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 不死鳥のきみ



――どうしてこんな状況になったのだろう。
二人揃って同じ事を考えているなどと、ポーランドもベラルーシも知る由は無かった。
只、辛うじて両肘を床に付き上半身を浮かせる態勢で横たわる男の腰に跨る姿勢で、女が乗っている。聊か間の抜けた様子で見開きがちの双眸から、互いに真っ直ぐ見つめ合う形でぶつかる視線。
驚きの為か、或いは無意識にこの状況が続けば良いとでも思っているのか、どちらも微動だにしない儘、数分が過ぎようとしていた。


――思い出せ、思い出すのよ、私。
不本意ながら早鐘を打つ胸に、ベラルーシは手を添え必死に己の記憶を叱咤する。
今日もロシアを追い求めていたベラルーシは、漸く彼を見付けたと思いきや、同時に最悪な相手をも目にする事となった。リトアニアである。
愛する兄はその糞野郎ににこにこと邪気の無い笑みを向けながら何事か話し掛けていた。リトアニアの顔が引き攣っていた事に鑑みれば、また無理難題でも吹っ掛けて反応を楽しんでいたのだろう。
――ムカつく。兄に構われる幸いに恵まれていながら、それを不幸とするあの男が、心底嫌い。兄に気に入られている奴は、殺したい程に嫌い。
次第に目が据わり始めた彼女が衣服の内に忍ばせたナイフに触れるが早いか、辺りに響いたのは独特な口調の、あの声。思わず刃物の柄を握ろうとした指から力が抜け、視線を其方に向ける。
其処には予想通り、リトアニアの元相棒にして現在は分割の憂き目を見、元よりの細身が一層貧弱にすらなった感のあるポーランドがロシアに食って掛かっているところだった。
リトアニアが必死になって止めようとするのも構わずに、日頃はロシアの顔を見るのも嫌だの恐ろしいだの言っているあの男が、力で叶わぬと知りながら精一杯の悪態で兄を睨み付け吐き捨てる台詞は、やや距離のある此方にまで良く聞こえて来た。


「お前、マジで好い加減にするし!いつまでも俺達がこのままお前に屈してるとでも思ってるん?…だとすればマジでウケるしー、マジでマジで!」
ぷすす、と笑う表情は普段通りの生意気そうな軽い面持ち。リトアニアが青褪めてロシアに繰り返し頭を下げているが、兄の笑みが既に作りものになっているのは明らかである。
――弱いくせに兄さんに噛み付いて、挑発して、馬鹿じゃないの。兄さんに逆らう奴は、皆、皆…。
嫌い、という言葉は何故か出て来ず、ベラルーシは己に戸惑い眉を顰めた。刹那の物思いに耽った後、鈍い音が鼓膜を震わせ現実に意識を引き戻される。
再度視線を呉れた先に、兄の足の下で蠢く身体が在った。
ロシアはその虚弱な身へ幾度も足を踏み下ろし、吐瀉物が地面で爆ぜる水音が響くのを認めて漸く気が済んだのか、半分涙目になっているリトアニアを引き摺り立ち去ろうとした、時。
「――…俺は、何度でも蘇るんよ。覚えてろ、だしー…」
途切れ途切れに、けれどはっきりとした声。その身をこの地へ縛り付けられた金色の不死鳥は、血と嘔吐で汚れた口許を拭いつつ、自身の足で立った。
ふらついてはいたけれど、確かにそれは凛然たる高潔な姿だった。
ロシアはそれを耳にしながらも、鼻で軽く笑って足を進め出す。
ポーランドはその大きな背をじっと見据えた後、やがて緩慢に踵を返し歩み出した。
ベラルーシは、何故かその不死鳥の軌跡をゆっくり辿っていた。ロシアを追い掛ける、そんな目的は忘れ去ってしまったかのように。
ポーランドが向かった先は、彼の部屋だった。扉を開けて中へと入る一瞬をついて、ベラルーシはその細く俊敏な身を軽やかに舞わせ共に室内へ滑り込む。
「…何しに来たん?」
意外にもポーランドは、彼女の存在を疾うに気付いていたらしい。問われたのは、只それだけだった。
「知りたいの?」
「別に、興味ないし」
あっさりと引き下がる彼に、内心でほっと胸を撫でおろす。理由を知りたいのは、寧ろベラルーシ自身の方だった。

