ショコラ・ショー
「おじゃましまーす」
ドアを開けると鼻孔をくすぐる薫りが懐かしかった。懐かしいといっても数ヶ月ぶりという意味。嗅いだだけで気分が晴れるようで、すっとしている。
しかし、その匂いの明るさとは対象的に室内は暗かった。おまけに物音ひとつしない。手探りで壁にあるスイッチを探がしていると手に何かがぶつかる。鈍い音。照明をつけた。蛍光灯は橙色の光を差し、家の中を柔らかく照らす。足元にはさっき落としたのだろう物が転がっている。それを元の位置に戻すと家に上がり込んだ。
もう寝てしまったのだろうか。だとしたら、あれだけ盛大に音を立てたのだから起きてきてもいいはずだった。一番考えたくなかった事態が頭をよぎる。
「いないのかな、フランスさん」
悪態をつきたいところだったが、ため息をつくのに留めた。そもそもここに来たのは、昨夜電話でフランスから誘いを受けたからだった。島では採れないものや彼の料理が食べられると喜んで了解した。期待もしていた。
ちなみに誘われたのは昼に彼の自宅での食事。今は夜。島の方で色々あり、この時間にしか着けなかった。約束の時間はとうに過ぎている。取りつけた約束は昼の間のことだけ。彼にだって都合があるだろう。今この場にいなくても文句は言えない。
「悪いことしたなぁ……ご馳走…」
あてもなく家中を彷徨っている間も食べ物への想いは尽きなかった。彼は一体どのような料理を用意していたのだろうか。そういえば好きなものを作ってやると意気込んでいた。バターと卵をふんだんに使ったふわふわのオムレツ。煮込んで溶けそうな肉に肉汁をベースにしたソースがかかる。口に入れればクシュと崩れてアーモンドの薫りが漂うお菓子。それだけではない。まだまだたくさんある。
今はなきご馳走への想いを馳せながら歩いていると行き着いた先は寝室だった。となるとちょうど部屋を全部回ったことになる。……書き置きをして帰ろう。たしか寝室のあの机のところにペンやメモ帳があったはずだ。セーシェルはドアノブに手をかけた。
ベッドの上に人の影がある。暗い面持ちだった彼女の顔に希望の色が浮かぶ。見覚えのある金髪。確信して勢いよくドアを開け放った。ネコ耳と尻尾つけて桃色のリボンを巻きつけた裸体。
「誕生日おめでとうセーシェル!プレゼントはもちろん俺――」
「服を着ろこのやろおおおおおおお!!!」
「もしかして昼間からずっとこの格好だったんですか?」
あまり気乗りはしないながらセーシェルはリボンをほどいていた。ここまでわくわくしないプレゼント開封もなかなかない。
「俺はセーシェルのことならいつまでも待ち続けるからな」
「喜べばいいのか呆れたらいいのかわかんないです」
どちらかというと半ば呆れながらリボンをすべてほどき終わった。一応大事な場所は薔薇で隠されているのだが、ほとんど全裸のネコ耳の男が少女と並んでいる異様な光景。そのうえ男は正座して熱い眼差しを送っている。少女は頑なに目を合わそうとしない。
「あの」
「俺はプレゼントだから、セーシェルの好きなようにしてくれ。こういうのっていいな、すごく興奮…」
「風邪引かないでほしいんで早く服をですね」
「セーシェルは優しいなぁ。人を気遣える優しい子に育ってくれてお兄さん興奮…」
「服着ろって言ってるだろーがあああああああ!!!」
そうして、ちゃんと服を着た男と少女という至って普通の状況になった。
「で、なんでネコ耳とかつけてるんですか?」
「それはね。お兄さんは超かっこいいんだけど、可愛さが少し足りないからつけてみたんだ」
セーシェルの視線はネコ耳一点に注がれていた。見ただけでその柔らかさが分かる白い毛からなる分厚い耳。しかもそれが二つもある。疼く手を抑えられなくなったセーシェルはネコ耳をむんずと掴んだ。その肌触りに身体中の力が抜けて、素っ頓狂な声が漏れた。
