〜女王様VS捕食者〜
ちょいSM要素あり
彼は思考回路が停止していた。
虚ろになった瞳で天井を見つめながら、ぼんやりと考える。
――何で彼女が俺の上にのっているのか。
何で豊かな胸を弾ませて、俺を飲み込んでいるのか。
性行為は嫌いではない。むしろ好きだ。胸をはるような事ではないが、大好きだ。
リヒテンシュタインと恋仲になってから、暇があれば事に及んでいる。
我ながら、思春期のガキかと思うぐらいのエロさ加減だ。
だから、本来ならば喜ばしい事だろう。
しかし、しかしだ。何で俺は犯されているのだろうか。
よし、最初から考えてみるとしよう。順序良く考えてみれば、解決できる問題かもしれない――
夢中で口内を蹂躙する彼女を見ないよう、目を閉じて事の始まりをじっくりと思い出す。
事の始まりは、数時間前。
ドアをノックする音。同居しているプロイセンは昼寝中だったので、読みかけていた本を机に置き、玄関に向かった。
まあ、どうせ、プロイセンは起きていても出る気は無いだろうが。
「誰だ?」
「私、私よ」
一瞬、日本で流行っている『俺俺詐欺』というものを思い出しもしたが、さすがにドイツの家までくる詐欺師はいないだろう。
それに、声には聞き覚えがあった。だが、彼女が自分の家にくるのかがわからない。
とりあえず、彼女の用事を聞こうとドアを開ける。
ドアの前には、豊かな胸をもった女性。ロシアの姉であり、いろいろと苦労しがちなウクライナが笑顔を見せる。
「あ、よかった。もしかして留守かと思っちゃった。えへへ、ちょっと不安だったよ」
目元に光る涙を指で拭う。
少し泣き虫で、表情豊かで、ちょっと頼りない姿は、いつも傍で賑やかにしている誰かを思い出させる。
「まぁ、立ち話もなんだ。中入れ。ビール……じゃなく、アプフェルショーレぐらいならば出すぞ」
さすがに女性にアルコールを振舞うのは、深い意味にとられそうなので、ノンアルコールの名を出す。
少しの油断と同情心。それが悲劇の始まりだとは、彼には知る由も無かった。
最初は居間に通そうとしたが、暖炉の前でプロイセンが高いびきをかいていたため、自室へと案内する。
ドアを開け、部屋の椅子に腰掛けるよう促す。
傍に椅子があったにもかかわらず、ベッドに腰掛けたのは微かな疑問を抱きもしたが、天然のせいだと自己完結し、自らも椅子に座った。
「で、どんな用だ?」
「あのね、その……友達になってくれないかな」
友達、個人的な付き合いならばともかく、彼女の言う『友達』とは、同盟やら援助やらいろいろ深い意味を持っている。
だから、すぐには頷く事はできない。
「あー、すまんがそういう事は、上司を通してくれないか」
『上司』を通すということは、ドイツにとっては間接的な拒否に等しい。
それを理解したのか、彼女は肩を落とし、瞳に浮かんだ涙を拭う。
「うん、しょうがないよね。ドイツさんといろいろ喧嘩しちゃったし、私の事なんて嫌いだものね」
次々と溢れ出す涙を止めることができず、隣に座り込み慰めるよう背中を軽く撫でてやる。
ベッド、豊かな胸、そして泣く女性と、いろいろ魅惑な響きだが、ここで劣情に流されてはいけない。
もし流されたならば、愛しの淑女様の涙が溢れる事になるのだから。
「すまん……アプフェルショーレ持ってくるから、それ飲んで少し落ち着くがいい」
落ち着かせる為に立ち上がろうとした時、
――グイ――
ワイシャツの裾が引っ張られる感触。足が何かに払われ、バランスを崩し、ベッドに倒れこむ。
目の前には悪戯な瞳をした彼女の姿。
「い・く・じ・な・し♪」
色っぽい仕草で彼の唇をなぞると、顔を重ねてきた。
先ほど泣いていたとは思えないほどの小悪魔的テクニック。
最初は口の中までは進入せず、唇の感触を思う存分楽しみ、それから閉じた唇を舌で割り入り、口内を楽しむ。
我に返った頃には、いつの間にかズボンをも脱がされていた。
「あは。もうこっちも元気になったね。さすがはドイツさん」
無垢な微笑みで下半身をいじる姿に、肌があわ立つのを感じた。
「……お前、何か考えている」
「えー、折角誘ったのに、反応してくれなかったのが悪い。
私は友達になりたかっただけなの。でも拒否されたから、身体だけは友達になろうと思ってね」
身体に乗りかかり、彼の腕をつかんで、ベッドの端に彼のズボンを使用し縛りつける。
その際、巨乳に顔をふさがれ、呼吸困難になりかけたりもした。
「ふふっ、これで楽しめるね」
満面の笑みを浮かべ、彼の目の前で服を脱ぎ始める。
胸元のリボンを解き、ズボンを下ろし、ブラウスに手をかけたところで、手が止まり、
「ちなみに服装のこだわりってある?
