嫌いになるには遠すぎて
印象は良く泣く女。それしか思えなかった。
接する度に泣かれて、日本に怒られる。それの繰り返し。
だが、何となくかまってしまう。泣かれて怒られるはわかっていたが。
理由ははっきりとわからない。本当にただ、『何となく』でしかない。
そして、月日が流れ、再び彼女に出合ったとき、プロイセンは息を呑んだ。
長い黒髪に赤い華が良く栄え、瞬きするたびに長いまつげが揺れる。
日本の後ろから出てくると、深く頭を下げた。
「お久しぶりです。皆さん」
久しぶりにあった台湾は、少女から女性へと変化していた。
たまに見せる笑顔に、微かに幼さは残るものの、物静かな振る舞いはまさに亜細亜の華であろう。
すっと彼の方に手を差し出し……
「ん、あ……」
反射的に手を出すが、空しく空気をつかんだだけ。
彼女が握手を求めたのは、隣にいたドイツだった。
宙を舞う兄の手を気まずそうにちらりと見ながらも、しっかりと彼女の手を握り返した。
「あー……しゃーねーか」
一国としてはもう成立しておらず、ドイツの家に居候している身だ。
ドイツと一緒くたにされてしまってもしょうがない。
空振りした手を握り締め、小さくため息をつくと、仕事の話をするために、日本に歩み寄り……
背中に感じた誰かの殺意に近い視線に、振り返った。
しかし、問題のありそうな人物はいない。首をかしげて、再び日本と話しはじめた。
その後も、何度か殺意に近い視線を感じもしたが、気のせいだと割り切り、マイペースを貫き通した。
――視線の持ち主が、ある行動を起こすまでは――
「プロイセンさんのバカ!!」
声とともに彼の頭に星が降った。
フライパンで殴られた時の感触に似ている。
くらくらする頭を抱え、後ろを振り返れば、中華レードルを手に、涙を浮かべてたたずむ台湾の姿。
理由を問おうとするが、頭に走った衝撃のせいで喋れそうにない。
その間にも、彼女はぽろぽろと涙をこぼし、もう一度中華レードルを振りかざそうとする。
さすがに、これ以上食らうとやばい。
武器を持つ手を封じ、さらに反撃できぬよう、身体全体の動きを止めた。
……一見、手を押さえつけ、壁に押し付けているから、
今にも襲おうとしているような危ない格好にも見えるが、今はそんな事気にしてはいられない。
中華レードルが床に落ちる。いい音を立てるが、幸い他の者たちは会議中だ。
あの騒がしい会議が行われている部屋から、少々離れている。気がつくものはいないだろう。
――今日の議題は……ああ、いつもの温暖化防止どうのこうのか。アメリカのバカな発想はいつも秀作のがおおいんだよな。
先ほどの衝撃で、いまだまともな考えができないらしく、彼女を抑えながらぼんやり考えていた。
最初は必死に抵抗していたが、亜細亜の小柄な体格では彼には敵わないのか、いつの間にか涙目でにらみつけるだけになっていた。
ふんわりとしたスカートに似合わない鋭く繰り出される蹴りを軽く避ける。
さりげなく足の間に腿をいれ、足技をも封じる。
めくりあがったスカートから、白い足が露になり、さらに危ない体勢になっているが、彼は無意識にやっている事なのだから、そのような事に気がつくことはない。
「……で、何がバカなんだ?」
やっと思考回路が繋がったのか、冷めた瞳で彼女を見下ろす。
そこでやっと、ぷるぷると涙目で小刻みに震える姿に気がつき、罪悪感で手の力が緩む。
「離しなさい! この変態が!」
頬に鋭い一撃。平手ならば可愛いものだ。握り締めた拳での一撃だった。
「いい加減にしろ」
もう一度、手首を押さえつける。先ほどより強めに。そして冷たい声を浴びせかける。
びくりと肩をふるわせ、再び瞳に涙が溢れた。
ここで甘い顔を見せても、先ほどの二の舞になるだけだ。
「だから、何がバカなんだ?」
勤めて冷静に。ただし、声は凍りそうなほどの冷たい声で。もう一度問いかけた。
「バカはバカなんです!
