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 アナタの為に



ドアのノック音。
整理中の楽譜を机に置くと、ドアの外にいるはずの人物に声をかけた。
「開いてます。入ってきなさい」
「し、失礼します」
緊張した面持ちで、部屋に入ってきたのは、また幼さの残る少女だ。
ワインレッドのワンピースの裾を軽くつまみ、一礼してから、男……仕えるべきオーストリアの傍に歩み寄る。
できる限り、静かに優雅に。
彼女の足元から頭の先のでじっくり見据える。視線が動くたびに、ウサギのように震える姿が可愛らしい。
「中々、淑女らしくなってきましたね。リヒテンシュタイン。
今日は合格です」
彼の言葉に、安堵のため息を一つ。でも、これで終わりではない。重要な仕事が待っている。

指示が出るまで、いつまでも彼の傍で立ち尽くす。それも仕えるものの役目なのだから。
机の上に散らかった楽譜と書類をまとめると、一つ息を吐く。
「……さて、それじゃ、いつものようにお願いします」
それが開始の合図。
少しだけ頬を赤らめる。どうもこればかりは慣れそうにない。
「失礼いたします」
座っている彼の前に跪くと、ズボンのチャックを下ろし、男根を取り出す。
まだ元気のないソレを恐る恐る手にすると、先っぽに唇を落とした。
それから舌を使い、丁寧に舐める。舌の先でそっといじってみたり、全体を使って、刺激してみたり。
少しだけ元気になってきたのを確認すると、口に含む。もちろん、両手で竿をさするのは忘れない。
「そうそう……その調子です。やはり、飲み込みは早いですね」
頭を撫でてくれる手が気持ちいい。少しだけ目を細め、動きを早めた。
誰かに求めてもらえるのは嬉しい。
だから、このような事でも必死になってやって見せる。
――もちろん、このような事はいけない事だとは頭の片隅ではわかっていた。
でも、『淑女になるため』だと諭されては、彼女は否定する気は起きなかった。
彼もわかっている。愛する者がいるのに、こんな幼い少女にまで手を出すとは。
だが止められやしない。
小さな唇が、男の男根を包み込む姿はひどく淫猥で。背徳的で。
「くっ、いきますよ」
宣言すると、口の中に精液を放出する。
口の中に溢れる生臭い液体を溢れさせぬよう、両手で唇を軽く押さえ、こくんと飲み込んだ。
男根に残った液体をも丁寧に拭い採とると、もう一度小さく一礼する。
「ご馳走様でした」
「どういたしまして」
すました声で返事があった。

自らをズボンの中にしまいこむと、彼女の腰をつかみ、自分の膝の上に誘う。
膝の上に乗せながら、頭を撫でた。
「そろそろ独り立ちできそうですね」
彼の言葉に、表情が輝く。
しかし、逆に表情の暗い彼が心配になり、頬に手を伸ばす。
小さな手の感触に、しかめていた眉の力が抜けた。
「心配させてすみません。
……私もそろそろ身の振り方を考えないといけないんですよ」
頭の中に誰かから聞いた話が蘇る。
ハンガリーと結婚しようという噂が流れていると言うことを。


「ハンガリーは魅力的な女性です。
そりゃ、幼い頃は散々やられましたよ。
でも、あれは私が弱かったわけではなく、彼女が女性だとわかっていたからで 」
我ながら言い訳がましいと思いつつも、話は終わらない。
「私の家にきてから、ずいぶんと女らしくなりました。たまに男らしい面もでますが」

何をこんな少女に語ってるのだろう。
自分に忠実だから、ばらす事はないと思っているのか、それとも、純粋なこの少女に安らぎを覚えてしまったのか。
身内ですら、自らの命を狙ってくるというのに。

「ええ、愛してます。どんな女性よりも。
だからこそ不安なんです。
彼女を本当に幸せにできるか。
たまに、あのプロイセンの方が幸せにできるのではと思ってしまうんですよ」

手のひらをじっと見つめる。演奏ばかりで、傷のない手。彼女とは対称的の手。
綺麗な手なのに、本当は血にまみれているのはよく知っている。

「プロイセンのように、強い者のそばにいた方が、彼女も幸せでいられるのではないでしょうかね」
頭に触れている手が小刻みに震えていた。
見上げれば、今にも泣きそうな顔。
いつも強大な力と戦ってきたのだから、誰にも見せることなどできなかった弱気な瞳。
「えっと、その……オーストリアさま……私」
何かできないかとおろおろとし、意を決して、膝の上から降り、ワンピースと下着を脱ぎ捨てた。
滑らかな肌が露になる。未熟な体が彼の視線にさらされる。