皆、私のおっぱいを味わえればよかったみたいだけど、日本さんは妙なこだわりがあってね」
「こだわりなんぞないから、いいから離……」
「あ、そっか。ドイツさん、SMが好きなのよね。女王様の格好ないのかな」
彼の言葉など聞かず、ブラウス一枚で部屋を捜索し始めるが、幸いというべきか部屋からはそれらしいものは出てこない。
――しゃがみこんだ際、ブラウスの裾からちらりと見える白い布に包まれた尻に少々むらっときてしまったのは、ドイツだけの秘密である。
「しょうがないな。んじゃ、まずはおっぱいでたっぷり可愛がってあげる♪」
ブラウスのボタンがはずされ、胸の拘束具がはずされる。
ぽよんと圧倒的な迫力で揺れる胸に、彼の目は釘付けになってしまった。
おっぱいが嫌いな男などいない。
白い二つの塊が、元気にそそり立つ肉茎に迫り来る。
ふにっと包み込まれれ、暖かな感触が直接脳に叩き込まれた。
「あら、やっぱ元気ね。もうぴくぴく反応しちゃって」
双丘からそり立つ光景は、とても淫猥で。その頭を舌でいじられる刺激はとてつもないもので。
その刺激に抵抗するために、意味もなくスペースオペラ小説「宇宙英雄ペリー・ローダン」シリーズのタイトルを反芻する。
――第126巻あたりで、本棚を破壊された事を思い出し、第513巻目で第36巻がどこかにいってしまったことに気がつき、書庫を捜索する羽目になり……
終わる事なきストーリーに、書庫を占領され、トラウマを植えつけられ……
「あ、そんなに耐えなくてもいいのに。ま、いいか。じゃ、中に入れようか」
全850巻、約3000話のタイトルを反芻する前に、彼女は新たな刺激を与えてきた。
下着を脱ぎ捨てると、蜜の垂れる淫裂を指で開き、肉茎を中へと導く。
温かい感触に、身体が硬直する。一歩間違えば、あっという間に出してしまいそうになる。
「もう、ほらほら、中にたっぷり出しててぇ…んぁ」
豊かな胸を震わせ、彼女は身体の上で舞い踊る。
その姿はとても淫猥で。あげる声はローレライのごとき美しくて。
いっそこのまま、誘惑されてしまえたらと思えるほど。
だが、快楽に身をゆだねようとするたびに、泣きそうな淑女の顔が浮かび……
――性交耐久レースは数時間続いた――
数時間続いても、体力が果てない彼女は化け物なのだろうか。
動き疲れれば、彼の口内を楽しみ、身体に唇を落とす。
壊れた蛇口のように溢れる快楽に、正気を保っていられる自分自身を誉めてあげたい気分だ。
「はぁ…私ヘタ? 気持ちよくないの? ねぇ……」
潤んだ瞳で何度目かの口付けをし……
――不意に瞳の端に映ったのは、ドアの外にあったワインレッドの見慣れたスカート。
嫌な予感がし、部屋の外に目をやる。
こういう時の嫌な予感は当たるものである。
翡翠色の瞳を大きく見開き、驚きと戸惑いの表情を浮かべ、立ち尽くす一人の少女。
「り、リヒテ…!!」
愛する者の名を叫ぶ事に集中をといたためか、あっさりと精を解き放ってしまった。
今までの苦労が水の泡になった。
「くふぅ……ん…やっとくれたのね。……気持ちいい〜」
中に出されたとろとろの精液の感触に、ウクライナは幸せそうな声を出す。
やっと自らの腰を揚げ、太ももに流れる精液の感触に酔いしれる。
「あら? そこにいるのはリヒちゃん? やっほ〜」
扉の外にいるリヒテンシュタインに手を振ってみせる。
「あっと、そのコレは誤解で」
この状況で誤解も何もない。浮気現場を直視してしまったのだから。
「……リヒテンシュタイン?」
うつむいて、肩を振るわせる彼女に駆け寄りたいが、手はまだ拘束されたままである。
どうにか取れないかと、もがいてはみるが手首が擦れるだけで無駄だった。
「……す、すま……」
「そんな縛り方は邪道ですの!!」
「……は?」
謝罪の言葉を中断させたのは、ずれまくった発言だった。
緋色の瞳がすーっと陰る。前にもこの瞳を見たことがある。
その瞳は……女王様降臨の証だ。
つかつかと室内に入ってくると、手を拘束しているズボンを解く。
先ほどの発言は理解できなかったが、拘束がとかれたことに安堵のため息を一つ。
「助かった……へ?」
「こんな縛り方では、ドイツ様の腕を痛めるだけですの! こういう時はしっかりと」
いつの間にか見つけ出したのか、荷物用の荒縄を取り出し、手早く彼の手を縛り上げる。
「こうすれば手のみ縛れますし、もっと縛りたければ……」
首に縄を回し、いくつか結び目を作る。出したばかりなのに、元気に主張する肉茎を鷲づかみにすると、縄を巻きつける。
