「お前は、私のパダワンであることが不満で、あのような映像を見て私を
嘲笑っているのだろう!」
「なっ、そんなこと…!」
「泣いたからといって、もうだまされないぞ! 怪しげなフォースも視線も、
あれは私を軽蔑して――」
「オビ=ワン!」
もう限界だった。
これ以上、オビ=ワンの思い違いの被害妄想には付き合っていられない。
「マスター、あなたは何もわかっていない。僕が、どういう気持ちであなたを
見ているのかを」
「アナキン…?」
涙で充血した目で睨みつけてくるパダワンに、オビ=ワンは思わずたじろいだ。その隙を逃さず、アナキンはオビ=ワンの
肩を掴むと壁へと押し付ける。その
行動の意味がわからないのか、オビ=ワンは戸惑いの表情で見上げてきた。
「な、何を…」
「教えて差し上げますよ。僕が、どれほどあなたを愛しているかを」
薄く笑ってそう言うと、激しく口付けた。
「うっ…? う…ン!」
虚を突かれたオビ=ワンは、アナキンの侵入をたやすく許してしまう。熱い
塊に口内を荒々しく蹂躙され、息苦しさにうめい
た。反射的に両手で押しのけ
ようとしたが、重圧的なフォースに腕を上げることもできない。
「………ッ!」
舌の先端が口蓋を掠めた時、背中に走った痺れにオビ=ワンの身体が竦んだ。
(ここが感じるんだ?)
からかうような思念がアナキンから伝わってきたが、思考が麻痺して応える
ことができない。
「マスター、もしかしてキスもしたことないんですか?」
オビ=ワンの唇を解放すると、肩を掴む力は緩めずに、アナキンは驚きと
喜びを込めて囁いた。
「お、前は…」
「イエス、マスター。僕はあなたを愛しています。あなたが欲しい。その肌に
触れて、…深く交わりたい」
熱い眼差しでそう告げられ、オビ=ワンは眩暈を起こしそうになった。
今のアナキンの目は、ジェダイの目ではない。
ただの、一人の「男」がオビ=ワンを見つめている。
「なんてことだ…」
呆然と呟くオビ=ワンに構わず、アナキンは白い首筋に唇を落とした。
きめの細かい肌を軽くついばむと、オビ=ワンの抵抗が激しくなった。
「アナキン、やめなさい! 何をしてるのかわかっているのか!」
「もちろん、わかってますよ。あなたを抱くんだ。言ったでしょう、僕の
想いを教えるって」
もがくオビ=ワンを、フォースを使って押さえつけながら乱暴に衣服を
剥いでいく。
「アナキン、やめろ! 私たちはジェダイだ!」
アナキンは動きを止めると、冷めた目でオビ=ワンを見つめた。
「そんなの関係ない。アナキン・スカイウォーカーという一人の人間が、
オビ=ワン・ケノービという一人の人間を愛してるだけだ」
静かな口調が、かえって暗い情熱を示しているようで、オビ=ワンを震え
上がらせる。
「…しかし、私たちはジェダイだ。執着は危険だ。わかっているのだろう?」
「そう言われて、あなたへの想いが消えるとでも? わかっていないのは
オビ=ワンの方じゃないか。あなたに拒絶されたら、
…僕はダークサイドへ
落ちてしまうかもしれない」
「アナッ…!!」
投げかけられた言葉に目を見開く。
(こいつは、何を言って…!)
「困りますよね、そんなことになったら。クワイ=ガンから頼まれた大事な
パダワンなのに」
オビ=ワンの身体から力が抜ける。ずるずるとその場に座り込むと、両手で
顔を覆った。
「お前は卑怯だ、アナキン…」
「………」
「好きにすればいい…」
弱々しく呟くオビ=ワンに、アナキンの胸が痛む。
どうしてこんなことになってしまたのだろう?
「…違う。違うんだ。僕はあなたを悲しませたくはない。こんなふうにあなた
を手に入れたいわけじゃないんだ!」
それは悲痛な叫びだったが、今のオビ=ワンにはアナキンを気遣う余裕が
なかった。
「では、やめればいいだろう!」
怒鳴り返したオビ=ワンに、アナキンの身体が強張る。
ふつふつと、怒りにも似た感情が湧き上がってくる。
「それで、どうなるんです? 今までと変わらない生活が続けられるとでも?
