ロンドンから愛を込めて
【メインCP】 イギリス×セーシェル バカップル警報
【サブCP】 描写はほとんど皆無ですが、薄っすらオーハン、のつもり
その他に米、仏、洪、墺、西、加、日が登場します
【傾向】 切なめ系→甘々ハッピーエンド。お互いにひたすらデレまくり注意。
【その他】
・エロいことしてるのにエロくない
・半芸能パラレル…のようなそうでもないような
・「イギリスがオリコン1位取ったでー!」ってくらい、イギリスをプラス補正しすぎた、
そういう意味ではパラレル。いろいろと不憫「じゃない」イギリスがいますのでご注意
「これはねーよ!」って場面は全部笑うところ
・芸名としてですが、イギリスの人名を使用してます
今なら羞恥と、――喜びで、どこまでも行ける気がする。
「い、いぎりす…さん…っ」
セーシェルは、頬を真っ赤に染めて目の前の男を見上げつつ、彼の名を切れ切れに呟いた。
「ん?」
やたらと上機嫌に彼女に覆い被さっているのは、呼ばれた名の通りで、彼女の元宗主国で
現在は恋人でもある、イギリス。
荒く乱れた呼吸を整えつつ、セーシェルの頬や瞼や額に、軽いキスをいくつも落としていく。
柔らかく触れて来る彼の唇に、こんな状況だというのにびくびくと反応してしまう。
壁にくくりつけの鏡を背凭れに、壁際のテーブルの上に腰掛けているセーシェルの、
小麦色の両脚は、大きくM字に開かされ、スカートが腰元ギリギリまで捲れあがり、彼女の両脇に
手をつくイギリスの身体を、両脇から挟み込んでいる。
片膝には、脱げかけて纏わりついたショーツ。
同じく、ジーンズの前を寛げただけの彼が腰を引くと、既に繋がっていた下半身が、ぐちゅりと
淫靡な音を立てた。
「ふ、ぅ!ゃ、…」
上半身に何も身につけていない男の肩に、思わずしがみ付いた手が、彼自身のかいた汗で滑る。
机の脇に立て掛けられているのは、ほんの数分前まで彼がステージで弾いていた、六弦ギター。
「…んだよ、いいだろ…?」
「ぁ、あ…いぃ…けど…ょくねーですっ…んぁっ…っ、んっ!」
「久し振りなんだから、…っ仕方ねぇだろ、」
「っ……でもっ…ゃあんっ…!」
切れ切れの静止も、服の上から身体をなぞられ中を掻き回されて、途中から嬌声に変えられてしまう。
「どんだけ、逢ってなかったと…思ってんだ」
「ん、…だけど、…や、あっ!」
擦れた声に色気を感じて、びくっと身体を震わせる。
漏れ聞こえる歓声に負けずに、部屋に響く自分の甘く溶けた声が、酷く恥ずかしい。
そう。
その部屋は、一般的には「楽屋」と称されるところで。
外からの―――正確には、隣に位置するホールからの歓声と喧騒が、ざわざわと伝わって来る。
その中身は、悲鳴にも近い叫び声、「アーサー」と呼ばわる声、ひたすら「アンコール」と
繰り返している大勢の声だ。
「…あんこーる…っあんまり、お客さ、…待たせたら…っ」
「楽器移動とステージ整備に、少し時間かかるらしいから、」
「…でもっ…だから…って…!」
「20分くらいなら大丈夫だよ、待たせとけって」
「んんぅ…!」
要するに、このイギリスという男は、
通路を隔てたホールに、自分のライヴを聴きに来た大勢の観客がいるというのに、
小休憩という短い時間にも関わらず、恋人を楽屋へ連れ込み、強引にコトに及んでいて…――
変態気質も、ここまで来るといっそ清々しいものである。
……が、これには、海よりも深い訳があった。
事の起こりは、過日の世界会議にて、ふとしたことから話題になった、自国の音楽の話に端を発する。
嬉しそうに目を輝かせたハンガリー曰くの、
「オーストリアさんのピアノ、『リサイタルを開いたらどうか』ってオファーがあったんですよ!
