『I've got a feeling 1』




「ああ、そういえばトニー。俺、お前のことが好きだ」

 ファイルを渡したついでという感じで放たれたその言葉に、トニーはどう反応すれば良いか
わからなかった。また何かミスでも犯したんですかとか、これから何か無茶でもする気なんで
すかとか、口に出掛かるが声にならない。ジャックの態度があまりにも自然だったからだ。

「じゃあな。お前も残業はほどほどにしろよ」

 ジャックは何事もなかったかのように立ち去ってしまった。
 ジョークで混ぜ返すこともできないまま、トニーは頭を抱えて座り込んだ。

(何なんだ一体…。ええと…ファイルに問題はなし…か。最近はジャックが不穏な動きをして
いる気配もないし。裏がないとすると、やっぱりジョークか? あのジャックが、僕にあんなネ
タでジョーク? でもそれ以外考えられないよな)

 だとしたら、今頃ジャックはトニーの反応に内心大笑いしているに違いない。軽口ならば、
かのジャック・バウアーに負けることのないトニーが、一言も言い返せなかったのだから。
今からでも捕まえて何か言ってやらなければ。まるで子供のような対抗心に押されて、
トニーは駐車場へと駆け出した。ジャックは車に向かっていたところで、トニーに気付くと
帰りそこねたという不機嫌さに唇が曲がった。

「さっき渡したファイルに何か問題でもあったのか」
「いいえ、そういうわけじゃなく…さっきあなたが言ったことなんですが」
「ないものはない」
「いえ、報告書に添える資料の追加ではなく」
「じゃあ明後日の会議をすっぽかすことか?」
「すっぽかす気なんですか!?」
「まだ言ってなかったか」
「ジャック、はぐらかさないでください!」

 またからかわれているのかと思い、笑い出しそうになるのを堪えて声を上げた。
 ところが青色の瞳が静かにトニーを見据え、思わずどきりとする。

「ジャック、あの」
「ついさっき、俺が言ったことか」
「そ、そうです。別れ際に…」
「俺はお前のことが好きだ、トニー」

 再度、やや眉を顰めて言うジャックに気がひるむが、今度こそとトニーは自身を奮い立たせた。

「ふ。ジャック、僕…」
「やめろ」

 苦笑とともに頬を優しく叩かれ、トニーの言葉は途切れた。ジャックは「用件は以上だな」と
勝手に見切りをつけ、車に乗り込んだ。窓を開け、困惑しているトニーに向かって身を乗り出す。

「トニー。自分が何を言おうとしているのかよく考えてみろ」
「ジャック…。ジョークではないんですか?」
「ああ、違う。だからお前は気にするな」

 1人わかったような顔で、エンジンをかけるとジャックは帰ってしまった。
 深夜の駐車場に残されたトニーは、先ほどよりも状況が悪くなっていることに気が付いて唸った。

「”だから”って何が!? 気にならないわけないでしょうジャックー!」







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2009.2.13
珍しくトニー←ジャック。続きます。
でもジャック×トニーではないですヨ(言わずもがな)

















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