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 真珠の首飾り



6月29日、今日はセーシェルのイギリスからの独立記念日。
私があの眉毛から独立した日なんですね。
人間っぽくいうならば誕生日です。
記念日です。
で、そろそろ日が変わります。
「誕生日、俺の家でやろう」って言ってくれたのが今月の頭。
イギリスさんちで一人で一生懸命準備して待ってるんですが…

まだイギリスさん帰ってきません。
お仕事忙しいのは解るけど、一言連絡位出来るだろ!アホ眉毛!
お前の口は飾りなのか?
と、さっきから一人で部屋で怒りまくってます。

ていうか、私馬鹿みたいですよね…
一人で準備して、期待して…
ぐすん…泣けて来た。

日が変わってしまうころ、セーシェルは涙を一杯目に溜めたままソファの上で眠ってしまった。


今日も経済対策やら温暖化対策やらの会議で中々話がまとまらず、イギリスが家に帰れたのは午前1時を回っていた。
車から降りて、まだ灯りのついている部屋に走る。
ドアの前で息を整え、ジャケットの内ポケットの中身を確認する。
多分、セーシェルは怒りの頂点だろう。
仕事中に何度か連絡をしようと試みたことには試みたのだが、ゆるーくキザヒゲ男に妨害され結局出来ずじまいだったのだ。
だが、そんな言い訳は通用しない。
誘っておいてすっぽかし寸前の事をやってしまった。
「めちゃくちゃ怒ってんだろなあ…セーシェル。」
ふうとドアの前でため息を一つ落とす。
ドアを開けた瞬間、冷凍カジキマグロのフルスウィングを覚悟してドアを開ける。

イギリスは覚悟を決めてドアを開け、速攻手を眼前であわせてごめんなさいのポーズを取った。
「セーシェル!悪かっ…」
合わせた手の隙間から目に入ったのは、頬に乾いた涙の跡。
セーシェルはソファにもたれ眠っていた。
すうすうと寝息をたててはいるが、眉根を寄せ口はへの字を結んでいる。
部屋を見渡せば、イギリスの好物やシャンパン、スコッチが用意され、イギリスの好きな花とセーシェルの好きな花がベットサイドに活けてあった。
「…自分の誕生日なのに、俺のもんばっかじゃねえか。」
イギリスは居たたまれない気持ちになり眠るセーシェルの横に座ると、頬の涙の跡を拭う。
「ごめんな?」
そう言ってイギリスはジャケットの内ポケットからケースを取り出す。

その中には、白く光る真珠の首飾り。
セーシェルの頭を自分の膝に乗せ、頭を少し浮かせる。
しゃらりと光る首飾りを首にかけた。
6月の誕生石の真珠の首飾り。
セーシェルの生まれた海の宝石。
イギリスはその汚れの無い白い輝きに彼女を重ねる。
「Happy Birthday.Seychell.」
そう言ってキスを一つ落とす。

「…もう1コは…」
と、イギリスが呟いて胸ポケットから、少し小さめのケースを出す。
親指で蓋を弾くと、中からは自分の瞳の色と同じ緑の石がついた指輪。
セーシェルの家の海の色のように濃い緑のエメラルド。
イギリスはちょっと満足げな顔をして、眠っているセーシェルに語りかけた。
「こっちは起きてからだな…まあ…待たせた分はちゃんと埋め合わせするからな。」
そういうと心無しかセーシェルの表情が和らいだ様な気がした。
その顔を見て、イギリスもふと気が抜ける。
膝に乗せたセーシェルの体温の心地よさに緊張が緩み、眠気が襲う。
セーシェルの頭を撫でながら、イギリスも眠りに落ちた。


「ん?」
ふと目が覚めたのは午前4時過ぎ。
セーシェルはちょっと堅くて暖かい感触に気がついた。

…イギリスさんの膝だ…という事は、

「うお!いつの間に帰って来たんだこの眉…ん?」
イギリスの膝から飛び起きるとふと首に違和感を感じる。
「え?」
首元を触ると、いつの間にかネックレスを付けられていた事に気付く。
起こさない様にそうっとソファから降りて鏡の前に立ってみる。
大粒の南洋真珠の首飾りが自分の胸元にあった。
見るからに高級品である。
寝る前には…もちろん無かった。
「ええ…?」
何度か首輪は付けられたが、こんな物を貰うのも付けたのもちろん初めてで…
大粒の真珠の首飾りというものは、セーシェルの中では大人の女性がぐばっと胸元の開いたドレスを着た時に光っているイメージ。
自分にも南洋の真珠というキャッチフレーズはあれども、正直気後れしている所もあった。
自分のような幼い外見の女がしても、似合わないよ…何の嫌がらせなんだ…と鏡の中の情けない自分の顔を見ていた。


「何変な顔してんだよ?」
鏡に少し不機嫌なイギリスが映る。
「え、あ、その、えええ?これ??」
パニックを起こしたセーシェルは上手く言葉を紡げない。
振り向いてイギリスを見つめる。
「あ、あのこれって…」
セーシェルは恐る恐る指で首飾りを持ってみる。
「誕生日プレゼント。」
ぶっきらぼうにイギリスは言う。
「お前の生まれた年数分の真珠だ。素直に貰っとけ。」
「え?でも私、こんなの似合わない…です…子供だし…」
ぐずぐず言うセーシェルにイラッとしたイギリスは思わず声を荒げた。
「んな訳ねえよ!バカ!!俺の選んだ物にケチ付けんな!」
イギリスの声にびくっとなって、セーシェルは思わず泣き出した。
今までの不安が溢れ出す。
「だって、だってイギリスさん、私の事なんか忘れてるじゃないですか!今日だって仕事だって帰ってこなかったじゃないですか!
 ずっと待ってるの寂しかったんです!いつもいつも…一緒に居てくれなくて、はぐらかされてばかりで、Hだけで…」

