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 結婚狂走曲



青い空に鐘の音が響き渡る。

白いドレスに身を包み、幸せそうに微笑む女性。
その横で照れた笑いで、彼女の手を優しく握り締める男。
彼女らを祝福する人々は皆笑顔で。
いや、一部は涙にくれたり、少しだけ不機嫌そうだったりもしているが、
幸せそうな彼女の顔を見れば何も言えやしない。

手には白いエーデルワイスと赤いゼラニウムの花をあしらえたブーケ。
二人の国花をブーケにしてもらったのだ。赤と白のコントラストがお互いを引き立たせる。
そして、赤と白は愛する者の国旗の色。

カソックを身に着けたイタリアが彼女達の前に出てきた。
客席ではらはらと見入るのはドイツ。何か失敗しないかと不安なのだろう。
不機嫌なトルコの腕に軽く手をかけ、草原という自然のバージンロードを歩み進む。
聖壇の前で待っていた新郎が手を差し伸べる。
手が離れる瞬間、トルコが悲しげな表情を見せるが、すぐにいつもの皮肉混じった笑みを浮かべて見せた。

そして、賛美歌が響き渡る。オルガンの演奏はロマーノだ。
心配そうに見つめるスペインを一にらみする。歌に集中しろと言わんがように。
この時ばかりは、国や宗教の壁などない。皆が声を合わせ、賛美歌を高らかに歌いあげる。
各国の言葉で。個々の思いを込めて。それが一つになり、空へと溶けていく。
風の音色や鳥のさえずりさえ、祝福しているかのように響きわたった。

賛美歌が終わり、一瞬の沈黙の後、イタリアが一歩前に出た。
「それじゃ、聖書の朗読をします」
イタリアはこほんと咳払いをすると、聖書を開き、一部を読み上げる。
さすがに読み続けていただけあり、その声は歌のようにも聞こえた。
幼い頃を知っている二人は、顔を見合わせ少しだけ笑みを浮かべた。

「汝オーストリアさんは、この女ハンガリーさんを妻とし、
良き時も悪き時も共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで……」
そこで言葉が止まった。少し照れ笑いをするイタリアに、オーストリアの肩が落ちる。
「えっと、とにかくオーストリアさんは絶対にハンガリーさんを離さないって誓いますか?」
イタリアらしい誓約の言葉に、彼は微かに笑い、しっかりとハンガリーの瞳を見ながら言葉を綴る。
「ええ。誓います」
「では、ハンガリーさんもオーストリアさんをどんな時も隣にいるって誓えますか?」
「はい、誓います」
幸せそうに微笑む彼女の手をぎゅっと握り締める。

「うん、じゃ指輪の交換をおねがいします」
イタリアの言葉とともに、リングピローを持ったロシアとカナダが前に出てきた。
ロシアには苦手意識のあるハンガリーの手が軽く震える。彼は優しく握り返し。
「こんな祝いの席で何もやらないよ。はい指輪。ぼくんちでとれた奴で作ったよ。感謝してほしいな」
少し寂しそうに笑うロシア。
「これ、僕んちで取れたプラチナで作ったんです。細工はギリシャさんにお願いしました」
参列者席に視線をやると、猫とともに参加していたギリシャが小さく手を振る。
そのギリシャの頭の上で、猫がくしゃみを一つ。周りを見回し、大きなあくびをして再び眠りにつく。
和みの光景に、ハンガリーの頬を緩む。それにつられて、オーストリアも笑いを浮かべ、ロシアから指輪を受け取った。
細かな細工の中に、さりげなく二重帝国時の国章が刻まれているのはさすがというべきか。

「では……ハンガリー、手を」
彼女の手をとり、グローブを脱がせる。しなやかな指先に指輪を贈る。
そして彼女も同じように指輪を贈り……
「それでは、誓いの口付けを」
ベールをたくし上げ、頬に触れる。柔らかな頬。愛おしい彼女の瞳をまっすぐに見つめ……唇を合わせる。
あまりに愛おしすぎて、唇を離すのが惜しい。甘い口の中をゆっくりと味わい……

