葉巻の味
【メインCP】キューバ×ベルギー
【サブCP】スペイン→ベルギー
【傾向】淡白な純愛話……とでもいうべきか。
【その他】
スペインに支配されていた者同士の話。
少しアメリカが腹黒いです。
ベルギーの滋賀弁と性格は適当です。難しいです。
NGは「葉巻の味」でよろしくです。
「葉巻くれへん?」
懐かしい声に、キューバは顔をあげた。
目の前で静かな笑みを浮かべている女性を目にし、笑みを返す。
「久しぶりじゃねぇか。相変わらずいい女だな。ベルギー」
昔と変わらぬ態度の彼に、ベルギーは苦笑を浮かべた。
「相変わらずやすな。元気で何よりやわ」
柔らかい彼女の手が、彼の手に触れる。
後ろから鋭い視線を向けているスペインに気がつかれぬよう。
「ほして、葉巻くれへん?」
それは合図。
「今、手元にねぇ。俺の部屋に取りに来い」
変わらぬ合図。
「じゃ、取りにいくん。
スペインはん、ちょい行ってくんな」
優雅に微笑むと、席をたったキューバの後に続いて、会議室を後にした。
唇が重なる。葉巻の味のキス。
黒い肌と、白い肌が重なる。
腕を絡める。
強く抱きしめ、身体の中へと侵入する。
お互いに無言のまま。
時折、唇から熱い吐息がもれる。
荒い息使い。
華麗に淫らに踊るベルギーの腰を引き寄せ、精を放った。
「……ちょっい太った?」
腕の中で初めて発した言葉は、色気も何もないものだった。
澄んだ金色の髪をくしゃっと撫で、机の上の葉巻に手をのばす。
「うるせぃ。アイスクリームが主食で何が悪い」
口にくわえた葉巻に火を灯す。
立ち上る紫煙。気怠い雰囲気も、何となく心地好い。
久しぶりに感じる彼女の体温。変わっていない身体の感触。
変わってしまったのは、二人の関係だけ。
「ね、何であの日から会ってくれなかったん?」
くわえていた葉巻を捕まれ、口から離された。
そして、その葉巻を彼女が口にする。
軽く煙を吸い込み、
「変わんないやな。葉巻を噛む癖。
あれだけ止めなさいって言うたのに」
「うるせーな。お前こそ変わんねーな。大人しいように見えて、結構ずばずばいうところ」
「兄者達があんなんやし、しょうがないやろ」
口の減らない可愛い彼女の唇から葉巻を奪い、もう一度口付け。
口の中をじっくりと味わう。少しだけ、自分と同じ葉巻の味がする。
ちりちりと葉巻が灰になる。
他の国に売れば、良い値段になる葉巻を、味わう事なく、ただ空気に晒し、消費してしまう。
消えかける火。もし消えたとしても、新しいのを吸えば良いと、頭の中でぼんやりと考え。
本来は贅沢な事なんだろう。
だが、葉巻など、ただの嗜好品。そこにあるから、口にくわえるだけ。好きでもなんでもない。
彼女は……どうなんだろうか。
側にいたから抱いた。それだけ……なのか?
