『HIGH-JACK 番外編』
夏目郁南さんより17000




 ジャック・バウアーは不機嫌だった。
 事態は鎮圧したものの、お上は報告書が大好きだ。それを作成するには、 今回の事件の重要参考人の調書を取る必要が
あった。病院に運び込まれた クルーズは使えないので、ジャック・ハリスをCTUに連れて行かなけれ ばならない。

「構わないよ。今日はもう仕事にならないだろうし、TCがいれば僕1人 いなくても大丈夫だ」
「いや、そっちの都合じゃなくてだな…俺は正直、アンタにCTUに来て 欲しくない。頼むから目立たずに静かにしていてくれ」

 冷ややかな24ジャックの言葉にGジャックの顔が曇るが、すぐに思い 当たってにこりと笑った。

「職場の人は驚くだろうな。なんなら生き別れの兄弟にしとこうか」
「勘弁してくれ…」

 はは、と笑う暢気なGジャックに、24ジャックは溜息を吐いた。
 確かに他の職員に自分と同じ顔の人間を見せるのは抵抗がある。それも 大人しくて物腰の柔らかい奴だなんて、絶対にか
らかいの種になるに違い ない。それだけじゃない。なんといっても最大の問題はトニーだった。 足の骨を折られても首筋に銃弾
を受けてもジャックを諦めないアタッカーが Gジャックを見たらどうなるのだろう。24ジャックはほとんど親の気持 ちでGジャック
を守ることを誓った。

「ジャック、ヘリの準備ができたそうです」
「よし、じゃあ戻ろう。ミスターハリス」
「ジャックでいいよ。僕も君の事をジャックって呼んでいいかな?」

 そんな無邪気に言わないでくれ…。別の状況だったら自分にも楽しむ余裕 があっただろうか。
 こめかみを押さえる上司兼相棒の隣で、2人を見つめるチェイスはやけに鼻の下が伸びていた。


 次第に注目を集めて静まり返る局内で、案の定話しかけてきたのはトニー だった。

「ジャック、その人は一体…」
「ミスターハリス。フェニックス空港の管制官だ。空いてる部屋は…いや、 俺の部屋で調書を取ろう。邪魔するなよ」

 言葉を挟ませずに一気に言い、Gジャックの腕を引っ張ってチーフルー ムへと上がる。各方面から携帯のシャッターを切る音
がしたのは気のせい ではないだろう。Gジャックが引っ張られながらも「Hi、お邪魔するよ」 などとフレンドリーに手を振ると周囲
から歓声やら口笛やらが上がる。それ に驚きながらも面白がってジャックに笑いかける様子がまた新鮮で、トニー も思わず
「ヒューヒュー」などど言って彼の苦笑を引き出したくなったほど だった。

 ぎらりとジャックに睨まれたものの、チーフルームに2人が消えるとトニー は早速行動を起こした。まずは番人を命じられて扉
の前に忠犬よろしく立って いるチェイスだ。幸い、チーフルームのシャッターは下りていてジャックに 気付かれることはない。
トニーは微笑みながら近寄ると、優しい声音で囁いた。

「チェイス、アンジェラから電話がきたぞ」
「は、アンジェラから? 姉が何か…」
「いや、娘さんからだ。かけてきたのはお姉さんだったけどな。よくは聞き 取れなかったが、確かパパ…とか」
「しゃべったんですかっ!?」

 その瞬間、チェイスは犬から父親の顔へと変貌した。ジャックもかくやと 言わんばかりの娘馬鹿に成り下がり、携帯を握って
廊下へと飛び降りていく。 トニーはほくそ笑んだ。そもそもチェイスの姉からの電話が、クロエを飛ばし てトニーに繋がるわけが
ないというのに。

 トニーは意気揚々と扉を開けた。
 チェイスを信用していたのか、はたまた「彼」に過剰な不信感を与えない ためか鍵はかけられていなかった。
 ジャックがレコーダーを切り、睨みつけてくる。

「…チェイスは」
「彼なら今頃、娘に必死で語りかけてますよ」

 娘、という単語が出ると全ての疑惑がオールグリーンになるジャック は、それでお前はと言うように顎をしゃくった。

「僕も聞いといた方がいいかと思って。なんなら変わりますよ」
「いらない。どうせ報告書を書かなきゃならんし、なら俺が聞いた方が 手っ取り早い」
「手っ取り早いというのなら、僕もそうなんですが」
「なんだって?」
「貴方の杜撰な書類不備の後始末はいつも僕なんですよ。それなら、僕 だって今ここで聞いていた方がいい」