「わぁ、もふもふしてる」
「尻尾もすごいぞ。ほーらもっと近くにおいで」
「うぃ」
「おおっといけない手が滑った」
気づいたときには、取れた尻尾を握ったセーシェルは、ベッド上で引っ繰り返されていた。見下ろしてくる顔に浮かんだ不敵な笑みに身が竦む。このままの状態でいればただで済まない。しかし起きようにもフランスが覆い被さっていてはどうしようもなかった。
「えと、もしかして怒ってますか?遅れてきたから」
「セーシェル」
「わざとじゃないですよ!ちょっと忙しくてっ…あ、あの、言い訳するつもりじゃ………ごめんなさい」
「そのワンピース、俺がこの前買ってあげたやつか?うん、センスの良さが滲み出…いや、セーシェルだからか」
顎に手を当ててフランスは唸る。薔薇を敷き詰めたようなワンピースがセーシェルの身に纏っているものだ。袖もなく紐でつられているために肩辺りの肌を隠す生地はない。腰元で締められた大きなリボンがそのラインを強調していた。
まったく予想していなかった話題に困惑したのは一刹那で、セーシェルは嬉々として話す。
「えへへ、これ、レースとかリボンが可愛いですよね。お気に入りです」
「だよなー。いいよなー。特にこの色が露出した部分を際立たせて……はぁはぁ」
「ひゃっ…!あ、ああああ、どどどこ触っ…て」
始め服の上から太ももを撫でていた手が潜り込んできた。外気にさらされていた肌は、指でさえ熱の塊のように感じられた。膝裏に指先が触れた途端、セーシェルは反射的に足を閉じた。と同時に息が漏れる。
「……ふぁ…っ…」
縮こまって耐えるセーシェルの姿がフランスの視界に入った。ほんのりと上気した頬。吐息混じりの声。溶けそうな瞳。彼はそれらを見るなり手を止めた。さきほどより体を浮かせた。のしかかるつもりもない。彼女が逃げられる余地は残してある。
「セーシェルいいのかー?このままだと俺にめちゃくちゃにされちゃうぞ」
「………です」
「ん?」
「……いいですよ。フランスさんに…なら…」
ただでさえ声は震えているのに、語尾にいくにつれて消え入りそうになっていった。フランスは彼女の肩にゆっくりと手を置く。その瞬間、小さな体がびくりと震えたのを見逃さなかった。
先刻の言葉に嘘はない。その証拠に、怖ず怖ずと見上げてくる瞳には不安だけでなく熱も含まれている。
もう誰も咎めない。この熟れたばかりの体を組み敷いて、欲望をぶつけても構わないのだ。まだ手付かずの少女に自分を刻みつけることはこの上ない悦びだ。しかもそれが今一番愛しい少女なのだから尚更だった。それに、たとえ途中で逃げられそうになっても、一度でも受け入れたのだから無理やり続けてしまえばいい。少女一人をねじふせるぐらい造作ない。
もう一度彼女に目を遣る。自分を真っすぐに見つめる姿がたまらなく愛しい。ふとフランスは荷が軽くなるのを感じた。
「本当にいいのか?」
こくんと頷く。
「あっ……フランスさ…やめ、やめてくださいっ」
「セーシェルがいいって言ったから、お兄さんめちゃくちゃにしちゃうぞー」
言葉通りめちゃくちゃだった。セーシェルの髪の毛が、だけれど。
くしゃくしゃと頭を撫で回されている。しかしここまでくると撫でるというより掻き乱すの方が正しい。せっかく梳いて整えただろう髪は、男の指で無惨にも乱され、片方のリボンは今にも取れて落ちてしまいそうだった。
嫌がる声が聞こえていないのか、あえて聞かないのか、彼がやめることはなかった。されるがままのセーシェルだったが、ついにフランスを押し退けた。
「やめてくださいってば!直すの大変なんですよって、そうじゃなくて」
目の前で悪びれなく笑う男に言いたいことがあった。
「もーいいです」
