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 SM墺洪

  SM注意


 オーストリアさんのことはとっても大好き。
 隣国なんていがみ合ってなんぼ、好き同士なら一緒の国になってるはずだなんて言われ
るけど、私が独立してからも私とオーストリアさんは諸外国から「隣国同士で仲がいい稀
有な二国」だなんて評されたりしてます。
 長く支配されてたのにどうしてってよく尋ねられるけど、好きなものは好きなんだから
しょうがないって感じかな。
 付き合いも長いし、お隣同士だし、いがみ合ったっていいことなんてないわよ!
 でもね、たまにオーストリアさんのことがわからなくなるの。
 ついていけないっていうか、それはねーわっていうか、うっわーさすがに引くわってい
うか。
 な、なんていうか……。
 オーストリアさんのことは、大好きなんだけどね……。



 オーストリアの屋敷の一角に、普段は決して開けられることのない秘密の部屋がある。
 その部屋のドアが開くのは、ハンガリーが泊まりがけで訪ねてきた日の夜に限られてい
た。
 ドアの隙間から漏れるその照明の色は、なぜか赤く染まっている。
 室内には麻縄を手にしたオーストリアと、顔をひきつらせているハンガリーがいた。
「さあ、ハンガリー。私を縛ってください!」
「お、お願いです、オーストリアさん。目を覚まして……」
「私の目はまだビンビンに冴えてますよ!」
 赤い照明に照らされた部屋の中に散乱する麻縄、ギャグボール、バイブにクスコ、浣腸
器にキシロカイン、カテーテル、低温蝋燭、馬上鞭……あげていったらキリがないSMグ
ッズの数々。
「SMとはお互いの愛を確かめ合う行為です。なにも恥じらう必要はありません。さあ、
ハンガリー!」
 すみません、趣味じゃないです。そう即答できればどんなによかったか。ハンガリーは
その場の空気とオーストリアの気迫に完全に押されていた。
 オーストリアは片手に麻縄を、もう片方の手に馬上鞭を持って恍惚とハンガリーを見つ
める。
「颯爽と草原を馬で駆けるあなたの姿を見かけるたびに、ああ私もあなたに跨られて鞭を
打たれたいといつも思っていました。昔は私が宗主国だったということもありS側に甘ん
じていましたが、今は対等ですからどちらがどちらでも構いませんよね」
 もうやめて、私のライフはゼロよ。ハンガリーは今すぐにサレンダーしてこの場から逃
走したかった。


 ハンガリーがまだオーストリア領だった頃から肉体関係になり、道具を使われたりいわ
ゆる言葉攻めをされたことは何度もあった。以前のオーストリアはピリピリしていること
が多く、またハンガリー自身も使用人の立場だったのでそういうものだと思っていた。
 それが単なるオーストリアの性的な嗜好だということに気がついたのはつい最近。M属
性もあるんですとカミングアウトされてこの部屋に連れ込まれた時だった。
 ずい、と渡される鞭を恐る恐る手にとって、ハンガリーはオーストリアを見上げた。彼
は相変わらず縄できつく縛ってほしそうな目をしている。
「お、お、オーストリアさん。私、縛り方わかりません」
「そうですか。では今度一緒に勉強しましょうね。手とり足とり教えて差し上げます」
 参考資料と称して渡される大量のDVD。オーストリアの笑顔がまぶしい。思わず目を
そらしたくなってくるタイトルの数々に、ハンガリーは得体のしれない恐怖を感じて震え
た。
 ハンガリーにとって大好きな人とつながることができるセックスは好きだし、回数も結
構多い。一位ギリシャ、二位フランスに続いて三位ハンガリーなくらいだ。
 ただし内容は至って普通。普通だから。どこか枯れ切ったアジアの皆さんの遠い親戚の
ようなものだからか、近くにいるとはいえゲルマン系の皆さんのような趣味嗜好は持ち合
わせていないから。普通だから。
「緊縛プレイはまた今度にしましょう」
 縄をしまうオーストリアにほっとしたのもつかの間、ハンガリーは彼が手に持ってきた
ものに目を見開いた。首輪だ。
「これならつけ方もわかりますよね。私の首にかけてください」
 そしてついに全裸になるオーストリア。音楽に傾倒するようになったとはいえ、もとも
とは戦うために生まれた騎士。程よく鍛え上げられた肉体にいつもならときめきで胸がド
ッキドキになるハンガリーだが、状況がそれを許さなかった。
 ハンガリーは先ほど渡された馬上鞭を足元に置き、細い鎖のつながった首輪を受け取る
。この鎖で引っ張れとでもいうのだろうか。いや、マジでそんな趣味ないですから。
 ハンガリーがそれを持って立ちつくしていると、身長が低めな彼女の手が届かないから
だと合点したオーストリアが彼女の前に跪いた。もうこうなったらオーストリアに付き合
うしかない。ハンガリーは恐る恐る彼の首に輪をかけた。

