Pretty Face




 最近、酒場でよく見かける男がいる。
 その男をドクが気に入っているようで、ディックはこのところ機嫌が悪かった。

「なんであいつに構う?」
「だって、お前に似てるじゃないか」
「どこがだ? 全然似ていないぞ…」

 赤毛に青い瞳の容姿は黒髪黒目のディックと似ている部分などない。年齢は自分達と同じか、
少し上。日に焼けた顔、砂と埃に汚れた身なりはこの辺りでは珍しくもないが、いずれにせよこん
な吹き溜まりに流れてくるくらいだ、ろくな奴ではないに決まっている。素行は悪くなさそうだがい
つも一人で黙々と飲んでいる。働いている様子はないのでいずれはこの土地から出て行くのだろ
うその男を、ドクが何故だか構うのだ。それだけでディックにとってこの流れ者は要注意人物だった。

 といっても、彼らの間に何があるわけでもない。酒場で会うたびに話しかけるドクに対して、相手
は終始無言なのだ。最近は根負けしたのか、相槌くらいは打つようになった。せめて疎ましく思っ
てくれれば引き離すこともできるのに、むっつりと押し黙っているだけで拒否する様子はない。今日
など、店に入ってきたドクを目で探す素振りさえ見せた。

「やあ、また会ったな」

 ドクが笑顔を見せて、当たり前のように男のいる席に向かう。
 渋々とその後に続きながら、ディックの機嫌は一気に下降した。

(――気に食わない)

 眦はきりきりと上がり、そうでなくとも固い口は更に寡黙になる。だが普段からの無表情のせい
で、男にもドクにも気付かれることはなかった。それが少し癪で、ディックは飲み干したグラスを
乱暴に机に置いた。ドン、という音に、ドクがきょとんとディックを見遣る。そしてふと笑みを浮か
べると男に向き直った。

「なあ、なんでいつも不機嫌なんだ?」

 あまりに唐突な質問に、男ばかりでなくディックも虚を突かれた顔になる。そんな2人に構わず、
ドクはのほほんとした様子でディックを指差した。

「こいつもそうなんだ。出会った時からこんな顔でさ。なんでいつも怒ってるのか不思議だった」
「…これは地顔だ」

 思わず口を挟みながら、ディックは自分とこの男が似ていると言われた理由が少しわかった気
がした。何度も言われたものだ、「もっと楽しそうな顔をすればいいのに」と。妙なお節介を焼くの
はやめてほしい。口下手で堅物な男は、ドクのような優しい人間に弱いのだから。

「ディックの仏頂面が地顔なのは、長い付き合いだから知ってるさ。あんたは?」

 無邪気に尋ねられ、案の定、相手の重い口が開く。

「…怒った顔の方がクールだろ」

 前言撤回。
 やはりこいつと俺とは全く似ていない。むしろドクがまだ似ていると思っていたら少しショックだ。
そんなくだらない理由、チャーリーやスティーブなら大笑いするに違いない。

 ディックは眉根を寄せて小さくため息を吐いた。
 ドクはといえば、男の発言に特に呆れた様子もなく淡く微笑んだままだ。

「笑った方がクールだぜ」

 そんな可愛い顔で言われても説得力はない。

「なんでカワイクしなきゃいけないんだ」
「誰が可愛く笑えっつった」

(だってアンタ、カワイイんだよ!)

 唇を尖らせるドクに、ディックは男の心の声を聞いた気がした。と同時に、これ以上我慢できな
くなる。ドクの腕を取るとやや強引に立ち上がらせた。

「ディック?」
「もういいだろ、ドク。あまり人に構うのはよせ」
「どうして? だって、こいつの笑顔、見てみたくないか?」
「全然」

 ドクの邪気のなさは、出会った頃から変わらない。自分の魅力が相手の心をどれほどほぐして
しまうのか、少しは自覚してほしいものだ。それを理解させるためにも、そして男にドクへの好意
をこれ以上抱かせないためにも、今こそ行動すべき時だとディックは思った。

 酒場の喧騒にまぎれて、素早くキスを仕掛ける。目の前に座る男にしか見えないように。男は
喉を引きつらせてディックを見上げてきた。

(これは、俺のなんだよ)

 独占欲丸出しの本音に、我ながら苦笑を禁じえない。

「ディッ…何するんだ!」
「他の男に構うと、俺はもっと仏頂面になってしまうぞ」

 赤い顔で睨みつけてきたドクが、一瞬目を瞠ると小さく噴出した。やはり俺は口が下手だと、
ディックは後悔しつつもドクの腕を引いて席を離れる。

「待てよディック、まだ挨拶が…あー、じゃあまたな」
「次はないぞ」

 そう言いつつ振り返ると、男は全然クールじゃない顔で肩を落としていた。
 もしかして生まれる直前だった恋心を潰してしまったのだろうか。それならばしめたものだ。

 ディックは満足して店を出ると、まだぶつぶつと文句を言ったり笑ったりしているドクの腰を抱い
て店の脇に寄り、暗闇で深いキスをした。






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2007.6.8
久しぶりに若銃の夫婦をば。
もっとドギツイ話を読んでみたいものです。
誰か書いてください…















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