「ね、うちは会いたかったんや。なのに何で?」
身体の上にのしかかってきた。
豊かな乳房が胸板に潰され、形を淫靡に変える。温かな体温。
「あ?何となくだよ。お前とは本気じゃないって、最初に言っただろ」
太腿を起こし、彼女の脚の間に入り込む。
しっとりと濡れた茂みは、足の刺激に敏感に反応し、精液混じりの蜜が溢れた。
形の良い尻に手を回し、柔らかな肉を揉む。
「最初はな。親分に支配されたモノ同士の傷の舐め合いやったから」
手から逃れるよう、足元に移動すると、いきり立ったモノに唇を落とした。
上目遣いでちらりと彼を見て、手で支えながら舌をはわす。
「んっ…今、ううん、あの時は違った。あんたに抱かれるんが幸せで。
あんたに会った後、いつも親分に無理やりヤられもしたけど……そんでもやめられなくて」
少し癖のある金色の髪に指を通す。さらりとした感触が気持ちよい。
「ああ。ロマーノにはあんなに甘いのに、俺らには厳しかったな。
そのせいで、まだ傷痕残ってるぜ」
左胸、心臓近くの古傷を指差す。たおやかな彼女の指が、その傷をなぞりあげる。
傷に唇を重ね、強く吸い上げる。傷痕の上に赤い印。
「あの方も悪い人ではおまへんの。寂しがりやなだけ。そやしロマーノちゃんにはあんな甘くて」
お返しといわんばかりに、首筋に強く吸い付く。
わざと他人に見えるところに痕をつけるのは、所有を象徴したいというのが、表面に出てしまったのか。
彼女に対しては淡白な振りをしているつもりだったのだが。
「ああもう、こんなとこに。親分に見つかったらまたお仕置きされちゃう」
そうはいいつつも、楽しそうにくすくすと笑みをこぼし、
「実はお仕置き嫌いじゃないんじゃねーか?」
「お仕置きより、今、こうしとる時が一番好きやし。
この時間のためならば、お仕置きぐらい怖くない」
もう一度、身体を寄せ合い、強く抱きしめ。
精を吐き出す為の行為を行う。
身体の上にのってきた彼女の腰を導き、奥深くに進入する。
揺れる胸をわしづかみにし、背中に手を回す。
感情はできる限り押さえ、淡々と。
愛の言葉など口にしない。口にしてしまったら、感情が決壊してしまうから。
ただ、今は利害が一致したもの同士の行為。それだけでしかない。
彼女の口から甘美な声がこぼれる。
その声を頭の片隅に刻みつけ……二度目の精を放った。
「で、会ってくれなくなった理由は?」
「んなのしらねぇよ」
服に袖を通す彼女に背を向け、そっけなく返事を返した。
何本目かの葉巻に手を伸ばす。
吸い口を小さくカットする。行為の後は、強い味を好むから。
ライターに火を灯す。葉巻に火を直接当てないよう、ゆっくりと回しながら角だけにつくように。
葉巻を咥え、軽く息を吐き。
次はいつ会えるかわからない。だけれども、これ以上馴れ合うつもりもない。
「ほれ、着替え終わったらとっとと行け。葉巻の匂いが服に染み付く前にな」
「うちはこの香り好きやなぁ。もちろん貴方も」
後ろから抱き着いてくる。服越しに感じる彼女の体温。
「抱きつくな。どっかいけ」
うっとおしそうに彼女の腕を払いのける。
そんな事をされても、それは本心ではないと知っているから。
頬に触れる彼女の唇。遠ざかる気配。
「うちは愛してはる。忘れんといて」
ドアが閉まる。部屋の中に残された男。
紫煙が燻る。薄暗い室内に、葉巻の火の色だけが寂しげに光を放つ。
「……彼女と会ったんだろ」
廊下ですれ違い様に声をかけてきたものがいた。
男をにらみつけると、吐き捨てるように言う。
「さぁな。女なんかたくさんいすぎて、どの『彼女』かなんてしらねぇよ」
「昔に愛着抱いていた彼女だよ。いつの間にか興味なくなったみたいだけど」
胃がむかむかする。この男と話しているだけで、周りのあざやかな色が消えていく。
本当ならば、その緩んだ頬を殴りつけてやりたい。
だが、ここで暴力行為にでたら、男の言葉を肯定する結果となる。
彼女と会っていた事を知られたくないから。
「うっせぇな。俺の前から消えろ」
「はいはい。じゃ、俺はこれから会議に参加するから。ヒーローは忙しいんだよ。君と違ってね」
軽い口調の中に混ざった毒。
毒が自分だけに向けられるならば、波打つ毒杯だって飲み干してやる。
立ち去る男……アメリカを睥睨し、口に咥えていた葉巻を指に挟む。
歯型につぶれた吸い口。
立ち上る煙の中に、昔の記憶が蘇った。
スペインから離れ、アメリカに支配され続けていた時代。
その中でも、ベルギーと逢瀬を続けていた。
傷の舐めあいから、いつしか愛を確かめ合う仲に。
しかし……アメリカの視線に気がつきはじめた。
支配するモノの愛する存在への興味。
そのまま放っておいたら、力ずくでモノにされていただろう。
そしてぼろぼろになって捨てられるのは目に見えている。
だから――
「アメリカの馬鹿にとられたくねぇから、会えなくなっただなんて、情けない事いえっかよ」
消えてしまった葉巻にもう一度火を灯し、彼は自嘲気味に呟いたのだった。