奥さん運び大会〜完結編〜
さて。
そうこうしている内に、イギリスがスペインと並んでいた。
両者とも、女性陣と文字通り自分自身に振動を与えないように早歩きだ。地味だ。
「イギリス…相変わらず変態やなぁ」
「ふん、お前に言われたくねぇよ」
「いやー、あんたのが変態やと思うで」
ベルギーが口を挟むと、セーシェルも頷いた。
「同感です」
「お前らあとで覚えとけよ…」
変態紳士コールに負けじと、イギリスの足が早まる。
セーシェルが小柄なだけあり、まともにやって一番早いのはイギリスだ。
…そして、拮抗する二組の後方では、オーストリアが地味に限界を突破しそうだった。足的な意味で。
そしてハンガリーも限界を迎えそうだった。性的な意味で。
焦点の合っていない恋人の目を見て、オーストリアが口を開いた。
「ハンガリー…ハンガリー!」
「ふぇっ?」
「あなたも…はぁ、限界なのでは、ないですか?」
「そん…な、こと…」
ハンガリーはオーストリアの首に腕を回し、しっかりと抱きついていた。
だから、彼女の息が浅く早くなっているのが手に取るようにわかったのだ。
「…すみません」
言い逃れは出来ないと思ったのか、ハンガリーはしゅんとうなだれた。
もともと二人は身体の相性がいいほうで、挿れてから10分ももたないのが常だったのだ。
それに加えてこの異常な環境がハンガリーの性欲をかきたてている。
仕方ないといえば仕方ない。我慢を強いるのは酷だろう。
そして。
苦しげな呼吸を繰り返す彼女を見て、オーストリアはぴたりと足を止め、
「棄権します」
唐突に、高らかに、宣言した。
ハンガリーが「えぇっ!?」と驚きの声をあげる。観客がざわめく。
しかしオーストリアは顔色一つ変えず、膝を折って地面にしゃがみこんだ。
『おおーっとまさかの展開!!日本&台湾に大きくリードしていたオーストリア&ハンガリー、まさかの棄権だぁ!!』
『まぁ妥当な判断とも言えますね。オーストリアさんも足にだいぶきてますし』
好き勝手言う司会と解説を尻目に、ハンガリーはオーストリアを見上げた。
「オーストリアさ、んっ」
ずるっと抜かれる。着衣の乱れを直して、オーストリアがふうと息をついた。
「さあ、行きますよハンガリー。立てますか?」
「オーストリアさん、なんで棄権なんか……」
「あなたが乱れる姿は私だけが見るものです」
僅かに顔を背けて言う。その言葉にハンガリーはくらっと来たが、本来の目的を思い出して声をあげた。
「でも、ビデオが」
「諦めなさい」
「諦め…っ?」
「そもそも勝ったからといって、返してくれる保証はどこにもありません。…それに」
ハンガリーの手を取って立たせると、オーストリアはそのまま彼女を抱きすくめた。
いやに積極的なのは未だに息子がスタンダップしてるからだろうか。ハンガリーはうっすらそう思った。
そんな彼女の胸中いざ知らず、オーストリアが囁く。
「…私が相手のセックスに、何か不満がありましたか?」
完敗だ。
ハンガリーは恋人の胸の中で、小さく首を横に振った。
「不満なんて、あるわけないじゃないですか」
「なら行きましょう。…続きは家で」
「はいっ、オーストリアさん!」
二人が手を取って歩き始めると、自然と会場内から拍手が沸き起こった。
某プロなんとかさんだけは「面白くねー」という顔をしていたが。
さて、とエストニアがマイクを取る。
『なんと二組目の脱落者が出てしまいま…フランスさん!拗ねないで下さいよ!!』
『別に拗ねてねーしー。あれくらいのことならお兄さんもやってるしー』
『某国みたいな口調で言っても駄目です。さ、早くしないとイギリスさんの料』
『さあさあさあさあ!盛り上がって参りましたー!!』
もはやお約束となりつつある二人の会話を聞きながら、気苦労娘こと台湾は困り果てていた。
どうしよう、と頭の中で必死に考える。
台湾のパートナーである日本が、廃人と化していたからだ。
「日本さんっ、日本さんてば」
「は…はいナンデショウ」
「もういいですってば!降ろして下さい!降ろして!」
「ソウイウワケニハイキマセン」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。台湾は必死に思考を巡らす。
早くやめさせないと死ぬ。大袈裟じゃなくそう思っていた。
が、日本はくたくたに疲れはてているだろうにもかかわらず、台湾を決して離そうとはしないのである。
日本男児としてのプライドか、ただの意地か。わからないが力が強く振りほどけない。
台湾自身突っ込まれている身なので、力は入らないし大きくは動けない。
このままじゃいつかイってしまうかも…と台湾は表情を曇らせた。
と、その時だった。
「そうだっ!」
「ドウシタンデスカ」
「いっ、いや、その」
思わず声が出てしどろもどろになる。が、これは逆にチャンスやもしれない。
台湾は覚悟を決めると、日本を睨み付けた。
「日本さん、どうしても私を降ろしませんか?」
「ハイ」
「わかりました。じゃあ」
と言って、台湾は日本の唇に口づけた。
さしもの日本も目を見開く。足が止まる。台湾を支える腕に力がこもる。
そして、台湾の舌が伸びた。
「んう゛っ!?」
『フレンチ!!フレンチ来た!!フレンチ来たぞぉぉぉ!!』
『落ち着いて下さいフレンチ…フランスさん』
そんなアナウンスが日本の耳へも届く。
突然のキスのせいか、ショックで僅かに正気を取り戻したらしい。
えーと私はなんでここにいるんでしたっけ?ていうか何してるんでしたっけ?
