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 聖なる狂女を悼みて

【メインCP】
仏ジャン、イギリスも登場

【傾向】
どシリアス

【その他】
エロなしですが、ジャンヌが陵辱を受けた描写があります。
それから、暴力描写もぬるいですがちらっと。死ネタも入ってます。
要するに鬱な内容です。



 彼女が捕虜になったと聞いて最初に思ったのは、ついに来てしまったか、という諦めとも悲嘆ともつかないものだった。
 彼女の仕事は王に戴冠させた時点で終わっていた。それは誰もが知っていながらも口にしない暗黙の了解だ。彼女自身もそれをちゃんとわきまえている様子だった。
 無謀とも言える戦いに身をゆだねる以上、こんなことは当然起こりうる。むしろ、今までの功績からすると、こうならなかったのが不思議なくらいだ。
 建前はそんな風に冷静をつくろった。うまくできたと思う。
 だが、一人きりになると後悔の念に襲われた。
 ――なぜ彼女を行かせた。
 ――もし彼女を引き止めていれば。
 際限のない「なぜ」と「もし」が、刃よりも鋭く心臓を貫く。
 彼女の瞳や髪がまぶたにちらつく。矢を受けたときの涙、勇ましく旗を持つ姿、俺を叱咤する声。ぐるぐると渦巻く。何もできずにいる俺を責めるように。
『もし捕虜になったらどうするんだ』
 ずいぶん前、彼女と出会ったばかりのころ、そう問いかけたことがあった。女だてらに馬を駆る彼女を危ぶんで。
『ひどい目に遭うぞ。それこそ死んだ方がいいくらいの――』
『覚悟の上です』
 きっぱりとした口調。ためらいなどない。なにも言えなくなった俺に微笑みかける。
『ご心配は無用です。私は神の声を聞いたのですから、そんなことありえません』
「こうしていられるかよ!」
 部屋を出た俺を待っていたのは、たくさんの騎兵と上司だった。向けられた剣がぎらりと光る。
 苦笑するしかない。俺の行動は予想済み、ってことか。
「部屋に戻れ」
 居丈高に上司が言う。反射的に答えた。
「やだね」
「どこに行くつもりだ」
「決まってんだろ」
 コンピエーニュ。彼女が捕らえられた土地。
「許さん」
「アンタが即位できたのは誰のおかげだ!」
 無慈悲な声が、それとこれとは別だ、と告げる。彼女の有用性はもうなくなったのだとも。
「ふざけんな」
 自分のものとは思えないくらい低い声が出た。
 まだあどけなさの残る少女を過酷な戦場に放りこみ、恩恵を受けておきながら、いざ捕虜になった途端放り出す。どこまで身勝手なんだ。
『私は貴方の為に戦っているのです』
 俺は彼女のために戦わないなんて、そんなことが許されるはずがない。
「お前が行ったところでどうなる。それこそ彼女の働きを無駄にすることではないか!」
「それは」
 詭弁だ。だが真実だ。
 歯がゆくて、反論できない自分が悔しくて、大声で叫びたい。
 屈強な男二人が俺の腕を押さえこんだ。抵抗する気力さえ浮かばない。自分の存在がこんなに疎ましいことが、かつてあっただろうか。
「しばらく謹慎して頭を冷やせ」

