〜Auguri a te〜
慌しく駆け回る人々。
机の上に様々な料理が並び、更にキッチンから心地よい音が聞こえ
「うわっ、バカか! なんでケーキが爆発するだよ!」
「お馬鹿さんは貴方でしょう。プロイセン、邪魔しないでください」
「そうそう。あんたはどっか端っこにいってなさい。ここは私とオーストリアさんに任せて」
否、時折爆発音やら、破壊音やら、罵倒の声が聞こえもするが、それなりに平和である。
コック姿のフランスが手際よく料理を用意し、イタリア兄弟が机に並べる。
「っと、これもできたぞ。ほら、並べて……おい、そこの眉毛。勝手に料理兵器つくんな」
「料理兵器言うな!」
「そうですよ。作るなですよ。シー君の味覚が破壊されますよ」
「そうそう。イギリスは黙って悪魔召喚でもしてろですっ」
弟のようなシーランドと、元イギリス領のセーシェルにまで止めを刺され、泣きくれるイギリス。
「てめーら、とっとと手伝えや! 帰ってきちまうだろーが!」
暴走しかけるイギリス反抗コンビにカツを入れ、トルコが舞台の準備を指示し。
その後ろでぼそっと
「…トルコが一番煩い」
ギリシャが呟いたおかげで、希土戦争が勃発しかけるが、空気を読んだ割烹着姿の日本が割ってはいった。
「まあまあ、ほらこんなめでたい日に喧嘩しないでくださいよ」
「そうそう、喧嘩するだなんてつまらねー事はもう辞めだ。ところで、日本、この赤い飯は?」
「日本さんちの『お赤飯』ってものみたいです」
キューバの問いににっこりと台湾が答える。
その台湾の後ろから覗き込み、太い眉をしかめて
「相変わらず、日本のred riceはAmerican的でdangeだな」
「失礼ですね! 香港さんは。さすがにアメリカさんには負けますよ」
「赤飯の起源は俺だぜー。それはおいといて、俺特製のミヨクッできたんだぜ」
「我も特製拉面できあがりあるよ」
亜細亜組の料理も淡々と出来上がりつつある。
後は外に出ている者たちと、いつものように遅れてくる者たちがくれば完璧なのだが。
丁度、ドアが開いた。外には泥だらけの男二人と、手に花を抱えて微笑む少女が一人。
「Lebensbaumの植樹終わったぞ」
「良いポプラの苗を植えた。きっと素晴らしい大木になるであろう」
「そうですわね。お二人が植えている最中、お花つんできましたので、是非飾ってくださいまし」
「ん、ご苦労。各部屋の風呂わいてっど。ドイツ、スイスはいってこ」
むっつり顔のスウェーデンに促され、やはりむっつり顔のドイツとスイスは浴室へと向かった。
怖い顔をしているが、実は優しいスウェーデンに、フィンランドの顔はゆるむ。
それにつられて、花を抱えているリヒテンシュタインの顔も笑顔になり
「あ〜あの二人がいると天国……って、いた痛い! ベルギー耳ひっぱんのやめー」
でれでれしはじめたスペインをベルギーが耳をひっぱり、仕事に引き戻す。
その後ろで、スペインの醜態を微かに笑うと、何事もなかったかのように食器を並べ始めるアイスランド。
「壷…」
リヒテンシュタインの花をうけとると、エジプトはいつの間にか手にしていた壷に次々と生ける。
食卓が料理と花と笑顔にどんどん包み込まれていく。
準備はそろそろ終わりに近づいてきた。
と、その時、盛大に遅れてきた者たちが賑やかに入ってきた。
「ごめんなさい! アメリカが『ヒーローは遅れてくるものだゾ』って言い張って」
「すみません。ロシアさんが『なんで僕が準備しなきゃいけないの』って、のんびりしすぎて」
入ってきた途端に、頭をさげ、謝罪の言葉を述べるカナダとリトアニア。意外に似たもの同士である。
だが、そんな二人の事なんて露知らず、諸悪の根源はゆったりとした仕草で入ってきた。
……何故か、手にはバットと洗濯ばさみをもって。
「つーか、何もってるし? バットと洗濯ばさみでなにやるん?」
怖いもの知らずのポーランドが、こういう時は心強い。
「あ、これ? 俺のうちでは誕生日に年の数だけ尻叩くって風習があるんだ。それだけだよ」
「ふーん、偶然だね。僕んちでも、誕生日に耳引っ張るっていうのあるんだよ」
「ちょっ、凶器はダメですよぉぉっ」
涙目のラトビアが二人の手から凶器を奪い取った。
行動した後で、自分のした大胆な行動に気がついて、震えが大きくなる。
ちらっと二人を見た。アメリカは残念そうな顔で、仕方なしに素手で尻たたきの練習をしているだけだったが。
地獄の底から響くような声。そして、満面のロシアの笑顔。
「ら、ラトビアぁぁぁぁぁっ」
『ああ、こんなめでたい日にも、僕はこんな役目なのか』と少し悲しくなりながら、いつものように声をあげるエストニア。
「あは、ロシアちゃん元気ね」
手作りミルクパイを机において、ウクライナは微笑む。
その横で無言で頷くベラルーシ。
さあ、これで皆揃った。
料理も装飾も終わったし、後は主役が帰ってくるのを待つだけだ。
そろそろ帰ってくる予定なのだが。
ドアのノブが回る音がした。皆、息を殺してその人物が入ってくるのを待つ。
きっとみんなの顔を見たら驚くだろう。それすらも一つの楽しみだ。
ドアが開き、その人物が入ってきて……
『Auguri a te!』
イタリア兄弟の高らかな声と、クラッカーの音。
――そして、年一回の楽しい誕生パーティは幕をあけた――
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