そんなことを考えていると急に下半身がピリリと反応した。
海綿体に血が集まる。代わり…ではないが、頭らへんから血がひいた。
慌てて口を離す。
「ふぐ、んなっ、なにしてるんですか台湾さん!!」
「黙ってて下さいっ!」
台湾が凄まじい剣幕で叫んだ。心なしか膣内のナニが縮んだ。
台湾は驚いて固まっている日本の首筋にキスを落としていった。
耳の下から首の付け根までいったあたりで、たまりかねて日本が目を瞑る。
「台湾さん、やめ、やめて下さいっ、これ以上やられたらさすがに…」
「いいですよ、出して下さい」
「はい!?」
思いがけない言葉。
台湾はキス攻撃を止めて、真っ直ぐに日本の目を見た。
「だって…そうでもしないと日本さん、ぶっ倒れるまで歩…走るでしょ?」
「え…いや」
「もしこれでまかり間違って死んじゃったらどうするんですか?私、未亡人になるのは嫌ですよ」
「た、台湾さん?」
台湾は喋っていくうちに涙声になっていき、ついに泣き出した。
「わたっ、私のせいで日本さんが死んじゃうなんて、ひっ、嫌ですからぁ!」
「おっ、落ち着いて下さい!さすがの私もそんなことじゃ死にませんよ!」
「日本さんのばか!わからず屋ぁー!」
溜まったあらゆるフラストレーションを解消するかのように、台湾が腰を動かし始めた。
疲れで抑制を失い、キス責めで弱った日本が耐えきれる筈がなく、
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ、あっ」
長い悲鳴のあと、日本はどっすんと背中から倒れた。
心なしかその顔は清々しい。
『………』
『………はっ。ふ、フランスさん、司会司会』
『え、あ、…えー、何か凄い物を見た気がするんだが…』
『ぎ、ギリシャさん判定…あ、出た?出ましたか?』
ギリシャが笛をくわえて、腕で大きく×印を作る。
『日本さん射精により失格です!!…お、お疲れ様でした』
『お、おい、日本生きてるか?…台湾ちゃんすげぇな…』
と、その時、日本の胸に顔をうずめていた台湾がむくりと起き上がった。
ぐす、と鼻をすすり、つつつ、と日本の顔を覗きこむ。
「…日本さん、大丈夫ですか?」
「はい…」
「…あの…やりすぎました、ごめんなさい」
台湾は真っ赤な顔で、涙の残りをぽろりとこぼした。
怒ると我を忘れるのはお互い様なのだが、台湾は気付いていない。
日本は気だるそうに首を横に振り、手を伸ばして台湾の頭を撫でた。
「いえ…私こそなんだかむきになっていて…」
「…帰りましょうか」
「そうですね。帰ってお茶にしましょう。昨日おかきを作ったんです」
「…ふぁい」
台湾がまたぐすっと鼻をすすった。
日本は笑って起き上がる。その拍子に息子が抜けた。
「さ、行きましょう、台湾さん」
「…はい、日本さん」
そして二人は手を繋いでレーンを後にした。
観客席から自然と沸き起こる拍手。お疲れ様コール。
試合には負けたしいいことはなかったけど、何か大切なものを得たような気がする…
二人はそう思っていたのだった。
『えー、何だか終わらしていいような雰囲気ですが、まだ終わっていません』
『え?他になんかあったっけ?』
「俺たちがまだ走ってるだろうがぁ!!」
イギリスが叫び、観客の視線が、デッドヒートを繰り広げる二組に注がれた。
リタイア二組のせいですっかり無視されていたが、ゴールまであと僅かである。
『あー、さっきまでスペインが遅れてたよな?いつの間に並んだんだ?』
『VTRをご覧ください。イギリスさんが少しバテた隙に、スペインさんが盛り返したようですね』
『お…おー、スペインすげぇな。まだこんな余力が…あーはいはい』
観客もVTRを見てはいはいと頷いている。
「なぁイギリス…俺らなんで走っとんのやろ…」
「俺もちょっとわかんなくなってきた…」
「が、頑張ってぇなスペイン!あとちょっと!あとちょっとやで!」
「そうですよイギリスさん!ここまで来てリタイアなんて私嫌ですよ!?」
無我の境地に達してきたパートナーに慌てて檄を飛ばす二人。
もはや歩くのすら覚束なくなってきた男性陣の眼前には、ゴールテープが見える。
ベルギーは考えていた。ここまで来て負けるのは我慢ならない。なんとかして勝ちたい。
