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 変態紳士と未熟な淑女



 ピ─────!
 試合終了。高らかにホイッスルが鳴り響き、盛大な歓声があがる。イングランドvsリヒテンシュタイン戦は、2-0でイングランドの勝利で終わった。
 イギリスは試合の高揚もそのままに、予想外に堅実なプレーをみせたリヒテンシュタインへと足を向ける。
「いい試合だったな、リヒテンシュタイン」
「はい。私のような格下のチーム相手に真剣に戦ってくださってありがとうございます」
 荒い呼吸を整えながら、にっこりと答える。
「よろしければ、ユニフォームを交換して頂けませんか」
「ああ、もちろん」
 好試合を戦った相手である。歓迎こそすれ、断る理由などない。
 リヒテンシュタインはイギリスの返答に嬉しそうに表情を輝かすと、その場でユニフォームに手をかける。ユニフォームを脱ごうとする勢いで、下に着ているキャミソールまでめくられ、真っ白な腹に小さな臍がちらりと見えた。
「ち、ちょっと待て!」
「はい?」
 イギリスが慌てて制止すると、きょとんとしてリヒテンシュタインが動きを止める。
「その、ここで脱ぐのはまずいと思うが」
「そうですか?ユニフォームの交換はその場でするものだと理解していたのですが」
「いや、へそが見えて…じゃなくて…あー、そう、淑女がこんな大勢の前で必要以上に薄着になるのは良くないぞ」
 イギリスがとっさの思いつきでそう言うと、リヒテンシュタインはハッとして頬を赤くすると、恥じ入ったようにうつむいた。
「まぁ…私ったら。試合があまりに楽しくて、調子に乗りすぎていたようです。お見苦しいところを見せて申し訳ありません」
「い、いや構わない。ここじゃあれだし、控え室で交換するか?」
「はい。それではぜひ私の控え室にいらしてくださいまし」
 チーム内で唯一の女性である彼女は、控え室として小さな個室を与えられている。人目を気にせずユニフォームを交換するには最適だろう。イギリスもうなずいた。
 それにしても、とリヒテンシュタインが口を開く。
「イギリスさんは本当に紳士でいらっしゃいますのね」
 尊敬のこもったまなざしを向けられ、イギリスは思わずドキリとする。それを誤魔化すように、素っ気なく答えた。
「ま、まぁな!」

 イギリスの一歩前を歩き、リヒテンシュタインが控え室へ案内する。彼女の後ろ姿を眺めながら、イギリスは妙な居心地の悪さを感じていた。
 前を歩く少女を見やる。汗で首筋に張り付いた髪の毛。一歩進むたびに鼻腔を刺激する、汗と、少女特有の甘い香り。それらのすべてが彼を落ち着かなくさせる。
「ここですわ」
 リヒテンシュタインは扉の前に立つと振り返った。ソファとテーブルが置いてあるだけの小さな部屋だ。促されるままに部屋へ入ると、パタンと扉が閉じられる。
(し、しまった。これこそまずいんじゃないか!?)
 今更になって、狭い部屋にふたりきりになるという状況に気付いて慌てる。
(もし妙な雰囲気にでもなったら…)

───イギリスさんは本当に紳士でいらっしゃいますのね。

 ふと先程のリヒテンシュタインの言葉がよみがえる。
(そ、そうだぞ、俺は紳士なんだ。変なことになるはずがない!)
 落ち着け、冷静に、と心の中で呟く。
「イギリスさん?」
 何やら一人でぶつぶつ唱えているイギリスを不審に思ったのか、リヒテンシュタインが声をかける。
「ああ、すまない…」
 我に返り、リヒテンシュタインを見やると───そのまま固まった。
 繊細なレースの白いキャミソール姿で、不思議そうに小首をかしげながらユニフォームを差し出している。上目遣いが実に悩ましい。
 が、最大の問題はそこではない。
(ブラジャーをつけていない…だと!?)
 平らな胸元の、ささやかな小さな突起がそれを物語っている。
 この年頃の少女は皆ブラジャーをつけているものではないのか。どういうつもりなんだ!?とイギリスは激しく動揺していた。
 そのため、次のリヒテンシュタインのセリフに平常でいられなかったのは、仕方のないことだったのかもしれない。
「イギリスさんもはやく脱いでくださいまし」
「ぬ、脱げだと!?そんな可愛い顔して大胆な…!」
「えっ?」
 気が付くと、イギリスはリヒテンシュタインを強く抱きしめていた。もう我慢がならない。
 その首筋に顔をうずめ、思い切り少女の匂いを吸い込み、ささやく。
「きみがいけないんだぞ…!」
 強く首筋を吸われ、リヒテンシュタインが悲鳴をあげる。
「イギリスさん、なにを…!?ユニフォームを交換してくださるのではなかったのですか…っ」
 イギリスの動きがピタリと止まる。
 ユニフォーム。交換。
(しまったぁぁぁぁぁ!そうだったぁぁぁぁぁぁ!!)
 本来の目的を思い出して慌てる。だが正直にいって、走り出した衝動はいまさら止められそうにない。
(どどど、どうする!?)
 リヒテンシュタインを抱きしめたまま固まるイギリスに、目のはしにうっすらと涙を浮かべながらリヒテンシュタインが問う。
「いけないとはどうしてですか?私はまた、何か粗相を致しましたか」
 問いかけられ、わずかに逡巡したあと、覚悟を決める。
「…そうだ。きみは淑女らしからぬ行動をした。だから紳士たる俺が指導してやる」
「そうでしたの…大変失礼致しました。さすがはイギリスさんですわ」
 納得した様子で頷くと、ではどうぞよろしくご指導くださいまし、と微笑んだ。

「まず第一に。親しくない男と個室でふたりきりになってはいけない」
「でも、これはユニフォームを交換するためですわ。イギリスさんご自身も賛成してくださいました」
 向かいあったリヒテンシュタインが、冷静な意見を述べる。
「うぐっ。俺は紳士だからいいんだ!俺だからよかったが、そうでない場合──」
 ぐっとリヒテンシュタインの細い腰を引き寄せ、強引に上を向かせると形の良い唇に口付ける。
「あっ」
 驚いて唇が開いた隙を逃さず、イギリスが舌を差し入れる。
 逃げようとするリヒテンシュタインの舌を絡めとると、優しく、しかし執拗に蹂躙する。彼女の体の強張りがほぐれ、イギリスの舌の動きに己のそれを合わせてきた頃合いを見計らって唇を離す。
「──こういう真似をされても文句は言えない」
 リヒテンシュタインは、心地よい刺激が突然消えたことにハッとし、続きをねだるように薄く開かれた唇を慌てて閉じる。
「は、はい。勉強になります」
 素直な返事に、真面目な表情を取り繕ってイギリスは頷く。
(なんて純粋なんだ)
 内心にやにやが止まらない。
「次に、親しくない男の前で薄着になってはならない。あまつさえ、ブラジャーをつけずに過ごすなんて淑女失格だ!」
「そんな…お兄さまがブラジャーはまだ早いと…」
(スイス!お前の趣味かぁぁぁぁ!!)
 このシスコンむっつりスケベが!と心の中で罵りながら、キャミソールごしに小さな果実をつまむ。
「きゃあ!痛いです、イギリスさん」
「そうだろう。ブラジャーをしていないからこうなるんだ」
 リヒテンシュタインがはい、と返事すると同時に下からキャミソールの中へ右手を入れ、あるかないかのささやかな膨らみに直接触れる。
「あぁっ、お止めください!」
「薄着をするからこんなに簡単に触られてしまうんだ。リヒテンシュタイン、きみが悪い」
「わかりました、わかりましたからお手を止めてくださいまし…!」
 イギリスの手はただ触れるだけでは飽き足らず、小さな突起をくりくりと弄りながら胸をこね回している。キャミソールをめくって胸をあらわにすると、反対の胸へ顔を近づける。ちゅうっと吸い付くと、ちろちろと舌先で転がし、甘噛みをする。
「はぁ…っ…やめて…私、おかしくなりそうです…」
「男にそういう表情を見せてもいけないぞ、馬鹿な男がつけあがるからな」
 真っ赤に頬を上気させて、リヒテンシュタインは懸命にふるふると首を左右に振る。
「イギリスさんが…ぁうっ…そうさせているのですわ!」
 しかし、リヒテンシュタインの必死の抗議をイギリスはあっさりと受け流す。
「俺は紳士だからいいんだ」
 なんて便利な言葉。紳士って素晴らしい。
 もはや恐れるものはなにもないイギリスは、調子に乗ってリヒテンシュタインの下腹部へと手を伸ばした。
「きゃあぁ!そこはダメです…!!」
 ぬるり。短パンごと下着の中へと手を滑り込ませると、そこは多量の蜜であふれていた。
「うわ、すごい濡れてるな」
 思わず感嘆の呟きをもらすと、リヒテンシュタインが悲痛の声をあげる。
「お許しくださいまし…気が付いたらこんな…」
 ほろほろと涙を流しながらイギリスへと許しを請う。その様子にさすがにイギリスもほんの少し罪悪感を感じた。
 だから、できるだけ優しく言ってやる。
「いや、いいんだ。これは俺を受け入れるために溢れているんだからな」
 安心していいぞ、と軽く額に口付けてやる。
「イギリスさんを…?」
「そう、俺を受け入れることで立派な淑女へと成長できるんだ。だから怖がらないで、俺にすべてまかせればいい」
 淑女としての自分を否定されつづけて自信を喪失していたリヒテンシュタインは、イギリスの優しい言葉にすっかり感動してしまっていた。
「ありがとうございます、イギリスさん。…すべて貴方の仰せのままに」

 抱き上げたリヒテンシュタインをソファへと押し倒す。その姿に衣服はすでにない。
 リヒテンシュタインの足の間に体を滑り込ませると、イギリスは己の分身を彼女の秘所へとあてがう。
「ひ…っ」
 初めて見るそれに思わず息を呑み、体を強張らせたリヒテンシュタインに優しく口付ける。
「最初は苦痛かもしれないが…俺を信じてくれ」
 そういうと、一気にリヒテンシュタインを貫いた。
「ああああぁぁぁっ!!!」
「く…っ」
 リヒテンシュタインは、体の中心を引き裂く痛みに涙をぼろぼろとこぼしながら、自分の口を両手で押さえて悲鳴を飲み込む。
「す、すみませんイギリスさま。私は大丈夫ですわ」
 イギリスを信じきったリヒテンシュタインは、そうやって健気に痛みに耐えていた。
「リヒテンシュタイン…」
 イギリスの胸に浮かんだのは、限りない感動だった。
(あぁぁもう純粋すぎるだろう!スイス、俺はお前に名誉勲章を授けたい!お前はよくやったよ!)
 実際にそんなことをすれば並みの報復では済まされないだろうが、そんなことはどうでもいいことだった。この感動を目の前の少女にぶつけるほうが大事である。
「あぁ…愛してるよ、俺だけの淑女」
 蕩けるような微笑みで囁かれ、リヒテンシュタインもゆるゆると微笑み返した。
 イギリスはゆっくりと腰を引き、やはりゆっくりと腰を押し付ける。動きにあわせて息を詰めては大きく吐き出し、リヒテンシュタインはそれを受け入れる。
 少しずつ速度を速め、リズムをかえて動くうちに、リヒテンシュタインの表情に変化が出てくる。
「あ…、はぁ…ん…」
 小さな甘い吐息が漏れ始める。耳元へと唇を寄せると、耳たぶを舐めながら囁く。
「どうした?声が出てるぞ」
「あんっ…勝手に…出てしまうのです…っ」
 先ほどのように手で口を塞ごうとするのを、すばやくイギリスが掴んで止めて意地悪く笑う。
「もっと聴かせてくれ」



「あうっ…んぁ…っ…あぁん!」
 小さな部屋に可憐で淫らな嬌声が響く。腰を押し付けてぐりぐりと回してやりながら、小さな胸の頂点をいじってやれば、ますます鳴き声は増していくばかりだ。
「だめ、ダメですイギリスさぁん!やぁっ、それ以上したらぁ!」
「ははは…っ、胸、弄られるの好きなんだな」
 きゅっと摘んでやるだけで、リヒテンシュタインの内部はイギリスをぎゅうぎゅうと締め付けてくる。ただでさえ狭いのにこうも締め付けられると、イギリスもたまったものではない。
 リヒテンシュタインを思うままに乱れさせているつもりだったが、結局は自分も限界に追い込まれていた。自然と腰の動きが激しく、速度を増していく。
「ああっ…もう、もう限界ですっ…おかしくなっちゃいそうです!」
「いいぞ…おかしくなってしまえ!」
 勢いにまかせて叫ぶと、ひときわ強くリヒテンシュタインの最奥へと腰を叩きつける。
「やぁぁぁぁぁっ!!」
 リヒテンシュタインの悲鳴に近い嬌声にわずかに遅れて、イギリスも彼女の中へと欲望を解き放った。
「イギリスさん、今日は本当にありがとうございました」
 私の知らないことばっかりでしたわ、と頬を染めてリヒテンシュタインが言う。
「いやいや、お礼を言われるほどのことは」
 一方的にいい思いをしただけのイギリスは朗らかに笑って答える。
「お兄さまに今日のことをお話して、イギリスさんがどんなに素晴らしいかお伝えいたしますわ」
「え゙っ」
 途端に真っ青になってイギリスが固まる。やばい…全身を冷たい汗が滝のようにだらだらと流れ落ちていく。
 イギリスの様子に気付かず、にこにことリヒテンシュタインが続ける。
「きっとお兄さまも感動して貴方に感謝なさるに違いありません」
「それは絶対ない!!」
「え?」
 思わず反射的に返事をしてしまった。あわあわと言い訳を探す。こういうときはどうすればいいか。
「いや、そのだな、信じていた妹が他国の前で淑女らしからぬ振る舞いをしたと知ったら、スイスはどう思うだろうか」
「それは…きっと落胆なさると思います」
 言われて初めて気付いた、というようにしゅんと肩を落として答える。よしよし。
「俺としてはきみがスイスに怒られるのは本意じゃないんだ。だから今日のことはふたりだけの秘密にしないか?」
 俺の指導を受けてからのきみはなかなかの淑女だったし───ととどめに付け加える。
「まぁ…!なんてお優しいんですの!」
 リヒテンシュタインの顔がぱぁぁっと輝く。すると、少し悩んだ様子を見せた後、思い切ったように言った。
「でしたら、お願いがございますの。よかったらお兄さまに内緒で、また淑女への手ほどきをして頂けませんか」
(うわぁぁまじか!?)
 これは正直予想外だった。恐るべき純粋さである。
「お兄さまには日々大変お世話になっております。せめてそんなお兄さまに恥じぬ淑女になりたいのです」
 お願いします、と丁寧に頭を下げられてイギリスは非常に困惑していた。
(こ、これは美味しい…いやでもいつまで真実がばれずに済むか…)
 危険な提案だ。だが…。
「…わかった、いいだろう。なんたって俺は紳士だからな!」
 誘惑に負けた瞬間だった。
「ありがとうございます、イギリスさん!これからはビシバシ扱いてくださいまし」
 扱くのは俺のアレだけどな!と思いつつ、これからどんなことを教えて行こうか早くも楽しみでしょうがない変態紳士なのであった。


 彼らがスイスに知られずにどこまでこの関係を続けられるか───それは神のみぞ知る。








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