結局、やめた。髪をめちゃくちゃにされたこともそうだが、はぐらかされてしまったことを、とにかく問い詰めたかった。それなのにどうでもよくなった。二つのことにますます怒りが沸き上がるどころか、逆に萎えて、どうでもよくなったのだ。乱れた髪さえもどうでもよくなった。
すると、急にすべてが馬鹿らしく思えてきて、セーシェルはそっぽを向いた。おもむろにベッドのスプリングが軋む。足音が遠退く。振り返ってたまるか、と彼女はずっと窓の方を見ていた。ドアが閉まる。
だがそれも長くは続かなかった。窓の向こうは星空と建物の灯り。すっかりいじけている彼女にとってなんの面白みもない。足をぶらぶらさせて気を紛らわす。楽しくない。
部屋から出ようとしたとき、ドアが開いた。帰ってきたフランスはセーシェルの手を引いた。反対の手にはブラシが握られている。
「このままで、べつにいいっす」
「俺がしたいだけだから気にするな」
勝手すぎる。セーシェルが口を開く前に、フランスはベッドの縁に腰をおろす。そして彼は横をぽんぽんと叩くが、彼女が従うはずもなかった。だからといってこの場から立ち去ろうともしない。フランスは苦笑して引き寄せた。
「えっ、ちょっ……」
すとんと体が落ちた先は膝の上。一刻も早く下りたいのに腰を抱かれていては無理な話だった。
「ちょっと前まではさ、よく俺の膝に乗っかってきたよな」
「昔のことなんて覚えてねーです」
嘘だった。鮮明には思い出せないけれど、微かにその記憶はある。それが「いつものこと」になるぐらい彼にひっついていた。
子どもながらにそこが自分の特等席だとも思っていた。要するに好きでしていたこと。だから、今だって嫌じゃない、というのが本音だった。
セーシェルの抵抗も髪に櫛が通ると大人しくなった。するりするりと黒髪は通り抜けていく。柔らかい髪質もあるだろうが、梳く側の手つきによるのも大きい。心地よさに苛立っていた気持ちも自然と凪ぐ。
「あの頃のセーシェルも可愛かったなぁ。いつだったか連れて帰ろうとしたとき…」
「今もそうなんですか?」
その言葉は勝手に口からこぼれたものだった。
「私はずっとフランスさんにとって…可愛い子どものままなんですか?」
それが別段嫌ということではなかった。可愛い可愛いと惜しげもなく言われるのは、少女にしてみれば嬉しくないわけがない。ただ、その一方で、そうとしか見られていないと知ってしまって耐えきれなくなる。
「いくつになってもセーシェルは俺の可愛いお姫様だ。………それにな、正直な話、女として欲情してる」
「だったら、なんで…」
「こうしてるだけで俺は満足だよ」
フランスは膝の上の少女を抱き寄せた。隙間がなくなるほどきつく。セーシェルは息が止まりそうだった。
「とか言ってセクハラしてくるじゃないですか」
「セクハラじゃなくて俺のほとばしる愛。ちなみに愛情表現は制約できません」
「屁理屈ですよ」
むっとして頬を膨らませるセーシェルだったが、伸びてきた指に邪魔された。いつもそうだった。昔から怒ろうとする彼女の気を彼は易々と剥いでしまう。扱いが上手いと言ってしまえばそれだけだが、彼女が受け入れるせいでもあった。過剰なスキンシップさえ抵抗しきれないときがある。咄嗟のことに反応できないのか、そうでないのか、彼女にも分からない。つまり彼には甘い。
「でもっ、これじゃあ、私…」
生殺しだった。触れられて嫌悪を感じるだけなら、こういう気持ちは生まれない。
「そりゃ初めて…ですし。怖い、ですよ。それがフランスさんにはお見通しで、はぐらかされたのくらいわかってます」
ワンピースの裾を握り締める拳に力が入る。唇を噛んでせきとめていた言葉が、次から次へと溢れ出た。ただただ思いに任せて流されていく。
「だけど、もう子どもじゃないし、こんな変な気分………それにっ…その……恋人…なんだから、あの…」
「馬鹿だな、俺は。セーシェルの気持ちを一番に考えてたはずなのに」
「フランスさんのばーか。私だって、フランスさん我慢してるのかなって思って」
