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 少女とひまわり


――なんで、この少女は自分の発言を真に受けているのだろうか。
組み敷いた裸体の少女を改めて眺め、不思議そうな表情を浮かべる。
太陽のような明るい髪に、青いリボンが愛らしい。
首筋にふれれば、恥ずかしげに頬を赤らめる。


きっかけは冗談だった。
会議に少しだけ遅れてきた少女に、
「遅刻なんてずるいな。これは謝罪と賠償を請求しちゃうよ」
ある者の口癖を真似しただけ。
ほんの冗談だったのだから、彼女に言われるまで忘れていた。
会議の後、泣きそうな顔で謝罪をされるまで。
その泣き顔が被虐心をくすぐる。
タイミングよく、彼女の兄は欠席だった。
だから、本当にきまぐれだった。

「じゃ、体で賠償させてもらうよ」
誰もいない一室に彼女を案内し、にっこりと微笑むと彼は言った。
最近は、姉といい、妹といい、体の関係を迫っても、素直に自分を受け入れてしまう。
心の奥底に眠る残虐心が喚き立てる。これでは足りないと。
だからこそ、目の前の少女でうさを晴らそうとしたのだ。
泣き叫んでもいい。
抵抗されるのも面白い。
どうせ、最後は自分から腰を振るようになるのだから。
なのに。

「あの、それで許して頂けるならば、私頑張ります
それで、私何をすれば宜しいでしょうか」
「体で」という意味がわからなかったのか、首をこくんと傾け、答えを待つ。
世間知らずとは聞いていたが、ここまでとは。
さすがは箱入り娘。
それならば、暗い闇に堕ちる姿はさぞや楽しいだろう。
蝶の羽をむしる感覚ににている。
溢れ出すどす黒い感情を押さえ、彼女の問いに答えた。
「簡単だよ。君は裸になって横になるだけ。そうすればすぐに終わるからさ」

さあ、反応が楽しみだ。
泣くか逃げるか、抵抗するか。
シミュレーションをしてみる。
泣いたならば、問答無用で犯してしまえばよい。泣き声はやがて鳴き声に変わるのだから。
逃げようとしたら……無駄だ。扉の鍵はしっかりとかけたし、窓も施錠済み。逃げられはしない。
抵抗されるのが一番楽しいかもしれない。
抵抗されたら、腕を捕まえ、縛ってもいい。頬を殴って、恐怖心を抱かせるのもいい。
震える体を押さえつけ、服を無理やり脱がし、濡れてもいない中にいれるのも楽しそうだ。

しかし、彼女の反応はどれにも当てはまらなかった。
頬を赤らめ、戸惑った顔で彼をしばらく見つめると、覚悟したかのように、服に手をかけた。
ワンピースはかなり潔く脱ぎ捨てる。
ペチコートは少々戸惑っていたが、思い切って脱いだ。
微かに膨らむ胸を隠すキャミソールと、水色のリボンのついたかわいらしいショーツ。
泣きそうな顔。だが、溢れそうな涙を必死にこらえている姿が可愛らしい。
「こ、これを脱げばよろしいのですよね」
キャミソールに手をかけるが、中々動かない。
覚悟をしたかのようにぎゅっと目をつぶり、腕を動かし
「待ってよ」
腕をつかむ。きょとんとした目で彼を見つめる姿に、新たな好奇心がわいていた。
「ここからは僕が脱がしてあげる」
同意をえる前に、彼の手はキャミソールの中に進入し始めた。
傷一つ無い、白くて滑らかな肌。平原でちょこっと主張する胸の突起。
「ふぁ……ロシア様ぁ……」
きっと男に触れられた事など無いのだろう。頬が朱に染まる。
この無垢な少女を侵略するのはきっと楽しいだろう。
侵略して、堕として、自分の手で淫らにするのも良い。

ただの好奇心。愛情の欠片などありはしない。どうせ自分以外は『物』でしかないのだから。


首元に舌を這わせれば、可愛らしい反応をしてくれる。
抱きかかえ、背中を指でなぞり、声を出させる。
楽しい。こんなに素直な『おもちゃ』は久しぶりだ。

だけれども……どうせこの『おもちゃ』もいつかは壊れてしまう。淫乱なただの『道具』へと堕落してしまう。
彼の表情が曇る。少しだけ泣きそうな顔になり……

頬に触れる柔らかな感触。

感触の元を見れば、恥ずかしそうに微笑む彼女の顔が間近にあった。
「す、すみません。何か……泣きそうだったので」

――泣きそう? 誰が?