……こうやって怒ってくれれば私だってこんな事やらなかったです!
ここまでやりたくなかったです!」
思いがけない台詞に、頭の中に彼女の声がリフレインした。
じっくり反芻してみるが、意味がさっぱりわからない。
「あーっと、話が見えないんだが、何で俺が怒るどーのって話になるんだ?」
「そーいうところです! 怒らせるために、一生懸命いろいろやったのに全然怒ってくれなくて」
頬を膨らまして怒る姿に、幼い頃の姿が重なり、少しだけ頬が緩みもしたが、
彼女の発言を思い出して、首をかしげた。
「いろいろ……って何だ?」
「そりゃ、いろいろですよ。この鈍感」
にらみつけてくる姿すら、どこか可愛らしく感じてしまったのは彼だけの秘密である。
何かを思い出そうとし、思い出せない彼に苛立った声で、ただし涙声でぼそぼそと呟いた。
「最初だって……再会したときに、わざと握手しなかったり」
「ありゃ、ヴェスト……ドイツに握手求めたんだろ。俺はもう国なんかじゃないからな」
「日本さんに教わったお寿司配ったときに、プロイセンさんのお寿司の中にわさびをたくさん……」
「ああ、ちょっと刺激的だったが、うまかったぞ。鼻にくる感覚が中々」
「パーティの招待状を送らなかったし……」
「ドイツんとこ居候してるからな。それに、あの日は夜更かしして眠かったからいけなかったんだ」
「……杏仁豆腐にサルミアッキを……」
「んなもん入ってたか? うまかったぞ」
「……わら人形」
「あ、アレお前からのプレゼントか。小鳥が気に入って離さねぇんだよ」
ことごとく失敗した作戦暴露に、彼女の頬に涙がこぼれた。
「もうイヤです。こんな鈍感な奴。……嫌いになりたいのに。こんな奴、好きでいたくないのに」
しゃくりあげ、涙をこぼす彼女に、再び思考が停止した。
「好き? え、あ? お前が俺を?」
「お前なんて嫌いです! 小さい頃、犬けしかけられたし、無理やり木の上に連れて行かれたり、
虫を突きつけられたり……イヤな事ばかりされたのに、どうしても頭から離れなくて!
どうしても嫌いになれなくて! だから、だから、嫌いになってもらおうと!
嫌いになってもらえば、お前が離れてくれると思ったのに!!」
目の前で泣きじゃくる姿に、手首を離す。解放された手で涙を拭うが、涙はとまりそうにない。
子供の頃のような泣き顔に、昔あった頃の思い出が鮮やかに蘇った。
頭に触れてみる。絹のような艶やかな髪の感触が気持ちよい。
「あー、すまなかった。あれ、本気で怖がっていたのか。
ドイツの犬だから、噛みやしないと思ってたし、声上げて走っていたから喜んでいると思って。
木の上に連れて行ったのは、遠くにあった花畑を見せたかっただけだし、さなぎも羽化間近で、綺麗な蝶を見せてやろうと……
……本当にすまねぇ」
彼にしては珍しく、殊勝に謝る姿に彼女は驚いて目をまん丸にする。
それよりもなによりも、幼い頃の数々の出来事は、彼にとっては喜ばせたいが為の行動であった事に驚いた。
撫でられる手を振り払う事もできず、しばらく言葉を失い。
「……バカ」
「バカって何……んぐ」
視界一杯に広がる台湾の顔。
濡れたまつげが色っぽいなとか、頬に当たる髪が気持ち良いなとか、唇の感触が頭に届くまでに、様々な感想が脳を支配し
「……ぅん…」
やっと脳に届いた。届いたのはいいが、それがなぜこうなっているかは理解できない。
理解はできないが……
――ま、いっか――
深く考えるのは辞めた。とりあえず、口の中を味わおうと、唇を割ってはいる。
ぴくりと肩を震わせ、唇を離そうとしたので、頭に手をやり、がっしりと押さえつける。