「それは少しは…いや、かなり………でも、これだけはわかってくれ。俺はセーシェルを大事にしたい」
セーシェルは自分を抱くフランスの腕を掴んだ。離れていってしまわないように、強く、強く。
「だったら――だったら大事にしてください。私のこと………あいして…ください」
それ以上セーシェルが何か言うことはなかった。黙りこくっている。フランスは彼女の黒髪に顔を埋めることになるほどぴったりと寄り添った。
「言われなくてもそのつもりだ」
彼は彼女の頬に軽くキスをしたかと思うと、髪を掻き分けて、赤く染まった耳を探し出した。
「知ってるか?耳は音を聞くだけが使い道じゃない」
彼が喋る度に息がかかりセーシェルはびくついた。それだけでも十分なのに耳の縁を唇に挟まれてしまった。そのまま口に含まれて熱したような粘液に包まれる。耳殻の形を舌がなぞる。水音がまとわりつく。見えないはずなのに、彼女にはその様子が音で手に取るようにわかった。
「…んぅ、あっ……くすぐったい…です」
「くすぐったい、ね。あながち間違ってはいないか」
縁から内側へと舌は移動していく。それにつれて唾液の弾ける音が強くなった。耳は彼の体温になじんでいた。境界が曖昧になる。もう触れられているかどうかさえセーシェルにはわからない。そんなとき、耳たぶに歯を立てられた。痛みはない。ほぐすような噛み方にもどかしさを覚える。
「気持ちいいだろ」
「……ん、…よく……わかんない」
愛撫から逃げるように前のめりになったセーシェルのうなじはフランスの眼前。細い首筋は他の場所に比べて淡い。キャラメルを連想させる、そういう色をしていた。
「じゃあ、次はここにしような」
唇はうなじまでおりて、そこに小気味よい音を響かせてキスを落とした。そしてセーシェルが身構える間もなく噛みつく。皮膚を甘く噛む。噛んだ跡に舌を強弱をつけて押し当てると、彼女は体をさらに丸めた。
「背筋伸ばさないか、セーシェル」
「……こんなときに…姿勢、なんて……どうでもいいじゃないですか」
「そんなに丸まられたらこっちができなくなるだろ」
フランスの手の平が胸の膨らみを覆う。彼の大きな手に少し余るほどだった。壊れものでも扱うかのように手つきは優しい。それでも感触を知るのには十分だった。柔らかさがありありと伝わる。直接触れたらどんなに柔らかいのだろう。それは彼が気分を高める行為でしかなかったが、ふと、セーシェルは啼いた。
「あっ……」
中心部が下着に擦れて緩い刺激が訪れる。また摩擦に反応して尖るために刺激は鋭くなっていった。これほどまでに下着の存在が憎く思えたことはない。
おもむろに胸の締めつけがなくなった。背中のホックが下ろされ、外気が服の中に流れ込んでくる。耳元では熱い気配を感じる。
「触っても…いいか」
「………ん」
声を出そうにも吐息に潰されてしまい、セーシェルは頷くだけが精一杯だった。大丈夫、そう囁いて、フランスの手は赤みを帯びた肌へ直に触れる。
喉元。鎖骨。さすりながら徐々に下に降りていく。呼吸に合わせて微かに上下する乳房を掬い上げた。指に重量を感じるが、マシュマロの手触りに重ささえ同じように思われた。しばらくフランスはその触感を、彼女の鼓動を楽しんでいた。
「んっ…ふぁ……」
緩やかに揉みしだくと、指先は肌に埋まり、弾力に押し返される。その一連の動作を繰り返す。強張った体ごとほぐされている気分。セーシェルは安心感に満たされていた。
彼女の顔から薄れゆく苦渋の色をフランスは読み取って、先端部に手をかける。触れるか触れないかの軽やかさでそこをこする。彼女が刺激に慣れていくのをわかっていて、触り方に力が加わっていく。勃ち上がって主張する乳首を摘んだ。小刻みに圧迫しつつ転がす。
「……あぅ……っく」
「痛くないか?」
「…ない…で…す」
