〜酒は飲んでも飲まれるな〜
始まりは、酒の場でのただのロシアへの愚痴だった。
散々、ロシアには煮え湯を飲まされ、苦労してきたもの同士、話は弾む。
「あーもう、あの人は! 私の大切な民をあんな目に……」
「わかります。本当にわかります。
ずーっとあの人の下で働かされた身としては、もうどうしようもない人です」
普段、大人しい者同士がはっちゃけ始めると、一緒に飲んでいた者たちは、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
部屋に残されたのは、かなり酔いの回った二人。
「あの人はできればもう関わりたくはないけれども……
まぁ、今幸せだから、存在くらいは許してあげてもいいかなーって。ふふっ」
トロンとした目になり、意味もなくグラスを揺らす。
中に入った氷が涼しい音を立て、揺れた。
「そんなことより、リトアニアさん。ちょっと聞いてください。ロシアさんとは関係ないですけれど。
この間、オーストリアさんとデートしたんですよ。デート。
そうしたら、私転びかけたとき、腕で支えてくれたんです。
でね、良く見たら、細腕で支えてくれて、『大丈夫ですか?』と平然を装って聞いてくれたんです。
もうね、萌えですよ。萌え。
オーストリアさんってば、楽器しかもってない腕で支えてくれたんですよ。萌えです。
笑顔でですよ。強がって。
なんかそっと抱きしめてくれまして。二人の世界ですよ。まるで」
すでに夢の中に入り、暴走しかけているハンガリー。
そんな幸せそうなハンガリーが羨ましいのか、頬を膨らませるとサマネを一気に煽った。
ガンっとテーブルにグラス置く。少し目が据わっているのは気のせいではないだろう。
「俺だって、ベラルーシちゃんとラブラブだよ。
この間なんて、情熱的な瞳で見られちゃって、照れ隠しにナイフを突き立てられたりもしたんだ。
彼女、照れ屋さんなんだよね。そこがとーっても可愛いんだけど」
「オーストリアさんだって、可愛いですよぉ。寝起きの表情がとても色っぽくて……」
かくて、愚痴合戦から、のろけ合戦へと移行したのである。
のろけ合戦が開始され、早数時間。
机にはたくさんの空き瓶が並び、完全に目の据わった二人がまだ議論を続けていた。
話は完全に平行線になり、進みそうにない。
「オーストリアさんです。オーストリアさんのテクはそりゃもうすごくて、一晩に何回もイカさせる事なんてザラですもん」
「ベラルーシーちゃんです。甘い声を出して、求めてくる姿はそりゃ可愛くて、腰砕けますよ」
いつしか、下ネタへと移行し、営み最中のエロさ対決になっていた。
やがて無言になり、二人はにらみ合い……
先に動いたのはリトアニアだった。
いきなり顔を近づけ、彼女の唇を奪う。
唇を舌でこじ開け、口内に遠慮なく進入する。
抵抗する舌を絡ませ、粘膜をこすり、逃げようとすれば、頭に手をやり、押さえつける。
最初は必死に逃げようとしていたが、徐々に目が虚ろになり、抵抗しなくなった。
呼吸をするために、唇を離す。
だらしなく開いた唇を親指で蹂躙し、コップの中に残っていたライ麦ウォッカを口に含み、もう一度唇を合わせる。
彼女の中に、唾液とともに度の高い酒を注ぎ込む。飲み込んだのを確認すると、唇を離した。
「どうです? オーストラリアさんより上手いでしょう」
「『ラ』はいりゃないんですぅっ!」
少しでも感じてしまった罪悪感と、愛する者の名前を間違えられた恨み、
酒の勢いも相まって、すでに理性はどこかへとんでしまっていた。
足取り怪しく立ち上がり、彼の目の前にへたれこむと、ズボンを勢い良く下ろす。
酒のせいか、すでに元気になっていた性器が顔を覗かせた。
「お返しです〜はむぅ……んぐ」
口一杯に頬張る。愛する者のと比べると、若干大きい気もしたが、
他の者の……いや、ゲルマン人以外のモノを見たことがないので、それが普通なのかどうなのかわからなかった。
いつもは清楚に可憐に、時折淫らにしゃぶりもするのだが、酒のせいで理性がなくなっていてはどうしようもない。