僕はもう隠せない。…もう止められないんだ!」
オビ=ワンを抱え上げると、ベッドへと向かう。すでに抵抗することを諦め
た彼をシーツの上に下ろし、なかば脱げかけてい
た衣服を剥ぎ取る。アナキンが自分の装束を脱ぎ始めると、オビ=ワンは両手で顔を覆った。アナキンは、敢えてそのまま
にしておいた。拒絶や非難の目で見られることが怖かったからだ。
(どちらにしろ、僕らはもう師弟には戻れないのかもしれない…)
こんな行為に及んだパダワンを、表面上はともかくオビ=ワンは許すことは
できないだろう。
ならばせめて。
(今だけでも僕を感じて)
想いを込めて胸に唇を落とすと、伝わってきた切なさにオビ=ワンの身体が
震える。それは今にも泣き出しそうなフォースで、
オビ=ワンは思わず抱き締
めようと手を伸ばした。しかし、その慰めを抵抗と受け取ったのか、アナキン
はオビ=ワンの両手を
掴むと荒々しくシーツに縫い付けた。オビ=ワンの頭上
に、片手で押さえ込む。
「アナキン…」
傷ついた声を無視して、もう片手をオビ=ワンの身体へ滑らせた。なるべく
怯えさせないように、暴走しそうな激情を抑えて
優しく肌を撫でていく。無駄
なく筋肉のついた肢体は、瑞々しい弾力をもっていた。冷たいかと思っていた
肌は温かく脈打ち、
淡く桃色に染まっている。アナキンの口元に微かに笑みが
刻まれた。
愛する人との抱擁を知っているアナキンにとって、肌での触れ合いは純粋な
喜びであった。安堵といってもよい。だが今は、
母やタトゥイーンの友人に
対するものとは全く異なる熱をもってオビ=ワンの体温を楽しんだ。
「……っぁ…」
やんわりと中心を包まれ、オビ=ワンが耐え切れずに声を漏らす。身体から
力が抜けるのを見計らって、アナキンはオビ=
ワンの両手を拘束していた手を
離した。上気した頬を包み込み、キスを繰り返す。
「ふ…クッ、……っ、…ウ」
ジェダイ聖堂という特殊環境に育ち、任務に忙殺される日々を送ってきた
ことで、オビ=ワンは淡白よいうより快楽に耐性
がなかった。慣れていない
身体は、巧みとはいえないアナキンの指の動きにも性急に高められていく。
アナキンを留めようと手を伸ばすが、押し寄せる快感に力が入らず、
アナキンの肩に縋る形になってしまう。
「ア、あぁっ…!」
導かれるまま、アナキンの手の中に解放した。
熱い息を吐きながらくたりと弛緩したオビ=ワンに、アナキンは興奮を覚え
た。自分を否定するかと危ぶんだ瞳は、今は
理性が溶けて濡れていた。
(そういえば、子供の頃にスキンシップが足りないと、人に触られることに敏感
になるって聞いたことがあるな。ジェダイっ
て皆こうなんだろうか)
不感症じゃなくて良かったと、冷めた部分で考える。
正気を取り戻さないうちに、とアナキンは、オビ=ワンが放った白濁を指に
絡ませる。オビ=ワンの脚を大きく開かせる
と、さらに奥へと指を進めた。
「なっ!? や、ヤメ…!」
信じられない場所にアナキンの指を感じ、オビ=ワンの背が大きくしなる。
「暴れないで。あなたを傷つけたくないんだ」
唇を塞いで気をそらせながら、アナキンは押し広げるように指を廻らせた。
徐々に、挿入する指を増やしていく。
「ン、ううっ…う…っ」
体内を異物がうごめく嫌悪感と、それを上回る新たな快楽に翻弄され、オビ
=ワンの身体がビクビクと痙攣する。
「オビ=ワン、愛してます…」
じっとりと汗をかいたオビ=ワンの額に軽くキスを落とす。
くちゅり、と音を立ててアナキンの指が抜かれた。オビ=ワンが緊張を解いた
瞬間を狙って、一気に貫く。