「どうされるのがいいんだ、セーシェルは」
「あっ……さっきの…こりこりって、やるのが」
彼女の言葉通りに指の腹で擦り合わされた。ときどき、すっと押し込まれる。
一方で片方の手は脚の付け根の形をたしかめていた。下着との境目を辿っていく。
「あ、の…フランスさ…ん」
「心配するな。もっとよくしてやるから」
脚を閉じているといっても意味はなかった。太もも同士の柔らかい肉の隙間に、手はいとも簡単に滑り込んだ。手をあてがい、性器全体をこねるように按摩する。
フランスが空いている手で太ももを掴み、開くよう誘導するとセーシェルは素直に従った。現われた真っ白な生地を爪で引っ掻く。何度か往復させていると、布に湿り気が出てきた。
「汚れそうだな。脱がすぞ」
セーシェルは全く抵抗を示さない。すでにフランスに体を委ねていた。ベッドに横たえられ、下着だけでなく布という布はすべて取り去られた。締まりすぎず、ほどよく丸みのある肢体が露わになる。小麦色の肌がしっとりと汗ばんでいる。フランスは唾を呑み込んだ。
「綺麗だよ、セーシェル」
乱れた呼吸をしてわずかに開いた唇にかぶりつく。みずみずしい彼女の唇に弱く歯を立て、舐め、気の済むまで味わった。続けて口内に舌を差し入れる。ほどよくして中から同じ塊を探り当てた。それに絡め合わせると、たどたどしく応じてきた。粘膜同士の接触に音は止まない。頭の中にまで響く。神経が犯される。
唇を離す頃にはセーシェルの瞳はとろけそうだった。フランスも肩で息をし、そんな自分の有様に自嘲気味に笑う。そして秘所に指を這わそうとしたとき、きゅっと脚が閉まった。宥めようと彼女に近づこうとすると弱々しく胸板を突っぱねられる。
「されるだけじゃ嫌です。私も、フランスさんにしてあげたいです。だめ…ですか?」
「……ダメじゃないさ」
セーシェルに押し返されるがままにフランスは彼女の上からどいた。ふらふらと覚束ないながら起き上がったセーシェルは、彼の衣服に手をかける。ボタンを外そうとする震えた指を彼が手伝うことが度々あった。少々時間がかかって前がはだける。彼の首にキスをして、彼女は照れくさそうに笑う。
ややして彼も一糸纏わぬ姿になった。
「……えっと…」
「まずは握ってくれ」
そそり立つものを恐る恐る両手で握る。生々しい肉の感触。ベッドの端に腰掛けたフランスの前でセーシェルは跪いて指示を待つ。
「握ったまま上下に動かす」
「こうですか」
「ん、もっと強くできるか?」
ゆるゆるとしごいていた細い指に力がこもる。が、まだまだ控えめな強さだった。足りない。しかし、物足りないながら、この状況には興奮せざるをえなかった。一生懸命に愛撫をする少女を観察するだけでも良いものだ。セーシェルの一挙一動をフランスは見守っていた。
不意にセーシェルは手を止める。そして、くわえようとした。
「うおおおおおおおっ?!」
「す、すいませんっ。こうするのかなって思ったんですけど……」
「いや、間違ってない。間違ってないぞ。それにしても良かった!ただの思いつきで良かった!そうじゃなかったら、お兄さん、セーシェルに仕込んだ野郎のとこに殴り込みに行って、とどめさしてたな。そんでもってセーシェルにお仕置きして、これからは俺なしでは生きていけなくなるよ計画を実行するところだった」
「………はあ、そーっすか」
一人妄想に耽るフランスをよそに、セーシェルは目の前のものと対峙した。一度口に含みかけたが、改めて見ると、見慣れない形状に尻込みしてしまう。
フランスを見上げた。さっきまでのことが思い出され、セーシェルは赤面した。けれども、どうにかしてしまいそうなほど気持ち良かったのも事実。それをしてくれた彼にお返しをしたかったのだ。彼を愛したい。深呼吸をして口内に受け入れる。
「おっ、…なかなか……」