身体に縄が巻きつけられ、腕を後ろに束縛された。いわゆる亀甲縛りである。
最初はきょとんとしていたウクライナも、リヒテンシュタインの変貌振りに楽しそうな笑みを浮かべた。
「ああ、なるほど。これならば手も動かないし、思いっきりヤれるね。
リヒちゃん才能あるわねぇ」
浮気相手だと思っていた女性に誉められ、顔を赤らめる。
「えっとその……は、恥ずかしいです!!」
とはいいつつも、自然な動作でドイツのベルトを鞭とし、振り上げる。
風を切る音、そして肌を打ち付ける音が高らかに鳴り響き、
「ドイツ様の為にいろいろ覚えました。ドイツ様が喜んでくださるのならばと、頑張りました」
「ぐっ! がはっ!」
「そう、ドイツ様の為なんです。ドイツ様、愛してます!」
可愛らしい言葉とは裏腹に、鞭裁きは神がかっており、的確に快楽のポイントをついてくる。
「だから、ドイツ様、愛してくださいまし」
ワンピースを脱ぎ捨てると、前に見たことのあるボンテージを着込んでいた。
『何で着込んでいるんだ』とか、『もしかしてやる気満々だったのか』とか、いろいろ突っ込みたかったのだが、
ここでつっこんだところで、鞭がとんでるだけだろう。
ただただ黙って、鞭の洗礼を受け続ける。
その横でシーツに包まり、興味津々に二人の行為を眺めているウクライナ。
見られているという感覚と、先ほどまで我慢し続けていた反動で肉茎が大きくしなり
「ダメです。まだまだです。……浮気されたのですから、頑張って耐えてくださいまし」
縄を引っ張られる感触。きゅっと肉茎の根元が締め付けられ、射精をせき止められた。
顔は笑っているが、瞳は笑っていない。まさに静かなる恐怖。
「ねぇ、ドイツ様……いえ、ドイツ」
「……はい、リヒテンシュタイン様」
そこから、女王様のお戯れの時間は始まった。
椅子に腰掛け足を広げる。ボンデージの合間から見える淫裂。溢れ出す蜜にはまだ手をつけない。
まずは滑らかな足先。唇を落とし、丁寧に指先を舐め始める。
「ん…お上手です。さすがですね」
くすぐったいような気持ちいいような感覚に、彼女の頬が緩む。
変化を確認すると、足先から、腿、内腿、そして淫裂へと舌を移動させる。
舌先で触れるだけで、蜜が足を伝い、垂れてきた。
垂れた蜜を舌で拭い、淫裂をかきわけ、中に進入した。
鼻先をくすぐる甘酸っぱい香り。
「ふぁ…ドイツドイツドイツぅ…っ」
「愛している。愛しています。女王様」
彼の怒涛の攻めに、彼女の腕から縄の端が落ちる。緩む束縛。
軽く動くだけで、縄は外れた。
やっと自由になった腕で、彼女の身体を強く抱きしめる。
耳元に息を吹きかけ、小さく呟いた。
「…女王様、ご命令を」
耳から入ってくる愛する者の声、ぴくりと身体を反応させる。
潤んだ瞳でしっかりと彼の顔を見つめ
「入れて…ん……入れなさい…っ!」
「御意に」
正面から抱き合った状態で、肉茎を静かに挿入し、彼女は大きくのけぞった。
「あぁぁぁっ! やぁ…中が…熱いです……くぅ」
「愛している愛してる。俺にはリヒテンシュタインしかいない。愛してる愛してる」
ただお互いの身体を強く求め合い、肌をぶつけ合い……
「うーん、私忘れられちゃった?」
すっかり蚊帳の外なウクライナがぽつりと呟いた。
もうどれくらいたったのだろうか。軽く一寝入りした後だから、2.3時間はたっていそうだが。
いまだ、熱く身体を合わせ続けている二人を前に、ため息を一つ。
あれだけ犯したのに、まだ続けられるドイツの体力には少々驚きもしたが、
完全に自分達の世界に入り込んでしまう二人にも驚きを隠せない。
こんなに激しい行為を目の前で見せ付けられたせいか、また子宮がうずうずしてきた。
ドイツの家に近い、スイス辺りかオーストリアでも襲おうかなと、枕を抱えながらぼんやりと考え……
近くにいい標的がいた事に気がつく。
「そうね。そういえば彼がいたわね」
シーツをまきつけた格好のまま、足音を殺し部屋を出て行く。
怪談を降り、居間へと向かう。
そして、暖炉の前で今だ寝息をたて、幸せそうに眠るプロイセンを見てにっこり微笑むと……
「ぐぅ…ん? 兄さんの悲鳴が聞こえたような」
「やっ…私以外の事、考えちゃ嫌ですっ! ふぁっ……」
まだ熱の冷めない二人と
「やーめーろぉぉぉぉっ」
「あら、ドイツさんより小さい……兄弟でも違うのね」
捕食者と化したウクライナとその被害者。
一つの家で繰り広げられる乱れた饗宴は、まだまだ続きそうである。