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 ギリギリ☆有害指定図書


  •  別ジャンル漫画ネタが前半てんこ盛り
  •  学ヘタ

その日はなんの変哲もない金曜日であった。
 特に休日をともに過ごす恋人のできる予定も未定なドイツにとってはただの平日である。
 明日は休日? そうだな掃除に精が出るな。
 一人楽しすぎるぜー……とどこからともなく哀しい幻聴が響き渡る校舎の中を
ドイツは歩く。デフォルトの威圧感をまとって。
 向かう先は漫研の部室――単なる倉庫である。

「入るぞ」

 コンコンとノックとともそう言いおく。数秒してから反応が無いのは許可と見
なしてノブを回す。鍵が開いている、ということは誰かがいるはずだ。
 室内にはセーシェルただ一人がソファにごろんと寝そべって少女漫画雑誌を読
んでいる。どうやら熱中していてノックに気付かなかったようだが、ドイツが入
ってくるとさすがに振り返った。

「あ、こんにちわドイツさん」
「ああ……セーシェル、今日はお前一人か?」
「イタリアさんはお兄さんとスペインさんとトマトの苗を買いに行ったらしいっ
す。日本さんはさっきアメリカさんに引きずられていきましたよ。今日は多分も
う来ないみたいっす」
「そうか」

 日本には少し、用があったのだが。
 落胆しながら帰ろうか、と思案するドイツの耳にセーシェルの声が続く。

「あ、あと日本さんが本国から雑誌届いたっていってました。
 そこの紙袋はドイツさんにって」
「そうか、わかった。すまんなセーシェル。助かる」

 軽くテンションが上がるドイツにセーシェルは特に気にせずにっこり笑う。
 愛想のいい娘だ。
 イギリスともアメリカとも微妙にイントネーションの違うクレオール英語が漏れた。

「ゆあうぇるかむ〜」

 漫画に向き直るセーシェルの様子を横目で見ながら、ドイツは期待と緊張に震
える手で紙袋を開ける。
 出て来たのは青年達の心の親友、ギリギリ有害指定されない程度のエロスてん
こ盛り青年漫画雑誌数冊である。
 誰が信じるだろう。これらの雑誌の中には、今や世界中の少年達の胸を熱くさ
せる少年漫画雑誌の兄弟誌もあるなどと。
 いやまぁトゥラブるしまくりのあの漫画が対象年齢を引き上げたと思えば妥当
ではあるが。
 いや、別にエロスオンリーなわけでもない。寧ろエロス無いのも面白い。
 ドイツは表紙をめくった。セーシェルが――女子がいるところでこういうもの
を読むのはマナー以前の問題なのだが、生憎自室に持ち帰ると勝手に出入りする
兄やら親戚やらに見つかる恐れがある。
 というか、そういう見つけて欲しくないものに限って毎度見つけられる。
 なのでドイツは毎回部室で読んでおくことにした。
 日本が生温かい視線を向けてくるのは居心地は悪いが、今日はそれもない。
 セーシェルがいるのは少し障るが、今回の表紙はエロくないし、彼女はこの雑
誌の内容を知らないので大丈夫だろう。(寧ろ逆に興奮を煽る)
 ドイツは雑誌を開けた。ちなみに巻頭もエロくない漫画である。

(そうとも俺はエロが目当てでこの雑誌やあの雑誌を通読しているわけではなく
てだなそうだ仕立て屋の続きが気になるのだ。
 俺の家の話がなかなか出てこないのは残念だが服飾史の観点から見ても実に興
味深い。
 なんならエロなど無くても別に構わなくてだなああワインやカクテルについて
も様々な歴史や逸話がある。
 そこに絡んだ人生の悲喜劇や人と人との情の描写もまた素晴らしいのだ。
 そもそもこのようないやらしくけしからん漫画が掲載された雑誌が公然と売ら
れるなど実にけしからんことで言語同断であってだな女スシ職人の成長が実に楽
しみだ。
 代表的な日本料理であるスシについて学ぶことでひいては我々が時代の中で失
った精神性に富んだ日本文化を学んでいるのだ。
 そうだそうとも俺はエロが読みたいのではなくてだな怨み屋だと……? 日本
を怒らせんように気をつけよう……
 これらのいやらしい漫画が如何にいやらしいけしからんものであるのかを厳密
に調査した上で青少年、ひいては公風俗に対する悪影響を及ぼしかねないのかと
いう懸念を編集部や公的機関に伝え雑誌の発売差し止め或いは条令での制限もし
くは漫画の掲載停止を決定するよう働きかけるつもりであってだな決して俺は俺
自身はエロなど求めてはいないのであってだな今この非常にけしからん漫画を読
もうとしているのはそういうわけであってだな。だなだなだな)

 聞かれもしないのに一人で延々と言い訳を脳内で展開しているあたり、完全に
言い訳である。えっちぃのが好きなんですねわかりますと言ってやりたいぐらいだ。
 その、エロエロ漫画の始まる手前でドイツは一旦手を止める。チロリ、セーシ
ェルがこちらを振り向く様子の無いことを確認し、ピラ、とページをめくったそ
の瞬間からドイツは紙面を凝視した。特にエロシーンでは舐めるようにじっくり時間をかけて誌面の女性達
を視姦しつくした。

(やはり今回もけしからんかったな……)

 フウ、と満足げに溜め息を吐いてドイツは本を閉じた。まだまだエロくない普
通に良作な漫画を読んでないにもかかわらず。

(ああ、あまりにもけしからん。次の号が出るまでにどれだけけしからんのか次
の号が出るまでじっくり読み込んでまとめることにしよう。
 まったく、前回の分もまとめきっていないというのに)

 こうしてドイツの寮の自室の本棚の一画、報告書下書きと題された感想文ノー
トは着々と増えていく。二ヶ月に一冊弱のペースで。

 満足げに顔を上げたドイツの目が、白いものを捉えた。小麦色の艶を持つ何か
がそこから生えている。
 僅かにふるふると揺れるそれがセーシェルのパンツだと気付いたのは、数秒後
のことである。

(なっ……!)