今まで、『淑女の教育』と称して、様々な技を教えられた。
まだ中にまでは入れられた事はないが、それ以外は散々開発された。
励ます術はわからない。しかし、慰める技は知っている。
「オーストリアさま、元気だしてくださいまし」
裸体のまま、彼の膝に対面に座り込み、唇を近づけ、
「唇は大切な人の為にとっておきなさいといったでしょう」
先に彼女の額に唇が当たる。
顔を離すと、人差し指を立て、ちょっと困った顔を見せる彼の姿が目に入った。
「それに……貴女に慰めてもらうほど落ちぶれていませんよ」
「や、あ……す、すみません!」
顔が赤くなるのがわかった。拒絶に対してではない。
彼の言葉は最大限の優しさだ。一緒に暮らしてきてよくわかる。
恥ずかしいのは、身体でしか慰める術を思いつかなかった自分の未熟さに対してだ。
溢れる涙を止めることはできない。肩を震わし、何度かしゃくりあげる。
……少しだけ期待していたのかもしれない。彼の手が優しく涙を拭ってくれることを。

だが、彼は顔を逸らし、机の上の本を広げる。
「……泣くのでしたら、どこかいきなさい。迷惑ですよ。
それにもう貴女は必要ありません。どこかへいってしまいなさい」
彼女の顔を見もせずに言い放つ。それが悲しくて、辛くて。
「すみません……すみません……」
脱ぎ捨てたワンピースを胸に抱え、部屋を飛び出した。
足音が聞こえなくなったのを確認すると、彼は一つ息を吐き出す。
「……もう、貴女は独り立ちできるんです。
それに……この家もおしまいですから、巻き込むわけにはいきません」
膝の上に残った、彼女の感触。瞳の奥に焼きついた彼女の笑顔。
本当はそれを失いたくなかった。けれど。
今後、どうなっていくかわからない。混沌の時代となるだろう。その中にあの少女を巻き込めないから。
「今のうちに完全に縁を切っておかないと、後々厄介な事になりますよね」
……彼は今にも壊れてしまいそうな笑みを浮かべたのだった。


大きな木の下で泣きじゃくる少女。抱きしめたワンピースに涙が染みていく。
彼の元から飛び出して、どれくらい走ってきただろうか。
彼の屋敷が見えなくなると、へたれこむ。
まだ涙は止まらない。止まりそうにない。
捨てられた恐怖。傍にいられなくなった寂しさ。それらが涙となって溢れていく。
「もう戻れない……一緒にいられない……ふぇ……んん」
「あれ、誰かいるの?」
草が揺れる音とともに、誰かの声が聞こえてきた。
はっとして振り向くと、温和な笑みを浮かべた青年の姿があった。
昔、オーストリアの家で会った事のある青年。

「えっと……イタリアさん……でしたよね」
「あ、リヒちゃんだ。ヴェ〜♪ 久しぶりだね」
にこやかに駆け寄ろうとしたが、彼女の状況に表情が固まった。

当たり前だろう。イタリアの見たくないものの一つである女の子の泣き顔。
そして、何故か裸体で自分の服らしきものを抱きかかえている姿。

――身体に傷や痣はない。泥などの汚れもない。
服も破れた様子もないし、髪の乱れもそれほどではない。という事は乱暴されたわけではない――

冷静に一瞬で状況判断するのは、女好きとしての特技だろうか。
手に持っていた白旗の布を解くと、肩にそっとかけ、背を向けた。

背中合わせに座り込むと、どこからともなくリュートを取り出す。軽く指ではじき、音を確認する。
「あ〜♪ リヒちゃんは光る石〜♪ きらきら綺麗な宝石〜♪ そのままでも可愛いけど〜♪ 笑うともっときらきら〜」
気楽な彼の歌に、彼女の肩の力が抜け、笑いがこぼれる。
微かな笑い声を耳にすると、彼も微笑み、更に歌を続けた。
「笑う姿は宝石だね〜♪ その笑顔で俺はおなか一杯〜♪ あーでも、一緒にパスタ食べたいな〜♪」
「ふふっ、も、もう、イタリアさんったら」
「パスタもいいし、ジェラートもいいなぁ〜♪
リヒちゃんと一緒ならば〜イギリスのご飯でもおかわりできちゃうよ〜♪ でも、リヒちゃんには食べさせられないや〜♪」
こらえきれず、肩を震わし笑い出す彼女。
もう悲しみの涙はない。目じりには笑いすぎて溢れた涙が光る。