しかし安堵以上に、不審と懸念が同時に募る。
普段の喧しさ、自己中っぷりは何処へ行ったか、ポーランドは静かに椅子へ腰を据えると机に肘を乗せ頬杖をついて視線を窓の外へ向けている。ベラルーシの存在など、意にも介さない。
――ムカつく。
端整な横顔は常に無く真面目で戦士の如く、時折吹き込んで来る微風に散らされ靡く金糸は美しい羽を思わせた。
彼は今もあの大空を恋い、翼を広げて舞う日を待っているのだろうか。
――もいで仕舞いたい。兄さんのように縄で縛り付けるだけなんて、温い。両翼をもげば、もいで仕舞えば、こいつはずっと此処に、私の…!
続く言葉を待つより早く、ベラルーシは彼に向かい動いていた。
流石に驚いた様子で此方を振り返る相手の瞳に自身が映っている事が、不思議と彼女の心を満足させた。
が、そんな己を認められず、詰まらぬ感情を振り払おうと双眸を閉ざし首を左右に振った所為で、聊か力加減を誤ったらしい。
圧し掛かって、椅子が倒れて、二人揃って態勢を崩して――冒頭の状況である。

あの勢いであれば、己が下敷きか、もしくは重ならずに仲良く一緒に床へ倒れ込んでいた筈。
そうならなかったのはポーランドが己を庇ってくれたからに違いない。彼が咄嗟に蹴飛ばしたのだろうか、椅子も随分と遠くまで転がった挙句壁にぶつかり止まっていた。それももしや、彼女を守ってくれようとしたからではなかろうか。
其処まで思い起こして、ベラルーシは益々鼓動が煩くなるのを自覚し、訳の解らぬ自身に対す悔しさで下唇を噛み締めた。

「えー、…あの、ちょっとええ?」
「な、に」
先に沈黙を破ったのはポーランド。
思わず声が上擦ったのは失敗だった。それでも動揺を隠そうと、気丈にも普段と変わらぬ無表情を装って思い切り見下す視線を注ぐ。ポーランドの顔が若干引き攣るのが見えた。
「そろそろ退いてくれん?重――」
バキイ!と拳が頬へめり込む音。
「ッ、…――お前、今のマジ酷くね!?怪我人に益々怪我させるとか、マジ有り得んからー!」
ベラルーシははたと気付く。そうだった、彼は散々ロシアに踏み付けられた後だった。それでも優しい態度など取れる筈はなく、寧ろ優しさなんて解らない彼女は尚も気を張る事しか知らない。
「女に重いなんて言うお前が悪い、このフニャチン野郎」
「はあ?お前相手に硬くする必要なくね?」
一応素直に退こうと腰を上げ掛けたベラルーシの心に、によと笑うポーランドが火を着けた。あからさまな揶揄に乗せられるなど愚かしい、頭ではそう解っていながら、ベラルーシは敢えて目を瞑り再度彼の下腹部へ腰を落ち着ける。
「――べラ、ルー…?」
怪訝そうに彼女の名を紡ごうとした彼の唇を、気付けば強引な口付けで塞いでいた。先程吐いた所為で鼻を突く独特な臭いや味がするのも構わずに、呼吸をも奪わんばかりの強引さで。
触れ合う其処は、とても柔らかく心地良かった。
酷く、愛おしかった。


「ちょ、待っ…――ベラルーシ!」
ポーランドの制止に耳も貸さず、シャツの前を開き露とした胸板に幾つも残る痣へベラルーシは唇と舌を丹念に這わせる。
一つ一つ、癒すように丁寧に。
それでいて、偶然を装い時折突起を舌先で掠め刺激を与える。
胸元から腹部の痣へと少しずつ身を後退させるにあたり、互いの股間を擦り合わせるように態と力を込めた。
その所為か、次第に張り詰める怒張の感触を内腿に覚え、彼女は満足そうに口端を心持ち上げる。
「私が相手じゃ硬くならないんじゃなかったの?」
「此処までされて反応しなかったら不能じゃね?」
「…こうされたら、誰が相手でも勃つと言わんばかりの態度ね」
「お前だけ、って言って欲しかったん?」
「そんな訳――」
挑発にはそれを上回る台詞を返され、ベラルーシは一瞬言葉に詰まり不服そうに眉根を寄せる。
興奮に身を委ねる事にしたのだろうか、全く乗り気ではなかった筈のポーランドから唇を重ねられた。
否定の言葉が出なかったのは躊躇ったのではない、口を塞がれたからだと自分に言い聞かせつつ、咥内へ侵入して来た舌先を自らのそれで追い、絡め合う。くぐもった水音に昂揚を促され、雪の如き色白の頬を微かに染めた。