ぷにぷにとした唇に包まれた。ペニスの先端部が飲み込まれていく。舌で表面を舐め上げる。仄かに苦味にセーシェルはきつく目を閉じた。
遠慮がちな奉仕が続く。しばらくすると味も臭いも薄れていく。唾液で薄れてきたからでもあるが、慣れもあった。舌先で優しく突くとフランスは眉をひそめた。その反応に、チロチロと亀頭を責める。それはだんだんと強度を増していった。
彼を気持ちよくさせたい一心でくわえこんだ。口全体で包み込み、入りきれなかった竿を擦る。ときたま喉奥に届いて苦しくなることもあった。しかし、彼が頭を撫でてくれるのに励まされてなんとか頑張れた。
「今度は一緒に気持ちよくなろうな」
フランスは余裕を保ったままセーシェルを抱き上げ、ベッドの上に寝かせた。秘所はまだ潤いを保っている。その艶のある表面から愛液を指に塗した。滑りの効いた指先で対になっているひだを撫でつける。体のどの部位よりも柔らかかった。触れている間にふっくらとしたそこを割り開き、中指を進み入れた。
「…あ…っ……んんっ」
指を受け入れるだけの準備はできていたらしかった。根元まで埋まるのにそう時間はかからない。指はそのままに、肉豆をなぶるとセーシェルは激しく反応を示した。神経の集約した豆は、少しの摩擦を過剰なほどに感じてしまう。刺激が分散するように手の平を押しつけては離すことを繰り返す。その間に異物感は薄れ、膣内で動かない焦れったさが生まれた。やっと指が抜き差しされる頃には、セーシェルの体は熱いものが込み上げていた。
粘着質な音。次第に彼の手が速くなり、彼女を追い立てる。
「…や、ぁ……ああっ!」
体をのけ反らせ、脚をぴったり閉じて、セーシェルは達した。下腹部が熱くなって痙攣した一瞬の出来事。彼女には自分の身に何が起こったのか分からなかった。途切れそうな意識の中、これがイクことだと教えられ、初めて知ったのだった。
ペニスがぬらぬらとした表面を絡め取るように滑る。一度達して敏感になった肉芽を擦られる。刺す感覚の端に快感が潜んでいた。しかし、膣口に先端部が来るときには気が気でなかった。
「はいるんですか…こんな……大きいの…って」
興味はあった。指での悦びを覚え、あれより熱く大きなものならどうなるのか期待は膨らむ。それでも、怖いと感じる気持ちはまとわりついた。
「最初はつらいかもな。けど、一度入ったら楽になるだろ。大丈夫。ゆっくりやるからな」
セーシェルは頷きはしたものの、不安は拭えていなかった。より一層強張ってしまった体をフランスは片腕で自分の胸に引き込んだ。セーシェルは彼の背中に腕を回して縋りつく。
濡れすぼまったそこをこじ開ける。少しずつ少しずつ。愛液が潤滑油となって着実に入っていく。カリ首がはまるのに膣口はいっぱいいっぱいだった。ついに先端が埋まり、外からは見えなくなる。浅いといっても先端の大部分は肉壁に囲まれていた。柔らかな肉壁に挟まれては圧迫感さえ心地いい。
無理矢理にでも突き入れたい衝動を抑え、フランスは腰を進めるのをやめた。涙の筋が残っている頬に顔を寄せる。まだ流れているようで彼の頬にも伝った。
「力抜け、セーシェル……そう、いい子だ」
フランスはセーシェルの耳元に唇を寄せ、甘い言葉を絶やさなかった。挿入が再開し、抵抗が弱まった膣内にペニスは飲み込まれていく。肉襞を押し上げて奥へ奥へと侵入する。
「ふらんす…さんっ…ぅ………ぁっ…」
「全部入ったよ。がんばったな」
見れば充血したそこに根元まで納まりきっていた。重い。指とは比べものにならない質量。それが広がりきっていない膣内を満たしている。
セーシェルがしゃくり上げるのに合わせて締め付ける。それでもフランスは彼女の髪を撫でていた。セーシェルは嬉しい反面、申し訳なさでいっぱいだった。念入りな前戯のおかげか痛みはそこまでない。一人でも堪えきれる、そう自分自身に言い聞かせた。
