黎明の空
クワイ=ガン・ジン編




「アナキン・スカイウォーカー、こっちはオビ=ワン・ケノービだ」

 途端、オビ=ワンのうんざりした視線とフォースがぶつかってきた。
 幼い少年にあたるわけにもいかず、しぶしぶと握手に応えてはいたが、 フォースは正直だ(あ、視線
もか。いいのかヤングジェダイ)

(信用がないな、私は)

 そりゃー、続けてナマモノを拾ってきたが。
 最初の拾い物ジャージャーは未だに役に立っていないが。
 もう少し、マスターのすることに寛容であってもいいと思うぞ?

 パダワンの不満を無視していると、彼の関心はアニーへと移った。
 どうも、変なおじさんに連れ出された、愛らしい少年に同情しているらしい。

(失敬な! これはフォースの導きであって、アニーがジェダイになることは 必然なのだ)

 第一、アニーは可愛い容貌ではあるが、決して幼く無垢なわけではない。一人 で生きるだけの強さも、
賢さも、ついでに狡さも兼ね備えている。

(アニーの、お前に気に入られようとする心が読めないのか、マイパダワン?  どうもお前は既存概念
に捕らわれるところがあるな)

 オビ=ワンは、テンプルの子供達が清廉潔白で、故に子供とは純真な生き物 だと信じているようだ。
とんでもない。彼らは幼いぶん愚かな感情にも通じや すい。それに、「テンプルの子供達」の成れの果
てを見てみろ。評議会のメン バーが「純真」ってガラか? メイスなんて俗世間に染まりきっているぞ。

 自分のことは棚に上げて、はき違ったことを考えるクワイ=ガン。
 しかし、さすがジェダイナイト、アニーの心の変化に気がついた。

(ハッ、アニーがオビ=ワンを見つめて…いや、見惚れている!)

 どうやら彼は、パダワンの色彩豊かな瞳に惹かれたようだ。
 それは少年もまだ自覚していない感情だったが、クワイ=ガンにはわかった。
 幼い恋心は微笑ましいものだ、が――

(父は許さ―ん!)

 少年がオビ=ワンの瞳にうっとりしているのを妨げようと、クワイ=ガンは 大きく咳払いをした。

(別に恋愛やら同性愛やらを厭う気はないが、ガキのくせにマイパダワンに 惚れるとは目が高…じゃ
なく生意気な!)

 外道ジェダイの見本みたいなクワイ=ガンであった。
 オビ=ワンは一瞬アニーを見返すと、慌ててコクピットへと戻っていく。 灰色フォースを纏ったパダ
ワンと、その後を追うアニー。少年はなぜか意気揚々 と上半身ストレッチをしている。

(あ…。お前ら、私を迎えに来たんじゃなかったのか?)

 一人取り残された老年ジェダイであった。

―――――

「この子は私が修行します!」

 あっちゃー、言っちゃったよ、オイ。
 もともとリビングフォースに突っ走ることが売りのクワイ=ガンは、勢い で言ってしまってから後悔
した。間違った発言だったとは思わない。アニー の運命は絶対で、誰も受け入れないのなら自分が
育てるだけのことだ。

 それでも咄嗟にしまったと思ったのは、クワイ=ガンがそう言った直後、 パダワンのフォースが背
中に突き刺さってきたからだ。

(お、おい、私は別に…聞いてるか、パダワン?)

 師弟の絆を使って密かに思念を送ったが、冷たく拒否された。

(まいったなぁ…。そんなに怒らなくてもいいだろうに。ま、そのうち機嫌 も直るだろ)

 自分から謝ろうとは、タトゥイーンの砂漠の砂粒ほども思わないクワイ= ガンであった。

―――――

 十数年という歳月が裏付けする予測の結果、オビ=ワンは素直に謝りに来た。
 もちろん、クワイ=ガンは微笑んでパダワンを許した。彼は、頑固で融通が 利かなくて口やかまし
いところがあるが、誰よりマスターを尊敬し理解しよう とする、優秀なパダワンだ。

(こいつなら、立派なジェダイナイトになるだろう)

 彼らはお互いの愛情を確認し合うと、手を握ってこの戦いの行方を祈った。

―――――

「マスター――――!!」

 オビ=ワンの叫び声が響いた。
 冷たい床に倒れ、その衝撃に激痛が走る。

(あ〜、痛ってぇー…。ジェダイって、致命傷負ったらフォースに還るんじゃ なかったのか? 死ぬま
では駄目なのか?)