馬鹿馬鹿しい発言に、彼の思考回路は停止させられた。
――涙なんて久しく流していない。涙は弱いものが流すものだ――

再び、柔らかい感触。今度は彼女の手が頭を優しく撫でていた。
「……泣くと少し楽になれますよ。ここには私しかいませんから……ね」
「泣く気なんてないよ」
自分より小さな少女が、必死に背伸びして自分の頭を撫でる。
どこか滑稽な姿に、彼の肩から力が抜けた。
ついでに『おもちゃ』で遊ぶ気も抜けてしまった。
彼女を強く抱きしめると、ベッドへと押し倒す。
胸に顔を押し付けて、鼓動の音を聞く。やや早い音だが、安らぐ音。
「もういいや。眠い。今日は僕の枕になってよ」
犯そうとか、泣かそうとか思っていた心はどこかにいってしまった。
甘い香りが心地よい。心臓の音が気持ちよい。
頭を優しく撫でてくれる手が幸せで。
――いつの間にか、彼は夢の中へと落ちて行ったのだった――


夢を見た。
青空。暖かい太陽。緑の草原に、空に向かって伸びるたくさんの向日葵。
そこには皆が笑っていて。皆が傍にいて。手をつないでいてくれた。
優しい日差しは、少しだけまぶしくて。

「ん……」
夢から覚めても、残っていたぬくもり。
規則正しい鼓動と呼吸音。
そういえば……と昨晩の出来事を思い出した。
あれから、彼女を枕にしてただ眠り続けていたらしい。
久しぶりに朝が気持ちよい。いままで、朝は憂鬱なものでしかなかったのに。
隣で幸せそうに眠り続ける少女。
太陽のような髪を指で梳くと、空色のリボンが揺れる。
身じろぎをし、彼女の瞳が開かれた。草原のような緑の瞳。
ぼんやりとした表情。彼の顔を見つけ、柔らかな笑顔を浮かべた。
「おはようございます」
「おはよう」
唇をすばやく奪うと、彼もにっこりと微笑む。
顔を真っ赤にする彼女がとても愛おしい。
だから

「また僕の枕になってね」

純粋なお願いを口にした。裏も表もない、本当に純粋なお願いを。

――暖かい所で、向日葵に囲まれて暮らす。
そして彼女が微笑んで、自分を待っていてくれる――

少しだけ増えた未来の夢。
きっと叶う気がする。
彼女さえいてくれれば。

「あの、ロシアさん……」
「なーに?」
「私、少々動きにくいのですけれども」
「僕は別に動きにくくないから、安心してよ」
顔を合わせてからというもの、リヒテンシュタインはロシアにずっと抱きかかえられたままなのだ。
後ろから手を回し、彼女の腰あたりで手をくむ姿は、まるでカナダがクマ二郎さんをだっこしているようである。
彼女の意志は尊重し、動きたい方向に一緒に歩いてくれるのは助かるのだが。
「いい加減、妹を離さんか」
「やだ。リヒテンシュタインは僕の枕だもん」
事あるごとに、スイスとロシアの火花が散るのがつらい。
その後ろには、ベラルーシの冷たい視線もあるのだが、彼女がそれに気がつかないのは幸いなのだろう。
別にロシアの事は嫌いではない。
好きか嫌いかでわけるとしたら、好きの部類に入るだろう。
あれから、時折会議の休憩時間に空き室に連れ込まれもしたが、何をされるわけでもなく、ただ枕にされ、眠るまでの相手をせられているだけ。
無邪気に眠る姿は、彼女の安らぎの一つにもなっていた。
だからこそ、ロシアを邪険に扱う事はできない。
兄以外の誰かに抱かれるのも心地よい。心地よいのだが……
「離さんと、粛清する!」
「ふふっ、受けて立つよ。コルコルコルコル」
殺気だった二人の火花が、彼女の上で炸裂する。
どちらを止めればいいのか、彼女には判断しかね……今日も可愛らしいため息がこぼれたのだった。


「ロシアちゃん、楽しそうね」
「……悔しいけれど、本当。
 あの娘をいじっている時もそうだけど、スイスとやり合っている時も楽しそう」
そして、それがロシアの心からの笑顔という事を知っているのは、姉妹だけである。




カテゴリー
[リヒテンシュタイン][ロシア]

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