「あはは、やっぱりリヒちゃんの笑顔はいいな。俺も元気になれるよ」
彼女の前に座り、指で涙を拭う。そして目じりにキス。
途端に赤くなる彼女。そんな彼女がとても可愛らしく、更に笑みが深くなった。
「本当はぎゅってしたいぐらいなんだけど」
いつもならば、許可も得ずにハグしているところだが、さすがに裸同然の彼女を抱きしめるのは抵抗があった。
それも、さっきまで泣いていたのだから。

「ん、ゴメンね。弱みに付け込むような真似しちゃって。
でも、俺は本当にリヒちゃんの泣き顔が見たくなかっただけで……ヴェ?」
照れた顔が見えなくなる。背中に回される彼女の腕。
ふわっと香る女の子の香り。柔らかな身体の感触に、彼の肩が強張る。
「ありがとうございます。嬉しいです」
白い肩が目に痛い。目を逸らしてみても、服越しに感じる発展途上の胸の感触。
ここで襲わなければ男ではない。そうは思いつつも、またあの泣き顔は見たくない。
彼の手が宙をさまよう。強く抱きしめたい気持ちと、泣かせてしまうかもしれないという恐怖がせめぎあう。
彼女もそれを理解はしていたのだろう。ちらりと上目遣いで見つめ、何かを口にしようとし……口ごもる。
もう一度、彼の胸に顔をうずめ、消え去りそうな声で呟いた。
「……大丈夫です。私、イタリアさん大好きですから」

――その言葉で、イタリアの理性の糸は切れ落ちた――



「リヒちゃん、大好きだよ。すっごく好き。誰よりも一番好き」
向かい合わせに座り込み、頬にキス。瞼に、額に、そして戸惑い気味に唇をあわせる。
一度火がついてしまったら、一度だけでは物足りない。
緊張し、硬く閉じた唇を優しくほぐす。舌で柔らかな唇を舐め、少しずつ中へと入り込む。
口に入り込んだ舌で、彼女の中をじっくりと味わう。
少しだけ目を開けてみた。唇から溢れでる快楽に必死に耐える表情が愛おしい。
目の端にワインが入った。バックの中に常備されているパスタとセットにしてあるものだ。
本来ならば、グラスに注いで飲みたい所だが、こういう状況ではそんな事もできない。
唇を離すと、コルクを歯で抜き、ワインを直接あおる。
一口二口自らの喉に流し込み、続いて口に含んだまま、もう一度唇を合わせた。
彼女の口の中に注ぎ込む。口の端から飲みきれなかったワインが零れ落ちるのが妙に色っぽい。
アルコールが身体の隅々にまで回る。顔が火照る。
それは彼女も同じようだ。唇が離れ、寂しそうに熱の残る唇を指でなぞった。

「ね、もっと触れてもいい? もっとリヒちゃんのぬくもり味わいたいんだ」
愛しているからこそ、欲情に流されてはいけないことを知っている。
恥ずかしげに、小さく頷いたのを確認すると、もう一度唇を落とした。
地面に石や、硬い葉がない事をしっかりと確認し、手で支えながら慎重に横にした。
その際も、常に彼女の表情の変化を見逃さぬよう、注意深く観察する。
顔を赤くし、身体を隠そうとする彼女の手を握り締め、手の甲に唇を落とした。
滑らかな曲線を描く裸体。今まで見てきたどんな芸術作品よりも美しくて。
陶器のような白い肌。だが、触れれば解けてしまいそうになほど柔らかい身体。

「触るよ」
一応声をかけてから、首筋に触れてみる。
ぴくっと身じろぎした所で、手を引っ込める。
しかしそれが拒否の反応ではないという事を確認すると、今度は首筋に舌を這わせた。
時折口から出てくるのは、歌声のような甘い声。
「綺麗な声だね」
素直な感想を口にすると、途端に顔を赤らめる彼女。
「す、すみません。うるさかったですか?」
「ううん、もっと聞かせて欲しいな。リヒちゃんの声、好きだもん」
首筋にキス。今度は少しだけ強く吸い上げる。
赤く染まった印が刻まれた。征服の証。

指先を徐々に下ろしていく。ほんのり膨らんだ胸の上で主張する突起。
弦を弾くかのよう指先でいじれば、楽器のように良い声を上げてくれる。
突起を少しだけ口に含んでみる。
やはり女性の胸は落ち着く。イタリアはマザコンとかいわれもするが、結局は女性の神秘さにひかれているだけなのではないかと思う。
かの巨匠たちも、女性の裸体に魅入られたものも多い。
胸に耳を当ててみた。暖かな鼓動がしっかりと聞こえる。
誰かの肌に触れられるというのは、なんて幸せな事だろうか。
最近は嫌いな戦いばかりだったから、誰かのぬくもりが気持ちよい。
このまま抱きしめているだけでも十分幸せだが、もっともっと彼女の事を知りたい。感じたい。

「下も触るよ。いい?」
彼の言葉に、視線を外し、小さく頷く。
「……も、もし、何か粗相がありましたら、おっしゃってください。私……その初めてですから」
「大丈夫だよ。俺も初めてだから」
初々しい二人は、もう一度唇を合わせ。


「あぅ…や…い、イタリアさ……ん」

淫肉をかき分ければ、あふれ出す淫靡な蜜。
指ですくって口にする。甘酸っぱいような不思議な味。どんなデザートよりも心が躍る。
中に指を入れ、ゆっくりと抜き出す。濡れた音が響くたび、彼女の身体が小さく震えた。
ぷっくりとはれた豆を挟み、指で転がす。
「そ、そこは……んぁ…っ」
彼女の反応を確認し、そこを集中的に攻める。
拙い指の動きだが、興奮している彼女にはそれで十分すぎるほど。
襲いくる快感から逃れようと、腕を伸ばし、彼の頭をぎゅっと抱きしめる。
だが、それは逆効果で、敏感な胸の先に彼の吐息がかかった。
荒い吐息すら、激しい刺激となる。
身体全体を指が、口が、舌が、吐息が。彼の全てが快楽へと攻め立てる。
敏感な豆を指で転がされ
「…はぁッ、あァ…こ、怖いで……す……何かく……んッ」
彼女の身体を突き上げるような激しい感触に、大きく震え……大きな息を解き放つ。
だが、すぐに新たな快楽は、激しく彼女の身体に熱を与える。

「……そろそろ、いいかな?」
耳元で呟かれる声は熱病におかされたかのように熱く、
「……はい。お願いします」
その熱病は彼女にも伝染し、潤んだ瞳で彼を見上げる。
ズボンから顔を出した陰棒ですらとても愛おしい。
割れ目に数回すりつけ、ゆっくりと腰を落とす。
「ひっ…やっ、いた……」
「ゴメン! 痛い? じゃ、抜く……」
彼女の悲痛な声に、彼の動きが止まる。眼に浮かぶ涙に腰がひけ、
「……ダメです……んっ、私は大丈夫……くぅん…だからもっと……」
肩に柔らかい腕がまわった。痛みに耐えながらも、求める姿は健気で。

このお願いをかなえなければいけない。その思いのみで、彼はゆっくりと腰を落とした。
正直な所、一人でやるのに慣れてしまったため、刺激が少々足りなかったが、柔らかな女性に包まれていく感触は気持ちよい。
陰棒が全て飲み込まれる。暖かな感触に、彼は大きく息を吐き、彼女をぎゅっと抱きしめた。
身体は小さく震えている。まだ痛みに耐えているのだろう。

「神様って意地悪だね。女の子に痛みばっか与えてるんだもん。
初めての時とか、生理とか、出産とか。もう少し男にも痛みを与えればいいのに。
あ、もしかして神様って、Sなのかもね」
彼の言葉に、抱きしめていた肩から少し力が抜けたのがわかった。

痛みが消えるまで、できる限り動かさない。膝の上に乗せ、身体を優しく抱きしめる。
この格好ならば、地面に触れている部分がないため、彼女の身体を冷やす事はない。
いつまでも待つつもりだ。痛みがなくなるまで。
微かに震える肩を抱きしめ、耳元でささやき続ける。
彼女への愛の言葉を。彼女への愛の歌を。


どれくらいの時間が過ぎた頃だろうか。
彼女は大きく息をはいた。
こつんとおでこをあわせる。もう瞳に痛みの色はない。
「もう大丈夫……です。お願いですから……イタリアさん、気持ちよくなってください」
彼は素早く唇を奪うと、軽く頬を膨らませる。

「イヤだよ。俺ばかりじゃイヤ。一緒に気持ちよくなろうね」
子供っぽい行動に、彼女の顔に笑みが浮かび。
腰が突き動かされる。彼女の表情を見ながら、ゆっくりと無理のないように。
痛みに顔を歪ませれば、動きを止め、胸をいじり痛みから意識を逸らさせる。

泣き顔なんて見たくないから、できる限り彼女が快楽を味わえるように。
そのためならば、自分の快楽なんて投げ捨てても良い。
彼女の笑顔こそが、一番の幸せなのだから。

様子を見ながら、動きを制限する。
痛そうな声が聞こえれば、たとえ自分の快楽が抑えられようとも動きを緩める。
繰り返していくうちに、徐々に腰の動きが早まる。
打ち付けるたびに、彼女の口から甘い声があふれ出てくるようになった。
呼吸のたびに、自分自身を締め付けてくる淫肉の感触に理性を奪われそうになる。
「やっ! …あ、もう……やっ! イタリアさん! イタリアさん、私壊れ……ひゃっ」
「くっ、いいよ。壊れよう。壊れてもいいよ。俺がいるから。俺が守るから」
背中に爪を立て、快楽に飲まれようとしている彼女に唇を重ね。
「あぁっ! や! わからない! もう、やぁっ!!」
身体に力がはいり、瞬間、淫肉も強く締め付ける。
彼女の身体が大きくしなり、一瞬遅れ、中へと精を吐き出した。

目に涙を浮かべ、大きく呼吸をする彼女をぎゅっと一度抱きしめ、ゆっくりと抜く。
とろりと溢れ出すほんのりと赤さがまじった精液。
もう一度唇を重ね、

「あ、ダメだ。ごめん」
彼は力が抜けたのか、地面に横たわる。
心配そうに見つめる彼女の頭を優しく撫で、自嘲の笑みを浮かべた。
「ゴメン。情けないなぁ。俺。
こういう時は、ぎゅっと抱きしめてあげるのが本当なんだろうけど」
大きく息を吐き……今度は彼女の方から唇を重ねてきた。
「いいえ。嬉しいです。ずっと私の心配をしてくれていたんですから」

横たわる彼の頭を膝の上に置き、優しく髪をなでる。
「それに……本当にゴメンナサイ。私あんな姿を……」
「んー、あんな姿ってなんだっけ」

力なく笑い、目をつぶった。
泣いていた理由を尋ねる事はしない。
彼女が話してくれなければ無理に聞こうとも思わないのだろう。
そんな優しさに、彼女は再び涙が浮かぶ。

「え、あ、ゴメン。俺、なんか言った? 本当にゴメン」
「いえ、そうではなく……その……」
ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。今までの事を。

オーストリアが不安げな顔をしていたこと。
オーストリアの元から追い出されたこと。
それが悲しくて、寂しくて、泣いていたことを。

一通り話を効くと、彼は優しい笑みを浮かべ、頬に流れた涙を指で拭った。
「それならば大丈夫だよ。
オーストリアさんだもん。きっとリヒちゃんの事を考えて、家から出したんだよ。
もう一人で生活できるし、何よりも……争いに巻き込みたくないから」

オーストリアの周りで争いがおきかけている理由はわかっている。
ある意味、自分のせいだ。自分の独立のための戦いのせいで、オーストリアの家にもその余波がきているのだ。
だから、原因は……

「ゴメン。本当にゴメンね。俺のせいで……俺の……」
本当に情けないと思う。男が女の子の前で涙を流すだなんて。
でも、とまりそうにない。溢れる涙は彼女の膝を濡らし
「……泣き止んでください……じゃないと、私が泣きますよ」
思いがけない彼女の台詞に、溢れていた涙がぴたりと止まる。
涙でにじむ視界をクリアにすれば、目に入ってきたのはくすくすと可愛らしい笑みを浮かべる彼女。
「イタリアさん、優しいからこういえば泣き止むと思いましたよ」
「あー、ずるい。リヒちゃんの意地悪」
「ふふふっ」
二人は楽しそうにしばらく笑い続け……もう一度唇を合わせた。

名残惜しそうに唇を離す。そろそろ二人とも行かないといけないことはわかっている。
おでこをくっつけ、手を合わせる。
「次のキスは、二人とも笑顔の時だね」
「ええ、約束します。では……またお会いしましょう」
手がゆっくりと離れ……二人の別れを惜しむように太陽は地平線に沈む。


そして――また二人は出逢う。そう遠くもない未来に――




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