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 結婚組曲



純白のドレスが舞う。
照れ笑いを浮かべるハンガリーに、手を差し伸べる。
「やはり美しいですね。我が妻よ」
「ちょっと照れますね。なんだか」
オーストリアの手をとり、胸に飛び込む。暖かな腕に包まれ、目をつぶった。

初めて包容してもらったのはいつだったか。
幼い頃は敵対する相手でしかなかったのに。
今では誰よりも大切な存在となっている。
懐かしい記憶が蘇る。
剣を振り回していた自分。
やんちゃして、彼と戦って。でも、嫌われてなくて。
それがうれしくて、いつもくってかかっていた。

不意に思い出した。幼い頃、自分が行った仕打ちを。
「そういえば、お尻の傷跡、治りました?」
途端に、彼の顔が赤らむのがわかった。
「あ、え、な、治りましたよ!」
「あ〜慌ててるということは、まだ治ってないって事ですね?」
「……あの時の事は忘れなさい」
「嫌です。あの時から、好きだったんですもの」
顔をあげ、舌を出す姿が愛おしいくて。
頬に口づけを一つ。
「全く相変わらず可愛らしい人ですね」
今度は額に唇を落とす。

「愛してますよ。何百年前から。そして、何百年後、何千年後も愛してます」
唇を合わせる。
最初は軽く。次は長く。
「私も大好きです。愛してます。すごく大好きです」
「わかってますよ」
愛の囁きに答えてくれる彼女の唇を塞ぐ。
柔らかな唇が気持ちいい。
舌を絡めれば、しっかりと応えてくれる。
先ほど飲んだワインの味が、口の中にほんのり残っている。
もう少し味わいたいが、口の中だけでは物足りない。

「……いいですか?」
同意を得ようと、顔を見つめながら問う。
くすくすと笑いをこぼす彼女が可愛らしくて、もう一度頬にキス。
「いやだなんていうと思いますか?
……沢山愛してください」
その言葉で、彼はもう一度、体を強く抱きしめる。

そのまま、体を持ち上げ、ベッドへと運ぶ。
日本が用意してくれた部屋にある天蓋つきのベッド。まるで姫と王子のようで。
白いシーツの上に優しくおろすと、首筋にキス。
赤く残った印を確認し、唇を下におろしていく。
白いドレスから覗く豊かな胸元。
改めて見ると、結構露出が多い事に気がつき、彼は複雑な表情になった。
こんな美しい肌を、他の男の目にさらしてしまっていたのか。

「オーストリアさん、顔が少し怖いです……ひゃっ」
音を立て、胸元にしゃぶりつく。何度も何度も吸い付き、赤い痕を点々と残していく。
「これでこの肌は私のものです」
征服欲の強さが頭を現す。
唇を合わせながら、ドレスの胸元をずらし、ビスチェの紐を解いた。
形の良い胸がこぼれる。

手で包み込むとぴったりと収まる。まるで真珠を守る貝のように。
指の間に胸の頂を挟むと、手のひら全体で揉みしだいた。
柔らかな胸が、彼の動きに合わせ、形を変えていく。
波のように襲い来る刺激に、頂は固さを増していった。
口に含み、舌先で転がす。女性特有の甘い香りに、次第に興奮が高まっていった。
彼の背中に回る腕が強くなる。

「あの…ふぁ…私、オーストリアさんと素肌…重ねたいです」
頬を赤らめ呟く姿が愛おしい。
燕尾服のボタンを外す間も、彼女から離れようとしない。片手でボタンを外し、片手は胸に触れ続ける。
白の蝶ネクタイを解き、自らの前をはだける。
筋肉質ではないが、程よく筋肉のついた引き締まった肉体。

自分より際立つ肌の白さに、彼女は両手で胸を隠す。
「何で隠すんですか? こんな綺麗なのに」
両手を上に上げさせ、肌に唇を落とした。
「あ……だって、オーストリアさんの方が肌が綺麗で……くぅ……ん、恥ずか…しいです」
「貴女の方が綺麗です。この傷痕も、この傷痕も好きですよ。貴女が頑張ってくれた証ですから」
微かに残る傷跡を指でなぞり、唇で赤い印を刻む。

そして肌と肌を合わせるよう、抱き合い……
「……なんか幸せです」
「私も幸せですよ。貴女がこうして傍にいてくれる。なんて幸せ者なんでしょうね」
重なる肌から、お互いの鼓動を感じられる。
静かに抱き合える時間があるだなんて、思いもしなかった。
争いの中、いつ離れてしまうかと不安が襲い、ただお互いに繋がる事でしか愛を確認できなかった。
今は争うこともない。
こうしてゆっくりと肌のぬくもりを味わうことができる。