 もしや、今までの行いが悪かったからでは、と、長い人生を思い返してみる。

 オビ=ワンの前にとったパダワンは、ダークサイドに行ってしまったな。 そのせいで軽いパダワン
不信になり、オビ=ワンにはだいぶ辛く当たった ものだ。

 そうそう、ある惑星の「ペ○ちゃん人形」なるものをつい持ち帰ってしまっ た時のオビ=ワンは怖
かった…。いや、あれは探究心だったのだ。顔の骨格が、 マスターヨーダに良く似ていて…。

「マスター!」

 パダワンが傍らにひざまずいた。
 クワイ=ガンが走馬灯を駆け巡らせている間に、シスを倒したらしい。

 素晴らしいぞ、マイパダワン。
 これで評議会も、お前をナイトにすることに異議はないだろう。だが、私は お前の晴れ姿を見るこ
とはできそうにない。

「オビ=ワン…私はもうだめだ」

 そう告げると、パダワンは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。

(お前は…常に冷静なジェダイたらんとしていたが、本当は私よりも感情的 なのだったな…)

 激しい感情はジェダイにとって危険なものだが、クワイ=ガンはオビ=ワン の悲しみを嬉しく思った。

(まるで殉死しそうな嘆きようだな…って、マジ後追い自殺されたら洒落に なんねぇ!)

 まさかそこまで愚かではないだろうが、オビ=ワンが時折見せる激情は クワイ=ガンにも予測でき
なかった。しかもパダワンの心は、自分自身に 対する憤りや恐怖、不安に怯えていた。シスに影響
されて、ダークサイド でも垣間見たのだろうか。

(大丈夫だ、マイパダワン。お前はライトフォースから離れはせんよ)

 そうだ、パダワンにアナキンを託そう。
 あの少年の運命を成就させるために。
 お前が正しくジェダイに留まるために、生きる理由と義務を与えよう。

「オビ=ワン…アニーは、選ばれし者だ。あの子をジェダイにすると約束 してくれ」
「イエス、マスター」

 即答したパダワンに苦笑する。

(老いた者は死に、若き者に運命の子が託される。これもフォースの導き なのかもしれないな)

 今はクワイ=ガンの言葉に縛られていても、いつかオビ=ワンにも、これ が自分の運命なのだと
悟る日がくるだろう。

 充足感に包まれて、クワイ=ガンは目を閉じた。

―――――

 次に意識が浮上した時、クワイ=ガンはふよふよと空中を漂っていた。
 その下では、彼の身体が炎に包まれている。

(お〜、これがフォースと融合した状態か。それにしても…)

 思うように動けない。
 肉体という容器がないせいで、フォースに集中しにくいのだ。今も、気を 抜けば意識が拡散して
しまいそうだ。

(死ぬ間際は余裕がなかったからな。せっかくマイパダワンと話せるかと 思ったのに)

 この状態に慣れるまでにはだいぶ時間がかかりそうだ。
 ちっ、と舌打ちして、クワイ=ガンはオビ=ワンを見つめた。
 しつこく暗い思いに捕らわれている彼を、ふわ、とライトフォースが慰めた。

(なっ!?)

 フォース体になっているクワイ=ガンは、生前よりも感覚が鋭くなっていた。 フォースの送り主を
ギッと睨みつける。

(あンのハゲ、それは私の役目だ! 余計なことをしおって…)

 更に嫌なフォースを察知して、クワイ=ガンは自分が見出した天才少年に 意識を向ける。

(クワイ=ガン、安心して昇天してね! 僕、きっとオビ=ワンを落とすよ!)

 落とすって何だ、アニ――――!
 そんな子に育てた覚えは…って育ててないか。

 オビ=ワンには例によって、

(クワイ=ガン、心配しないでね。僕、オビ=ワンと仲良くやっていくよ!)

 と健気に翻訳されていた。
 思わず瞳を潤ませるオビ=ワン。

(だ、大丈夫だろうか、マイパダワンは…)

 もしかして、自分はとんでもないものを押し付けてしまったのでは、と今更 ながら焦燥を覚える
クワイ=ガンであった。



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2005.11.30
「速攻詳解・SW EP1」シリーズ終了!
全てはここから始まります――(遅いから)








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