 年の終わりも間近になったころ、彼女がルーアンの城に監禁されたという話を聞いた。さらに年が明けて二月、異端審問の裁判が始まった。
 ――異端。彼女が?
 それはどんな侮辱にもまさる侮辱だった。彼女の信念や尊厳を踏みにじる行為だ。許せるはずがない。
 かつて兄貴分として面倒を見たイギリスの姿が浮かぶ。この件にあいつは絡んでいないのかもしれない。それでも、憎悪の矛先はそこしかなかった。
 ――きっと死刑になる。
 そう思うといてもたってもいられない。
 月のない晩、城を抜け出した。明らかに俺に気づいている兵もいたが、小さくうなずいて見送っただけだった。馬の場所を教えてくれた者もいた。
 彼らは忘れていないのだ。絶望的な戦場で誰が旗を振り、誰が戦意を高めたのかを。
 ――ジャンヌ。君の存在はみんなにとってこんなにも大きい。
 休みも取らずに、無我夢中で馬を走らせた。苦心してルーアンに入ったときには、彼女が捕虜になってから一年が経とうとしていた。
 彼女のいる城は分かったが、警備が頑丈で入れそうもなかった。諦めきれずにその周りをうろついていると、忘れもしないあのイギリスが目の前を通った。
 とりあえず捕まえて襟を締め上げる。俺に気づいた奴は顔を歪めた。今まで見たことがないほど、みっともない様子で。
「彼女のところに連れていけ」
「馬鹿言うな」
 襟をつかむ腕に力をこめる。太い眉が苦しげに寄せられても、なんとも感じない。
「会わせろ」
「会わないほうがいい」
「なんだと」
 さらに絞めようとすると、力任せにふりほどかれた。苦しげな咳を繰り返して、暗い目が俺を見る。
「女捕虜がどんな目に遭うか、想像はつくだろ」
 あの日、「覚悟」と口にした本人よりもその重みを分かっていたのは、俺だった。
「それでも会いたいのか」
「当たり前だ」
 どうしても言わないつもりなら、こいつを殺すことも辞さない。
「……後悔してもしらないからな」
 イギリスがいるからか、あんなに入れないと思っていた城に、拍子抜けするほどあっさりと通してもらえた。
「ここだ」
 格子の前で立ち止まる。指さす先にはなにかの塊があった。見つめていると、それが動いた。
 喉がカラカラになる。情けないくらいに唇が震えた。
「ジャンヌ」
 なんとか声を絞り出す。もぞりと影がうごめいて、二つの目が俺を見た。
 それは、何度も想った青の。
「……ジャンヌ!」
 彼女はびくりと身体を震わせた。ユリのように白く美しかった面は腫れて痣がところどころにあり、血がにじんでいる。
 そこにいたのは俺を救った聖女ではなく、哀れな女囚人だった。汚れて、疲れきって。
 牢に駆け寄り、腕を伸ばす。それを見ても彼女は反応しない。困惑していると、急に表情をゆがめた。
「いや、こないで」
「え」
「わたしにさわらないで」
「……」
「たすけて、だれか、かみさま」
 瞳から涙が零れ落ちる。打ち捨てられた人形のようにその場に横たわったまま、表情だけが暗い生を残している。
 戦場でズボン姿だった彼女は、今はスカートを着ていた。すそが大きくまくれあがって、太ももがむき出しになっている。
 上衣は無残に破れ、片方の膨らみが見えていた。白い肌には、赤い爪痕、痣、乾いて変色した液体。
 彼女に何があったのか、何をされたのか、それらは如実に物語っていた。
「……」
 絶望、悲哀、憤怒、後悔、悲憤、数えられないほどの感情が浮かんでは消えていく。彼女の姿がにじんで、気がつけば涙がこぼれていた。
「ちくしょぉっ……!」
 格子に頭を打ちつける。何度も何度も、彼女の受けた苦痛よりも大きなものを求めて。ぬるりとしたものが流れても、それでも足りない。
 なぜ俺は存在している。
 なぜもっと早く。
 なぜ神は彼女を選んだ。
 なぜ。なぜ。なぜ。なぜ!
「ジャ……ヌ」
 ごめん。ごめん。ごめん。
 俺さえいなければ。
 もっと早く助けに来ていれば。
 君をこんな目に遭わせることなんてなかったのに。
 君は聖女のままでいられたのに。
 君を守りたかったのに。君は守ってくれたのに。俺は。
 俺は!
「フランス、」
「……お前がっ!」
 イギリスの首を掴む。ぎりぎりと絞め上げた。おかしなくらいに顔色が変わる。
 殺してやる。そうだ、殺してやる。何の罪もない彼女をこんな目に遭わせたやつが生きていていいはずがない。
「死ね、死ね、殺してやる!」
「す、ま、ない」
 イギリスのこぼす涙はひどくきたならしい。どんな汚物よりも不浄で罪にまみれている。そうに決まってる。
 けだもの、お前が泣くんじゃない、彼女と同じことをするんじゃない、聖女を穢(けが)したのは、お前、お前なのに。
「ふ、らんす」
 かすかな声が激昂した頭を冷やす。渾身の力でイギリスを殴って、再び視線を彼女に目を向ける。
「フランス」
 正気を取り戻したのかと思ったが、違う。俺のいない見当違いの方向を向いて、震える腕をのばしている。
 口元には笑みすら浮かべて、百合の乙女が再び還る。
「神に愛された国。美しい、貴方」
「……」
「愛しています、貴方を、いつまでも。たとえ、この身は……朽ちるとも」
 枝が折れるように、ぱたりと腕が落ちる。
 まぶたを閉じると、すうっと笑みが消えた。それからまた、うわごとのように唇を動かす。
「やめてこないでたすけてわたしをふらんすにかえしてこわいいたいやめてみないでたすけてわたしはいたんしゃじゃないかみのおみちびきをうけましたこえをききましたふらんすをすくうのです」


 五月三十日、彼女は異端者として火あぶりになった。集まった人々の前で裸をさらされ、灰はセーヌ川に流された。
 蛇行する流れを見つめながら、俺は今でも考える。
 ――彼女はなんだったのだろう。
 聖女、狂女、少女、色々思いつくけれど、あてはめられずにいる。考えに詰まってしまう、そんなときは、ぼんやりと手のひらを見る。
 ……イギリスの首を絞めた手を、その感触をたどりながら。




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