墺ウク
世界会議の休憩室、オーストリアが廊下を歩いていると、遠くからどのようなものとも
知れぬ音が聞こえてきた。
オーストリアはその音色にはっと顔を上げる。音のする方向を見ると
「だれか、おともだちになってくださーい」
と半泣きの女性がおろおろと辺りを見回している。
ウクライナだった。国際情勢考えて友人募集中の彼女は休憩中歩き回ってはいろいろな
国に声をかけている、という話は聞いている。オーストリアは耳をそばだてた。
「だれか、おともだちに……」
どいーん、ぶぶいーん、ばいーん……
音の反響を確かめる。楽器では聞いたことのない音。
「あ、オーストリアさん」
ウクライナが挨拶するのももどかしく、オーストリアは問う。
「前からおもっていたのですが、この音は何ですか?」
「あ、すいません。うるさかったですか。これ、私の胸の音なんです。ロシアちゃんから
もうるさいっていつも怒られて」
その他の話は耳に入らず、オーストリアはただ一点を見つめて目をむく。
この音が、胸の音?
「……ウクライナ、ちょっときてください」
「ほぇ?」
強引に手を引いて、手近な部屋に連れ込むと、オーストリアはウクライナの胸元を
掴んで、引きちぎるようにブラウスを開襟した。
「ひゃあ! な、なんですか?」
「黙りなさい! 音がちゃんと聞けません」
ウクライナを壁に押し付け、真剣な顔付きで胸元を探る。迫力に押されたウクライナが
黙ってされるがままにしていると、オーストリアは両胸にがばっと手をあてがった。
指の長いオーストリアの手でも掴みきれない質量の柔肉。
オーストリアは息を飲み、両手を大きく動かした。
ばいーん!
大きな胸のたゆみとともに威勢よい音が鳴る。
小さく動かせば、
ゅーん……
控えめで恥じらいを持つの乙女のような音。
今までに無い優しく甘やかな音の響き。
「……美しい」
未知なる音の感動を、オーストリアは瞑目し神に感謝する。グローリア!
「あの……」
困り果てた顔で見上げる顔など目に入らず。
徐々に指の蠢きを大きくし、
「クレッシェント!」
んゅんゅうにうにうゆばにゅぼにゅ!
「ぁぁあぁ……ああん、あん!」
柔らかな胸は波打つように大きくたわむ。
今度はだんだんと鎮めて。
「デクレッシェント」
ぼにょぽにょにぅばにうにうにゅうゅぅ……
「はあぅあっああぁっうふあうぁぁぁぅ……」
ふよふよふょん……と、小さく揺れる。
だがそんな様など興味ないとばかりにオーストリアは一つの音も逃さぬよう目を閉じ
耳をそば立てる。反響にウクライナの甘い声が絡みつき、一つの音楽として耳を打つそれ
は、オーストリアの音楽家魂を大いに掻き立てた。
「すばらしい! 実にすばらしいですウクライナ! ずっとこの音が気になっていたの
ですよ! なんと深みのある……母なる存在のような音楽!」
湧き上がる感動をぶつけられ、ウクライナは困り顔である。
にうんにうん
「ああっ」
「……でも、声の迫力が今ひとつですね。あと別の音も欲しい。そうすればオーケストラ
にも匹敵する」
「はあっ、ああう」
演奏の為に目にすっかり立ち上がったピンクの先端をはじいて思案する。
手持ち無沙汰な行為とはいえ、結婚マニアのオーストリア、無意識でも力加減は絶妙で
ある。ウクライナの胸先は芯を持って勃ちあがり、触れられて発せられるじいんとした
快楽を生んだ。ウクライナのまなじりに透明の水滴がぷっくりと膨らんで、零れた。
(ああ……おかしくなっちゃいそう)
嬲られる胸から快楽の電流がウクライナの全身に広がっていく。さざ波のように
迫りくるそれに翻弄されながらウクライナは乳を奏でる男を見上げる。
天を仰ぎうっとりと耳を澄ましている。恐るべき音に対する執着。それだけは
ウクライナにも伝わった。
快感に霞のかかり始めた頭で、遠慮がちに問うた。
「あの、胸の音、……そんなにいいですか? 今までうるさいとしか言われたこと
なかったのですが」
「うるさいなど誰が言ったのですか!? すばらしい才能です! ああっ、なんと
