『HIGH-JACK <1>』




 CTUロサンゼルス支局がその情報を掴んだ時、事件の概要はほぼ把握 できていなかった。
 情報元は南米防空司令部で、カリフォルニアにある フェニックス空港からハイジャックの通報があったが、詳細を
聞く前に電 話が切れてしまったということだ。FAA(アメリカ連邦航空局)も連絡 を受けていたが、「…機がのっとら
れたようだ」という短い内容のみで、 訓練か否かの確認をしている間に通話は途切れてしまった。

「切羽詰っている時に無駄な確認で時間を費やすなんて、911テロの 反省はどこへいったんだ!」

 ジャックは猛スピードでレンタル車を運転しながら毒づいた。
 同じ腹立たしさを感じながらも、チェイスが楽観論を口にする。

「通報者のいたずらの可能性は?」
「いや、フェニックス空港の航空管制室からだと確認が取れた。ただその後 ずっと連絡がつかないところを見ると、
おそらく管制室も襲われたんだろう」
「航空機だけではなく管制室も狙うなんて、犯人達の意図はなんでしょう」
「さあ…」

 チェイスの暗い声に、ジャックも顔を曇らせる。
 搭乗ゲートや待合室といったその他のセクターには連絡がつき、いずれも 管制室の異常には気づいていなかった。
航空機の離着陸も通常通りに行われ ている。管制室に潜む犯人を刺激しないよう、各主任にはそのまま気づかな い
ふりをするように伝えている。ジャックとチェイスはヘリで近くのビルに 降り立ち、次いで車で空港へと向かっていた。
地元の警察にも援護は依頼し ているが、まずは自分達のみで様子を窺いに潜入しようとジャックは考えて いた。

「航空機が何らかの行動を起こす前に、管制室に篭った犯人を捕まえなけ れば…。目的地はおそらくヒューストンだろう」
「俺もそう思います。確かメキシコ湾を臨んで…」
「ああ、首脳陣の会食が行われているからな」
「危険性は通告しましたが、まだ避難はしていないそうです」
「その方が良い。獲物が逃げて、自暴自棄になられても困るからな」

 ハイジャックされたのはカリフォルニアとシカゴを結ぶユナイテッド航空 240便だ。空軍と連携して追尾を急いでいるが、
犯人は未だ声明を出して いないので犯行目的や行き先もわからなかった。最終手段として撃墜の権限 が空軍にはあるが、
むやみに乗客を犠牲にはできない。

「乗客251人、ジャンボジェット…これほどの規模なら、航空保安官が 最低2人は同乗しているはずだが」
「厳密な手荷物検査やボディチェックを潜り抜けた、犯人の武器も気になり ますね」
「そうだな。今はまず、目の前のことに集中するとしよう」

 一般駐車場に車を止めると、2人はのんびりと空港内へ入っていった。 途中、目を合わせて微かに頷き返してくるのは
私服警官だろう。ジャック の合図で、管制室に突入する手筈になっている。だが一方で、どこに監視の 目があるともわか
らない。2人は神経を研ぎ澄ませながら、しかし見た目は リラックスした様子で上階の展望室へと上った。その更に上は
関係者のみの 区域となっており、休憩室や管制室、屋上の管制塔へと繋がっている。その 階段の上り口に、若い男が
携帯を持って立っていた。見張りをしているのが 不満だという顔を隠しもしない。下っ端と判断したジャックは傍らの相棒
に 目配せした。チェイスは素早い動きで男の口を塞ぎ、携帯を持っていた腕を 捻りあげる。

「上には何人いるんだ? 答えないと…」
「ぐ、ウウー!!」

 男の苦悶の声を後ろに聞きながら、ジャックは先に階段を上った。男の 様子ではすぐに口を割るだろう。
 息を潜めて管制フロアへ上り、廊下を窺う。 先に見た見取り図では、この階には休憩室と事務所があり、一番奥が管
制室 だった。チェイスがジャックの後ろに並び、人影のいない廊下に緊張の色を 高めた。

「犯人達は総勢5人で、ほとんどの管制官と共に管制室にいます。休憩室に は怪我人が2人、見張りが1人だそうです」
「怪我人? 発砲があったなら、なぜ警備が気づかなかったんだ」
「管制室は防音されてますから。持っているものはS&W軍用拳銃のみです」
「そうか…。防音といったな。外の音も中には聞こえないわけだ」
「ええ、おそらく」
「あの男はどうした?」
「失神させて警官を呼びました。…ジャック、指導者ぶるのはいい加減やめ てください。
俺はハイスクールの生徒じゃないんですから」

 拗ねるような口調にちらと笑みを浮かべると、ジャックは休憩室の扉の横 に身体を張り付かせた。
 そっとドアノブに触れ鍵がかかっていることを確認 すると、扉の前に立って一気に蹴破る。すかさずチェイスが突入し、
銃を 持っていた男を叩き伏せて気絶させた。拘束されていたのは男性と女性1人 ずつで、女性は殴られた痕があるものの
酷い怪我はなさそうだった。ジャッ クが犯人の持ち物を探る間、チェイスは彼らの拘束を外した。

「大丈夫か?」
「ええ平気。彼の方が重傷だわ、撃たれたの。…クルーズ?」

 赤毛の女性の気丈さに感心しつつ、チェイスはクルーズと呼ばれた男性 へと目を向けた。右腕を真っ赤に染め、
ぐったりと身体を弛緩させている。 だが意識はあるようで、瞑っていた瞼を重たげに開いた。

「しっかりしろ、すぐに救護班を呼ぶ」
「それよりも、皆を助けてくれ…あんたは?」
「CTU特別捜査官のチェイス・エドモンズだ。他の人を助けたいのなら、 協力してほしい。どんな状況なのかよくわからないんだ」
「ああ…わかった。でも良かったよ、奴らが突然侵入してきたせいで、通報 がちゃんと伝わっていないか不安だったんだ」

 彼がFAAや防空司令部に連絡した人物のようだ。
 詳細を聞こうと、ジャックも近寄ってきた。しゃがみこんで名乗ろうとす ると、クルーズの顔に驚愕が走った。
 女性も同じく唖然と目を瞠っている。

「じゃ、ジャック…!?」

 掠れた声で呼ばれたのは紛れもなく自分の名で、ジャックもまた驚いて彼 を見つめた。




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2006.9.6
***補足***
ハイジャックは「hijack」です。タイトルは造語です…
航空テロ対策については捏造の部分もあるので信じないで下さい。








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