「お熱いのはいいが、俺ら忘れんじゃねーぞ」
あきれた声のキューバによって、二人は我に返った。
頬を赤らめる二人に、周りの生暖かな視線。

「はいはい、人のいちゃいちゃ楽しすぎっから、とっとと進めるぞ。
ほら、結婚誓約書にサインよこせ」
借金の取立てのノリでフランスが前にでてきた。手には美しく装飾された一冊の本。
一ページ目を開き、ペンを二人に渡す。
最初のページに二人の名前を書くと、フランスは満足げに笑い
「んじゃ、お兄さんが責任持ってセントバレンタイン村に持っていくからな。
何百年、何千年も残してやるから覚悟しとけ」
「はいはいはい。フランス兄ちゃんは、役目終わったら早く戻って」
イタリアに促され、つまらなそうに舌打ちを一つ。
「ちぇ〜寂しすぎ〜よーし、お兄さん、新婦にセクハラし」
辺りに響き渡る鈍い音。
倒れこむフランス。
後ろにはカジキマグロを装備したセーシェルが肩で息をしていた。
「フランスさん、おふざけはほどほどにしとけです」
首襟をひっつかみ、ずかずかと参列者席へと戻っていく。
空いている席にフランスを放りなげると、何事もなかったかのようにすました笑みを浮かべて見せた。

相変わらずのフランスに苦笑いを浮かべ、すぐに二人の事を思い出しバツが悪そうな顔をするイタリア。
「平穏無事に終わるとは最初から思っていませんでしたよ。続きをどうぞ」
「あ、はい。えーと……
これで二人を夫婦と認めます。更なる幸せが舞い降りんことを」
締めの言葉に、誰もがほっと息をつく。
このメンバーで一応無事に終わったのは、奇跡に近いことだろう。

「じゃ、飲み食いするですよーー! おなかすいたですよ」
空気を読む気もないシーランドが高らかに宣言する。
そして、宴会に近い披露宴は幕を開けたのだった。

草原に置かれた机の上に、様々な国の料理が並ぶ。
統一感はないが、それも一つの楽しみである。
「ほら、俺特製のウェディングケーキだ。ラッキービーンズいりだぞ」
「今日ばかりは俺も手伝ったんだぞ。中々良い色だろ」
「蛍光ピンクむちゃいいしー。暗くても光るなんて最高じゃね?」
味音痴の眉毛、原色使いの自称ヒーロー、ピンク命な不死鳥という最凶三人組がそろって作り上げた巨大なケーキを前に、一同は硬直していた。
「さすがに椅子意外は何でも食う我でも、アレは遠慮したいある」
中国ですら引くほどなのだから、よほどのものなのだろう。
エストニアは、ロシアに嫌がらせのように薦められたピンクの塊からわざとらしく目を逸らし……
女の子の集団を見つけて、少し頬が緩んだ。


「皆ありがとうね。ドレス作ってくれて」
白いドレスを身にまとったハンガリーが優雅に微笑む。
その微笑にウクライナが感嘆のため息を漏らす。
「やっぱ、ハンガリーちゃん素敵ねぇ」
「ええ……やはりハンガリーさんにはマリアベールがお似合いですね。
ベルギーさんがレース編みがお上手で助かりました」
「レース編みなら任せてな。リヒちゃんが結婚する時も腕振るうで」
「まぁ……」
自分の結婚式を想像したのだろう。頬を赤めるリヒテンシュタイン。
微笑ましそうに見ていたが、スイスの視線に気がつき、ベトナムが身体を硬直させた。

ただならぬ殺気に話題を変えようと、ハンガリーのドレスを見つめ……胸元できらめく宝石を見つける。
「その宝石……」
「あ、これですか。マリア女王様の宝石の花束から少しお借りしました。
ジンクスにあやかって、古いものをお借りしたんです。
それをチベットさんがうまくネックレスの中に取り入れてくれて。
で、皆さんで作ってくれた靴とドレスが『何か新しいもの』
青いものがガーター。で、本当ならば幸せな結婚した方から物を借りたかったんだけど」
「……このメンバーだと、それは難しそうですね」
賑やかに暴走し続ける男性を見て、一つため息をつく台湾。

「だから、マリア女王様から宝石をもう一つおかりして……」
「ハンガリー! ガータートスガータートスガータートスってか、足見せろハァハァハァ」
酔いに酔ったフランスが突然乱入し、ハンガリーのドレスをめくろうとし……
ひるがえるスカート。ちらりと見える白い肌に青いガーター。そして
「もう一度寝ててください!!」
必殺フライパンがフランスの頭を直撃し、沈黙した。
ふっと男らしく微笑むと、足を露にし、ガーターにフライパンを止め直す。
「ベラルーシさん、このガーター、中々便利ですね」
やはり優雅に微笑むハンガリーに、ウォッカを傾けていたベラルーシが黙って親指を立てていた。

和やかな女の子たちとは対照的に、妙に殺気が漂っている男性陣。
トルコがオーストリアの肩を組み、次々とカップに酒をついでいく。
「全くなぁ、あんのじゃじゃ馬娘があんな立派になりやがってよぉ」
「は、はぁ……」
「酒、進んでない。飲む」
反対側では、エジプトか黙々と飲みながら、タイが持ってきた度の強い酒をトルコの傍にそっと置く。
トルコはそれに気がつかず、どんどんオーストリアのカップにそれを注ぎ込んでいった。

そして背後では香港と韓国相手にくだを巻いているプロイセンが一人。
「俺だって幼馴染じゃねーのか? 胸揉んだのは俺の方がはやかったのに。なぁ、聞いてるか?」
「……Quiet。煩い」
「早く食べないとなくなるんだぜ!」
否、食に夢中の二人には全く相手にされていなかった。まさに一人楽しすぎな状況だ。
「ケセセセセ……ビールがしょっぱいぜ」
……寂しそうに涙を流すプロイセンに気がつくものは誰もいない。

一方、食の争いの中心では……
「あーもう、デンマークさん! そんなにがっつかなくても簡単にはなくなりませんってば!
ノルウェーさんも慌てないで! ……なんでデンマークさんが皿にとったそばから食べてるんですか?
それに二人とも、リコリスをウェディングケーキに飾って凶悪さに磨きかけないでください!!」
北欧の暴れん坊二人組みにツッコミが追いつかないラトビアは、長兄的存在のスウェーデンに助けを求めようとしたが、
「……仲いいっべ」
「そうですねぇ」
見守りモードに入ってしまっているスウェーデンとフィンランドに何を言っても無駄だろう。
手にはしっかりと可愛い形に加工されたサルミアッキが握り締められている。
これらも飾る気満々なのだろう。
最後の救いになりそうなアイスランドを探し……さらに絶望した。
いつの間にか、食料争奪戦に参加していたのだから。
リトアニアは、ベラルーシとの結婚式の妄想に取り付かれて使い物になりそうにないし。
「ああ、いっその事飲んで記憶失えたら楽なのに」
どんなに飲んでも、飲み足りない自分の体質がイヤになり、彼は膝を抱え、すすり泣く。

賑やかな集団とは一歩引いて、静かに日本酒を傾ける日本がいた。
その隣で、ビールをあおるように飲んでいたドイツが、コップを置いた。
「そういえば日本、お前大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「アメリカがドッキリとして企画したのに、ほとんど日本のお財布からだしてくれたんでしょ」
いつの間にか二人の間にはいりこんだイタリアが首をかしげた。
ドイツが口出ししない所をみると、彼もそれを聞きたかったらしい。
「……冠婚葬祭に関してはけちる気はありませんよ。
丁度、お二人と出合って140年の節目ですし、何かやろうと思っていた矢先に、アメリカさんが話題を提供してくださいました。
……あの頃は和やかな結婚式はできなかったでしょうから、派手に行きましょう。それに……」
日本は穏やかな微笑で、新郎新婦の幸せそうな姿を眺め、それからいまだ騒いでいる一同を見回す。
「誰かの笑顔を見る事は好きですから」
まるで孫を慈しむような表情で、ぽつりと呟いたのだった。


そして……

「お前んちのガキども幸せそうじゃねーか。
いいねぇ。みんなが集まっても戦争にならないってーのは幸せな時代になったな」
「……だな」
「本当ならばじーちゃんも参加したいとこだが、祝いの席に乱入するのも粋じゃねーし、やめておくか」
「……そうしとけ」

懐かしい誰かの声が聞こえた気がして、空を見上げた者が数人いたのは、些細な話である。




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