「んっ! むーんぅ!!」
胸を叩いてくるが、口内を楽しんでいるうちに、攻撃は段々と弱くなっていくのがわかった。
抵抗していた唇の力が抜けていく。舌を拙く絡めてくるのがとても可愛いから、わざと舌から逃げてみる。
じらせばじらすほど、彼女は必死に舌を動かし、快楽を求めてきて。
「……ずるい」
唇を離したと単に、彼女の口から出たのはその言葉だった。
すねた瞳が妙に色っぽくて。でも、さらにからかいたくて。
「ずるいってなんだ? もっと俺のテクを楽しみたかったのか?」
「その台詞親父臭いで……ゃん」
服の隙間から手を滑らせて、直接胸にふれる。
硬くなった胸の突起に触れた途端、甘い声を上げ、身を悶えさせる。
だが、触れるのは一瞬だけ。赤く染まる頬にキスをし、
「で、何がずるいんだよ」
「意地悪。プロイセンさんなんか、やっぱり嫌い…あぅ」
言葉を途切れさせるよう、今度は足を少し動かしてみる。
下半身の薄い布のこすれる感触に甘い声を上げ、すぐに頬を膨らませた。
「どうして欲しいかお願いしてみろ」
強気の態度を崩さない彼女に、彼の奥底で眠っていたサド心が目覚める。
背中に手を回し、軽く抱き寄せる。そうすれば彼女の重点は彼の太腿にあたっている部分に集中する。
少しでも動かせば、敏感になってしまった秘所を刺激することになり、
「……そんな事、言えるわけないじゃないですか……」
「んじゃ、ずーっとこのままだな」
耳元でささやき、そっと息を吹きかけた。素直に反応するのが楽しい。
細い腰を指がなぞり、胸の敏感な所をさけ、ゆっくりともまれ、太腿を微かに動かす。
濡れてくる太腿の感触。確実に感じているのに、いまだ強気な瞳で彼をにらみ
「ほら、お願いすればもっと気持ちよくしてやるよ」
少しだけ、胸の突起を指でつまむ。肩を震わせ、涙が一粒零れ落ちた。
唇をかみ締め、快楽に耐えようとする姿が健気で
「ほら、そんな唇噛んでると、唇切れるぞ」
艶やかな唇を指で拭い、軽く指を進入させた。
指を一本ずつ増やしていく。半開きになる唇から溢れる唾液が、胸元に垂れ、淫靡な光を放つ。
柔らかな舌に触れると、声を上げ、抗議しようとする。
「うー……んぅぅー」
「はっはっは、何言ってるかわかんねーぞ……痛!!」
耳元で呟いたついでに、耳たぶを口にくわえた。途端に、指に走る痛み。
慌てて口から出すと、噛み後があり、じんわりと血がにじんでいた。
気まずそうな顔をしている所から判断するに、耳たぶに走った快感に思わず歯を立ててしまったのだろう。
最初は心配そうに。すぐに彼の視線に気がつき、顔を逸らす。
「……意地悪するプロイセンさんが悪いんです……でも……ごめんなさい」
強気の中に、時折見せるたおやかさが彼の琴線に触れ、強く抱きしめた。
「あーちくしょう! 可愛すぎる! もう止まんねぇぞ。いいよな」
服をはだけると、勢いよく胸に吸い付いた。唇が触れた途端、肩を大きく振るわせる。
「イヤです! 離してくださ……やぁ……あぁ」
頭をぽかぽか叩かれるが、気にせずに胸をたっぷりと味わう。
あの巨乳魔人なウクライナや意外にグラマーなハンガリーほどではないが、それなりの大きさ。
手で包み込むと、すっぽりと収まる。弾力はあり、手を放つと波打つように震えた。
淡い色の突起を口に含めば、抑え気味の甘い声を出してくれる。
少しだけ太腿を引き抜き、彼女の腰を浮かす。
膝が笑っていたため、倒れこみそうになる身体を胸で抱きとめ、大事な所を隠す薄い布をするりと下ろす。
途端に顔を赤らめ、スカートで隠そうとしたので、戯れに身体を包み込むようにスカートを捲り上げ、首の後ろで結び付けてみた。