勢いにまかせ、しゃぶりつき、喉の奥に入りすぎて大きく咳き込む。
「けふけふ……う〜やーもう、本当はもっと上手なのよ。
オーストリアさんだって、私の技でむくむくと大きくなって。こーなったら……」
男らしくスカートをめくりあげ、ショーツを脱ぎ捨てる。
恥裂を指で開くと、目の前でちらつかせる。
いつもの清楚さはどこへやら。
「ベラルーシさんより、私の方が上手なんだからね」
どこか子供っぽい仕草で頬を膨らませ、彼の膝の上に座り込み、腰を落とす。
ゆっくりと肉を掻き分け、暖かい感触が肉棒を包み込み、刺激が……とだったらよかったのだが。
自制の効かなくなった彼女に、風情の欠片などない。
「ん、くっ……ひゃっ、ど、どう? ねぇ、気持…ちいいでしょ?」
技術などなく、ただ身体をゆするだけ。
いつもは『頼れるお姉さん』といった感じなのに、初めて見る子供のような姿。
少しだけ愛おしくて。無闇に身体を動かす彼女を軽く抱きしめる。
「そうですね。気持ちいいです。……ベラルーシちゃんには負けるけど」
「くっ、わ、私だって、オーストリアさんの方が……んぐ、気持ちいい……はぁ、です」
そうはいいつつも、襲ってくる快楽には勝てず、腰を動かし続ける。
――酒の香りと、精液と愛液が混ざった香りと、汗の香りと。
それが一つの媚薬となり、二人の行為に終わりは見えそうにない。
「ん……ぁ……頭痛い…」
自分の声すらも頭に響く。体が妙に重い。肌寒いのは、冬だからだろうか。
ぼんやりと天井を眺め、寝返りをうつ。
ふにっとした感触。手に柔かな何かが触れた。軽く動かしてみる。
ふにふにとしてて、暖かくて、先端にとがった何かがあって……
「ひゃっ…もうダメですよぉ〜オーストリアさぁん」
甘い声。
「って、え? な、なんでハンガリーさんが!!」
彼の横には全裸のハンガリー。いたるところに精液がこびりついているのが、妙に色っぽい。
「もしかして……」
自分の格好を確かめてみると、やはり全裸。
全裸の男女、精液まみれの女性。さすがにコレはヤってしまったとしか説明はつかない。
「落ち着け落ち着け落ち着け。昨日は、みんなと酒飲んで、いつの間にか愚痴合戦になって……それから」
断片的に思い出す記憶。青ざめる顔。
「…ふぁ? ん…おはようござーいますぅ……あれ?」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
目の覚めたハンガリーの前で、日本直伝の土下座を繰り返すリトアニア。
もう、床がこすれて穴があきそうな勢いだ。
ついてに、確実にリトアニアの胃にも穴が開いたことだろう。
「……忘れましょう」
全裸のまま正座し、二人は対峙する。長い沈黙の後、ハンガリーからそう切り出した。
「覚えていても、お互い問題ありでしょ。だから、無かったことにしましょう」
「そ、そうですね。本当ごめんなさ……」
「ストップ。もう謝るのもダメ。全部なかったことなんだから」
口癖を収めると、ハンガリーはリトアニアの頭を撫でてやる。
涙目のリトアニアはどこか可愛らしくて、腐った心の部分がむくむくと顔を出し、
「えーと……は、ハンガリーさん。ちょっと怖いです」
「え、あ、……ふふっ、ごめんなさい」
自然と息があがっていたのだろう。引き気味のリトアニアに、ハンガリーは上品に笑って見せた。
リトアニアも乾いた笑いを浮かべ、ひとしきり笑った後
「んじゃ、何もなかった……ということでね」
「そうですね……っと、わわわわわっ!!」
床に転がっていた酒の空き瓶に足を取られ、リトアニアがバランスを崩す。
ハンガリーを組み敷くかのよう、派手な音を立て、倒れこむ。
「くー、本当ごめんなさ……」
「リトー、遊ぶしーいいから俺と遊ぶしー」
ノックもなしに扉を開け、乱入してきたのは、いつも暴走気味のポーランド。
きっと彼の瞳には、今にも行為をしようとしている姿に見えた事だろう。
珍しくしばらく言葉を失い……やがてぽつりと呟いた。
「――俺も混ぜるし――」