ベラルーシが恍惚とキスに酔う間に、ポーランドは重い上体をちゃんと起こし、片腕で彼女の細腰を抱き寄せる。
片手では衣擦れの音を響かせながらエプロンドレスを肌蹴させ、たわわに揺れる乳房をそっと包み込こんだ。モスクワの冷たい外気に晒された突起は昂りと相俟って、早くも硬く尖り始めている。
其処を人差し指と中指の間で挟み刺激を与え、掌では膨らみ全体に緩急つけて圧迫を加える。
時折ベラルーシの喉が動き、吐息に紛れ切なげな声が零れた。


――落ち着け、落ち着くんよ、俺!
ポーランドは飽く迄余裕を装いベラルーシに愛撫を施す一方で、理性が頭の中で警告を発しているのにも気付いていた。
――ベラルーシはリトの好きな相手だし!何で、俺が…こんなん絶対駄目だしー!
解っている。解っているのに身体が止まらない。
その理由も、彼は解っている。解っているからこその、葛藤だ。
ベラルーシはリトアニアを嫌っている。嫌っているなら無視でもしていれば良いものを、性格が許さないのか、彼女は態々リトアニアの元へ嫌がらせをしに来る。
リトアニアは暇さえあればポーランドの所に居るから、ベラルーシのリトアニアへ対する嫌がらせは必然的にポーランドの眼前で行われる事が圧倒的になる。
嫌悪されている当人は嫌がらせをそれと気付いていない為、苛立ちを募らせる彼女の形相やオーラは益々凄絶なものとなり、それに怯えるのは寧ろポーランドであった。
この女、マジ怖い。マジでマジで。
そう思っていた、筈なのに。リトアニアへの嫌がらせにベラルーシがやって来る日常に慣れて仕舞うと、今度は彼女の姿が見えない方が物足りなくなってきた。全く以て恐ろしい事である。嫌よ嫌よもどころの話ではない。
知らず知らずの内にポーランドは、いつも彼女の気配を探るようになっていた。しかしそれを、恋だとは決して認めなかった。親友の想う女性を好きになるなど、絶対にならないと思っていたから。
それなのに。なのに。
今腕に抱いているのは、紛れもなくベラルーシである。
懊悩を続けながらも、身体は着実に彼女を高みへと連れて行っている。自身もまた、然り。
そんな自分に対す不快感で胃がきりきりと痛み、自嘲気味に唇を歪めた。

「……怪我、痛いなら私が動くけど」
ベラルーシの声で、ポーランドは我に返る。
心此処に在らずといった様子で進んでいた行為である事は、恐らくベラルーシにも伝わっていたのだろう。
前戯も終わりいざ挿入も果たしていながらちっとも動かないポーランドに対する、良くも悪くも率直な彼女にしては上出来過ぎる気遣いだった。態々このような心配りをしてくるからには、ベラルーシはポーランドを本当に憎からず想っているに違いない。
それがまた彼の心を掻き乱したが、ポーランドは敢えて平静を繕って悪戯っぽく首を緩く傾いでみせる。
「こういう時は、男に格好付けさせるモンじゃね?」
「なら早くなさい。…女を焦らす男は格好悪いわよ」
さらりと流れる金髪が眩しくて、ベラルーシは双眸を細めた。
対面座位の態勢で緩やかに始められる突き上げに、彼女は大人しく身を委ね長い髪を揺らす。
ポーランドももう覚悟を決めて、今だけは行為に没頭する事を自らに許し、細い色白の体を目一杯に抱き寄せながら腰を動かす。上下に、時には円を描くように揺らし、熱を持ち愛液で蕩ける膣内を縦横無尽に蹂躙する。
「っ……ん、ふ…そこ、い…!」
上がる声をヒントにしながら、ポーランドは的確にベラルーシの弱い個所を突き擦る。
「ひぁ、っは……あ、うん…っ…」
ベラルーシの喘ぎが一層高くなり、内壁は収縮を繰り返す。
益々興奮を覚えるポーランドは、彼女の中で質量を増し脈打ちを始める。
迫り来る波へ互いに身を委ね無我夢中で求め合った末、彼は欲望を全て彼女の最奥へと吐き出した。