 ジャックの頬に血が上る。ふざけるなと言いたいのだろうが、事実な ので口に出せない、という表情だ。トニーは勝ち誇った
笑みでデスクの 椅子に座った。不承不承、レコーダーを再生しようと手を伸ばしたジャ ックの手は、くすくすと笑い出した「彼」
によって止まった。

「仲がいいんだなぁ、君達は」
「どこをどう見たらそう思うんだ?」
「いや、僕もクルーズとはよく言い合いをするんだが、皆は仲がいいと 言うんだよ。意味がわからなかったが、君達を見てああ
そういうことか と妙に納得してしまった」

 ジャックはぐぅと唸るが、トニーはまんざらでもない顔で頷いている。
 その時がちゃりとドアが開き、コーヒーカップを直に手に持ったクロエ が現れた。

「飲み物を持ってきました」
「ああ、ありがとう」
「「君が!?」」

 驚愕の声を上げたジャックとトニーに構わず、クロエは何故かGジャッ クの前にだけコーヒーカップを置いた。彼女の胸元の
ブローチからは小型 ビデオレンズの光がきらめいている。トニーはすかさず視線を送って取引 を成立させた。24ジャックもクロ
エに視線を送ったのだが、こちらは無 視された。

 クロエは正面を向いたまま数歩下がり、2人のジャックがレンズに映 る位置に数秒立ち止まった後、満足した顔で立ち去った。
傍目にも動きの 怪しいクロエに、Gジャックも不可解な表情を浮かべている。

「えーと…聴取の続きだが…」

 とりあえず早く済まそうと気を取り直した24ジャックだったが、そう 言った途端、内線音が鳴り響く。低く毒づいて受話器を
取ると、興奮した チェイスからだった。

「なんだ邪魔するな!」
『ジャック! 赤ん坊の「だぁ」というのは「ダディ」を指しているんだ と思いますか!?』
「はぁ〜? んなもん、もちろんダディに決まってるだろ」
『やっぱり! でも赤ん坊がいきなり「ダディ」て言いますかね。キムが 最初に貴方を呼んだ時はダディでしたかパパでしたか?』
「あぁそれはだな…おいちょっと待ってろ、そっちに行くから」

 キムの幼いころを思い出して恍惚となった24ジャックは、Gジャックを 守るという自らの誓いをすっぱり忘れてしまった。
 トニーに「じゃあ後は頼む」とだけ言い残し、デスクからキムファイルを 取り出していそいそと部屋を出て行く。

「え、ちょ、ジャック!?」
「まあまあ。彼はいつもあんなんですよ。後は僕がやりますから」
「そ、そうか…。よろしく、ジャック・ハリスだ」
「トニー・アルメイダ。驚いたな、名前も同じなんだ」
「そうなんだ。僕も最初はびっくりしたよ」

 意外と適応力が高いのか、リラックスした様子でGジャックはソファに 深く背を預けた。24ジャックとはまた異なる魅力の
彼に、トニーは密かに 喉を鳴らした。椅子から立ち上がり、ゆっくりと彼の隣に腰を下ろす。

「不思議だな…声を荒げていないジャックだなんて」
「ああ、現場での彼の迫力はすごかったよ」
「それだけじゃない、僕はいつも彼に虐げられているんです」
「冗談だろう?」

 ジャックは笑いながらも、緊張し始めていた。
 トニーは何故か低音で囁くように語りかけてくるのだ。それも、じりじり と近づいてきている。

「冗談じゃありません。罵詈雑言はもちろん、殴る蹴るも日常茶飯事です」
「彼が? 信じられないな…。と、ところで、ミスターアルメイダ…」
「トニーと呼んでくれて結構です」
「トニー…」

 にじり寄る彼に困惑した顔でジャックが名を呼び、トニーは最高級の笑み を浮かべて更に追い詰めた。
 ジャックの肩に腕を回し、もう片手は腰へと添える。

「その、トニー、聴取は…」
「教えてあげましょうか? 僕がジャックに虐げられている理由」
「え、んぅ…!」

 答える間もなく唇を塞がれた。
 咄嗟に押しのけようともがくがトニーはびくともしない。ぬるり、と柔ら かい舌が侵入してくる。ソファに乗り上げたトニーの膝が
ジャックの股間を 圧迫し、背筋に走る痺れにジャックは熱い息を漏らして身体を震わせた。

