「待ってる」
そう言って彼は車で走り去っていった。
だいぶ顔色も良くなっていたようだ。
あの笑顔がまぶしかった。
俺は彼が泊まっているというモーテルの前に着いた。中に入って受け付けに歩み寄ると思ったより
悪くない感じの宿だ。あの時必要に駆られて泊まった所とは雲泥の差だった。なんといってもエレベー
ターが動く。彼の泊まっているルームナンバーを聞こうとしたらそのエレベーターからやってきたのだ。
「ハンク!来てくれたのか」
邪気の無い笑顔で彼が小走りにやって来た。思わず自分の頬も緩むのがわかる。
「ああ、バスター。来たぞ」
「なんだ、そっけないな」
そういって彼は小さく俺を小突いた。
「俺はいつもこんなものだ。バスター、傷はもう良いのか?」
近くで見るとなんとなく彼が少し、ほんの少し痩せたような気がしたから思わずあの時受けた銃弾の
事を思い出してしまった。
「ああ、だいぶ良いんだ。見せようか?俺の部屋に来る?」
「そうする」
連れ立ってバスターが借りている部屋に入るとシンプルな内装の割には日当たりが良くて感じの良い
スペースだった。コレならゆっくり休めるなと思う。バスターはベットに座るとおもむろにシャツをパンツか
ら出してめくり上げた。
「ほら、ここ。見ろよ、結構きれいになおっているだろ?」
「ああ」
正面に回ると俺はさらされた傷跡にそっと手を這わせてみた。白い腹部にまだ赤黒く引きつれが残る
撃たれた痕。だが、既にそこはふさがり、血は流していない。あの時は顔にこそ出さなかったが、どうし
ようかと思ったものだ。
「ちょっと痩せたか?」
「ん、少しな。でも、筋肉が落ちただけだ、休んでいたから。こら、ハンク、くすぐったい!」
ハハハ、とシャツをめくり上げたまま腹をよじってバスターが笑う。
「痕が残ってしまったな」
「仕方がない。でもあの時お前に合わなけりゃ俺は死んでいたと思うし、感謝してもし足りないよ」
俺の手はまだ彼の傷跡の上を撫でていた。
ふと顔を上げるとバスターと真正面に向き合っていた。その青い目に吸い込まれるように俺は唇を彼
に寄せる。
「・・・んっ」
彼の口髭が当たる感触が新鮮だった。軽く合わせた唇を離すと僅かに彼の体が震えていた。
「お前・・・なんてことするんだよっ」
ショックだったのか、シャツをめくり上げたままの格好で真っ赤になりながらバスターは抗議の言葉を
俺に吐いた。
「なんとなくしたくなった」
「なんとなくってなんだよ!俺は女じゃないんだぞ!」
「知ってる。バスターだからしたくなった」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした後、先程よりもっと頭に血が上ったのか、耳まで赤くなったバ
スターはうろたえ始める。その様子を見て俺は自分の気持ちがはっきりとした形を作るのがわかったのだ。
「バスターだからキスしたい。体にも触りたい、そう言ったら気持ちが悪いか?」
その言葉を聞いて彼は一瞬ぽかん、とした顔をしたが、俺の顔を見つめてこう言った。
「いや・・・びっくりしたけど本当は嬉しい」
そして今まで捲り上げていた事にやっと気がついたのか慌ててシャツを下ろすとその両手を俺の首に
かけて耳元に囁く。
「ハンク・・・好きだ」
後は成り行き任せだった。彼の頭をかき抱き、さっきとは違う深いキスをしながらベットに倒れ込む。
バスターが見せるためシャツのボタンをはずしていた所から手を入れて傷跡から周りを撫でていくと震え
が断続的に走った。
「・・・はぁ・・」
涙目になった彼の目じりにもう一度キスを落としてシャツをはだける。やわらかい胸毛の中に彼の飾り
が主張しているのが見えた。左を軽く口に含むと抗議の声が上がる。
「そんなトコ・・っ」
「感じる?」
「ん・・・な・・事なッ・・ああっ!」
右にも同じように摘んで弄ってやると面白いくらい反応した彼の手は必死にシーツをつかんでいる。
もう一度キスをするとシーツのしわが深くなった。
首筋からキスを繰り返して十分胸を弄った後、くたりと力の抜けたバスターの体は彼自身のだけが
力強く上を向いていた。先端からは先走りが溢れ、それを握った俺の手をぬらす。俺自身もそうなのだろう。
「あっ・・・はっ、ぁん・・」
バスターの声が一段と甘くなる。握った手を上下に動かし、彼をもっと育て、先端に軽く爪を立てて
やりながら扱くスピードを上げるていった時。
「あっ、あ―――!!」
彼の欲望は俺の手の中に溢れていた。
結局、俺はバスターの部屋に無断で泊まってしまった。本来ならば狭いシングルベッドに大の男が
二人寝ているととても窮屈なのだが、今の俺にとってはその窮屈さが嬉しかった。無理をさせたはず
の彼は俺の胸にすがりつくようにして熟睡している。あの沢山の表情がある青い目が見られないの
は残念だと思うが、金色の長い睫が影を落としている白い顔を見ていると彼と出会えた事がただの
偶然ではなかったと感じた。
彼に逢った時は銃で撃たれて酷い有様だった。腹から血を流し、全身が青ざめ、力が抜けた体を
抱え上げて階段を上ろう、とした時、あのモーテルにいた客が言った言葉を思い出した。
「ハネムーンだってさ」
今やっと、その言葉の意味がわかったような気がする。