「……私、リトアニアは嫌い」
「……知っとるし」
抱き締め合いながら口付けをした後、余韻を破壊するベラルーシの言葉を受け、ポーランドは眉間に皺を刻んだ。
リトアニアの想いは叶わないのだから遠慮はするな、気を病むな、とでも彼女は言いたいのだろうか。
しかしポーランドにとっての問題は、リトアニアの恋が叶うか否かではない。叶わずとも、親友として見守る事が大切なのだ。
…大切である、筈だった。
それを今、裏切ったのである。親友を、己を、裏切った。
随分辛気臭い顔をしていたのだろう。ベラルーシは呆れたような見下すような溜息を一つ零し、ポーランドの背――肩甲骨の辺りへ其々の手を添えて、乱暴に其処を引っ掻いた。
「い、ッ…」
「お前の翼、もぎとって仕舞いたい」
「……は?」
「もぎとって、縄で繋いで、鳥籠に放り込んで、私のものにしてやりたい」
抑揚に乏しい声で発せられる言葉の意味が、ポーランドにははっきりとは理解出来ない。それでも何となく、恋情故の独占欲にも似たものかと朧に捉えた。
ベラルーシがロシアに執心なのは誰もが知る事実。しかし彼女の心の幾許かは己に向けられているとなれば、一体彼女の兄に対する気持ちは何なのか。
「……お前、ロシアは」
「兄さんも、いつかは私のものよ」
即答。
ポーランドの表情は益々複雑になる。
「お前だけに勃てろ、て。俺に言っときながら、それってどうなんよー」
「兄さんは兄さん、お前はお前。兄さんは結婚相手、お前は一応愛人にでもしてやるわ。私はどちらかしか取れない軟弱者じゃない」
「……リトもお前も取れって、俺に言うん?」
「さあ。私はあの鬱陶しい男の事なんかどうでも良い。もし奴が、高がこんな事で友達に蟠りを持つようなチンコの小さい男だとしたら、どうでも良いじゃ済ませられなくなるわね。……譬えば、こんな風に」
「あ、いて、いでででで…――ッ、俺にしてどうするんよ!俺のはそんな小さくなくね!?」
不穏な発言に合わせ、ベラルーシはポーランドの背に爪を深々と突き立てる。血が滲んだのではなかろうかと思う程の力に、彼は思わず彼女の体を引き剥がした。すると、視界に入るは初めて見る穏やかな美しい微笑。

「うじうじ悩んでる間は、お前のチンコも似たようなモンって事よ。――行ってらっしゃい、ほら」
ベラルーシが立ち上がり、窓の外に一瞥を呉れる。釣られるようにポーランドも腰を上げ其方を見ると、己の名を呼び辺りを見回しながら走っている親友の姿が在った。片手には包みを抱えている。どうやらそれには、薬や包帯が入っているらしい。
「私もあの男も取るんだって、言って来なさい。お前のでかさを私に見せろ」
――どうする、どうしたら良いん?
逡巡に瞳を曇らせたのも一瞬、ポーランドは一つ頷くとすぐ衣類を整え始めた。そして扉へ足を進める。リトアニアの元へ向かう為に。
ドアノブに手を掛けて、一度窓を振り返った。まだ衣服に手すら伸ばさず、生まれた儘の眩い姿で佇むベラルーシは、何?と問うよう微かに首を傾ぐ。
「…俺、翼もがれとらんから。時さえ来れば大空を羽ばたいてやるんよ。――勿論、リトも一緒だからー!」
悪戯に、屈託のない顔で。
ベラルーシは双眸を見開く。遠回しながら矢張り友を取るのだという宣言に、彼女も負けじと唇を歪める。
「…なら私はお前を逃がさない。どんな手を使ってでも、その羽をもいでやる。そして私の許へ繋ぎ留めてみせる」
「出来るもんならやってみれば良いんじゃね?…ま、どうせ無理に決まっとるけどー」
軽い物言いで、何事も無かったかのようにポーランドは廊下へ出て行く。
閉まる扉を見詰めながら、ベラルーシは細く息を吐き出した。
自分が欲しいものは、どれもこれもリトアニアを見ている。だから彼が嫌いだ、大嫌いだ。嫉妬だと知っていて、理不尽だと解っていて、それでも矢張り彼が憎らしい。
気持ちが落ち着くのを待ってから、もう一度窓の外を見た。其処には、普段の調子でリトアニアに抱き着いているポーランド。軽やかに飛び跳ねる彼のその背には、眩しい金色の羽が生えていた。何者にも決してもぐ事の叶わない、誇り高い翼だった。









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