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 Liebling



北からの冬の風は厳しく、冷たい。

閉じられた窓の隙間から流れ込む
肌を刺す冷気に素裸の肩を震わせると、オーストリアは目を覚ました。
体に残る心地よい気だるさは、恋人…ハンガリーとの睦み合いの余韻だろうか。
ふ、とひとつ息をつくと、掛け布を引き上げる。
それでもやはり、夜半は冷え込む。
ぬくもりを求めるように、彼は隣で眠る恋人を抱きしめた。
触れた箇所から伝わる肌の暖かさに、思わず口元がほころぶ。
こみ上げてくる愛しさに、埋めた彼女の白い肩口にひとつ、口付けを落とす。
「ん…」
触れる感触がくすぐったいのか
眠るハンガリーが身をよじって彼の腕から逃れる。
幼さの残る顔立ちに反して、しなやかながらも艶かしい体が
シーツに波を作り、無防備に晒された豊かな膨らみが、夜の闇の中で白く揺れる。
オーストリアは誘われるように白い胸に顔をすり寄せ
そのままぴたりと寄り添うと目を閉じた。
とくん、とくんと一定のリズムを刻む鼓動が耳に伝わり
そのリズムが肌の柔らかさと相まって、とても心地が良い。
ハンガリーの華奢な身体に腕を回し、さらに胸に埋もれるように抱きしめる。

しばらくそうして寄り添っていると、ふいに髪を撫でられた。
どきりとして顔を上げると、慈愛の光を湛えた翠の瞳に出会う。
「起こして、しまいましたか」
オーストリアは呟くと、もう一度胸に顔を埋めて、視線から逃れる。
いたずらを見咎められた子供のような気分で、ばつが悪い。
「ふふ…随分大きな甘えん坊さんですね」
まだ覚醒し切っていないのか、少しかすれた声で
ハンガリーがくすくすと笑う。
普段の他国へ見せる、優雅で高貴な振る舞いでもなく
二人だけのときに見せる、優しい紳士の表情でもない。
幼い少年のような恋人…オーストリアの仕草に
母親が持つ庇護のような感情が疼く。
「子供扱いは、およしなさい」
いつもの彼らしい口調でも、どこか拗ねたように聞こえるのは
気恥ずかしさを隠そうとする小さな抵抗ゆえか。
なおも笑いながら髪を撫でる恋人の胸に埋もれたまま、む、と軽く唸ると
オーストリアは恋人へ、ささやかな逆襲を開始する。

豊かな胸に顔を埋めたまま
その谷間に唇を寄せて押し付けると、ぴくりと彼女の身体が震えた。
「あ…っ」
そのまま唇を這わせ、優美な曲線を上へ上へと辿って行く。
顔の動きにあわせて、おろした彼の長い前髪が
さらさらと肌をなぞり、さらなる刺激となってハンガリーを責める。
やがて唇が淡く桃色に色づく頂に辿りつくと
愛おしそうに目を伏せて口に含む。
ちろちろと舌先で突起をつつくと、甘い声が降ってきた。
「こら…だっ、駄目です…!今夜は、もう…ね?
オーストリアさ…あ、っ!」
先ほどまでの余裕はなく、困ったように
見下ろす彼女の言葉が終わらぬうちに、きゅ、と先端を甘噛みする。
もう片方の先端は、指で擦り上げると、薔薇色の唇から熱い吐息が漏れる。
ひとしきり堪能し唇を離すと、冗談めいて「お仕置きです」と囁いた。

オーストリアの『上司』らの婚姻で勢力を拡大してきた最中
『彼』自身は騎士としてあるべく鍛錬を続け、
その強さに憧れの念を抱いていたハンガリーが
『女性』として彼の家にやってきてからは、少しずつ互いの気持ちを育み、
二人で恋人という道を歩いて来た。
恋人は自分を「オーストリアさん」と呼び慕ってくれるものの、
幼い頃からの非力さと彼女のほうが少しだけ年上であることを…
普段顔には出さないけれど、オーストリアは気にしていた。
至極普通に彼女と愛を交わすものの、そういった
普段の抑圧と、彼女の幼い顔つきもあって。
こんな表情をされると、己の手で乱れる彼女が
もっと見たくて、執拗に求めてしまう。
日ごろ優雅な振る舞いと、品行方正を心がける自分に、こんな
一面が潜んでいたことに驚きながらも、それでも彼女を求める熱い衝動には、抗えない。