「い、ア――――!」
あまりの衝撃にオビ=ワンは目を見開いた。
身体が強張り、アナキン自身をもきつく締め上げる。
「っ…」
小さく呻き声を漏らすと、アナキンはしばらくそのまま静止した。
なだめるようにオビ=ワンの髪を撫で、キスを繰り返す。
「オビ=ワン…大丈夫?」
オビ=ワンは蒼白な顔で小刻みに震えている。酸素をうまく取り込めないの
か、荒い呼吸も途切れがちだ。
いつもの師とは異なる余裕のない表情に、暗い昂揚感がアナキンを包む。
汗ばむ頬に張り付いた金糸の髪に。
繋がった場所に感じるオビ=ワンの体温に。
彼を支配しているのだと思うと、興奮を抑えられない。
「ごめんなさい…もう、我慢できません」
一応断ると、アナキンはオビ=ワンの両足を高く抱え上げた。
「ヒ、ィ…!」
生理的な涙が頬をつたい落ちる。
オビ=ワンの腰から下が浮くような姿勢になり、より深く突き上げられる。
「や、待っ、アナッ…、うぁ、ア!」
色を失っていたオビ=ワンだったが、一度快楽を覚えた身体は、苦痛から
逃れようと貪欲にそれを追った。次第に、オビ=
ワン自身も再び熱を持ち
はじめる。
「ア、ア、っ…ハッ、やっ、あぁ…っ!」
「…っ、オビ、ワンッ…」
とめどなく嬌声が溢れ、それに呼応するようにアナキンの動きも激しくなる。
「ウ、あぁ――――!」
「っ―――!」
きつく目を瞑り、2人はほぼ同時に熱を解放した。
「…言ったことは守れよ、パダワン」
「え?」
お互いの呼吸がやっと落ち着いた頃、唐突にオビ=ワンが呟いた。瞳は閉じた
ままだ。
「お前が言ったんだ。拒絶されたら暗黒面へ落ちると」
オビ=ワンは拒絶しなかった。
だから、ダークサイドには絶対に落ちるな、と?
(…でもオビ=ワンは、僕を受け入れたわけじゃない)
「アナキン」
沈みかけたアナキンの心を、優しい声が掬い上げる。
「私は、お前を愛しているよ。たぶん、誰よりも。しかし私は、その、器用じゃ
ないんだ」
師弟の愛。
同胞への愛。
遍く生物に向けられる、ジェダイの愛。
オビ=ワンは、静かで平穏な愛しか知らない。
(この人は、最も素晴らしい愛を知らないんだ)
たった一人を求めて、狂おしい夜を過ごすことも。
自分一人を求められる充足感も。
(それって、人間として寂しいですよ…)
アナキンは憐れむように、柔らかい髪へと手を伸ばした。
髪を梳く指を咎めず、オビ=ワンは瞼を開くとアナキンへと顔を向けた。
「アナキン、だから、お前の心は受け入れられない。このような行為も今後
2度としない。だが、信じてくれ。私には
お前が必要なんだ」
苦しそうに言葉を紡ぐオビ=ワンに、アナキンはその身体を強く抱き締める。
オビ=ワンも抵抗せずに、自分より大きくなったパダワンの背中へと腕を
まわした。オビ=ワンの暖かいフォース
がアナキンを包み込む。
(なんでこの人は、こんなにも優しいのだろう)
望まない行為を強要されたというのに、汚れることを知らないかのように
慈愛に満ちている。
(愛しくて、切ない…)
「…あなたを愛しているんです、オビ=ワン」
「私もお前を愛している」
「・・・イエス、マスター」
きっと、これで満足するべきなのだ。
彼の隣で、これからも共に生きていくために。
「僕たち、大丈夫ですよね」
「大丈夫だ」
彼がそう言うのなら。
彼がそう望むのならば。
その言葉を今は信じていよう。
しかし…とアナキンは思う。
(もし、その均衡が崩れてしまったら? 僕たちは一体どうなるんだろう…)
フォースは、何も語らない。
アナキンが感じ取れたのは、シーツに残った2人の体温だけであった。