すごいですよね!」
という話を皮切りに、やれ自国の歌はどんなものが流行りだ、自分はこんな曲が歌える・踊れる等と、
会議そっちのけで大騒ぎになった。正に『会議は踊る』、である。
セーシェルも歌やダンスは大好きなので、嬉々として知り合いの国々との会話に混ざった。
そんな中、いつものメンバーのいつものやりとりから、騒動は始まった。
「俺ん家は、何と言ってもUKロックだな!」
自信たっぷりに胸を張るイギリスに、元弟分とドーヴァー海峡を隔てた腐れ縁から
「えー君がロック?そんなカッコイイの歌えるのかい?DDDD」
「お前がCDとか出しても、全っ然売れなさそうだよなーうぷぷぷ」
と、いつものようにいつものごとく、揶揄と茶々が入り。
「なんだようっせーな!やってみなきゃ分っかんねーだろが!!フェアリーロック舐めんなよ!!」
案の定、沸点の低い瞬間湯沸かし器なイギリスらしい、売り言葉に買い言葉。
「おおー面白ぇ、そんならマジにやってもらおうじゃん!もちろん、タダの一般人としてなっ」
「よぉーし!俺の家でも全面的にバックアップするんだぞ!派手に玉砕して来ちゃえイギリス!」
「…お前らな…」
「なんだい、今更自信ないとか言っちゃうのかい?」
「……っ、……上等じゃねぇか……っ」
によによと薄い笑みを浮かべるフランスに、こちらもいい笑顔でおちょくる気満々のアメリカ。
ぶちん、とイギリスの中の何かが切れる音が、聞こえて来た気がした。
「あーあー、やりゃーいいんだろやりゃあ!こうなったら全力でやってやるよ!!
ランキングトップ掻っ攫って、てめぇらに吠え面かかせてやるからな!!覚悟しとけばかぁあ!!」
びしぃ!!と音がしそうな勢いで指を突きつけ、イギリスは、それはそれは盛大に死亡フラグ宣言をした。
「あー…イギリス君、随分あっさり承諾しちゃったけど、平気かな…?」
「何や、おもろそうことなっとるやんか。ちぃとも売れんで泣かんとええけどなぁ」
「私たちは国という立場であるというのに……。全く、どうなっても知りませんよ」
「アメリカの奴、あんなに焚き付けちゃって…フランスさんも…大丈夫かなあイギリスさん…」
「誰?」
「カナダだよ!」
最初に話題を出した手前か、気遣わしげなハンガリー、対照的にスペインが楽しげに笑い、
オーストリアが呆れ顔をし、クマ二郎を抱えたカナダが心配そうな表情を浮かべる。
「イギリスさんのお家の曲は、私の家でも人気なんですよ。案外、面白いかもしれませんね」
そして、止めるかと思いきや目を輝かせる、イベント・お祭り・企画事大好きな日本。
スポンサーが決まった瞬間である。
…そんなこんなで、各国悪ノリし放題の末、
何故かイギリスが、国という身分を偽り「アーサー・カークランド」という名でCDデビューをする、
というところまで、話が大きく膨れ上がってしまった。
(またホイホイ乗せられて、後で泣きを見ても知らねーですよ、あのアホ眉毛…)
大騒ぎの会場の片隅で、セーシェルは一人、後のことを考えひっそりとため息をついていたのだが…、
――事態は、思わぬ方向に転ぶこととなる。
結論から言うならば、それは、予想外な出来事の連続だった。
イギリスは、各国々が目を剥いて驚くほど、―――歌とギターが上手かったのだ。
そして、「無名の新人」という肩書きで登場したにも関わらず、彼の歌は本国で爆発的な人気を呼び
(国の化身としての相乗効果で、自国民たちの愛国心を煽った…かどうかは定かではないが)、
国という立場を考慮した、「必要最低限しかメディアに露出しない」という神秘性も功を奏して、
イギリスこと「アーサー・カークランド」という青年は、まさかの宣言通りにランキングのトップを飾り、
瞬く間に、売れっ子アーティストたちの仲間入りを果たしてしまったのだった。
誰もが想定していなかった結果に、世界会議に出席していた各国の化身たちは、揃って騒然と
したのだが、一際驚いていたのは、何を隠そう、イギリス本人である。
「正直、予想外なんだぞ…!」
「何やっちゃってんだよイギリス!そこは売れなくてべそべそ泣くのがセオリーだろが!」
「いや…えーと、…俺もまさかこんなことになるとは…」
けしかけた2人の、負け惜しみとも取れる言葉。
イギリスの立場的に、どうだ恐れ入ったか泣くのはてめぇの方だばかたれ、と大威張りで
自慢しても良さそうな場面なのだが、何故か一緒になって泡を食っている。
不憫慣れしすぎた成れの果てである。
そして、イギリス…もとい、アーサー・カークランドは、文字通り時の人となった。
些細な思いつきと悪ノリから始まったアーティスト活動ではあるが、『彼の歌は女王陛下をも虜にした』
などという、まことしやかな噂まで流れるほど、下手に名前が売れてしまったがために、
最低限の芸能活動じみた事柄まで、こなさなければならなくなったのだ。
(実際、女王陛下は本人を直接からかって楽しんでいたかもしれない。
なんたって「アーサー」は「イギリス」その人である)
国というものが止まることなどあるはずがなく、本来の「国」としての仕事も、もちろん休む訳には
いかないので、必然的に、プライベートの時間ばかりが削られて行く。
そんな中に一人、置いてけぼりの少女がいた。 セーシェルである。
セーシェルは、イギリスの恋人だ。
―――恋人なのに、もう随分と顔を合わせていない。
いや、顔は見ているのだ。声も聞いている。
…雑誌の中やポスターの中、ブラウン管の中、街頭のスクリーンの中で。
(セーシェルの家でも話題になるくらいなのだ、彼の人気は世界規模に広まっているのだろう)
最後に直接会ったのは、いつだっただろうか。もうずっと遠い昔のことのようだった。
電話でのやり取りは何度かあった。彼が、忙しい中僅かに空いた時間を縫って、かけて来てくれるものだ。
とても嬉しかったのに、酷く疲れた声を無理に張って、元気に振舞おうとしているのが辛くて、
早く休んで欲しい、と早々にこちらから通話を切ってしまった。
彼の部下に尋ねれば、眠る時間も取れるかどうか、という程の有様らしい。
(彼の体調を心配する一方で、「自分も祖国のCD、買ってしまいました」とはにかみ笑う部下には、
かなり和んだ)
わざわざ時間を割いてもらうのも気が引けて、とてもセーシェルの方から会いになど、行けなかった。
…あれ、これって良くある、「超売れっ子芸能人とくっついた一般人の恋人」とか、そんな感じ?