「……動いて…ください……」
「おいおい、あんまり無理はするもんじゃないよ」
「フランスさんにも、気持ち良くなって…ほしいです」
セーシェルは弱音を吐きたい気持ちを捨てて、気丈に振る舞う。
彼女の強がりをフランスは見抜いていた。だからこそ無下に突き放すことができない。気付けなくても、そもそも、その言葉を言われては断れなかっただろう。
フランスはセーシェルの腰を掴んだ。緊張で狭まった内部を掻き回していく。その穏やかな円運動に順応して、膣壁は柔らかさを増した。次第に粘膜の中にいるのだと実感する。愛液がぬぷぬぷと結合部から溢れ出る。
「はっ……ん、ああぅ…やっ…」
セーシェルはシーツを握り締めた。体の中で躍動している。一度も荒らされたことのない内部が抉られる。固くなっていく肉棒はまるで鉄のように感じられた。痛みに混じって快感が滲み出る。
「っうぅ…あん…はあっ…」
柔肉に包まれたペニスが後退した思いきや、また、刺す。何度も往復して強烈な刺激が襲った。下腹部に熱が集まりジンジンとする。足の付け根が痙攣する。セーシェルは身震いし、甲高い声を上げた。膣内が収縮し、ペニスを絞るように吸い付く。
「……ッ、イったか、セーシェル」
「あ…ふぁ…ごめ…なさ……」
謝るセーシェルにさもフランスは不思議そうな目をする。呼吸をするのも一苦労の彼女は謝罪の理由を継げることができなかった。だから、一言にこめる。
「…はげしく……してくださいっ……」
最初から彼の責めは穏やかだった。それは、今までずっと彼がセーシェルを第一にしていたからだ。彼女はそれを痛いほど感じていた。そして、きっと、彼は自身のことをそっちのけにしていたはずなのだ。ここで素直に求めたところで諭されるだけ。だから、こうするしかない。
「もっ…と、…フランス、さん…の、が……欲し……っ」
息も絶え絶えながら出来る限り淫りに乞う。フランスはセーシェルの腰を掴む力を強めた。
「まずいな。優しいお兄さんで…いられなくなりそうだ」
「いじわる…でも…いい……です」
「どうなっても知らないからな」
言い終わるや否や容赦なく腰を激しく打ち付けた。その勢いでペニスは最奥を貫く。先端を叩きつける。何度も。何度も。ときには角度を変えた。今まで快感を与えられなかった場所は、強烈な責めに壊れてしまいそうだった。
先端部の首に掻き出された先走りと愛液の混ざり合ったものが、シーツへ垂れる。ピストン運動を続けつつ、フランスは彼女の胸にも手を出す。突起を口に含み、その周囲を舌でなぞった。そうして散々突起を勃ち上がらせておいて、歯を立てた。セーシェルの背中をぞくぞくさせるなにかが走る。それが膣内の熱さと組み合わさって意識を手放しそうだった。
「あっ…んあぁっ…っくぅ、ん……あっっ」
「くっ……」
セーシェルの体を汚し、獣のように貪る。搾り取ろうとする柔肉に委ねて精を吐き出した。
「朝ごはんはカフェオレとクロワッサンとタルティーヌが食いたいです」
セーシェルはフランスの姿が見えるなり開口一番に捲し立てた。ベッドの上でブランケットにくるまる彼女の傍に彼は腰掛ける。
「はいはい。朝も昼もうまいもんたくさん食わしてやるからなー。…ほらよ、セーシェルの分」
「ありがとうございますっ」
フランスからマグカップを受け取った。水面からは湯気が昇っている。セーシェルは息を吹き掛け、冷ましたところから少しだけ口に流し込んだ。喉を通り過ぎ、足先まで温かさが染み渡る。それでいて甘さは気持ちを落ち着けた。彼女は安堵のため息をつき、フランスに凭れかかった。
「ココアですか?」
「ショコラ・ショーだ。ココアと違ってチョコレートを飲んでるって感じがするだろ」
もう一口飲んでみる。たしかにココアとは違う味がした。甘ったるくないチョコレートの濃厚で上品な甘さ。
大人の味だった。