セーシェルの声が小さくなる。

「私ばっか好きなだけで、待ってるだけじゃないですか…」
イギリスは頭をぽりっと掻くと、ため息を一つついた。
それを自分に対する呆れと受け取ったセーシェルはますます泣き出す。
「あ〜もう…お前は…」
そう言ってポケットをさぐり、小さなケースを出した。
泣いているセーシェルを引っ張って自分の胸元へ寄せた。
左手を持って、ケースの中の指輪を薬指にはめる。

左手の薬指にきらりと輝く緑色の石。
イギリスは手を取ったまま軽く指にキスをした。

「セーシェル?今日はごめんな?」
ぎゅっと抱きしめる。
「謝って済むとは思ってないけどな…ごめん。」
胸の中でセーシェルが呟く。
「ずるいです…やっぱイギリスさん…ずるい。こんな事されたら…怒れないじゃないですか…」
「ん、ずるいぞ、俺は。お前と居るためならどんなずるい事でもするぞ。」
そういってイギリスは柔らかく微笑みながら口づける。
「この指輪、俺の目の色と一緒なんだ。で、これ見てみろ?」
イギリスはすっとセーシェルの目の前に自分の左手を出す。
親指に光る指輪。見た目は同じ様な指輪だが、少しごついデザインの指輪。

真ん中には琥珀。セーシェルの瞳の色の石。

「いつもいつも一緒って訳にはいられないからな…石だけでも…と思ってな。」
ちょっと照れながらイギリスは言う。
「え?こっちは緑で…」
「こっちがお前の目の色。」
セーシェルがきょとんとした顔でイギリスを見上げる。
「イギリスさんの…目?」
緑の瞳に柔らかい光が宿る。
「…この鈍感。」
「いつも…見張られてる様な?」
「違う!…まあ違わなくはないか。離れてても、いつも一緒ぽいだろ?」
イギリスはちょっと照れながら続けた。
「お揃い…だと外野に見つかると煩せぇからよ、まあそこだけは勘弁してくれ…」
セーシェルはぼふっと音を立てイギリスの胸に顔を埋める。
「ふぇぇぇぇ…」
イギリスはポンポンと頭を軽く叩いた。
「泣くなよ、お前が泣きはらした顔で行ったら、俺が悪者になるだろ?昼になったらバッキンガムに連れってやる、そこでお茶会だ。
 その時の真珠だ、きちんと合う服も用意した。思いっきり可愛い格好で皆の前に連れて行きたいんだ。泣き止んでくれよ?セーシェル?」
言葉をかければかける程泣き出すセーシェル。
イギリスは少し困りながら背中を、頭を撫で続けた。そして耳元で囁いた。


「I love you,I am drowned to you…Seychell.」
セーシェルの顎を上げて優しくキスをする。
「今日から週末まで一緒にいれるから、泣き止んでくれ。」
瞼にもキス。優しい優しいキスの雨。
そんなキスをされたらもう怒れない。もう泣けない。

「はい…」
ぐしゅっと鼻をすする。
鏡に映る自分は真っ赤な目、鼻、多分このまま寝たら瞼はパンパンに腫れてしまうだろう。
「シャワー浴びてちょっと寝ような?10時に迎えが来るから、それまで…」
正直イギリスはまだ少し泣いているセーシェルをそのまま押し倒したかったが、流石に昼のお茶会の相手に遅刻は許されない。
「シャワーの後ラベンダーのオイルでマッサージもしてやるよ?思いっきり綺麗にして行こう?」
「はい…」
やっと微笑んだセーシェルを見て、イギリスも笑った。
やっと見たい顔を見れた。イギリスは幸せに満ちた自分の顔が鏡に映り思わず苦笑いする。

「よーし!今から一杯祝ってやるから覚悟しろよ。」
「!?どういう意味ですか!」
「言葉通りだ。遅れた分の穴埋めだ!…寝坊しない程度に…な?」
にいっとイギリスは笑い、セーシェルをお姫様抱っこしてシャワールームへ走って行った。
「え?えええ?するんですか!もうすぐ朝ですよ!」
「風呂場で一回くらいなら大丈夫だろ!そのまま行く方が俺は辛い!」
「そりゃ私もって…でも!」
「だいじょーぶ、大丈夫!」

セーシェルはイギリスの根拠の無い自信に呆れつつ、何となくでは無い確実な物を手に入れた様な気がしていた。
服を脱がせてもらいながら、つっと指に首飾りを引っ掛けて、イギリスに聴こえない様に呟く。
「この小さな指輪と真珠の首飾りがその証拠なんだろうな。」
ブラジャーを外そうとしているイギリスが、セーシェルを見る。
「ん?なんか言ったか?」
セーシェルはにっこり笑いかける。そしてイギリスの頬にキスを落とし耳元で囁く。
「え、イギリスさん…愛してますって言ったんですよ。」

ー終わりー



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