隣を歩く二人を見る。セーシェルが必死でイギリスに声をかけていた。
正直、勝てる見込みは薄い。スペインはさっきの追い上げで限界突破した感じだ。
セーシェルの方が自分より小柄なのもベルギーはわかっていた。それはどうしようもない。
ならば出来ることは一つ。ロバを走らせるにはどうしたらいいか。
餌だ。
「…なー、スペイン」
「な…なんや…?」
「あのな…私も勝ちたい思うねん。だからな…」
ベルギーは腹をくくり、出来る限りの笑みを浮かべた。
「もし勝てたら、今夜は好きにしてええで…?」
今夜は、好きに。
何も夕飯の話をしているのではない。
その言葉の意味を理解した瞬間、スペインは走り出していた。
『おおーっとスペイン速い!凄い!どこにそんな力があったんだよ!!』
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁベル最高ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ベルギーは胎内の感触に顔をしかめていたが、耐えた。
あと僅かな距離なのだ。スペインは限界を越えて頑張っている。
ならば自分も頑張らなければ割に合わない。勝利は掴めない。
強い夫婦の絆が、そこにはあった。
「な…!嘘だろ、なんだあいつ!?」
驚くイギリス。その上でセーシェルは彼以上に驚いていた。
ベルギーが囁いたのが彼女にも聞こえたのだ。
それすなわち自分の身を犠牲に、恋人を勝ちへ誘うこと。愛が成せる技である。
そう、同じ手を使えば並べるかもしれない。
だが、この変態紳士に「私を好きにして」なんて言ったらどうなることか。
しかし…ここで負けるのも嫌だ。
セーシェルは気がつくと叫んでいた。
「いっイギリスさん!」
「なんだよこんな時に!?」
「もっもも、もし勝てたら…!」
その瞬間。
セーシェルの脳裏に、あんなことやこんなことをされる自分の姿が過った。
「今夜はすき焼きにしていいですから!」
「!?」
イギリスのリアクションは酷く真っ当なものだったと言える。
『スペイン&ベルギー今ゴォォォォォォォォォォォォルッ!!』
そして、スペインが満面の笑みでゴールテープを切ったのだった。
*
『えー、ということで、第一回「裏・奥さん運び大会」の優勝者はスペイン&ベルギーペアです!!』
『まぁある意味順当だったな。優勝者にはトロフィーと賞金が贈られるぜ』
『おめでとうございます!ではスペインさん、一言どうぞ』
「いやぁ…最後に愛は勝つっちゅーか、なぁ?ベルのおかげやでー」
『ベルギーさんも一言…って、あの、ベルギーさん?顔色が悪いですが…』
「いや…えっらい約束してしもうた…ってな…泣きたい気分やわ…」
「ベルったら照れんと大丈夫やで〜。約束どおり楽しみにしとき!」
「はは…」
『よくわかりませんがありがとうございました!…さて、終わりましたねフランスさん』
『ああ、途中ムカつくこともあったが楽しかったな』
『次回開催の折には、出場者を増やしたいものですよ』
『リヒちゃんやベラルーシちゃん、あとベトナムちゃんとかな!楽しみだぜ』
『リヒテンシュタインさんはスイスさんとの出場要請をしたんですが、断られましたからね』
『あぁ残念だ…まああの兄貴ならなぁ』
『…と、ここでお知らせです。医務室のアメリカさんが意識を取り戻しました』
『お、あとで見舞い行くかな。ついでにおっぱいの感触聞いてこよう』
『トラウマになってなきゃいいんですけどね…さて、お時間が迫ってきました。また次回お会いしましょう』
『俺と出てもいい女の子はいつでも大募集してるからな!待っ』
ベラルーシはそこでラジオの電源を落とした。
そして未だ固く閉ざされているドアを見上げる。
「兄さん…兄さん、終わってしまったわ…私と兄さんなら優勝出来たのに…
…まあいいわ、それより早くこんなドア取っ払いなさいと言ってるでしょう…!さあ兄さん結婚結婚結婚結婚けっこんけっこんけっこんけっこん結婚結婚
けっこん結婚けっこん結婚結婚結婚結婚けっこんけっこん結婚けっこん結」
「もう帰ってぇェェェェ!!!!」
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