心地よい。ずっと、聴いていたい……」
うっとりと瞳を閉じて言うさまを、ウクライナは呆然と見つめる。
(あんなに邪魔と言われた音なのに……)
手を伸ばす。意味はない。そうしたかった。
その手に、乳から離れた男の指が絡まる。ぎゅ、と掴まれて、ウクライナの内に
あたたかなものが生まれた。
オーストリアもそっと笑み返し、もう片方の手も胸から離してウクライナの頬を撫でた。
まるで物語の王子が姫君に触れるような穏やかな手つきで涙の後をぬぐう。その指は
武具に慣れた硬さはなく、白くて長く、妙なところが硬くなった楽器のための指だった。
(不思議な人……)
オーストリアは顔を近づけると軽く接吻をしてからウクライナの瞳を覗き込み、囁いた。
「もっとあなたの音を知りたい。外から内から、奏でてみたい」
独特の空気と攻撃性の無い指。もっと、触れられたいと思った。
「……はい」
ウクライナは頬を上気させてうなづいた。
「恥ずかしい……」
生まれたままの姿となったウクライナはぺたんと床に座ったまま身をちぢこませる。
一方のオーストリアはスーツのジャケットすら脱いでいない。
「はうぅ。私だけ、裸なんで……」
「素敵ですよ、とても」
恥らう様を楽しみつつオーストリアは微笑し、大きな胸を抱くように戒めている両腕を、
そっと解かせた。
晒された手に余る豊かな乳房が、ちいさく揺れてどどいーんと音を出す。そのわきから
ゆるやかに続く肋骨とウエスト、腰骨のライン、そしてむっちりとした太もも。どこも
柔らかな肉を程よくまとい、実に触れたくなる体たった。
「あんまり、見ないで。細くないから……」
睫を伏せて恥らう彼女にオーストリアは軽く口付けを落とす。
「綺麗ですよ」
続いて下唇を舌先でなめ上げる。唇を甘噛みし、焦らしに焦らしてから口内に舌を侵入
させた。
「ふんぅ……はあっ……」
待ちかねていたウクライナはオーストリアに合わせて舌を絡ませる。乳の揺れる音と
唾液の混ざり合う粘液質な音が空間に響く。これも、ひとつの音楽。
しばらくの後、離れた唇は首筋に落ちた。
「ひゃあん!」
ばいーん
はねるような反応にオーストリアは薄く笑う。
首をすくめぬよう顎を押さえ、耳の下から鎖骨へのラインをゆっくりと舌先で攻める。
「ゃ、ああ、ああん!」
べいーんどどいーんぶいーん
「素直な人だ。かわいいですね」
「ひゃああ!」
ゆっくりと体を撫で回しながら秘所に手を伸ばした。濡れ光るサーモンピンクの割れ目
を辿り、蜜壷に長い指を差し入れる。冷たい感触が進入し、ウクライナの体は驚きで
ちいさく跳ねる。
「ひゃん!」
オーストリアは薄く笑んで、結婚を重ねて培ったテクでウクライナをの弱点を探り
始める。
「あ……いや……あっ…ああっ」
柔らかい入り口、ぶつぶつの多いGスポット、奥のボルチオ……丁寧に内を擦り反応を
確かめていく。その間脇に手を這わせたり肉芽をいじったりと別を攻めることもぬかり
ない。
オーストリアの思うがままにウクライナは気持ちよさに溺れ、眼差しをとろりとさせて
いく。
「あっ……いいぁ……は、あん!」
「もう、こんなに濡れてますよ」
秘所から抜いた三本の指には温かな液がからみ、指の間に光る糸を走らせている。
「いやぁ! 見せないで!」
「……もうそろそろいいですよね? こちらも美しい音に我慢の限界です」
と、ズボンのチャックを下ろし、膨張したものをとりだした。血管の浮き出るほど固くなったそれをためらいもなくウクライナの中心にあてた。
一気に貫く。
「ああっ!」
いきなりの圧迫に声を上げるウクライナを見つめ、
「……うつくしいメゾソプラノだ」
荒い呼吸で呟く。そして、指揮棒を振るうクラシック音楽の指揮者のように、ゆっくり
と揺らし始めた。
「あっ、ひゃあっ、ああッ!」
「すばらしいですよ、ウクライナ。衝動のままに、歌うように声をお出しなさいッ」
続いて深く挿し、小刻みに擦る。
「はあ、ああ、あんっ。奥、おくだめぇ〜!」
ウクライナは内側から起こる波のような快感から、いやいやするように身を震わす。
