何故だ。
何故こういうことになっているのだ。
神やらサンチェやら、特にペッパーを呪いながらソニーは熱く篭る
息を吐き出した。
途端にペッパーが腰を深く進めてくる。
「ぅっく、動く、な!!」
「動かなきゃ終わらねぇじゃねぇか」
「無理だ、抜け! 今すぐ抜け!」
「せっかく入ったのに」
軽く揺すぶられ、圧迫感に歯を食いしばる。
同時に埋め込まれているペッパー自身も締め付けてしまう。
「っ、ソニー、きつい…」
「知るか、痛いんだからさっさとどけ!」
「さっきからそればっかだな」
ペッパーは不満そうに言うと、ソニーの口を片手で塞いだ。
「んんっ」
「ちょっと静かにしてろよ…俺を信じろって、ちゃんと良くしてやる
からよ」
「ん――っ」
必死に頭を振るが、口元を押さえられていてはそれもままならない。
睨みつけると、ペッパーはやけに自信満々な様子で舌なめずりをした。
精悍な顔に浮かぶ正直な
欲望の色に、女性は堕ちるんだろうな…などと
思うソニーのそれは現実逃避に他ならなかった。
「どんな馬でも乗りこなすのが俺様なんだからよ、安心しろって」
「ん、うぅ、っ!」
それまでとは一転して優しい愛撫が始まった。
うなだれているソニー自身を擦り上げ、震えている肌のそこかしこに
キスの痕をつけていく。
ピンク色に上気した肌は少しの刺激にも敏感に反応した。
「は、アッ、ア…!」
やがて塞いでいた手を離すと、ソニーの口からは抑えきれない喘ぎが
洩れ始めた。
「ペッパー…や、もうっ…」
「やべぇソニー…すげーエロい」
ペッパーは喉を鳴らすと、ゆっくりと腰の動きを再開させた。
相手の反応をじっくりと見ながら、次第にポイントを掴んでいく。
ソニーの眉間には相変わらず皺が寄っていたけれど、雫を溢れさせている
そこを見れば感じて
いることは疑いようがなかった。
「あ、ハ、っ…あぁっ」
「ソニー、俺もっ、そろそろ限界…!」
「うぁ、あ! ペッ…パー! ペッパー!」
抱えていた足を大きく広げさせ、更に奥深くを突く。
高い声で自分の名を呼ぶソニーに、ペッパーは今までにない感情が芽生え
るのを感じた。
それはとても強烈な感情で、だが冷静に分析できるだけの余裕は今のペッパーにはなかった。
ただ本能の赴くまま快感を追う。
「んっ、ソニー…!」
「っ―――ぁ、あ!」
熱いものが内部を満たす感覚に、ソニーもまた大きく身体を震わせながら
自らを解放した。
翌朝。
ズキズキと痛む頭でソニーは目覚めた。昨夜はその後意識を失ってしま
ったが、身体がさっぱり
しているということはペッパーが清めてくれたの
だろう。いま寝ているのもシーツを重ねて柔らかく
したソファで、奴
はこんなに気遣いのできる男だったか…とぼんやりと思った。
「いま考えるのはそんなことじゃなくて…」
眠りなおしたい欲求を抑えて身体を起こすと、ペッパーがキッチンから
駆け寄ってきた。
「ソニー! 起きたのか、大丈夫か? さすがの俺も、相手を失神させる
なんて初めてでよ、ビックリ
したぜ。あ、いまスープ作ってやってるから
よ、薄めのコンソメ。それで身体は」
「だ ま れ」
するとペッパーは大人しく黙り込んだ。
殊勝な様子に違和感を覚え、そうして初めて気付いたのだが、ペッパーは罰が悪そう
にソニーの
顔をチラチラと見ている。
(――気まずい、のか?)
そう思い当たり、ソニーはショックを受けた。
湧いた感情は「だから言っただろう!」でも「帰れ、二度と来るな」でも
なかった。
「ペッパー。俺達は変わったのか?」
「ソニー…すまない、俺は…」
ペッパーがソファにしゃがみ込み、おどおどした声で謝る。その胸倉を
掴み、自分へと引き寄せる。
決してまっすぐに目を合わせない彼に怒りが湧く。
「俺は! あんな馬鹿げた行為で…壊れるなんて、許さないからな!」
「ソニー…じゃ、アンタは、その、俺のことまだ友人として」
「当たり前だ! すまないって何だよ、ペッパー! え!?」
詰め寄ると、観念したように瞳を向けた。
いつもおどけている感情豊かな瞳はよく見ると落ち着いたグレーで、
ペッパーが時折見せる真面
目で優しい仕草を表すかのようなその色がソニ
ーは好きだった。小さい頃からの付き合いだ、互い
に良い面も悪い面も知
っている。腐れ縁だろうが何だろうが、ソニーはこれからも傍らにペッパ
ーが
いることが当然だと思っていた。
「たかがセックスなんだろ? 俺は忘れる。だからお前も忘れろ、いいな!」
「ソニー…無理だ」
「どうしてっ」
急にペッパーに抱き締められ、ソニーは言葉に詰まった。
「アンタの傍にいたい。今までのように」
「じゃあ俺と同じじゃないか」
「同じなのか?」
耳元で笑いを含んだ声で囁かれ、今更のようにソニーは顔を赤くした。
ペッパーを引き止める為とはいえ、さっきから自分はずいぶんと恥ずかし
いことを言っている。
「同じ…だろ。今までどおりでいいだろ」
「でもな、ソニー。俺は、ちょっと違うんだ」
「そんな、ペッパー…」
やはり元には戻れないのかとソニーは青褪めた。
ペッパーが身体を離し、両手でその頬を優しく包む。
「ペッパー?」
「俺は、今まで以上にソニーの傍にいたい。一晩考えたんだけど、
お前のことが好きみたいなんだ」
「は?」
率直に告げられた言葉に、ソニーは一瞬何を言われたのかわからなかった。
次いでなんて質の悪い冗談だと叫びかけたが、ペッパーの真剣な目を見て
言葉を飲み込む。
しばらく見詰め合ったまま時間が過ぎた。
沈黙を破ったのは鍋からスープが吹き零れる音で、ペッパーが慌てて
立ち上がる。
「やべ…っとソニー! アンタは俺の傍にいたいんだろ。俺もソニーの
傍にいたい。
何も変わってねぇよな、俺達!」
そう、叫ぶと駆け足でキッチンへと飛び込んでいった。
取り残されたソニーは、二日酔いやら何からで痛む頭と身体を再びソファ
に横たえながら大きな
溜息を吐いた。興奮して怒鳴ったせいで、朝から
疲れ果ててしまった。
「変わってない…わけないだろう?」
鈍い思考力でも、一般常識くらいは判断できる。
とりあえずの最優先事項は、サンチェ達への言い訳だろう。ペッパーとの
ことは、時間がなんとか
してくれるはずだ。単純な男だから少し混乱し
て変な責任感を抱いているだけで、根っからの女好き
だ、三日後には元通り
に戻っているはずだ…たぶん。
『俺達は友人〜、セックス込みの友人〜』
キッチンから聞こえてきたとんでもない歌にも、何を言う気力も湧いてこない。
とりあえず絶交は避けられたという安堵感に、ソニーの意識はまどろみの
中へと落ちていった。
ペッパーを甘く見ていたと嘆くのはまた後の話……
END