「ん、んっ…!」
「ジャック…あぁジャック…」
「ち、がうだろっ、僕は君のジャックじゃない!」
「黙って」
「あ、やめっ」

 必死の叫びもむなしくソファに押し倒されてしまう。せわしなくトニーの 手が全身を撫で回し、濡れた舌が首筋を這う。
 ジャックが混乱と焦燥のなかで瞳を閉じた時、救いは現れた。トニーの携帯 が鳴ったのだ。

「チッ…」

 盛大な舌打ちを鳴らしてトニーが携帯を耳に当てる。
 仕事を忘れないところはさすがだが、ジャックはまだ彼の全身で拘束されていた。

「アルメイダ」
『トニー』
「ミシェル!」

 相手が誰だかわかった途端、トニーはジャックから数mは飛びのいた。

『トニー? 国防総省から電話がきてるんだけど、ジャックが使い物に ならないのよ。出てくれないかしら』
「あぁ…なんだ」
『どうかした?』
「いや何も! すぐに出るよ、何番だ?」
『外線の6番よ』

 いったん携帯を切ると、トニーは名残惜しそうにGジャックを見つめた。 こんな機会は二度とないだろう。
 使い物にならない、と諦めてもらえる24ジャックが羨ましかった。

「ジャック…もし良かったら、今度どこかで食事でも」
「断る!! 僕にも殴られたいのか!?」

 何の訓練も受けていない一般人の彼がトニーに危害を加えられるわけがない。
 ジャックの虚勢にトニーは微笑み、そっと部屋を出て行った。

 1人になったジャックは、微かに息を喘がせながら身体を起こした。
 服装を整え、CTUは変人ばかりだと愚痴をこぼす。さすがにうんざりしていた。

「ジャック、まだ終わらないのか。それに事情聴取を取るのに何故シャッ ターを下ろす必要が――」

 ノックもせずに入ってきた人物が案の定目を瞠る。
 だが彼の身なりや入ってきた態度からそれなりの上の人物だと判断した ジャックは、すっくと立って彼に歩み寄り握手
を求めた。

「はじめまして。フェニックス航空管制官のジャック・ハリスです」
「ああ…じゃあ君が、重要参考人なのか」
「はい。ですがミスターバウアーもミスターアルメイダも用事が出来てしま ったらしく」
「用事…バウアーはそのようには見えなかったがな。アルメイダにしても、 私がいるのを差し置いて国防総省からの電話
に出るし…」
「失礼ですが、貴方は?」
「ライアン・シャペル。ここの本部長だ」

 あまりの影の薄さにミシェルに認知してもらえなかったシャペルは、 ジャックに嫌味を言って憂さを晴らすためにここへ
来たのだった。

「じゃあ君は彼らが戻るまで待ちぼうけか?」
「そのようですが、怪我を負った友人を一刻も早く見舞いたいのです。 聴取には誰か別の人を宛がってくれませんか?」

 時間を無駄にしたくないという意見はシャペルの気に入った。その理由が 友人のためというのも、意外に温かな彼のハート
を打った。見た目はジャッ クなのに敬語で話す様子も好ましい。シャペルは彼にソファに座るよう身 振りで示すと、自らは向か
いのソファに座った。

「では、私がやろう。君を他の捜査官に預けるのは危険だ」
「危険? あの…ジャックは、いやトニーは…」
「忘れてくれ、あれはCTUの恥だ」

 きらりと光るシャペルの目元の雫に、ジャックは深く同情した。特殊な 機関で働く面々を纏め上げるのは並ならぬ苦労だろう。
それが、あんなに 個性的な面々がいるんじゃ倍増どころではないに違いない。

「…大変ですね。僕で良ければ、何でも話して下さい」
「いや、国家機密に関わるからそれはできかねる。だが…ありがとう」

 シャペルは優しく微笑んだ。


 ジャック達がチーフルームへ戻ってきた時、Gジャックは既に帰った 後だった。シャペルからこってり説教をくらいながらも、彼の
表情が常 より穏やかなことに三人は首を傾げた。シャペルの手には、Gジャック とメルアドを交換した携帯が宝物のように握られ
ていたのだが、三人は それを知る由もない。




--------------------------
2006.10.10
ハイジャックが萌えなしっぽいので、
番外編という形で先にリクを書かせていただきました。








PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル