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8_444-452

 さよなら春の日

Jublieeの続き。
ハンガリー動乱から鉄のカーテン撤去前。
東側諸国露さまんち同居・プ=東ドイツ設定
基本墺=洪の普×洪
へたれな普目線で一部進みます。相変わらず露さまは黒い。
ハンガリー壊れ気味。血描写もあり



あの戦争が終わりを告げようとした春先の日。
ロシアはノイジードル湖の戦場で俺をズタボロに叩きのめした。
捕虜になった俺の頭を踏みつけながらヤツが言った言葉。
「君はもう僕のものなんだからね?わかってるよね?」
そういってにこり嗤う顔。邪気の無い顔に逆らう気力も奪われた。
嗤うロシアの腕の中にはハンガリーがいた。
ボロボロになって、ぐったりとして意識の無いハンガリーが。

その時のあいつの姿が目に焼き付いて離れない。
永い永い付き合いの中でそんな姿を見た事が無かったからだろうか。
それとも心も体も傷ついたその姿があまりにも扇情的に思えたからだろうか。


それからの日々は地獄の檻に閉じ込められているだけだった。
大きな檻に閉じ込められるだけの日々。
ただ時間だけが過ぎて行く。
秋が深まりつつある日、プロイセンは窓をぼんやりと眺めていた。
外が騒がしい。
「またポーランド辺りがロシアにケンカ売ってんのか…だりぃのによくやるよ。」
騒がしい外のことなどどうでもいい。
関わりたくない。何も考える気もしない。
外の声を聞かない様に机に突っ伏す。
力も土地も全て奪われたプロイセンにとって今は只息をしているだけだった。

その時部屋にノックの音が響いた。
プロイセン自身も人と関わる事を拒否していたのでこの部屋を誰かが訪れる事など滅多と無い。
こんな状態のプロイセンを見かねて無理矢理やってくる幼なじみのハンガリーを除いて。
けれどハンガリーはノックなどせず勝手に部屋に入ってくる。
ノックをするという事はハンガリーではない。
無視を決め込む。面倒ごとに関わり合う気など更々ない。
ノックの音が激しくなる。
あまりの煩さに思わず立ち上がりドアを開けた。
「うるせぇぞ!…?」
そこには眉間にしわを寄せたウクライナが立っていた。
「…プロイセン君、ちょっと来てくれないかな?」
神妙な表情のウクライナに一瞬気圧される。
「何でだよ?」
「ハンガリーちゃん…ロシアちゃんに歯向かって…大けがしたから。」
「何?どういう事…だよ?」
ウクライナはまっすぐプロイセンを見つめて言った。
「ハンガリーで民衆蜂起よ。それをソビエト軍が鎮圧しに行ったの。」


国というモノはその時の民意や国の豊かさ、肥沃さ、資源、いろんな事がその身に影響する。

好景気になれば体調は絶好調になる。
不景気になれば体調を崩す。
戦いが起これば血を流す。

簡単な話だ。自分の国を踏みにじられ、民衆が血を流せば…それは大けがとなる。

言葉の意味を理解したプロイセンはウクライナを突き飛ばしハンガリーの部屋へと向かう。
部屋に入れば真っ青な顔で踞っていた。
腹の辺りが真っ赤に染まっている。
「…お前・・・おい!ハンガリー!!」
駆け寄って抱き起こすと意識を取り戻し、プロイセンの方を向いた。
「う…プロイセン?何よ…勝手に入ってこないでよ…」
「何やってんだ!!傷見せろ!!」
「…大丈夫だからほっといてよ!」
強がるハンガリーを無視し上着を脱がせる。
白い腹にぱっくり空いた傷から血がドクドクと流れていた。
取りあえず止血が先決だとプロイセンは自分のシャツを脱いで裂くと手早く巻き付ける。
きつめに縛るとハンガリーは小さく呻いた。
自分達は病にかかろうとも医者に見せても意味は無い。
だが加療の効かない体といえど怪我の簡単な治療ぐらいはしないといけない。

「これは縫わねえとダメだな…道具持ってくる。ちょっと待ってろ。」
ずっと長い間戦場で生きて来たので簡単な治療くらいは出来る。
外に出れば他の東欧諸国やバルトの国々が神妙な面持ちで立っていた。
いつも騒がしいヤツが一人居ないのに気付く。
「…ポーランドもか?」
「…今部屋でリトアニアが看ています。」
エストニアが救急箱を渡してきた。
「そろそろ押さえ込めなくなって来たってか。」
くっと嗤ってエストニアを見る。目を伏せ何も言わない。
「…まあいいさ、俺には関係ねえ。」
救急箱を受け取ると踵を返してハンガリーの部屋へと向かった。


部屋に戻ればソファの前でハンガリーはぐったりと踞っていた。
「おい、ハンガリー。」
声をかけても返答は無い。
近寄って血の気を失った顔を見ればどうやら痛みから気を失ったようだ。
「その方が楽か…」
止血用にしたシャツを取り傷口を消毒してやる。
「ん!痛…」
「痛ぇだろうな。」
消毒の痛みで目を覚ます。黙々と消毒をする。血の量よりも傷は意外と浅い。
針を消毒し一番大きな傷を縫う。痛みからか玉の汗をかいていた。
針を進めるその度にハンガリーの体が跳ね、目に涙が浮かぶ。
「ぐぅ…痛い…」
「麻酔無しで縫ってんだ。痛いに決まってるだろ。」
黙々と作業を続けていた。何とか縫い終わりもう一度包帯を巻き終わった時だった。
額に手を当ててやるとかなり熱い。熱が出て来たようだ。
「氷もってきてやるよ。」
そう言って立ち上がろうとした時、ハンガリーがぽつり呟いた。
「オーストリア…さん…」
耳を疑い、膝の上に乗せているハンガリーの顔をもう一度見た。
その目は薄く開き、プロイセンを見ていた。
「オーストリアさ…ん、待ってました…やっと迎えに来てくれたんですね…」
そういってハンガリーはプロイセンの顔に手を伸ばし抱えると自分の方に寄せる。
「会いたかった、凄く凄く会いたかったの…」
怪我人とは思えないくらい力強く頭を寄せられた。
そのまま、深く口づけされる。
突然の行動にプロイセンは目が白黒する。
「な!ハンガリー…」
「怖かった…でも貴方の所に帰りたくって…もう我慢できなかった。」
ハンガリーの顔をもう一度見る。
熱に潤む目は正気の光をたたえていない。
「おい、ハンガリー、大丈夫か…」
ぎゅっと腕を掴まれる。その手は震えていた。
「怖かったです…もうここにいたくない…早く連れて行って下さい…お願いします…」

こんなハンガリーを見た事の無いプロイセンはどうすればいいか解らず彼女を見つめていた。
今ハンガリーに見えているのは自分ではない。
ハンガリーが顔を自分の体に擦り寄せて見上げてくる。
傷を縫うために上着を脱がせたので、肌の感触が、熱が直に伝わってくる。
「オーストリア…さん?」
ー違う、違うぞ。俺はオーストリアじゃねえー
そう言ってしまえればいっそ楽になれる。
けれどその言葉が喉に引っかかって言葉にならない。

…そう言った時の彼女の絶望を受け止める自信がないから。

「望みを叶えてあげればいいじゃないかい?プロイセン?」
いきなり後ろから声がしてプロイセンは振り向いた。
いつの間にかロシアが部屋に入って来ていた。
「君は子供の頃からの恋心が叶うし、彼女の願望も満たせてあげられる。一石二鳥じゃないのかい?」
掴みどころの無い笑みをたたえ二人を見ている。
「君が嫌なら僕がオーストリアの代わりをしてあげようか?」
なぜハンガリーがこうなってしまったか。その最大の原因であるのがロシアの行動。
従順を誓うまで暴力と暴行の限りを尽くした。
そして今回、ハンガリーが傷つき壊れるほどの国民の暴動の鎮圧を行った。

ー俺はそれを止める事も防いでやる事も出来なかった。
自分の弱さを嫌というほど思い知らされる。
「お前がこいつをこうしたくせに…その口で何言ってやがる?」
睨みつけて精一杯の抵抗。手にじっとりと汗をかいている。
それを気取られない様に必死になっているが、そんなプロイセンなど気にも留めずロシアは笑う。
「自分のモノを好きな様にするのに何で君が怒るの?言う事を聞かないハンガリーが悪いんじゃないかい?」
「…!何?」
「君たちは僕のものなんだよ…君たちの意志なんて無いのに、何言ってるのさ?…そう…」
そう言い放つロシアの目に薄く陰がさす。
「そうだね…ふふ、いい事思いついた。」
その小さく笑うロシアの雰囲気にプロイセンは寒気を覚える。
「プロイセン、命令だよ。」
冷たく低い声でロシアは言う。
「ハンガリーを抱くんだ。今すぐ。ここで。」
「!」
プロイセンは言葉を返す事が出来なかった。
手足の先から冷えて行く感覚に囚われる。そして言葉の茨に搦み取られていく。
睨む事も出来ず息を呑んで只ロシアを見る事しかできなかった。
「逆らうなんて許さないよ?さあ、早く…」
ロシアがにいっと嗤うと優しい声でハンガリーに語りかけた。
「ねえハンガリー…早くオーストリアに抱かれたいよね?」
腕の中のハンガリーの顔が和らぐ。
自ら腕をプロイセンの首に絡め口づけをせがむ様に顔を寄せてくる。
その表情は今までプロイセンが見た事のない雌の表情だった。
…ごくりと唾を飲み込む。
「早くしなよ。プロイセン?いや…今はオーストリアだね。」
ロシアは椅子に腰掛け微笑んで、床に膝まずいている哀れな二人を見下ろしていた。
プロイセンは声も出せず只ただロシアを見上げていた。
唇を噛み締めハンガリーを抱く手に力がこもる。
プロイセンはハンガリーの目をじっと見る。
彼女は焦点の合っていない目で自分を見ている。
否、自分を見ているのではない。
彼女に見えている自分は…オーストリア。

「…さあ、早く。言う事を聞くんだよ、オーストリア。」
ロシアの声がナイフになり、己の心の糸がぷつりと切れる音をプロイセンは聞いた。

ーどうでもいい。そうどうせ俺は何も出来ない。…どうにでもなってしまえ。
乱暴にハンガリーに口づける。
稚拙で何の快感も引き出せないであろう口づけにハンガリーの目が潤む。

ずっと触りたかった髪。
ずっと欲しかった唇。
ずっと抱きしめたかった体。
幼い頃から欲してやまなかったハンガリーが自分の腕の中にいる。
あの春の目覚め作戦の後、ロシアの基地で見た時のような艶を放ちながら俺の口を吸う。
腕の中であられもなく俺を求めてくる。
首に腕を搦ませ、体を俺の胸板に押し付けてくる。
擦れる肌の感触。
熱を帯びた体。
快感に潤む瞳。
今なら全て俺のモノになる。
しかしこいつは俺を見ていない。
今のハンガリーにとって今口づけている男はオーストリア。
俺じゃない。
心だけは手に入らない。
でもいい。
今だけでも俺を見てくれればいい。

プロイセンは無我夢中でハンガリーに口づける。
下着を取り乱暴に胸を揉むと、「や、痛い!オーストリアさん…」とか細い声で呟く。
一瞬躊躇するが、腹をなぞり既に待ちわびて熟れている密壷へ指を挿し込む。
ハンガリーの顔が快楽に蕩け、男を求め絡み付く。
胸を愛撫しながら中をかき混ぜてやる。
指を動かす度に蜜が溢れ、襞が指を捉える。
頃合いをみて中に入れ、幾度か揺すってやる。
ハンガリーは快楽に浮かされ、プロイセンの腰に足を搦ませて深く深く繋がろうとしていた。
それに応えるかの様にプロイセンも腰を振り続ける。
肉のぶつかり合う音が部屋に響く。
ハンガリーはもっと体を密着させようとプロイセンの頭を抱え込み、耳元で囁く
「は、ああオーストリアさん!やっと、やっと…ふ、あ、嬉しいです。」
「その名前…言うなよ」


背中に手を廻し首筋に顔を埋めハンガリーの顔を見ない様にプロイセンは呟く。
暗い声にハンガリーは驚いた。
「オーストリア…さん?」
「俺の名前…呼んでくれよ。」
「…?」
今繋がっていようとも自分の声は全く彼女に届いていない。
純真な子供の様な顔でプロイセンを見つめるハンガリーの視線。
「…頼むから…俺を見てくれよ…」
心からの願いを口にする。
しかし言葉は彼女には届かない。
ハンガリーはプロイセンの後頭部に手を添える。
オーストリアの髪ではない堅く短い髪の感触に疑問を感じた。
「オーストリアさん…?どうしたんですか…?」
髪を撫で、少し体を引き顔を見た。
目の前にいるのは愛しい紫の瞳ではなく紅い瞳。
目が合った瞬間、緑の瞳に驚きの色が浮かぶ。
その顔を見て生温い絶望がプロイセンを包んだ。

「…え…プ、ロイ…セン?」

絶望の色に染まるハンガリーの瞳からプロイセンは顔を背ける。
「い、やあぁぁ!!!!!!何で?何であんたが!!」
冷えた空気を裂く悲鳴。
その声を聞いて、プロイセンはさらに乱暴に腰を打ち付けた。
何も感じない様に、感じさせない様に。
自分達の回りにあるもの全てから自分達を隔絶するために。
そして自分を拒むハンガリーの声を聞いて死にかけていた征服心が頭をもたげ始める。
思わず口の端を歪め、にいっと嗤いかけた。

そうしないと…多分自分も彼女も壊れてしまう事を理解していたから。

「…嫌嫌言ってんじゃねえよ。お前から誘って来たんだぜ?」
ぐいとハンガリーの体を折り曲げグズグズになった結合部を見せつける。
「痛い…痛い!!止めてよ!」
「…文句言われる筋合いなんかねえよ!」
そう言ってハンガリーの腹の中をえぐる様に突き上げた。
ぎゅうっとハンガリーの中が収縮し、搾り取る様に締め上げられる。

待ち望んでいた一瞬なのに。
何度も何度も夢に見た瞬間なのに。
なんで虚しさがこみ上げるんだ。

そう思った瞬間、プロイセンはハンガリーの中に熱を放った。
そしてぼろぼろとハンガリーの腹の上に涙をこぼした。
子供の様に涙を流すプロイセンをハンガリーは只見つめていた。
腹の中で脈打つ熱より熱い涙。
自分の腹に落ちる彼の涙の意味を理解できずに、只見つめる事しかできなかった。

その様子をロシアはただ微笑みを浮かべ眺めていた。
「皆壊れちゃえばいいんだ。皆…壊れてしまえばいいんだ…」
そう呟くと目に寂しげな光をたたえ、ロシアは部屋を出て行った。
壊れた獣の饗宴に興味は無いというかのように。

ロシアが出て行き、何度目かの頂点の後、ずるりと体を離した。
縫ったハンガリーの腹の包帯ににまた血が滲んでいた。
すっと触るとハンガリーが小さく呻いた。
「…傷開いちまったか…」
何もハンガリーは応えない。
それに対してプロイセンも何も言わずにハンガリーを自分の方に寄せて包帯を取る。
激しく動いたせいからか血が滲んだだけで、傷が開いたという訳ではないようで思わず安堵のため息をつく。
「傷残っちまうな…所詮は素人に毛が生えた程度の腕だからよ。…悪かった。」
「…あんたがやってくれたの…?」
問いかけるハンガリー。だが今度はプロイセンが何も応えない。
「…忘れろ。」
プロイセンはそう一言言って、ハンガリーをベッドの上に横たえると手早く服を着て部屋を出て行った。


あの秋から何年経っただろう。俺は相変わらず只つまらない仕事をこなすだけの日々を送っていた。
「何やってんの?」
手を止めて、ぼんやり窓の外を眺めていた俺の前にハンガリーが立っていた。
「ン、ああお前こそ何しに来たんだよ。」
言いたい事は解っている。
動け、日にあたれ、外へ出ろ。
今の俺の状態を見かねて、顔を見る度にこいつはこの言葉を繰り返す。
しかし顔を見れば眉間にしわを寄せ、何か言いたそうな顔。
こいつがこういう顔をする時は大体言い出しにくい事を言う時だ。
わざと目を逸らし、また窓の外へ目を落とす。
雪がちらちら舞っている。
まだ春は遠い。


「プロイセン。」
「何だよ。」
「…帰ろう…準備整ったの。やっと。」
ハンガリーの顔を見た。目に冗談の色は浮かんでいない。
「皆の所へ一緒に帰ろう。」
本気の目。すっと手を伸ばして来た。
「…できる訳ねえだろ。」
「…プロイセン!」
少しため息をつく。
「さっさと行け。チャンスは今しか無いぞ?」
「そうよ!だから…だからあんたも!」
ハンガリーの目に焦りが浮かぶ。
「行けねえよ。お前とは。」
「…あの事があるから?」
ハンガリーがブラウスをめくりあの時の傷を見せつける。
白く柔らかな腹をえぐる様に残った傷。

あの動乱が起きた日の事。あの時の熱さを生々しく思い出す。
「あの時の事、思い出すだけで死にたくなるときもあったわ。悔しくて…辛くて…」
ハンガリーの声が震える。
「気にしてないって言えば嘘になるけど…あんたには…」
すっとハンガリーの顔が俺の前に近づく。あの時の事には触れずに今まで来ていた。
触れてしまえば全てが壊れる様な気がしていたから。
「うん…でも感謝してるのよ…助けてくれたのよ…ね?」
暖かいハンガリーの唇が俺の唇に触れる。
離れるとまっすぐと俺を見る。曇りの無い草原の緑が俺を射すくめる。
「ありがとう…プロイセン…だから皆の所へ早く帰ろう。」
「無理だ。俺はまだ…」
目を伏せ、言葉を探す。
「俺は…まだ…」
カタカタ震えだす肩や膝。自分がしてしまった事に対する罪の意識。
自分達のために動くオーストリアの顔を見る事が出来ない。
自分がハンガリーにてしまった事を知った時のオーストリアの反応。
それを知った弟の反応…それを考えると冷や汗が吹きだし関節が震えだす。
そして何よりもロシアの呪縛から逃れられない。
あの時絡めとられた見えない茨が全身を縛り付ける。

「…わかった。じゃ先に行くね…」
察したハンガリーがもう一度口づけてくる。
唇が触れただけなのに、あの時みたいに繋がっていても繋がっていない様に感じない。
体の深い所で繋がっている様な感覚に捕われた。
もっと、もっと触りたい。けど手が動かすことができない。
「あんたが居てくれたおかげで…何とかここまで来れたのよ?プロイセンが居るから、一人じゃないって…思えてた。」
ぎゅっと抱きしめられる。その暖かさに震えが止まるのを感じた。
「あんたが動ける様になったら…必ず迎えに来てあげるから…頑張って…負けないでね?」
昔の笑顔でにかっと笑いかけられる。
そう言ってハンガリーは部屋から出て行った。
少しだけ暖かい日が射してくる窓辺で俺は只見送る。
体に残る暖かさと残り香を噛み締めながら。
もっと優しく出来なかった事を後悔しながら。

そしてハンガリーがロシアの家から出て行ってから二月経つか経たないかの初夏の日。
ハンガリーはオーストリアとの国境にあった鉄のカーテンの撤去を開始した。
ヨーロッパが大きく動き始める開始の音は重機が鉄条網を砕く音だった。
砕かれた鉄条網の前で引き裂かれた二人は再会する。
44年の時を経て。




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