再度唇と片手で胸を責めたまま、空いた手を
脚の間に指を滑り込ませると、絡みつく熱い雫。
そのまま敏感な箇所へ指を進め、潤いを確かめるようにそこをかき回す。
「…そんな、だ、め…駄目ですっ、あぁ…」
ハンガリーはいやいやをするように首を振るも、
オーストリアの愛撫はどこか母親にすがる赤子を思い起こさせる。
可愛らしい声を上げて、彼の頭を抱えるようにして喘ぎ、
ハンガリーは身悶える。
聖母のように己を抱擁する腕と、己の愛撫に乱れる身体。
くらくらするほどの愛しさと、少しの背徳感が
背筋を駆け抜け、オーストリアの頭に血が上る。
音を立てて指を抜き差しし、親指の腹で最も彼女の感じる所を
押しつぶすように撫でる。
「ああっ…!!あ、やぁ…!」
押し寄せる快楽に、彼に回した腕を放して、ハンガリーは
シーツを掴んでのけ反った。
オーストリアも追いかけるように顔を上げると、
誘うように開かれた唇を覆うように唇を重ねる。
何度も、何度も。
幾度目かの口付けの後、唇を離してハンガリーを
胸に抱き寄せ、すっぽりと包み込む。
胸に抱かれるのも良いけれど、やはり腕の中に感じる温もりが、堪らなく愛しい。
自然に笑をたたえる唇で、オーストリアは腕の中の彼女に問いかける。
「ハンガリー…もう、眠りますか?」
いたずらっこの瞳で覗き込むと、濡れた翠の瞳が「いじわる」と訴えてくる。
「分かっていて…聞かないでください、もう」
上気した頬を膨らませて見上げる姿に、胸が熱く疼く。
「これは、失礼しました」
笑いながら一度抱きしめると、横たわるハンガリーに
覆いかぶさるようにして、彼女の身体の中へ、腰を沈める。
「はぁっ、ん…んぅ…」
ゆっくりと侵入してくる恋人の重さに、彼女の唇から熱い吐息が漏れた。
幾度も愛を交わしているのに、瞳を潤ませて声をあげ、
羞恥に頬を染める姿が儚くも美しい。
頭の片隅でそんなことを考えながら彼女の手を取り、ゆるゆると動き出す。
突き上げるたびに声が漏れ、彼の息遣いと混ざり合って、熱が生まれる。

冬の風は厳しく、冷たい。

けれど、その冷気を感じないほど、互いを求めて抱きしめあう。
「んっ、あ…あ…オーストリア、さ…あぁっ…!!」
名前を呼ばれると、それを合図としたように、思いの炎が爆ぜる。
「…ハンガリー…!」
白く溶ける意識の中で愛しい名前を囁き返すと、快楽の波の中で思いを遂げた。
「……オーストリアさん…」
最初にそうしたように、力をなくして
胸にくずおれる彼の頭を、ハンガリーは愛おしさをこめて抱きとめた。

「もう…駄目ですって言ったのに」

暖かな布団と恋人の腕に包まれて、頬を膨らませるハンガリー。
「そうですね、少し…悪戯が過ぎました…すみません」
ばつが悪そうに頭のマリアツェルをしゅんとしならせ
オーストリアはハンガリーを抱きしめる腕に、力をこめた。

「でも、ね」
言って、ハンガリーは顔をあげ、オーストリアの顔を見つめる。
「普段見せてくれない、色んなあなたを見せてくれて…嬉しかったです」
子供のように甘えたり拗ねたりする彼。いたずらな瞳を見せる彼。
ちょっと意地悪な彼…どれも普段の生活では見られない一面ばかり。
「もっともっと、私の知らない、色んなオーストリアさんが知りたいです」
闇の中でもきらきら光る瞳を向けて、ハンガリーが微笑む。
「そうですね。私ももっと、あなたを知りたい…誰よりも、あなたのことを」
少年の姿をしていた頃の猛々しさも、女性らしい仕草も、
自分の腕の中で切なく乱れる姿も。ひとつずつ、知っていった。
ハンガリーを見つめ返して微笑むと、大きな翠の瞳がくりっと動く。
「私を知って…愛想を尽かしちゃ駄目ですよ?」
そう言ってハンガリーがいたずらっぽく見上げると、
オーストリアは一瞬目をぱちくりとさせ、そして。
「それは、私の台詞ですよ…お馬鹿さん」
恋人の額を軽く小突くと、力いっぱい抱きしめた。

-END-





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[ハンガリー][オーストリア]

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