はげしく奏でられる乳の音。
どいーんばいーんべべんぶぶいーん
粘液のいやらしい音と腰を打ちつける音が加わり、壮大な一つの音楽となって空間を
支配した。
その時、もうひとつ、別の音が混ざった。
コルコルコルコルコルコルコルコルコルコル……
腹の底からの低音。呻きにも似た声。
ウクライナがのそりとドアの方向を向くと、そこにはドアの隙間からどす黒いオーラを
発揮した骨太の影が覗いていた。
「ろ、ロシアちゃん……」
「すばらしい! バスのコーラスまで入り、音楽の完成度が上がった!」
オーストリアはおかまいなく、ウクライナを揺らしながら奏でられる音楽にうっとりと
耳をそばだてる。
不意に眼鏡をきらりと光らせてリズムをつけて胸の先端をはじいた。
「スタッカート!」
「ひゃ、あっ、あっ……」
ばに、ぼに、ぐに……
コルコルコルコル……
リズムにあわせてきつい締め付けがくる。続いておおきくその手でもみしだき、腰の
動きを早めながら咆哮するような絶叫。
「カンタァ〜ビレッ!」
「ひゃあ、ああぁ、ぁぁぁん!」
ばいんどどいーんぐいーん!……
コルコルコルコル……
カシャ、カシャ、カシャ……
跳ねるように肉襞も蠢く。別の音も加わった気がするが、気にする余裕はなかった。
音とともに与えられる快感。耳から心から体から、全ての快楽が大きな波となって
オーストリアに迫りくる。すばらしい。今までにこんな女性はいただろうか!?
一方、ロシアの姿を確認したウクライナは一瞬まずいと思いつつもまあいいか、と、
とりあえず気にしないことにした。
気にする余裕が無かった、と言ったほうがふさわしい。
オーストリアは絶え間なく性感帯を嬲り、肌からぞくぞくとした感覚、クリトリスから
は足の先まで電流が伝い、内からは鈍い波のような快楽が起きている。感じすぎて思考も
ぬるくなっている。あるのは穏やかに触れる指と、秘所をつく肉棒と、迫り来る快感で
溶ける脳と、全てを引き起こすうるわしき貴公子の姿。彼は表情を険しくし、ウクライナ
の名を呼ぶ。
「ウクライナ……、私は、もうッ」
それが、たまらなくうれしかった。
ウクライナはうなづくと自分の腰の動きも激しくする。自我は無かった。高まる感覚と
抽送のつど走るきもちよさに、自然と離すまいと腹に力が入る。
オーストリアが激しく動き、歯を食いしばり、喉から呻きを漏らす。
同時にウクライナは今日一番の大嬌声を上げ。、高みから一気に突き落とされる感覚。
絶頂の中、うっすらと開いた瞳から見えた彼の顔がたまらなくいとおしい。
喉で呻きをを漏らし、オーストリアはぶるりと身を震わせた。
びゅっ、びゅくっ、びゅ……
自分自身が膣内で震えるのをやめると、呼吸で体を上下させながら、恍惚の残る顔で
目の前の女性に微笑む。
「最高です! 音楽でこんなにもエクスタシーを感じたのは初めてです!」
「それ、音楽のせいじゃな、ふぁっ!」
ウクライナの瞳に頬に、キスを落とす。人生最高の気分だった。すばらしい楽器、
すばらしい音楽、それを奏でられたこと、そして目の前にいる美しい女性。彼女が
いなければありえなかった。愛しさがこみ上げて唇を重ねる。下唇をねっとりと舌で辿り、
それから口内に侵入し嬲り、唾液を送り込む。
「う……んっ…ちゅ…」
瞳を閉じ、素直に受け入れる。たどたどしく舌をからめてためらい、喉を嚥下する。
その様は音楽と切り離しても愛らしかった。
「あなたは……かわいい人だ」
「! な、なんですかいきなり」
「演奏に夢中になっていましたが、あなた自身もとても素敵です。素直さや穏やかさ、
スパイスにぴりりと効いた毒……あなたが素敵だからこそ音にも素晴らしさがにじみ出る
のでしょう」
「ふぁ!」
長くて綺麗な指が穏やかに髪を撫でる。ウクライナは耳まで真っ赤になる。そんなこと
を言われるのも初めてだった。
「……もう一度、聞かせてくれますか?」
「……はい」
恥らうような返事。幸福な結末が導かれた。
ように見えた。
虚をついて開いた扉から、弾丸のごとくプロイセンが突っ込んでくるまでは。
