PEACH!




 いつだって俺は余裕がなくて。

 あの人の願いなら何でも叶えてあげたいというのに、甘やかされる ことが苦手な彼はなかなか
それを許してくれない。

 だから、こんな些細な我侭でも、俺はとても嬉しくなるんだ。
 わかるかな?

「何をニヤニヤしている」

 ぶっきらぼうに言いながら、ジャックが近寄ってきた。
 渡されたコートを羽織ながら、俺はやっぱり頬が緩んでしまう。

「いいえ、別に。じゃ、行ってきますね。暖かくして待っていて下さい」
「別に僕は風邪なんか引いてない」

 ジャックの反論に、俺はハイハイと返事をして外へ出た。

 彼の声はもともと、少し掠れていてハスキーだ。
 でも今日は喉に引っかかったようなぎこちなさがあった。
 まだ風邪を引いてなくても、用心するに越したことはない。

 そう主張して、ドライブをやめて部屋の暖房を入れた俺に、ジャックは 戸惑った顔をした。
 いつも誰かを守る立場だったから、自分が優しくされることに慣れていないのだ。

 予定を変更させてしまったことへの謝罪と、お前は大げさなんだという 文句を口の中でモゴモゴと
転がしていたけれど、俺が半ばウキウキと世話 を焼きたがるものだから、段々と渋い顔になっていった。

 そして、こうのたまったのだ。

「チェイス。桃が食べたい。桃缶買って来い」
「は、モモカン…ですか?」

 ジャックが言うには、キムが小さい頃、風邪を引いたら桃を食べさせて いたらしい。シロップ漬けの、
甘くて柔らかい桃なので、食欲がない時で もそれなら食べたそうだ。

「別に僕は風邪じゃないがな。お前がそんなに何かしたいのなら、今すぐ 行ってこい。
白桃じゃ駄目だぞ、黄桃だ」

 あのジャック・バウアーに桃缶?

 たぶんジャックはウンザリした気持ちを表したかったんだろうけど、そ んなの逆効果だ。俺は、すぐ
に行ってきます、と返事をしたわけだ。

 スーパーには、2、3種類の缶詰があった。
 どれがバウアー家御用達かわからなかったので、全て買うことにした。

 急いで部屋に戻ると、ジャックは呆れた顔で俺を出迎えた。
 寒さで冷たくなった俺の手を握り締め、少し笑った。

「Thanks,boy」
「My presure」

 思わず彼を抱き締めようとしたけれど、その前にジャックはするりと 身を翻してしまう。
 いつの間にやら、桃缶の一つを手に持って。

「手を洗ってうがいしてこい、チェイス」
「…Yes,sir」

 うがいだなんていつ以来だろう?
 とにかく言いつけられたことを遂行してキッチンへ戻ると、ジャック が缶詰を開けているところだった。
キコキコとリズミカルな音が響く。

「本当に食べるんですか?」
「それ以外、どうするっていうんだ」
「いえ…おいしいんですか」
「まあまあだ」

 機嫌がいいようだ。
 案外、キムじゃなくジャックの好物だったのかもしれない。

 キ、と蓋が持ち上げられて、艶やかなオレンジ色の桃が現れた。
 あまり食べた記憶のない俺でも、つい唾を飲み込むほどだ。

「チェイス、フォークを出してくれ」

 缶から直接食べるつもりらしい。
 ニッコリして差し出された彼の手から、甘い香りが漂ってくる。開ける 時にシロップがついたのだろう、
指先が濡れて光っていた。

「ジャック、俺にも味見を」
「え?」

 ジャックの手首を取り、顔を寄せる。
 ちゅ、と指を口に含むと、彼が息を飲む気配がした。

「本当だ。甘くて、おいしい」
「チェイスっ」
「いい匂いをしているのが悪いんですよ」

 いつもの彼ならば、赤くなって顔を逸らすところだ。
 けれど予想と違って、ジャックはニヤリと笑った。

「お前もな」

 そう言って。
 かぷりと、唇に噛み付かれた。




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2005.12.12
味見ってチェイス、桃のカケラも食べてないよ。
あ、あ、精密機械に砂を吐くのはやめてください!









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