「……このまま、寝てしまいそうですよ。幸せすぎて」
目をつぶり、一呼吸。そのまま寝てしまえば、良い夢が見られるだろう。
「ダメです。今日は愛してください。たくさんたくさん愛してください。
いっぱいいっぱい私の中に入れてください」
可愛らしいおねだりに、彼の身体を熱が駆け巡った。


「言っておきますけれど、もう止められませんよ」
「止まらなくていいです」
今度は彼女から唇を合わせてきた。

唇を重ねたまま、ドレスのスカートをたくし上げる。
滑らかな足を指で撫でれば、ぴくりと反応を見せる彼女。
フレアパンツの隙間から手を入れれば、すでにしっとりと濡れている下着。
もう下着の意味はないだろう。
腰をうかせ、二枚の下着を脱がせる。
白いドレスの中で、鮮やかな色を見せる淫唇がひくひくと何かを求める。

「ああ、もう私を受け入れる準備はできているみたいですね」
指を差し入れれば、滴る銀色の蜜が指に絡みつく。
肉芽を軽く触れれば、さらに蜜があふれ出てくる。
涙を浮かべ、彼を見上げる彼女にもう一度唇を重ね

「入れますよ」
その言葉だけで、彼女の中へと欲望を進入させた。
抵抗するような肉厚の壁。押し込むほどに、彼を求め、締め付けてくる。
「あ……あぁ…熱い…です」
もう慣れても良いはずなのに、彼女の中に進入するたび、新たな感触に身が震える。
まるで、良い音楽に触れたときのように。
いや、彼女自体が良い楽器なのだろうか。
彼の弓を引けば、彼女の弦が抜かせぬよう締め付け、甘い声を上げる。
飽きぬ声。肌を重ねるたびに、新たな曲を作り出してくれる。
「良い声です。もっともっと聞かせてください」
嬌艶な声は快楽の協奏曲を奏であげ、打ち付ける肌が熱さを増していく。
襲いくる感覚が彼女の身体を走り……
「あ……オーストリアさ…ん、オーストリアさん!!」
「ハンガリー! ハンガリー! ハンガリー!」
お互いの名前を呼び、強く強く身体を抱き寄せ。


――二人は愛を再確認したのだった――


少しだけ重い身体。頭の芯が蕩けているように感じるか、この時間が好きだった。
彼がしっかりと抱きしめてくれるから。
優しく髪を梳いてくれ、頬にキスをしてくれる。
まどろみのこの時が永遠に続けばいいと思う。
しかし……同時に子宮がうずく。まだ足りないと。もっと彼を味わいたいと。
「オーストリアさん……へへっ」
彼女から口付けを一つ。横たわっている彼の弓を手で優しくさわり、時には強くもみ、口に含み。
「もう一度、やりましょ。ねっ」
元気にそそり立った弓を体内へと導くと、彼女は彼の上で腰を振る。
可愛らしい女性が、淫魔のように踊り狂う姿はひどく淫靡で。

そして、二人だけの饗宴の宴が再び始まる……

何度、イったかわからない。
何度、精をだしたかわからない。
少しだけまどろみ、目覚めれば再び身体を求め続ける。
それが何度繰り返されたか。

何度目かの絶頂を迎えたころ、彼女の耳にさわやかな小鳥の声が聞こえた。
窓をみれば、すでに日がさしていた。時計を見れば、すでに日が高くなっている時間である。
彼の腕にだかれ、ぼんやりと考える。

――えーと……今日は……結婚式が終わって……
そういえば、『折角だから二日間続けてやる』って言われて、それで――

やっと大切な事を思い出し、すーっと血の気がひいた。
「オーストリアさん! 大変です!」
顔を上げた途端、彼のあごにクリーンヒットし、涙目になっていたが、そんな事気にしている暇はない。
「大変って……なんですか?」
「大変です! 今日も披露宴をやるっていわれて、ドレス着てきてくださいって言われて!!」
恐る恐るドレスを見てみる。
精液や愛液にまみれ、所々破けていたりもした。途中で鞭やら縄やらいけない玩具を使ったせいだろうか。
破けぐらいならば、繕えばどうにかなったかもしれない。内職は得意だ。
だが……この精液や愛液の香りは隠す事はできないだろう。もし、洗ったとしても取れやしないほど、大量なのだから。

それも問題だっが、時計が指していた時間。
披露宴の開始時間の30分前なのである。
「あーもう時間もない! せめてシャワーだけでも!!」
ベッドから抜け出し、シャワールームに向かおうとしたが、足腰に力が入らず、へたり込んでしまった。
それは仕方がないことだろう。十数時間耐久セックスに挑んでいたのだから。
彼も同じだっただろうが、震える膝をどうにか押さえつけ、彼女を抱き起こす。
そして、いわゆるお姫様抱っこでシャワールームへと向かった。


熱いシャワーが心地よい。
後ろから抱きしめてくれる彼の腕も気持ちよい。
混乱していた頭がやっと冷静になった気がした。
「少しぐらいならば遅れてもいいですよね」
「当たり前じゃないですか。誰のための式だと思っているんです?」
おでこに当たる唇。彼の顔が近づき、唇を重ね……
その間にも、彼の手は豊かな胸を優しく揉み続ける。
身体が火照っていくのは、熱いシャワーだけのせいではないだろう。
股の間に入ってくる足の刺激に、熱い蜜が再び溢れ、
「遅れるんでしたら、もう一回いいですよね」
耳元でささやいてくる彼の言葉に、身体は逆らう事などできず。
甘い声をあげ、再び繋がったのだった。

「ま、まずいですよ!!」
浴室での一戦……いや、数戦後、火照る身体を冷まそうと、寝室へと来た途端、時計が目に入る。
披露宴の集合時間はとうに過ぎていた。朝の約束だったはずなのにもう昼に近い。
身体はすっきりとしたが、ドレスの惨状は代わらず。
これでは着ていくものがない。
というか、部屋には本当に着るものすらなかった。
着替えは持ってこなかったのだから。
あるのは、せいぜいおいてあったバスローブぐらいだろうか。
混乱する二人。

その時、誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。
ハンガリーにシーツをかけ、自らもバスローブをひっかけると、急ぎ足でドアへと向かった。
スコープを覗いてみるが、誰もいない。
悪戯かと思い、とって返そうとした時だった。
再びノック音。
「誰ですか」
イラつきながらも、ドアをそっと開けてみると、やはり誰もいない。
「悪戯ですね」
ため息をつき、ドアをしめようとしたところで、
「ひゃん!」
小さな犬の鳴き声。
足元に視線を下ろす。
そこには二匹の小さな白い犬、後ろに佇む大柄な犬が三匹。
ぬいぐるみのような白クマ。そして小鳥。
そして一瞬だけ、少し頬を赤らめた着物姿の黒髪の少女と、自分の頭の周りを飛び交う羽のはえた妖精が見えた気がした。

「えっと、ぽち君さんと花たまごさんと……ドイツの家の犬とクマ二郎さん、そしてピエールでしたよね」
名前を呼ばれ、犬はそれぞれ、元気に返事を。クマ二郎は片手をあげ、挨拶。鳥は首を傾けて見せた。
その声にバスローブを羽織ったハンガリーが顔をのぞかせ、途端に目を輝かせる。
「きゃぁ〜ぽちちゃんじゃない。花たまごちゃんも来てくれたのね。
アスターちゃん、ブラッキーちゃん、ベルリッツちゃんも。よくきてくれたわね。
もう、クマ二郎ちゃんとピエールちゃんまで! ああもう嬉しいわ」
テンション高く可愛らしい動物達を抱きしめる。
その時、不意に頬や手に暖かい感触があったような気がして、回りを見回す。
微かにきらめく何かを見つけ、頬を緩めた。
そして、再び、犬やクマの毛皮の感触に酔いしれる。

少しだけ不機嫌な表情を見せる彼。犬にすら嫉妬しているようだ。
ひとしきり、犬を撫でると、我に返ったのか、首を傾げてみる。

「で、どうしたの?何かご用事?……あら」
アスターとブラッキーが紐をくわえ、引っ張る。紐の先には大きな箱。箱の前でちょこんとお座りし、一鳴き。
早くあけろとせかすように。

「これは……わぁ……」
開けてみると、中には白いドレスが一式。昨日着ていたウェディングドレスによく似ている。
「これは一体……」
首をかしげる二人に、ベルリッツがクマ二郎を背を鼻先で押した。

クマ二郎は首をかしげ、ピエールがぱたぱたと舞い降りる。
クマ二郎がかぶっているシルクハットの中に入り込むと、なにやら白い紙を取り出し、ハンガリーに渡した。

可愛らしい紙にかれた文を流し読みし……頬を赤らめる。
「え、な、何がかかれていたんですか?」
首を傾げる彼に、無言で手紙を差し出す。
そこには丁重な文字でこう書いてあった。


