『one morning』




 やあ、諸君。
 私の名はアラミス。もちろん本名ではない。だが大切なのは上辺では なく本質で、その点で私に
問題はない。ルックスも頭脳も剣技も申し分 なく、心は神の貞淑な僕だ。貞淑といってもそれは信
仰の尺度であって、 私は人を愛することにも長けている。神も言っておられるではないか、 「汝、隣
人を愛せよ」と。そのお言葉を胸に、主に貴婦人相手に励んで きた私だが、ついに1人の人物にだ
け想いを寄せる日々がやってきた。

 その幸運な相手とは…いや、幸運なのは私だ。
 なにせ、私も叶うとは思わなかった恋だった。相手は全ての面におい て私に勝り、その優美かつ
控えめな物腰はどんな人物をも魅了した。 唯一難点があるとすれば頑固すぎるほどに実直なその
性格だ。互いの 想いを確認し合った後でさえも、口付けすらなかなか許してもらえなか った。私が
抱き締めキスを求めると、顔を赤らめ眉を顰めてこう言うのだ。

『アラミス、私達は男同士だぞ? こんなことは…必要ない』

 そう、私の恋人は男だ。
 だがそれがどうした? 悩ましげに寄せられた柳眉や上気した頬に ウットリと見入っている私には、
遠慮がちな拒絶の言葉すら極上の詩歌 に聞こえる。心が私を拒絶しているわけではないと知ってい
れば尚更だ。

『必要ないだって? 私はこんなにも君を求めているのに…』

 そう言うと彼は更に顔を赤く染めて困った顔をする。それがなんとも 言えず愛らしく、つい額に軽い
キスだけで解放してしまうのだ。だが私 も男だ。愛しい人が腕の中にいるというのに、いつまでも我慢
できるも のではない。

『というわけで、今日こそは君をもらう』
『ア、アラミス…!』

 半ば強引に、戸惑う彼をベッドへ優しく横たえさせたのは昨夜のことだ。 そして、夜が明けた。
 どういうことか、賢明な諸君ならおわかりのことと 思う。おお神よ! 怯えが信頼に解け、羞恥が愛
に解け、緊張が快楽に解け ていくその姿の、なんと神々しく美しいことか! そして今も彼は、その身
を無防備にシーツに沈ませている。私の心は喜びに震えるばかりで、時が 止まるものならこのまま
ずっと彼の寝顔を見ていてもいいくらいだった。 だが私達は互い以外に、フランス国家にも身を捧げ
ている。

「おい、起きてくれ…そろそろ行かなくては」
「ん…アラミス? ああ…もうそんな時間か」
「すまない、昨日は無理をさせた」

 心からそう詫びたのだが、私の顔は笑っていたことだろう。
 彼は少し呆れ た表情をし、次いで微笑んだ。それは本当に満ち足りた笑顔で、彼をよく 知る私でも
初めて見るものだった。一気に有頂天になって抱き締めると、 これもまた驚かされたのだが彼は軽く
キスをくれた。

「…わお」
「私がお前にキスをするのはおかしいのか?」

 クスクスと笑いながらしゃんとした身のこなしで起き上がり、服を着け 始める。さすが銃士といったと
ころか。だがやはり動きにいつもの機敏さ はなく、影めいた疲れを目の下に残している。

 …少し心配だ。彼の 体調もそうだが、周囲の目の方だ。彼の気だるげな様子は、少なくとも私 には
「倦怠」というより「艶美」に映る。少し赤く腫れている目元だとか、 吐く息の甘さだとか。そして何より、
私を見る目、が。その、笑顔、が。 全身から、無意識にフェロモンを発散させている。

「…まずい、バレるな、これは」
「ん?」

 なんでもない、と手を振る。
 他の銃士にバレるのはどうとも思わない。彼に心酔している輩は多いの で私は不興を買うだろうが、
それは愛を勝ち取った男の勲章というものだ。 むしろ自慢して回りたいくらいである。ダルタニアンは
ショックを受ける だろうが、あの青年の場合、恋というよりも崇拝に近いので問題はないだ ろう。相思
相愛とわかれば黙って見守っていてくれるはずだ。ポルトスは 私に先を越されたことを悔しがるだろう。
猛然と彼に襲い掛かるかもしれ ないが、そういったアプローチをしているから駄目なんだ。一部の女
性は 野性味溢れる求愛にウットリするかもしれないが、彼はそうはいかない。 いつもその小柄な身体
に投げ飛ばされているというのに、ポルトスは学習 という言葉を知らないようだ。

 では、何が問題なのかというと。
 もっと身分が上の者にバレることだ。今の彼には誰もが魅了されるだ ろう。誰もがその肌に触れ、
その眼差しを受けてみたいと思うに違いない。 私の不安は杞憂だろうか? だが人当たりの良い
彼に貴族からの誘いが来る ことはしょっちゅうで、その中に不埒な目的の者がいないとも限らない。
清楚で厳格な雰囲気を纏っている彼が「男」を知ったとわかれば、今までは 遠慮していた奴らが我も
と思ったとしてもおかしくはない。いっそ全ての誘 いを断れと言えれば楽だが、一介の銃士にそれは
無理というものだ。救いは、 万一危険な状況になったとしても、彼なら上手く乗り切れるだろうという
こ とだ。だが…考えたくもないが、もし…。

「アラミス、どうした? 早く準備をしないか」
「ああ…そうだな」

 注意を促しておいた方がいいのだろうか?
 だがそれで返って意識され ても困る。にじみ出る色気の対処の仕様はないからな。まだ無自覚
の方が 相手をはぐらかせることができるだろう。

 そんなわけで、私の苦悩はしばらく続きそうだ。
 だがそれも手に入れた幸せを思えば些細なものだろう。
 そうとも、私達は晴れて心身ともに恋人になったのだ!

 それでは…父と子と精霊の御名において、アーメン!
 フランス国王陛下並びに女王陛下、万歳!




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2006.10.16
アラミスがアホっぽくなりすぎた…
でも某N氏に「奴は格好良すぎると鼻につくから」と
慰められたので良しときます。








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