ぐったりとしたジャックを自室へ運ぶ頃には、トニーは自分を取り戻して いた。
　だがそれは思考が平静になったというわけではなく、頭が冴えたとい う意味だ。

　ジャックを傷つけたいと思ったが、２、３発殴ればいいというものではな い。
　彼は大人しく殴られるかもしれないし、あるいは反撃してくるだろう。 翌日にはトニーはＣＴＵを解任さ
れるかもしれない。何より、単純な暴力で は彼の心は傷つかないに違いない。とすれば、残る手段は
一つだ。公言でき ない屈辱を与えればいい。

　ジャックの両手をタオルで縛り、ベッドヘッドへ括りつけた。乗り上げて 両足を押さえる。常軌を逸して
いるな、と自嘲するが、今更やめられない。 ジャックの頬を叩くと、呻きながら意識を取り戻した。その
瞬間から、ジャ ックを纏う雰囲気が硬質した。朦朧としながらも、五感の全てが周囲を観察 しているよ
うだ。訓練の賜物なのか、ジャックの本能なのか。それが、瞳を 開きトニーを視界に認めた途端、ふわ
りと霧散したのだ。

「ジャック…」

　トニーは驚いてジャックを見つめた。
　あろうことか、彼はトニーを見て安心している。ぼんやりとした思考の中、 目の前にいるのが同僚なの
だから、それが当然かもしれない。だがこれから のことを考えると、ジャックの自分に対する信頼がおか
しかった。同時に怒 りも湧く。自分は彼のせいで散々悩んでいるのに、彼が自分を見て安心する なんて
許せない。浮かべた笑みは、ジャックに不審を与えるには十分だった。

「トニー？」

　身体を起こそうとし、そこで初めて拘束されていることに気付く。
　青の瞳を大きく見開き、再びトニーへと視線を向ける。
　トニーは笑みを更に深くし、ジャックのシャツへと手を掛けた。

「トニー、どういうことだ…」
「ジャック。貴方は俺のことを取るに足らない存在だと思っているんでしょう けれど、それはどうかな」
「トニー！？」

　シャツのボタンを外していく手を、ジャックが信じがたい目で見ている。 浮かべているのは未だ驚愕と
不可解だけだ。ほどなく、その瞳が怒りと屈辱に 満ちるだろう。そんな彼を辱めるという想像に、トニー
は自分が興奮してくる のを感じた。シャツはジャックの頭上でまとめ、ズボンは片足ずつ慎重に拘束 を
解いて脱衣させる。その間も、ジャックはずっともがいていた。

「トニー、放せ！　正気か！？」
「俺はいつだってクリアーですよ。ああ、傷だらけですね…」

　全裸にしたジャックを、まじまじと見つめる。
　腕や腹部、脚と、至るところに残る大小の傷跡が、彼の過酷な任務を物語 っていた。しかし、トニーの
視線は別の場所に止まる。内股から股間にかけ ては、白い肌のままだ。拷問には性器を痛めるものも
あるが、幸運にもジャ ックはされていないらしい。ふと思い立ち、彼の身体をうつ伏せにさせる。 思った
通り、臀部にも傷跡はない。男性にしてはこんもりと盛り上がってい る双丘の狭間に指を滑らせると、
ジャックの背中がギクリと強張った。

「ジャック…もしかして、されたことあります？」
「な、何を言って…っ」
「怯えてますよ」
「同僚に押し倒されて、冷静でいられるわけないだろう」
「強情ですね。でも体が震えてる…。相手は優しくなかったようですね」
「トニー、いい加減にしろ！　放せ！」

　なおも強く言い放つジャックを無視して、双丘を割り開く。
　きつく窄まったそこに男を咥えてジャックが啼いたのかと思うと、言いよ うのない感情が押し寄せてきた。
　憤りや同情を上回る、強い感情だ。

　ジャックは、レイプされたことがある。

　こんな可愛げのない男をと思うが、同時に彼を好きに弄んだ男達に羨望を 感じた。ジャック・バウアー
の上にいるという優越は、さぞかし心地良いに違 いない。

「彼女達は知ってるんですか？　ニーナやテリーは」
「お前に関係ない！」

　ジャックの顔が怒りで上気している。
　そのせいか傷跡もピンク色に染まっていた。まるで、発情したオスが体色を 変えるような卑猥な印象を
受ける。この傷跡に、ニーナは舌を這わしたのだろ うか。癒すように、煽るように？

　トニーは歯軋りすると、手を伸ばしてサイドテーブルからボールペンを取り 上げた。腰を持ち上げて犬の
ような姿勢をとらせると、ジャックが低く呻く。 それを鼻で笑い、乾いた後孔に一気にボールペンを突き入れた。

「アゥッ！？」

　衝撃に背を仰け反らせるジャックに、トニーは薄く笑った。