『昨晩はお疲れ様です。この時間ならばもうひと段落ついていますよね。
どうせドレスは使い物にならないでしょうから、新しいドレスをお送りいたします。
前のと同じ雰囲気のドレスです。女性陣には、一応二着作っていただけるよう頼んでおいたんですよ。
今回は首元まで隠れたドレスなので、安心してください。
これを身に付けて、お昼ぐらいに……は絶対に無理でしょうから、午後のパーティーには御出席ください』


この空気も展開も読み切る人物は一人しかいない。
「日本……」
彼はそれだけ呟くと、彼女と同じように顔を赤らめ、膝を落としたのだった。



主役達はいなくても、宴会はすでに盛り上がっていた。
用意された酒は、すでにほとんど空になっており、すでにできあがっているものもいる。

笑顔の飛び交う中、一人だけ浮かない顔をみせるものもいた。
「ああ、ぽち君はちゃんとお使いできたでしょうか。
やはりここは伝統的にカメラをもって後ろからついていくべきでしたか。
それとも、衛星でぽち君の行方を」
「少しは落ち着け」
珍しく取り乱している日本に、ドイツが真顔でつっこみをいれた。
その様子をけらけらと笑いながら、フランスがワインを傾ける。
「お兄さんの愛鳥ピエールがいるから大丈夫さ。
あいつがいて、迷子になんてなりようがない」
「そうだね。クマ太郎さんもい……」
「しっかりものの花たまごもいるしな。それに俺の犬三匹もついてる。大丈夫だろ」
カナダの言葉和さえぎり、ドイツが話しはじめた。無言で頷くスウェーデン。
それに気をよしたのか、愛犬の特徴やらを語り始めようとしたところで、
タイミングよくイギリスがドイツのグラスにビールを注いだ。
冷えたビールをつがれたら、飲まなければビールに失礼というものだろう。
ドイツは機嫌よくビールを飲み……

予想通りの行動に、イギリスの頬が緩む。
イギリスも自分のグラスに酒を注ぎ
「ま、他の動物はともかく、俺の妖精たちや……座敷童子もついてるんだから大丈夫だろ」
「座敷童子って……」
日本が何かを問おうとし……酒の匂いを漂わせたセーシェルによって中断させられた。

「相変わらず見えないお友達だけで楽しそうですね。眉毛。
私んとこのカジキマグロちゃんだって可愛いのに。
一緒にお使いさせたかったのに」
笑っていたかと思うと、すぐに涙を瞳にためはじめた。
さりげなくフランスが肩を抱き寄せようとすれば、素早いカジキマグロアタックでフランスを地面に沈める。

「さすがにカジキマグロは陸上ではお使い無理だろ」
イギリスのつっこみに、セーシェルの目が据わった。
「運んでもらえばいいじゃないですか!
シナティさん……はちょっと遠慮しておくとして」
中国が不満そうな顔を見せるが、さらりと流し、
「じゃ、俺のポニーがいいんじゃね? 
理由言うんだったら、その1、可愛いし、その2可愛いし、その3以下全部可愛いしー」
「カジキマグロがピンクに塗られそうだから、遠慮するです。えーと」
辺りを見回し、一匹の鳥が目に入った。
「あ、アイスランドさんのあの鳥に運んでもらえばいいじゃないですか」
皆が視線をうつせば、アイスランドの横で鳥がまん丸な目をし、首をかしげた。
「何期待してるの? 帰りにこいつに食べられていなくなっててもいいんだったら運ぶけど?」
さらりと残酷な事を言うアイスランドに、一同は乾いた笑みを浮かべ、

「それならば、俺の友達のトニーに運んでもらえばよかったのに」
空気なんか読む気がないアメリカの提案に、リトアニアが神妙な面持ちで首を横に振った。
「さすがにトニーは知らない人が見たら驚きますって。
俺だってくじらさんをお使いさせたかったんですが、さすがにくじらさんが入れる家はありませんから、諦めたんです」
「そうだよ。僕だって冬将軍のお使いみたかったなー」
いつの間にかリトアニアの後ろにたたずんでいたロシアがにっこりと微笑んだ。

『いや、さすがにそれは勘弁してください。本当に』

一同の声がはもる。思わず顔を見合わせ……和やかな笑いが会場に響き渡り……

「ごめんなさい!! お待たせしました」

可愛らしい動物達に率いられ、新郎と新婦が登場する。
そして、二次会ならぬ、二日目の披露宴の幕は開かれたのだった。




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[ハンガリー][オーストリア]

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