『you really got me』




 書斎のドアが開いた時、ドクはちらりとその人物を確認しただけですぐに 書物へと視線を戻した。
休み時間には銃の手入れや乗馬ばかりしている男が、 たまには読書でもしたくなったのだろうか。
珍しいことだ、と思ったのは一 瞬で、すぐにドクは文字の美しい旋律へと没頭していった。

 ビリーは静かにドアを閉めると、書棚には目もくれずにドクの隣に座った。 その視線が自分に向け
られていることにドクが気付いたのは、しばらく静か な時間が経ってからだった。気に入った詩篇を
指先でなぞり本を閉じると、 「それで?」というように顔を上げる。ビリーがにっこり笑った。

「Hi、ドク。邪魔したか?」
「見ての通り、現実に引き戻されたよ」
「それは失礼。現実はお気に召さないとみえる」
「時にはな。用件は?」
「あー、そのな…俺に詩を作ってくれないか」
「なんだって?」

 ドクが詩人であることは誰でも知っている。しかし仲間からの評価は芳 しいものではない。
 なのに何故と、ドクは訝しげに片眉を上げてみせた。

「詩を? お前に? どうしてだ」
「別に…そう、ドクがどんなふうに俺を見ているのか知りたい」
「なんだそれは」

 うんうんと頷いているビリーに、ドクは憮然とした声を漏らした。

「ドクがどう俺を書くのか興味あるんだ。な、書いてくれよ」
「俺は人間は題材にしない。誰かに捧げる時は別だがな」
「その"somebody"に俺は入らないのか?」
「詩を捧げる相手は女性に決まってるだろ」
「ドク、好きな女がいるのか!?」

 あのな…とドクは天井を仰いだ。視線を戻すとビリーはやけに真剣な顔をし ていて、急に場違いな
雰囲気に変わったようでドクは戸惑った。

「ビリー?」
「ああ…いや。じゃあ、俺が死んだら書いてくれるか。亡き友、ウィリアム・ H・ボニーに捧ぐって感じで」
「…なんだそれは」

 ドクの声音は先ほどよりも硬質になっていた。目の前の小生意気で、騒々し くて、有り余るくらい生き
生きとしている彼が、「死んだら詩を書いてくれ」 だって? なんてくだらないことを! ドクの繊細な神経は、
今はそれ故に強 い怒りに覆われていた。じろりと睨むとビリーは困った顔で笑った。

「詩はずっと残るだろ? 俺が生きてたっていう証になる」
「…それじゃお前が見れないじゃないか」
「いいさ。俺は見せたい自分を見せる自信があるから。頼むよ、墓なんていら ない。けど、死んだらあ
んたの言葉になりたい」
「そんなことを、言うな…」

 不吉なことを言う彼に対する怒りは消えていなかったが、ドクは返答に窮し て俯いた。
 その様子をビリーは愛おしそうに見つめた。再び視線が合うと、ビ リーはもはや我慢できななくなり、
ドクの両頬へ手を添えると唇を寄せた。

「ビリー!?」

 無防備に開いた口に舌を差し入れ、温かい口内をまさぐる。
 ドクの舌を絡め取ると肩がビクリと跳ねた。引き退きかけた身体は椅子の背とビリーの手に阻まれてしまう。

「んっ、んウ…ふ…っ」

 驚きに歯を立てることもできないドクを存分に味わうと、ビリーは最後に ちゅ、と唇を啄ばんで離れた。
 ドクはとっさに口元を手で押さえると立ち上がった。睨みつけてくるドクに、ビリーはおどけて両手を上げた。

「ビ、リー…!」
「ドク、あんたが好きだ」
「そういう冗談は嫌いだ!」

 冗談ね、ya、冗談。オーケイ。
 そう繰り返すと、ビリーはホールドアップの格好のままドアへと後ずさった。素早くドアの外へ出ると、
顔だけ覗かせる。

「ドク、あんたが誰に恋の詩を捧げてもいい。さっきの俺の言葉が冗談でもいい」

 けどな、とビリーはドクを見据えて言った。

「だけどいつか、あんたの隣は俺のものになる。これは確かだからな」

 パタリとドアが閉まり、上気した頬に行き場の無い拳を握ったドクが残され た。
 ドクはしばらくドアを睨みつけていたが、やがて大きな溜息をついて椅子 にどかりと腰を下ろした。

「まったく…」

 続く言葉が見つからない。
 最初に出会ったためか、仲間内でもビリーは特にドクに懐いていた。だから 今のはいつものジョーク
の延長に違いない。それとも自分は、ビリーのトリッ キーな微笑みに逃げ道を探しているだけなのだろうか?

「くだらない」

 くだらないのは、ここでぐるぐると悩んでいる自分だ。なぜいつもビリーに 振り回されるのだろう。
気分を戻そうと詩集を開いたが、ビリーの困ったよう な笑顔がちらついて舌打ちする。苛立たしげに
本を閉じ、再びドアを睨んだ。

「まったく…まいったな」

 出てきたのは弱気な言葉で、ドクは苦笑する。
 ビリーのことは嫌いではない。明るく活気に溢れ、銃の扱いも上手い。少し 自信過剰な面もあるが、
自分を好いてくれる相手を嫌う理由などなかった。だ からといって、今回はやりすぎだ。自分もなぜ、
さっさとビリーを殴りに行か ずにいつまでも考え込んでいるのだろう?

 よし、とドクは立ち上がり書物を本棚へと納めた。
 外ではビリーが、構いに来てくれることを待っているとも知らずに。






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2006.7.19
ディック、気をつけないとドクが寝取られるヨ!
とか言いつつ、ドクは好きすぎて、なかなかエロまでいけない…







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