 四つん這いになったオーストリアの首輪の鎖を引きながら、ハンガリーは彼の背中に鞭
を軽く当てる。
「え、えいっ!」
 勢いも何もないそれはぺたんとも音が鳴らず、オーストリアは眉をひそめた。
「ハンガリー、遠慮など要りません。いつも馬にするようにあの気持ちのいい鞭打ちの音
を響かせてください」
「でも、オーストリアさんはお馬さんじゃありませんし」
「今は私を馬だと、家畜だと思ってください、女王様」
 トルコでもなんでもいい。誰か助けて。しかしこの場にはあいにくオーストリアとハン
ガリーの二人しかいない。
「……わ、わかりました。痛かったら言ってくださいね」
 先ほどよりも若干強めに鞭を振るう。ぺちんとかわいらしい音が鳴ったが、オーストリ
アの背中には物足りない刺激だった。
「もっと強く!」
「は、はいっ」
 もっと、もっと、もっと! もっと強くお願いします!
 オーストリアの言葉に涙目になりながら鞭を振るうハンガリー。彼の言葉の勢いに負け
て、もはや力加減をすることは頭から消えてしまった。
 ビシィ、バシィと鳴り響く鞭打ちの音。ハンガリーはM全開のオーストリアをまともに
見ていられずに狙いが定まらないため、剥き出しの彼の背中から臀部にかけて広い範囲で
真赤な痕が次々と出来上がる。
「うああああ、ああっ」
 いきなり上がったオーストリアの苦痛をにじませる声に、ハンガリーはハッとして手を
止めた。どうやら鞭の先が彼の大事なところをかすめたようだ。
「お、お、お、オーストリアさんっ」
 ちゃんとしっかり見つめて狙いを定めておくべきだった。ハンガリーは身をかがめてオ
ーストリアの顔を覗き込む。そこにあったのは愉悦の笑顔だった。
「次は私に罵りの言葉をぶつけながら大事なところを足で踏んで下さい」
 ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいのかわからないの。ハンガリーの瞳
に涙がにじむ。

「え、えっと、じゃあ私もそろそろ脱ぎますね。オーストリアさんだけ裸じゃないですか。
ブーツのままだと痛いですし」
「何を言っているのですか!」
 くわっと凄まじいオーストリアの眼力に、ハンガリーは身を固めた。
「ドレスにブーツという最強の組み合わせを自ら崩してどうするのです。あなたは着衣し
たままで結構です。どうしてもとおっしゃるのでしたらあちらの衣装に着替えてみてはい
かがでしょう。もっと雰囲気でますよ」
 あの露出度高めなきわどいボンテージに着換えろと。ハンガリーは丁重にお断りし、オ
ーストリアの望むようにドレスにブーツを着衣したままプレイを続行する。
 四つん這いから仰向けになって丸見えになるオーストリアの大事なところはすっかり興
奮してたちあがっていた。
 懇願の表情で見上げるオーストリアに、ハンガリーは彼の首輪から伸びる鎖をギュッと
握りしめて小さく頷く。ふるふると震えながら足を差し出し、ブーツの先が彼の大事なと
ころに触れた。
「ハンガリー、もっと強く踏みつけてください。先ほどから痛くはないかと心配されてい
るようですが、痛くていいのです。痛いほうがいいのです。さあ、私を踏みつけて、罵っ
てください!」
「の、罵るって言われても言葉が見つかりません」
「長く支配をしていた私に不満もあるでしょう。属国の扱いを受けて悔しい思いもしたで
しょう。憎き支配者に思いのたけをぶちまけてください」
「あの、本当にオーストリアさんのことは大好きで、確かにちょっと不満に思った時もあ
りましたけどそんな憎いって感情じゃなくって、独立したいと何度も思ってましたけど皇
帝さんは好きだったし、今の状態になる前も独立したくないって意見も多かったくらいで
、その、あの、オーストリアさんが思ってるほど憎いと感じたことなんてありませんよ」
 元支配国ということで後ろめたいことがあったからこそ、このM男を演じる一連の流れ
なのだろうか。ハンガリーは寂しさを感じずにはいられない。あなたが築いた帝国の中で
、私は確かに守られていたんですよ。もうMを装って私に痛めつけられるようなことをす
るのはやめてください。
 そう言葉を続けようとしたハンガリーを遮るように、
「それじゃあダメじゃないですか!」
 オーストリアは叫ぶ。
「ああ、それでしたらもう定番で構いません。『この汚らわしい豚が! 豚の分際で人間
様の言葉を使うんじゃないわ。それになにチンポおったててるの? ふふ、仕方がないわ
ね。こうされるのが好きなんでしょう。ほら、いい声で鳴きなさい!』と言いながら私の
大事なところを踏みつけてください。力の限りに踏みつけてください。そして、お許しを
頂けるのでしたらそのおみ足を舐めさせていただく権利を」
 装うも何も、この人ガチだ。
 SM趣味など持ち合わせていないハンガリーは気が遠くなっていく。
 オーストリアは次を待ち望んでいる。
 もう、ゴールしてもいいよね。


強制終了




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[ハンガリー][オーストリア]

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