時間は少し戻る。
ちょうどことがなされている最中、たまたま廊下を通りかかったプロイセンはぎょ、
っと身を引いた。
「うぉあロシア!」
ドアの隙間からロシアが部屋を覗いていた。
コルコルコルコルコル……
地の底から湧き出るような声を上げ、目元を暗くしてドアの中を見つめてる、暗黒
モードのロシアだった。
その足元にもう一人。
「オーストリアさん……ハァハァ……オーストリアさん……」
呼吸を荒くした金髪ロリ巨乳ハンガリーである。デジカメ片手に興奮気味にシャッター
を押している。
「な、なにやってんだよお前ら!?」
ちょっと……かなり近寄りがたい空気を放っていたが、「オーストリア」という単語が
ひっかかった。
おそるおそる近づき、二人の後ろから覗き込んで顔面を硬直させる。
「カンタァ〜ビレッ!」
「ひゃあ、ああぁ、ぁぁぁん!」
「よくも姉さんをかどわかして……コルコルコル……」
「ハァハァ……今日も絶好調ですねオールトリアさん……ハァハァ」
プロイセンは頭を抱えた。あの様を見る限り、今のオーストリアは音楽家モードに
切り替わっている。モードといっても音楽的なものを見ると妄執する困った癖というだけ
だが、それがなウクライナに向かったのか。
まあ、いろいろまずいことだけは明確。
身内の犯罪は笑い事じゃすまされない。プロイセンは手にしていたペットボトルの
ファンタグレープを一気に飲みほした。品無く口元を拭いつつ飛び込むタイミングを計る。
「……もう一度、聞かせてくれますか?」
「……はい」
今だ!
プロイセンは踏み込んだ。飛び込み、疾走し、腰を低くした姿勢のままオーストリアに迫り手刀を逆袈裟に振り上げる。ヒュン、と空をきる音。
普段鈍いオーストリアが身を捩ってかわし、
「シ♯!」
絶対音感を発揮。音楽家モードの時は集中力が増しているため、やけに反射がいいのだ。
プロイセンは無意味な絶対音感攻撃を無視して手刀を切り返す。
「ド♭!」
かわされた。十数秒そのような攻防戦が繰られる。
その間オーストリアをくわえ込んだままのウクライナは「あんっ、あっ」と甘い声を上げる。
だが勝負は一瞬で決まった。飛び込み前に用意していた兵器が起動を始めた。
プロイセンの食堂をせりあがり、喉より、世にもおぞましい音が搾り出された。
「ぐげぇっぷ!」
「ぎゃあ!」
オーストリアは醜い不協和音に身悶える。その隙を打ち、プロイセンはとどめの一撃を
放った。
手刀はオーストリアの眼鏡を天高く舞い上がらせた。
かん、からん……
落下した眼鏡が床をすべる。
誰も、何も口にしようとはしない。
しばしの静寂をくぐり、地味目な顔を晒した音楽家はぽつり、と漏らしたのだった。
「……なんてことをしてしまったのだろう」
「我に返ったか」
眼鏡すなわち音楽的な何かを外され、真人間に返ったオーストリアは愕然と状況を
見回した。そして、驚かされたようにびく、と体を跳ねさせ、慌ててウクライナから
離れる。
「あ、あの、申し訳ありません! 音楽的な何かに支配されていました。謝ってすむこと
ではないですが……どうかお許しください」
「えっと……いままでの、ぜんぶうそってことですか?」
「いえ、音楽的にも女性としても魅かれたのは確かです。本当です!」
あまりの真剣さにウクライナは小さく笑い、
「なら、問題ないじゃないですか。私も、胸の音を美しいと言ってくれたオーストリア
さんが好き。ついでにお友達になってくれるとうれしいです」
「……ウクライナ!」
「オーストリアさん!」
ひしと抱き合う二人。プロイセンはまったくわけがわからず引きつった顔で眺めていた
が、本人がいいならいいや、と退場する。
オーストリアまんまとカモられてるけどまあいいやと思いつつ、ドアのあたりで
コルコルするロシアを避け、いまだハアハアしながらシャッターを切るハンガリーを見、
「……小ドイツ主義にしといてよかった」
弟に変態要素が二つも入るところだった、と胸をなでおろしたのだった。
<END>