まるで台湾の家の肉包のような滑稽な姿に、思わず噴出してしまい、彼女に睨まれた。
「やっぱり嫌いです……」
涙目でぷるぷると怒る彼女。さすがにやりすぎたかと頬をぽりぽりとかきながらも、やめる気はさらさらない。
丸見えの秘所を指でなぞり、わざと音を立るように指で周りをいじる。
つんと主張する豆を爪でつつき、中に指を差し入れ、壁をこすりあげた。
「触っちゃい…ふぁあっん…」
「嫌がるわりにはもう濡れ濡れなんだよなぁ」
崩れそうになる彼女をさりげなく長机に押し倒し、潤み始めた秘所を観察する。
指をいれれば、しっかりとくわえ込むように収縮を始める。指でかき分けると、刺激を求めているのかひくひくと反応した。
「で、どうして欲しいんだ? この濡れた穴を舐めて欲しい? それとも指で遊んで欲しい?」
濡れた秘所を目の前にしながら、いやらしい笑みを浮かべ、問いかけてきた。
あまりの羞恥に、彼女は顔を赤らめ
「やぁっ! このヘンタイ!」
ごりぃぃっ!
彼女のはなった膝蹴りが、彼の顔を思いっきりクリティカルヒットし、声にならない声をあげ、顔を抱えうずくまった。
「我慢してましたけど、もう限界です! ヘンタイヘンタイ! プロイセンさんのヘンタイ!」
大声で叫び、肩で大きく息をする。
やっと痛みが回復してきたのか、赤くなった顔を撫で、彼が起き上がった。
眉をひそめ、不機嫌そうな顔で。
二人はしばしにらみ合い……先に口を開いたのは彼女だった。消えるような小さな声で、ぽつりと呟いた。
「…もう少し、ロマンティックな雰囲気が欲しいです」
「あ、それ無理」
あっさりと却下され、抗議の声をあげようとしたが、素早く唇をふさがれ、言葉を封じられた。
先ほどとは違い、少しだけ優しい口付け。
甘く口の中を動き、彼女の拙い舌の動きをリードするかのように絡め、
「ロマンティックとか、そういうのは無理だ。だが……もう意地悪はしない。それでいいか?」
まっすぐに彼女の顔を見つめる。いつもの半笑いではなく、滅多に見せない真剣な顔。
思わずその眼差しに見ほれて言葉が出なかったのだが、沈黙を続ける彼女に、彼は少しずつ不安げな表情に変化していった。
言葉が出せそうになっても、悪戯心でもう少し黙ってみた。
不安そうな顔から、今にも泣きそうな表情へと移行していく。
その表情は、まるでかまってくれなくていじけている犬のようで。
おでこにそっと口付け。
「じゃ、お願いします」
「お願いされたぜ」
あっという間に笑顔になり、もう一度唇をふさいだ。
首の後ろで結ばれたスカートを解き、上に重なる。
緊張させぬよう胸を優しく触りながら、自らの剛直をズボンから引っ張り出す。
一・二度、割れ目に擦りつけ、ゆっくりと差し入れた。
彼女は一瞬、眉をひそめ、痛そうな表情をした。途端、動きを止める。
声はかけないが、心配しているのはよくわかる。どうしていいかわからずにおろおろしているから。
「…くぅ…大丈夫。入れて」
健気に微笑む彼女の笑顔で、彼の理性の糸は音を立て、切れた。
「可愛いぞ! 卑怯なぐらい可愛い!」
勢いにまかせ、腰を押し入れる。淫猥な音を立て、剛直が飲み込まれ……る事は無かった。
一度腰を引いてしまったせいなのか、割れ目を沿うように滑ってしまったのだ。
それだけで済めばよかった。
その際のぬめりが刺激となり、あっさりと射精してしまう。
生暖かい液体が秘所付近に発射されてしまい、二人は言葉を失った。
気まずそうに顔を見合わせ……
「……えっと、早漏?」
「ああああああ!! 早漏じゃねぇ! お前が可愛いすぎるだけだ! くそっ! お前が悪いんだ!」
八つ当たり気味に腰を押し付ける。
