を
離した。
「……んっっ。何するのよ!」
「こっちのセリフだ。あんな反則技どこで覚えた!? ちょっと……かわいいとか思っちまった
だろうが!」
「――ッ! 少年だったころ国民の女の子にされたのよ! 真正面から攻めてもあんた言んっ」
 追撃。
 完全に抵抗が止んだところで離れると、
「ずるい……いつもはぐらかして」
 ハンガリーは瞳にとろりとした鈍い光を宿してごちる。その柔らな唇をふにふにと指で触ると
「んっ」
 と気疎そうに僅かに身を引いた。スーツ姿のせいかその様がやたらと艶めいて見える。全身の血潮が
沸騰し、暴動を始める。
「いい顔するじゃねぇか」
 ニヤニヤと加虐的な笑みを浮かべ、くったりした顔のハンガリーをどさ、とソファーに押し倒す。
「人くるとマズイから服のままでいいよな?」
「え、ちょ! 変態! ど変態!」
「お前が妙にひっついたりちゅーとかしてその気にさせたのが悪い」
 ハンガリーを掻き抱きながら首筋に顔を埋めた。頬の涙をぬぐいながら首筋を舐め上げる。小さな
喘ぎとともに緑の瞳はちらとこちらを伺い、目が合えば恥じらい交じりに伏せてそらせた。
 頬や耳など露出した部分を舌で攻めながら、頬から顎、首筋、肩、鎖骨に胸、ストッキングの太もも
……体のラインを確かめるように掌を滑らせる。スーツのまま抱きしめ撫で回すのは妙な気分だった。
チカンでもしている気になる。
「やあ、ゃ……!」
「くひひ。せっかくだから一枚も脱がさずにヤってやる!」

「変態! マニアック!」
 シャツのボタンの隙間に手を伸ばしてフロントホックを外す。するりと下着の影が降りるとシャツの
白にピンク色の輪が透けた。開放された柔肉を揉みこみながら円を描くように弄ぶと、先端が布を
押し上げ主張を始める。
「ひゃ! 布の上から、んっ。変、な、カンジ……」
 ハンガリーは切なげに睫を震わせてだんだんと呼吸を熱くしていく。そんな彼女の服装にそぐわぬ
表情と声に妙な劣情が煽られ、ぎり、と奥歯を噛み締める。痴漢通り越して強姦の気分。突っ込みたい。
めちゃくちゃにして喘がせたい。股間にぞくぞくと血液が送り込まれる。
「何だか……犯されてるみたい」
「こっちも犯罪気分だ」
 お互いに妙な感情が沸いているのが分かる。
 プロイセンはスカートを持ち上げ、ストッキングにつつまれた尻と太ももに触れる。力加減で
きらめきを変え、しゃらしゃらとした触感が心地よくて執拗に撫で回し、揉んだ。
「ふあ、あ……」
 浮いている薄幕をつまみ、爪を立てて出来た穴に指を滑り込ます。ショーツの隙間をくぐり直に秘裂
の入り口をぐるりと撫でた。とろりとした液が指にまとわりつき、くち、と水音をたてる。
「んぅ!」
 眉間の皺をしてやったりと見つめ、もう少し奥に進んで弱いところ、内壁の恥骨側、ざらざらの多い
ところを擦った。
「やぁ、あ!」
 反応の良さに満足気に笑み、スカートを腹まで押し上げる。
 あらわになった足の付け根、薄幕の穴から見える青布の股の部分が湿り気を含んで色濃く鮮やかだ。
ストッキング穴を乱暴に引き裂き、ショーツを恥丘の片側に引っ掛けて割れ目を開く。秘裂からとろり
と愛液が溢れた。
「スゲー濡れてんな。着衣えっち好きか?」
「んなわけな――ひゃう!」
 体が跳ねる。膨らみかけの花芯をしごく。
「やあ! ああ、あっ!」
 同時にブラウスにも手を伸ばして脇から胸を掬い上げて布地に浮く先端をいじった。
 ハンガリーの瞳から、生理的なものであろう涙が零れた。
 プロイセンはニラニラと笑う。一番エロから遠いスーツ姿で乱れるギャップがたまらない。
本来ならば今、会議で凛と発言しているはずの声を狂わせ、清潔なシャツを乱しうっすらと汗を
にじませ、ぴたりと閉じて座っているはずの足を開かせ液まみれにしている。嗜虐芯が湧き上がり、
股間に許容を超えた血が集ってみしみしと痛みをもたらす。
「たまにはこういうのもいいな」
 驚くほど自分の声がねちっこい。
「たまんねぇ」
「こ、の変態!」
「その変態に感じさせられてるのは誰だ? あぁ?」
「ひゃああ!」
 指の又で熟れた芽を挟み、指先は中へ。
 ぐちゅぐちゅと愛液のあわ立つ音とともに、更に高く嬌声が上がった。
 その声にプロイセンは満足そうに口の端を上げて更に責める。
「はっ…やあぁ、そこや、ああっ」
 ハンガリーの頬をまた一つ雫が流れた。指先はバリバリとソファーを引っかき体をうねらせ髪を乱す。
 絶頂が近いと見て、良い反応に手の動きを早めようとする腕を、ハンガリーが掴んだ。
「や、嫌」
 訳が分からず眉をひそめるプロイセンに向かい、
「ひとりは、や」
「あぁ?」

「頼るのも一方的嫌だし、イくのも……一緒がいい。挿れて……欲しい…な」
 汗と涙にまみれて、真っ赤な顔ですがるようなお願い。
 うあ。
 ふと我に返る。勢いで押し倒したことと痴漢・強姦気分に後ろめたさを感じていなくもなかったので
愛しさひとしお。プロイセンはこみ上げた衝動のままぎゅうう、とハンガリーを抱きしめた。
「よっしゃ! すぐにくれてやる」
 せわしない手つきでズボンから十分に硬いそれを取り出すと、ストッキングの穴に通し入り口にあて、
ゆっくりと押し込んでいく。温かな粘液と絡みつく壁を分け入り深く奥までたどりついたとき
「んう! うう!」
 ぎゅう、と強い締め付けがきた。
「く! あんまキツくすんな」
「だって」
 背に回った手が強く自分を引き寄せる。この感触がたまらなく好きだ。求められている感覚。やはり
犯罪気分よりこちらの方がいい。密着感が足りないのは残念だが、ストッキングのせいでパンと張った
腿や衣擦れの音、ブラウスやスカートは一種独特の興奮を掻き立てた。
 プロイセンはハンガリーの濡れた頬を指でぬぐい、あやすように髪を撫でてから
「……動くぞ」
 ゆっくりと腰を引く。
 緩急をつけて浅く深く、弱点のざらざらした場所に引っかかるよう出し入れする。その場所を突くと
ハンガリーを悦ばせると同時にプロイセンの先端や亀頭を擦って気持ちが良い。
 しばらく、打ちつける音とじゅぶじゅぶと愛液のあわ立つ音が流れた。
「あっ、いぁっ、やっ、ああっ」
 ハンガリーの頬は絶えず零れる涙でまたびしょびしょだ。もとより感じると泣く体質だが、今日は
やる前からも泣いてばかり。否、泣かしてばかりだ。泣き顔なんか見たくないのに。不器用だから
空回りする。嫌になる。
 打ちつける動きと共に肉芽をいじってやると喉を反らせて大きくあえいだ。白くて美味そうなそれを
甘噛みする。途端、肉襞の蠢きが激しさを増し、絡みつきが凶悪となる。上り詰めてきていると踏み
激しく腰を打ちつけ、振動で震える柔胸をシャツごと揉みしだく。
「はっ、ああっ、あっ!」
 ハンガリーの艶声も激しさを増し、絶頂間近のサイン。自分も追い詰められて腰の辺りに痺れを
感じる。もう長くはもたない。
「も、イく」
 ハンガリーは喘ぎながら頷いた。
「ひゃ、あ、あっ、ぁああああ!」
 叩き付けれるように腰を打つと背中に指先が食い込んだ。ストッキングの足のつま先をぴんと張って
がくがくと振るえる。激しく収縮する肉襞に抵抗して
「くッ」
 プロイセンは歯を食いしばりモノを引き抜いた。
 飛び出た白濁はハンガリーの腹からふとももへと降り注ぎ、シャツと濃茶のスカートに卑猥な模様を
描いた。


