エリア32は、市街地から10マイルほど離れている。
 建物の瓦礫がどこまでも続き、乾いて荒廃した風が吹く。そこに プレストンが血の匂いを感じて
しまうのは、その土地が持つ歴史の せいであった。かつてリブリア政権が成立した際、精神の束
縛に反 発した人々の虐殺が行われたのである。

 プレストンは車を下り、見せしめの処刑台があったという広場へ 出た。事件後、人々にも政府に
も捨てられた場所は忌まわしい遺物 をそのまま残していた。風雨に晒された荒い骨組みが、リブ
リアの、 プレストンの罪を如実に表している。

「神に懺悔する権利もないな…」

 自嘲した笑いを浮かべた時、ふと人の気配を感じてプレストンは 振り向いた。考え事をしていた
とはいえ、元クラリックの感覚を欺 かれたことに驚く。

「な――」
「わぁっ銃は構えないでよ! 物騒だなぁ」
「あんたがジョン? ったく、歩き回るから探したじゃないか」
「それは…すまない」

 誰何を尋ねる前に2人にまくしたてられ、プレストンは毒気を抜かれた。 迎えが2人くるとは聞い
ていなかった。それも、こんなに若い青年とは。

「君たちはミドル・アースの者か?」
「そうだよ。僕はビリー。こいつはドミニク。皆にはドムって呼ばれてる けどね」
「ビリー、そんなことはどうでもいいよ。ジョン、俺たちが乗ってきた車 に乗ってもらう。ミドル・アース
はまだ遠いんだ」
「ああ、わかった…」

 暢気な笑顔とあけすけな口調に警戒心を削がれる思いで、プレストンは 2人の後に続いた。
 彼らの車に乗り込むと、ビリーと名乗った青年が布を手に近寄ってきた。

「気を悪くするだろうけど、着くまでは目隠ししてもらうよ」
「ああ、構わない。それくらい当然だ」

 淡々と言って目を閉じると、布が押し当てられる感触がした。後頭部で きつく縛られる。
 しかしどうにも、瞼の辺りに圧迫感を感じない。

「――ビリー?」

 パシャッ!

 目を開いた途端、カメラの閃光が突き刺さってきてプレストンは呻いた。
 巻かれた布は、目の部分だけくり抜かれていたのだ。

「なっ――!?」
「わぁっ、だからすぐに銃を抜かないでよ!」
「ブワッハッハ、引っかかったー作戦成功!」

 ドムとビリーは手を叩き合って喜んでいる。
 車を発進させた後も、たびたび振り返って見ては笑い転げている。
 プレストンは呆気に取られて黙ったままだ。その沈黙を怒っていると捉え たのか、ビリーがやや
心配そうに覗き込んできた。

「ジョン、その…怒った? でも、プッ…ックック…」
「ヒィ、ヒ…。ビリー、しっかりしろよ。おい、ジョン、これくらいで怒る なよ、大人気ないぜ」

 ようやく、自分はからかわれたわけで、つまりこの布は取ってもいいこと にプレストンは気付いた。
目の部分は星型に切り取られ、しかも縁に金のラメ が貼られていた。

「ひどいセンスだ…」
「最高だろ? 目隠しなんかしないよ。”それくらい当然だ”って、何が当然 なのさ。僕らは敵対して
いるわけじゃない。君は僕らの家に遊びに来た友人だろ?」

 ジョンは驚いて、穏やかな笑みを浮かべるビリーを見つめた。
 フリーダムの使いとはいえ、自分が元クラリックだということは知って いるはずだ。敵対どころでは
ない、遠くない過去には一方的に狩る側と狩 られる側だった。そうでなくても、長年秘密を守ってきた
ミドル・アース の人からの思いもかけない「友人」との言葉に、プレストンは言葉が返せ なかった。

「ジョン? …ほんとに怒った?」
「いや…。ただ、こういうことに慣れていなくて…どう反応したらいいかわからないだけだ」

 心底、戸惑った様子のプレストンに、ドムとビリーは顔を見合わせた。

「これは、思ってもみない展開だな」
「そうだね、ドム。君ならどうする?」
「そんなの、倍返しに決まってるじゃないか。目には目を!」

 そうして、数々の悪戯ネタを話し始める。
 いつしか笑みを零している自分に、プレストンは気付かなかった。




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2006.5.17
ドムとビリーにからかわれる場面が書きたかった。
次回こそは豆氏や藻っさんが登場…するはず。








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