が、一度出してしまったのだから、すでに硬さを失ってしまっていた。
そんなものが中に入るわけもないのだが、頭に血が上った彼には理解できそうにない。
何度も何度も挑戦はしてみる。
しかし、徐々に硬さは取り戻しても、コントロールがうまくいかない。
硬くなった剛直を割れ目に擦り付けるだけ。
イラついた様子で腰を動かし
「适当(いい加減にしろ)!」
先に切れたのは彼女の方だった。
先ほどのしおらしい態度とはうってかわって、険しい顔……いや、男らしい顔になってしまっている。
「稍微沉默! 笨蛋!(少し黙れ! バカ!) …じゃなくて」
中国だけにしか見せない悪たれを突きそうになり、急いで体裁を取り繕う。
小さく咳払いをし、深呼吸。上目遣いで彼を見つめ
「慌てないで。大丈夫。ここに……それ、ください」
それだけ言うと、頬を赤らめ、視線を逸らしながら、ゆっくりと自分の秘所を広げて見せた。
てらてらと光り、収縮する秘所を隠すことなく、逆に自ら指で開いて見せる姿は背徳的で。
彼の喉がなる。しっかりと剛直を握り締め、今度こそ秘所に突きたて……一気に差し入れた。
柔らかで、優しく包むようなのに、時折詰めつけてきて。
一気に快楽のとりこになり、腰を激しく打ち付ける。
強く強く。何度か打ち付けた後、初めて彼女の目じりに浮かんだ涙に気がついた。
動きを止め、労わってあげたいのだが、快楽のため動きは止まりそうにない。
だからせめて彼女にも快楽を与えようと、唇を重ね、深い深い口付けを交わす。
「ふぁ…あぁ…や、ぷ、プロセインさん…ぎゅっとして……はぁ…ぎゅっと…お願いします…」
腕を伸ばし、彼の身体を求める。それに応じ、彼女の身体を強く抱きしめた。
直接感じる柔らかい胸の感触に、彼の興奮は高まり、
「イくぞ!」
かっこいい台詞なんてはけない。ただ、衝動に正直に。
腰を深く押し付け、精を吐き出した。
とろりとした精液を搾り取るよう、秘所が数回大きく収縮し…彼女は身体を震わせた。
「あのですね……その……」
恥ずかしそうにもじもじする彼女に、彼はにやにやとした笑みを向ける。
「あー、何だ? 何が言いたいんだ?」
「あの…ショーツ返していただけませんか」
顔を赤らめ、消えそうな声でぽつりと呟くが、彼は耳に手を当て、わざとらしく聞き返した。
「あー、聞こえないな」
手にしっかりと女性物の下着を握り締めたままで。
スカートの裾がめくれないよう気をつけつつ、立ち上がって実力行使しようとする。
中に何もはいていないから、少々心もとないがしょうがない。
「もう、返しなさい!」
精一杯背伸びして、彼の手から下着を取り返そうと試みる。
が、彼は届かないよう手を精一杯伸ばし、白旗の要領で下着をふって見せた。
爪先立ちをしてみたり、飛び跳ねてみたりもする。しかし、宙に舞う下着には手が届きそうにない。
動くたびに足を伝ってくる精液の感触。気恥ずかしさに顔がほてりそうになるが、ごまかすように彼を睨み付ける。
「意地悪ですーー! 意地悪しないって言ったじゃないですか」
「俺がいつ、んな事言った。何時何分何十秒言ったんだ〜」
「そんな子供みたいな事言わないでくださいってば! それ一番のお気に入りなんです!」
「おー、確かに可愛いのだな。そりゃ、余計返したくないぞ」
高らかに笑う彼の腕にしがみつく。布越しに感じる柔らかな感触に鼻息を荒くし、さりげなく彼女の胸元を見ていた。
そこで、胸元も心もとない事に気がついた。今更なのだが。
スカートを押さえ、胸元もしっかりと押さえる。
「……ブラジャーも返してください」
「何のことだろうな」
