2月7日に贈る物語




 気付いたのは夕刻を過ぎたあたりだったか。
 妙にそわそわしだして、やたらと時計を気にしだした。先日に提出 した報告書の書き直しを
(ジャックに代わって)命じられたりしなけ れば、今日は本来ならば早上がりの日だ。何か用事
でもあるのだろう か。ジャックは先々日の始末書の書き直しをしている手を止め、部下 であり
相棒でもある人物のデスクへ向かった。

「チェイス、仕事を押し付けてすまないな」
「ど、どうしたんですか急に貴方がそんなことを言い出すなんて」

 やたらと驚く部下に少しムッとする。

「別に…落ち着かないようだから。今夜は何か用があるんじゃないのか」
「ああ…ええ、まあ。でも…いいんです」

 やたらと言葉を濁して、チェイスは最後にはにっこりと笑った。残業 して報告書を仕上げて
くれるのは嬉しいのだが、こうまで物分りがいい と逆に申し訳なくなってくる。チェイスにでは
なく、その相手にだ。

「だが、彼女とでも約束してるんじゃないのか?」
「彼女なんていませんよ。女性には違いないですが。友人の誕生日なん です。それで、一緒
に食事でもして祝おうかと思って」
「それなら、余計に行ってやらなくてはいけないじゃないか。今日しか できないことだぞ」

 ジャックは珍しく気を遣ったのだが、チェイスはやはり首を振って 「いいんです」と言った。

「だが…」
「あのですね、ジャック。彼女、俺のことを犬呼ばわりするんです」
「はぁ?」

 唐突に何を言い出すんだコイツは、と思うが、同時に不愉快な気持ち も湧いてくる。確かに
チェイスはやたらと付きまとってくる、それで も頼りになる大型犬のような相棒だが、他の人間
が彼を犬のように思っ ているとは、なんだか面白くない。尻尾を振って必死に付いて来るのは、
自分にだけだと思っていたからだ。

「ふ、ん。恋人に犬呼ばわりされてそんなに嬉しそうな顔をするなんて 、情けないぞチェイス」
「だから恋人じゃなくて友人ですってば! それに彼女が俺を犬と言う のにはちゃんと理由が
あるんです」
「ふーん。忙しいからじゃあな」

 にこにこと話すチェイスに、ジャックは不機嫌な顔で踵を翻した。
 だが素早く腕を取られ、身体を向き直される。

「話は最後まで聞いてくださいよ。彼女は俺を、貴方の犬だと言うん です」
「…は?」
「だから、俺は、貴方の犬だって」

 チェイスが、俺の犬?
 それは最初からわかっていることだが…じゃなくて、なぜチェイスの 恋人だか友人だかが、
そんなことを言うのだ?

「その女性ってのは、俺も知っている人なのか?」
「いいえ。でも、俺がよく話しをするので…たまに会ってもジャックの 話ばかりだって、いつも
からかわれるんですよ」
「へえ…それにしたって、上司の犬だと言われてムカつかないのか」
「悪気はないんですよ。ジャックとの距離の近さをそう例えられたのだ と思うと、俺は嬉しい
です。それに、彼女は数少ない理解者だし…」
「理解者? 何のだ?」
「だから俺がジャッ…っと、えと。俺の仕事の、です。その、ほら、 大変な仕事ですから」

 歯切れの悪いチェイスに、ジャックは眉を顰めたが追及はしなかった。 プライベートなこと
のようだからだ。ただ、その女性が知っていて、自分 が知らないということが少し悔しい。
その気持ちを隠して、鷹揚に頷く。

「そんなに仲の良い相手なら、やっぱり会って祝った方がいいんじゃな いか? 報告書は明
日の朝にやってくれたらいい」
「いえ、大丈夫です。俺がジャックと少しでも長く過ごすことを、彼女 もきっと望んでくれるはず
ですから」
「よくわからないんだが…」
「すごく協力的なんです。ここで俺があっさりと帰ったら、彼女に怒ら れてしまいますよ」
「何の話かわからんが、まあお前がいいと言うならいい。よろしく頼む ぞ。ああ、彼女には連
絡くらいしとけよ」
「はい、ジャック。ありがとうございます」

 チェイスの返事を聞くと、ジャックは遠くから睨みつけてくるトニー の殺人的な視線をかわし
ながら自分のデスクへと戻って行った。正直、 チェイスが残ってくれてとても助かる。そして、
チェイスの仕事熱心ぶ りをやけに応援しているらしい女性にも、心の中で御礼を述べた。


   END




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2007.2.9
コスモスさん、お誕生日おめでとうございます!
ここに出てくる「女性」=コスモスさんで。
チェイスは来れなくなりましたが、許してやってねv








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