I'll Be There




 興味はあったのだ、もともと。
 たとえそれが好意的な関心ではなかったにしても。

 僕の自尊心や常識を次々と破壊していく彼は、最初はキャリアへの道を引っ張る厄介者でしかなかった。
彼も僕のことは目障りだと思っていただろう。なにせお互い、現場とアナリストのチーフだ。毎日のように顔を突き合わせては
衝突し合っていた。いつでも個人主義で暴走する彼から、僕は否応なしに目が離せなかった。

 しかし彼の能力を認めることは難しいことではなく、彼もまた信頼を寄 せてくれるようになり、僕たちの距離は次第に縮まって
いった。ところが ニーナを間に挟むことでこじれかけた関係は、彼女の裏切りによって、修 復どころか一気に断絶されてしまった。

 仲間の裏切りによって仕掛けられた地獄のような一日は、その終焉で彼 を絶望に陥れたのだ。血まみれの妻の身体を抱きし
めて泣く彼に、僕はか ける言葉もなかった。

 ただ、感情を抑えていない素顔の彼を見ることは珍しく。
 ジャック・バウアーという人間の強さが剥がれていくのを、痛みを持っ て見ているだけだった。

 その日以来、彼とはまともに話していない。
 そのくせ、僕は今まで以上に彼から心が離せなくなった。

―――――

 何度か家に訪れても扉を開けてもらえず。
 庭から侵入したのは、3日前。
 今日は買い物へから帰ってきた彼を玄関先で待ち伏せた。

「ハイ、ジャック」
「また来たのか」

 ジャックはあからさまに迷惑そうな顔をした。

「だって、」

 当然だけれど、彼も人間なのだと知ってしまったら。
 今の状態の彼を、どうして一人きりにさせておける?

 そんなことを言えるわけもなく、口をつぐむ。
 ジャックは答えを期待していなかったようで、僕を押しのけて鍵を開けた。

「帰れ」
「入れてくれないんですか?」
「用はない」
「ちゃんと食べてるんですか? 水と煙草じゃ生きていけませんよ」
「余計なお世話だ、放っておいてくれ!」

 キッと、険のこもった眼差しを向けられる。
 久しぶりに見たジャックの瞳には生気がなく、ただ暗く外部を拒絶している。

(――こんなのは駄目だ)

 浮かんだ感情は、自分でも予想外のものだった。

(こんな彼は、僕が許さない)

 ただ自然と身体が動き、僕に構わずに玄関に入りかけていたジャックへと 手を伸ばしていた。彼を抱きしめ、なかば持ち上げ
るようにして家の中へと 入る。後ろでパタンと扉が閉じた。

「な、トニー、放せ!」

 もがくジャックを引きずってリビングルームへと入る。
 昼間だというのに、カーテンを閉じ照明を落とした部屋。

 明かりをつけるとジャックは眩しそうに睫毛を瞬かせた。
 抱きしめた身体は彼のイメージよりも繊細で、今は怒りと戸惑いに 強張っていた。彼の経歴を知っていてなお、この小柄な身
体のどこに あの無尽蔵なパワーが隠れているのかと驚いてしまう。

 ソファへ彼を押し付け、正面から向かい合うように覆いかぶさった。

「トニー!」
「――貴方がいないと駄目なんです」
「俺がいなくてもCTUにはお前が――」
「そうではなく。貴方がいないと、僕が駄目なんです」

 ジャックの蒼い瞳が再び僕を捉えた。
 彼の口がわずかに開き、しかし何も言えず迷っている。そこにちらりと 覗く赤い舌を見つけ、僕は誘われるように彼に口付けた。

 ビクリとジャックの身体が跳ね顔を背けられて、触れるだけの口付けは 一瞬だった。しかし、これでジャックにも――そして僕
にも、僕の思いが はっきりとわかった。

「ト、ニー…」
「好きです、ジャック」

 声が掠れた。視線も揺れてしまったと思い、もう一度相手の目をしっか りと見据えて言った。

「あなたが好きなんです」
「どうかしている」

 ジャックが信じられないというように頭を振る。
 自分でも自覚したばかりの感情を即座に否定され、カッとなるのがわ かった。その想いを証明するように、彼の首筋へと顔を
うずめる。やや 乱暴に歯を立てると、ジャックは嫌がって暴れだした。しかし、いくら 彼が有能でも、接近戦護身術であるクラブ
マカを修得している人間に抑 えられた状態から逃げられるわけがない。

「トニー、いい加減にしろ! 放せ!」
「嫌です」

 ジャックは先ほどよりも強い光が宿った瞳で僕を睨みつけ、しかし それは僕を煽るものでしかない。何度もキスを落とす僕に、
ジャック は呻きながら瞳を閉じたが、僕の手が衣服にかかるとハッと息を飲んだ。 無理やりに服を剥ぎ素肌に指を滑らせると、
微かに身体を震わせる。 罵詈雑言が飛んでくるかと視線を上げると、そこには虚ろな目で諦観を 浮かべているジャックの顔があった。

「ジャック、やめてください」
「それは俺の台詞だ」
「そんな表情をしないでください」
「誰のせいだと思っているんだ」
「僕のせいですか?」

 ひどい質問だと思いながらそう訪ねると、ジャックの顔が歪む。
 思わず、掴んでいた手を離してその頬に添えた。泣きそうだ、と思ったが、 彼は泣かなかった。彼の腕は自由になったが、
僕を殴ることはなかった。

「お前の、せいじゃない…」
「ジャック…」

 力なく首を振る様子は、帰れと言っているようにも、助けてくれと訴えて いるようにも思えた。力の抜けた身体をソファに横た
えさせると、ジャック がわずかに身を捻った。

「トニー。せめて、灯りを…」
「いいえ。今日のことをあやふやにしたくないんです」

 有無を言わせぬ口調でそう告げると、彼の瞳を見つめたまま愛撫を始めた。 ジャックもまた視線を外さずに、やはり僕を拒絶
するような縋るような色を 湛えている。しかし次第に潤み、切ない吐息がその口から漏れ始めると、顔 を背けてしまった。もとよ
りジャックの肌に溺れていた僕は、彼の伏せられ た睫毛が落とす影にさえ熱を高められてしまう。

「ジャック…」
「んっ、ぁあ…ぅ」

 彼の先走りを指にからめ後ろに潜りこませると、ジャックは苦しそうに 眉根を寄せた。そこはあまりに狭く、きつかった。
 どうしようかと逡巡して いると、ジャックの手が僕の腕を掴み、その強さにビクリと驚く。

「ジャック?」
「いい、から…もう、」

 こい、と声には出さず囁かれる。
 彼が痛みを望んでいることはわかったけれど、かといって断るほど僕に も余裕はない。強姦されているというのに、主導権は彼
が握っている ようだった。僕の指を飲み込んだ場所は熱く、慣れない異物に時おり痙攣 して僕を誘う。

 指を引き抜き、既に屹立している自身を宛がう。

 「――――っ!」

 押し入った瞬間、ジャックは声にならない悲鳴を上げた。
 目じりからポロリと涙が零れ、頬を伝う。

 じっとりと汗ばむ彼の身体を抱きしめて。
 この先何があっても彼の傍を離れまい、と僕は誓った。




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2005.11.18
トニー、無自覚から、信念の篭ったストーカーへの変態を遂げるの巻。
もともとエチは書く予定なかったのですが…(だから中途半端に)








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