にやりと微笑む彼のズボンのポケットから、ショーツとおそろいの柄が見え隠れしていた。
きらりと彼女の瞳が輝く。
素早く手を伸ばし、彼のポケットに手を伸ばし……かけるが、あっさりと避けられ、バランスを崩した。
勢いあまって、派手にこける。あまりに豪快にこけたので、心配し駆け寄ろうとしたのだが、すぐに起き上がってくれたので安堵のため息を一つ。
顔を手のひらで覆う。痛みのせいか、目頭に涙がたまり、
「……プロイセンさん、何やってらっしゃるんですか?」
背後から聞こえた第三者の声。
イヤな予感がして、振り返ってみれば顔を引きつらせた日本と中国がいた。
彼の前には顔を覆い隠し、涙を浮かべる少女。
……この状況で勘違いするなと言う方が無理な事だろう。
「あああ、台湾台湾台湾! この野郎に泣かされたあるか。哥哥が仕返ししてやるあるよ!」
中華鍋を片手に襲い掛かってくる中国。
本来ならば、相手にすると結構手ごわい相手なのだが、頭に血が上っているのか動きが単純で避けやすい。
横に軽く避けるだけで、中国は自滅し、地面に倒れこんだ。
「お前、勘違いす……」
「日本さん!」
顔を輝かせて、日本に駆け寄り……さりげなく中国の背中を踏みつけていったのは見事というべきだろう。
まるで父親に抱きつくような笑顔で、日本の胸に飛び込んだ。
優しく彼女の髪を撫でる日本に、妙な苛立ちを覚えながらも、無意識に下着をポケットの中へとしまいこんだ。
「何で哥哥の胸に飛び込んでくれないあるか〜我はこんなに愛してるのに」
「黙れ。それがうっとおしいん……ですよ。とっとと日本さんと私の前から消えろ…じゃなくて消えて欲しいです」
言葉の端に見え隠れする口の悪さ。
日本の前だからどうにか押さえ込んでいるが、隠しきれていないのはまだ若いからなのだろう。
いつの間にか復活した中国が台湾を奪い取ろうとし、肩を抱き寄せる。
その瞬間に彼女の可憐な手が中国の顔をがっしりと握り、どす黒いオーラがあふれ出した。
「……請消失。從我前開始。現在馬上(私の前から消えなさい。今すぐに)」
「イヤある! 台湾は我の可愛い妹ある!」
泣きじゃくる中国と黒い笑みを浮かべる台湾。
そしてどちらが妹的立場なのかわからない微笑ましい兄妹喧嘩が勃発し始めた。
「……逃げるならば今のうち……だな」
喧嘩勃発し、いつの間にか忘れ去られたプロイセンは、やっと我に返った。
日本に懐く台湾に少々苛々しつつも、出口に向かって足音を殺して近づき……
「何処へいらっしゃるんですか」
肩を誰かにつかまれる。振りほどこうと思えば簡単だろうが、心理的に許されない状況に置かれていた。
フランスのセクハラより、イギリスの食物兵器より、ロシアの水道管よりも、恐ろしいもの。
それは日本の満面の笑顔。ただし、目は全く笑っていない。
「あっとえっと、ほ、ほら、雨振りそうだから洗濯物を取り込みにだな」
「もうすでにドイツさんがお帰りになりましたよ。ところで、いつから家事をなさるようになったんですか」
我ながら無理な言い訳だと思ったのだが、それ以外言い訳が思いつかなかった。
一歩二歩、日本から距離を置き
「……こっちにもいるある。さあ、じっくりと話すあるか」
前門の日本、後門の中国。まさに四面楚歌だ。
情けないが先ほどまで愛し合っていた少女に目を向け……目があった彼女は睨みつけ、舌を出す。
「プロイセンさん何か嫌いです。べーだ」
「こっちだってお前なんか嫌いだ。べーだ!」
お返しに彼女と同じよう舌を出し、にらみ合い……どちらかともなく噴出して、和やかに笑い始め……
状況を理解できていない日本と中国は首をかしげたのだった。