国である自分は、普通の人間ではない。
が、そんな自分が、まさかこんな体験をするとは。
その“良くある恋人たち”よりも、自分たちの置かれている状況はずっと悪い。
お互いに「国」という立場である上、住んでいる場所が物理的に遠すぎるのだ。
会う機会は、自分から作らない限り、起こりえない。
同じ家に住み、疲れた彼を出迎えて、「お帰り」と言ってあげることなど、夢のまた夢なのである。
観光都市であるセーシェルの家の首都は、いろんな国の人々が方々から集まっていて、流通する
情報もさまざまだ。
そんな観光客たちが、今は誰しも皆、彼の話をしている。
『ね、知ってる?アーサー・カークランド!』
『うんうん、知ってるよー!声がすっごく綺麗!』
『あの眉毛気になってたけど、見慣れれば結構イイかも』
『割と見た目もカッコいいよね』
『歌も素敵ぃ!』
彼の人気が素直に嬉しい、と思う一方で、つくんと胸が痛む。
「…あんなに歌上手いなんて、知らなかった」
もっと早く教えてくれれば、自分の家の歌を教えて、一緒に歌ってもらったり、彼の歌う歌で
踊ったり出来たのに。
彼の良いところも悪いところも、全てを知っているのは、自分ひとりだけでいいのに。
急に彼が自分のそばを離れて、ものすごく遠くに行ってしまったような気がして、しょんぼり俯く。
自国は太陽が眩しい。
けれど心には、ロンドンの空のように、どんより雲がかかっている。
ヨーロッパとインド洋、家は遠く離れていても、今までこんなに心細く切ない気持ちになったことなど、
なかったのに。
アーサー・カークランドの人気は、衰えることを知らず、大勢のファンに熱望され、とうとうライヴツアーを
開催するまでになった、ということを、やはりテレビで知った。
彼と付き合っていることは、身近な人たちには公にしていたから、気落ちしているのは周囲には
丸分かりだったようで。
やはり元宗主国で、口に出したことはないが兄のように思っているフランスが、訪ねて来てくれたこともあった。
結果的にとはいえ、自分たちが仕向け、仕出かしたことを、少なからず気にしている様子だった。
アメリカやカナダ、日本たちも、代わる代わる様子を見に来てくれた。
しかし、一番来て欲しい人は、――来られる筈もない。
私は大丈夫です、皆さん心配しないで下さい、と笑ってみせたつもりだが、どう受け取られたかは分からなかった。
セーシェル自身も、独立した一国である。仕事を止めるわけには行かない。
その後も、イギリスとは連絡を取れず、更に数週間を過ごした。
待ち望んでいた携帯のメールにも、負担をかけまいとするあまり、言葉少なにしか返信を打てず、
送信したそばから自己嫌悪に陥る。
−久し振り。…ごめんな、ずっと連絡出来なくて
−ライヴ、すごいですね。おめでとうございます。
−知ってたのか。見に来いよ、会いたい
−はい。でも、チケット取れなかったですよ。
−送るよ、ばか
−期待しないで待ってます。 疲れてるでしょう、早く休んで下さいね。
−ごめん
忙しい彼の方からわざわざ送って来てくれているのに、これではまるで自分から、関係を
断ち切ろうとしているかのようだ。
大好きなのに。
出来るなら独り占めしてしまいたいほど、欲しくてたまらないのに。
自分の存在が、彼の迷惑に、負担になってしまうのが、同じくらいに怖い。
たまらなくなって、着の身着のまま、彼の瞳の色をした海へ飛び込んだ。
セーシェル自慢の、綺麗な、碧の海。
溢れた涙も、波間に紛れて分からなくなった。
- 続き: ロンドンから愛を込めて 2 大作なので分割させて頂きました
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