 思わず叫び声を上げそうになってドイツは慌てて口元を押さえた。
 女の子のパンツである。この童貞もといドイツ、こんな至近距離で長時間女の
子のパンツを見たのは初めてだった。
 思わずマジマジと凝視して、そして正気に返る。

(何をしている俺は!ふふふ婦女子のしししししたし下着を盗み見るなど!)

 自分を殴りつけたい衝動にかられながらドイツはどうするべきか思案した。
 勿論その間視線はパンツにロックオンだ。

(とりあえず『パンツ見えているぞ』とでも言えばいいのか?)

 ドイツの明晰な頭脳は超高速で回転して続く展開をシミュレータした。
 エロ方向に。

(きっとセーシェルはパンツの両サイドに指をかけて
『ドイツさんもっと、見て……私の恥ずかしいところ』
 待て俺、それはないだろう。
 そうだきっとセーシェルは俺の手を柔らかな膨らみを隠した制服の盛り上がり
に押し当てて
『ドイツさんなら……触ってもいいですよ』
 待て待て落ち着け俺、日本がいつも言っているだろう。
 二次元の萌えを三次元に持ち込むなと。
 白いシーツにその健康的な裸体を包み、潤んだ瞳で俺を見上げて
『責任とって下さいね』
 いやいやいや!
 そうとも、恥じらいある乙女なのだからセーシェルは慌てて
『い、嫌っ……見ないでぇ』
 と恐怖に涙ぐみながら後じさりする。しかし無情にもその背を壁が押し留める。
 俺はそんなセーシェルに一歩、また一歩と近付いていく。彼女に逃げ場は無い。
『やだ……やだ来ないで、やめてぇ』
 震えるセーシェルに俺は加虐的な笑みを浮かべて手を伸ばし、その制服を引き千切った。
『い、いやぁああああ!!!』
暗い室内に悲鳴が響き渡るが少女に救いの手が差し延べられることは――
 ――待て、待ってくれ俺。お前はそんな奴ではないはずだろう、なぁ俺!
『やだ……ドイツさん……恥ずかしい……』
と頬を染めて臀部を押さえるぐらいだろう。せいぜい)

 ねえよ。
 脳内でドリーム小説を勝手に実写化して楽しんでいるあたり、一人楽しすぎる
血は確実に彼にも受け継がれているようだ。
 ありえて「キャッやだもう見ないで下さいよ」と軽く慌てる程度のものだろうに。

 ふと、ドイツに閃くものがあった。
 ――セーシェルが気付く前にこっそりスカートを直してやればいいのではないか?

(我ながら名案だ……そうするばセーシェルに恥をかかせることもあるまい)

 しかし途中で気付かれば痴漢扱いされることには思い当たらなかったようだ。
 セーシェルの視界に映らないように静かに彼女の後ろへ移動する。正面から彼
女の下半身を、特に形のよい尻をまざまざ見せつけられてドイツは小さく喉を鳴らした。

(ああ全くもってけしからんいい尻だ……)

 その骨格上、アフリカ系の尻はキュッと上方で締まってなおかつぷっくりプリ
プリと突き出しているいい尻が多いものだ。
 セーシェルも混血しまくっているとはいえ、その血がはっきりと現れて、まだ
幼さを残す体型とはいえ、いい尻をしていた。とてもいい尻をしていた。
 うっかりスペインの真ん前で階段上ろうものならそのまま押し倒されてパンツ
引きずり下ろされて思いっきり何度も何度もひっぱたかれても文句はいえないぐ
らいにいい尻だ。
 ドイツだってひっぱたきたい。渾身の力で平手打ちを食らわせて悲鳴がすすり
泣きに変わるまで打ち続けたい。

(落ち着け俺、それは犯罪だ)

 ついついそんな不埒な妄想をしてムラムラと燃え上がった欲情の炎をどうにか
鎮火しつつ、ゆっくりとセーシェルのスカートに手を伸ばす。
 この場面だけを第三者に見せれば百人が百人変質者認定してくれることだろう。
 セーシェルの様子を伺おうとしたドイツの目に激しく睦みあう男女の姿が映った。
 セーシェルの読んでいる少女漫画雑誌こそ、少女向けと題打っておきながらも
うちょっとで有害図書指定されるところであったあの伝説の雑誌の、そして彼女
の今読んでいる漫画こそ、その中でも随一の過激さを売りにした看板作家の最も
過激な頃の作品であった。
 ぶちっとドイツは理性の糸の切れる音を聞いた。
 ヤッチマイナーと本能の命ずるがままに、ドイツはセーシェルの無垢な体に襲いかか
るのだった。


 哀れセーシェルの運命や如何に。


続く




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[セーシェル][ドイツ][学ヘタ]

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