「ばか!」
 絶頂の余韻から回復したハンガリーがはじめにしたのは、プロイセンをフライパンで殴ることだった。
「スーツ汚して」
「着衣プレイのトドメはぶっかけだろ。脱いで2ラウンド突入で問題無し!」
 ニヤニヤと脱がそうとするプロイセンをもう一発ぶん殴ってため息一つ。
「あんたはそうやって……。人の話聞かないし落ち込んでもカッコつけて言わないし変態だし。
それでも……なんか、分かっちゃうんだから、少しくらい頼りなさいよ。男同士の約束交わした幼馴染、
なんだから……」
 泣き出しそうな顔にプロイセンも大きくため息をつく。うやむやにさせてくれないらしい。
あからさまにめんどくさい顔で切り出す。
「それの」
 テーブルの上の本を指し、
「作者が死んだ」
 あっさりと。
「プロイセン軍の軍人で、ドイツ人になってからもオレのこと祖国って慕ってくれててな。昨日葬式
出て家に帰って一息ついたとこで、なんだろうな。国として何かしてやれてたんだろうかとぼーっと
考えちまって、気がついたら朝になってた。オレ、あの世代には貧乏と戦争しか与えられなかったから」
 それは、どこの国も一度はぶつかる感情。だがそんな疑念も今という時の仕事に追われるうちに、
次の世代には同じ経験はさせぬと前向きな方向へ昇華されていく。
 しかし、プロイセンはもう国ではない。
 後悔を未来で贖うことは出来ず、残った心寄せる民たちへの後悔をただただ抱いて立ち尽くすこと
しかできない。
「で、朝に書類届けにきたヴェストにみつかって」
 一晩喪服でぼんやりと徹夜した兄に憑き物でもついているのではないかと心配され、目をはなさぬ
よう私服を紙袋にぶっこんでスーツのままここに連れてこられた。プロイセンを連れまわすドイツに
何かの異常を察したイタリアがおやつに持ってきていたプリンをくれた、と。
 ハンガリー先ほどまでの威勢はどこへやら、眉を僅かにハの字に下げてなんともいえない顔を見せる。
そして、沈痛に口を開いた。
「……それで昨日風呂入らなかったのね。清潔感は大事、入浴は重要よ」
「注目点そこか!?」
 と、いいつつも国の立場とプロイセンの人となりを知る彼女は、それがどれほどのものか理解した
ようだ。予想以上の反応にプロイセンはなんだかおかしくなって、ハンガリーの両頬をうにー、と軽く
引っ張った。
「ひっでぇ顔」
「……もっと早く教えてくれれば」
「普段やらないエロサービスでもしてくれたのか?」
 グーで殴られた。ずきずき痛む頭を撫でながらプロイセンは続ける。
「誰にも言うなよ。めぐりめぐってヴェストの耳に入れば、マジメだからマトモに受けてたぶんヘコむ。
こういうのは口にしたところで誰の得にもなんねぇから、言いたくなかった」
 プロイセン解体にはドイツの誕生も深く関わりがある。
「でも、あの時取れる最善の方法を取ったわけだから後悔はしてない。地方もいいぞ。国よか楽。まあ、
その時その時後悔ないよう民衆は大切に、ってことだな」
「……私、会議出てくる! 途中からでも――」
 決意新たに顔を上げたハンガリーはハッと息を飲んだ。……スーツにべったりと絡む白濁の粘液。
「って出れないじゃないバカ! それ以上に帰れないじゃないバカバカ!」
 降り注ぐ拳を避けながらプロイセンはケセセセセと悪ガキのように笑い、
「なら戻らずゆっくりしてけよ。服ならこれかあそこのスーツ貸してやる」
「あんたって奴は……まったく。姑息な手を使わず素直にそばにいろって言えばいいのに――って
言ってる側から脱がすな!」
「やっぱ着衣より生だよな。肌の感じが全然違う。生乳サイコー!」
「いやー!」
 有無を言わさずぱかぱかとスーツを脱がしていく。そして――

「兄さん、お待た――」
「プロイセンお待たせ〜」
 突如開いたドアの向こう、迎えに来た会議帰りのドイツとイタリアが。

「え?」

 四人の声が、重なる。
 ハンガリーはショーツ一枚だった。足元に散らばる衣服には白濁液。
 そのハンガリーをプロイセンは今まさに押し倒したという格好。
 金縛りのまましばしの間。
 硬直からいち早く解けたのはドイツだった。停止しているイタリアを引っ張り、バンッ! と
叩きつけるようにドアを閉める。
 ドア越しに、二人の慌てた声。
 
 ヴェ、ヴェ〜、今の…… 忘れろ!俺達は何も見ていない ハンガリーさんのぱんつ―― 見てない
と言ってるだろうが!

「……ちょ、ばかー!」
「そういや人が来るから服でやってたんだったな。今の二人の顔みたか? 超おもしれ〜」
「誤解されたじゃないのばかばか!」
「誤解じゃないだろ。ちょっとからかってやるか」
 悪乗りしてハンガリーの弱いところを攻め立てる。こらえきれない嬌声が洩れて、ドアの向こうが
大混乱。
 プロイセンは殴られながら大爆笑した。

 当分は2人ともへこむ暇なく楽しく過ごせそうである。

END















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